民明書房に学ぶ、世界史の虚像と実像   

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7世界@名無史さん
『費奇蝙蝠(ひきこもり)』


宋朝初期、費奇(ひき)という禅宗の修行僧が、悟りを開くべく洞窟のなかに
篭っていた。かれは単なる座禅では苦行にならぬとばかり、わざわざ逆さづり
の格好で天井からぶらさがっていた。しかも逆さづりのかたちで固定してくれ
た協力者には「修行の邪魔をしないよう、自分を吊ったらただちに洞窟を去れ。
自分は決して泣き言はいわぬ」と大見得を切ったが、そんな苦しい格好では、
悟りなど開くどころではないのは理の当然で、あえなく他界してしまった。

死ぬ直前になって悶絶し、固まった血液がたまって黒ずんだ手を、怪鳥のように
じたばたと広げた、「翼を広げた蝙蝠のような費奇の姿のおぞましさが有名にな
り、人々は悟りも開けぬ癖に洞窟にこもろうとする不信心な惰弱坊主を嘲るとき、
「費奇蝙蝠」と呼ぶようになった。

いまでは宗教的な修行にまつわる費奇蝙蝠はいなくなったが、飽食とサブカルチャー
全盛時代の日本国の若者が、それにはあき足らずに自己鍛錬のためにあえて生ゴミの
あふれる室内でアニメとゲームだけを相手に己を見据えるメンタルトレーニングを
おこなってしばしば社会不適応性に陥る結果をみているのは、まさに現代版の費奇
蝙蝠ということから、「引きこもり」という言葉が発生している。ヒッキ-なる略語
が費奇をおしゃれにカタカナで洋風に読んでみせたものでることは、中国の児童心理学者
にとって常識であり、とうぜん中国の言語学者の発見によるものである。

( 民明書房刊 「DNAに刻まれた中國 現代人の行動のルーツを探る」 より )