>>140 これか?
―編集委員が読む― 「スターリンのスパイ」 布施裕之 (読売03・06・15朝刊)
一度作りあげられた人物像を改めるのはむずかしい。それが政治や主義主張にかかわる
歴史上の人物となれば、なおさらのことだ。―篠田正浩監督の話題作「スパイ・ゾルゲ」の
公開(今月14日)と前後して、「スターリンのスパイ」ゾルゲに関する書籍の新刊や復刻が
相次ぐなか、そんな思いを強くした。
ゾルゲが、映画などで「ナチス・ドイツを崩壊させ、第二次大戦の連合国勝利を導いた」と
描かれたように、本当に「世界を動かした怪物」だったのかどうかは、実のところ、ソ連崩壊
でクレムリン史料が公開された今も、明らかになっていない。それどころか、「平和の闘士」
とされた従来のゾルゲ像は社会主義神話と同様、意図的に作られた虚像だったのではな
いかとの見方が、ロシア国内でさえ、少なくないのだ。
リヒャルト・ゾルゲは、ドイツ国籍ながらソ連の軍情報機関に属したスパイで1933年(昭
和8年)独紙の特派員を装って来日した。ナチ党員としての立場を利用し、諜報活動に従事
した後、四一年日本側の協力者尾崎秀実らとともに逮捕され、治安維持法違反などで処刑
された。