なんで共産主義にしないの?

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共産主義になった翌年、私は妻とともに散歩に出かけた。
もう春だというのに、無謀な伐採のために緑の木々が見当たらない。
人々の表情は絶望と恐怖に満ち、額から流れる労働者の汗が太陽光を反射していた。

「人間がおのれの限界をわきまえていた時代は終わったのだな」
昨年までとある中小企業に勤めていた斎藤さんが、げっそりとした顔で私たち夫婦に言った。
「いいえ、これからは新段階に進化した人類の時代なんですよ」
普段は滅多に話に加わらない妻の靖子が、斎藤さんの足を蹴とばして言った。
「そういえばオウム真理教も、自分たちは霊的進化をとげた集団だと言ってたな」
通りがかりの髪の長い中年男がそう言って唾を吐いた。

ロックンローラーは長年使ってきたギターを没収されていた。
「ロックはもう許されない。明日からは強制労働が待っている」
絶望しきった表情で男は言った。

青空の中を監視カメラ付きヘリコプターが横切っていった。