最終章 亡命者達の挽歌 エデンからの追放
血路を切り開き、延岡まで進出。
そこでまた幻獣に襲われ、これを集中放火により撃破。
志村の撃墜数、299.
日向港。高知行きの最終船に乗りこむ、一行の見たものは、焦土と化した宮崎の赤く染まった
空であった。
・・・・高知につく間際。船は大型幻獣、クラーケンに襲われた。
国内での発生例は、2例目。
しかし、他世界からの実体化と見られる幻獣の習性上、高知鎮台からの警告が無かったのは奇妙を
通り越して・・・・・・「やはり、こう来ましたな」若宮は既に覚悟していたかのように、平然と言った。
しかし、足は震えている。大型幻獣。教科書でしか見たことの無い姿。善行とても同じであった。
「土佐は坂本公・板垣公の働きにより上院・下院で一大勢力を築いたが、それも東京原爆により過去の
ものとなった・・・そりゃ必死にもなるだろうなあ。もう陸地は見えてるだろ?おまえ等、このまま
走って高知鎮台に援護射撃を要請しろ。」
「貴方は・・・行かれるんですね」善行は、来るべきものが来た、という表情で言った。
「若宮、善行。俺達の時代では無理だったが、お前達の時代には、お前等の下で俺なんかよりも
何万回、何十万回、何億回も努力を積み重ねて、いつかあの空に居座ってやがる黒い月を撃破
する者が現れるかもしれねぇ・・・良いか。【当たり前のことを当たり前にやり最善を尽くせば
誰も死なずに済む・・・幻獣もだ。
当たり前のことが出来れば、仕事も人生も絶対に成功する。生き残るためには、「常識」で攻めろ。】
以上を俺の遺言とする。ついでに、俺の終身撃墜数は283に減らしておいてくれ。
死後に絢爛舞踏章なんざ貰っても嬉しくも何とも無いからな・・・・・」
・・・・・・これだけを一気にまくし立てると、青い光に志村は、少ない頭髪が青くなり、目も蒼く輝いた彼は
クラーケン口の中と飛びこんだ。
「・・・・・・全速前進、お願いできますか」善行は艦長に、そう具申するのが精一杯だった。
もがき苦しむクラーケンは太平洋岸の各都市で目撃され、駆け付けた護衛艦「水戸」
(旧戦艦水戸)の砲撃の後、内部から光を上げ、最終的に茨城の大津港に打ち上げられた後に
内側からの蒼い輝きによって撃破され、後には一人の肉体が残された。
最終章 エデンからの追放
宮崎での歴史的大敗により陸自連合軍は壊滅し、その総員の半ば以上を失った。
任期切れ間近の大統領にとり「水戸」と謎の人物による日本史上初の大型幻獣撃破という
快挙に藁をもすがりたい気持ちになったのは、事実だ。
大統領は既に「学徒動員」と称し中学三年から高校3年までの全日本人を召集し熊本の地で
皆殺しになっても関東を守ることができれば・・・という発想によって日本全土に大統領令を布告したばかりであった。
「謎の人物」が芝村であることを知った時には不快だったが、それが志村であると知ると同時に顔を
ほころばせた。彼は・・・東村山出身だったのだ。そして、志村も。
彼は幻獣を300体を撃破した。つまり人類史上5人目の【絢爛舞踏章】受賞者となる。
これで、次の選挙も安泰だ。
そう、思っていたのだが、時計を見て宇都宮の病院からの知らせと共に不安になった。
彼の余命はあと数時間だと言う。
しかし・・・・絢爛舞踏章は達成当日づけで授章可能だが、長い口上の後に大統領自身が手渡さねばならない。
・・・・・果たして、大統領が到着したと同時に志村は蒼き光と共に掻き消えた。
大統領は落ち込んだが、299機撃墜のスーパーエースの死と「水戸」の快挙を世界に声明として伝えた。
以上が我々、機構に残された記録である。
追記・・・その後、50年以上をかけて人類連合軍は黒い月を制圧した。
その「黒い月作戦」の従軍者の中にクローンでは有り得ない禿頭の人物が居たとされるが
定かではない。
(了)