【ジョン】 人名の歴史 II 【イヴァン】

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103カメレオンI世 ◆qBS27nfd8c
『人名の世界地図』21世紀研究会編(文春新書)は、実に面白い。
聖書由来、ギリシア・ローマ由来、ノルマン由来、ケルト由来、ゲルマン由来の名前等に
ついて詳しく書かれていて、それぞれ、世界における分布状態が図示されている。
惜しむらくは、「研究会編」となっていることからもわかるように、複数の研究者による
分担研究を集積したものであるという印象が強く、全体を通して、一つの体系的理論と
いえるような関連性が見られない点であるが、これをデータとして、世界史的な視点で
検証してみると、極めて興味深い要素が現れてくるのである。

中でも、「ユダヤ人の名前」に関する記述は、特筆する価値があるように思える。
「ユダヤ人に対する迫害の歴史は、ヒトラー一人に帰することはできない。」と述べた後、
古代ローマに抵抗して国を失ったユダヤ民族が行く先々で迫害されたという歴史を語って
いる中で、被差別民族であるユダヤ人は、長い間、ヨーロッパでは姓の所有が禁じられて
いたことが記述されている。
104カメレオンI世 ◆qBS27nfd8c :02/12/01 13:36
<ドイツでは、ある時期から「話のわかる」領主がユダヤ人に姓を「売る」ように
なったが、それでもすぐにユダヤ人とわかるように、その名を植物名と金属名に限ったり
もした。ゲットー(ユダヤ人居住区)のユダヤ人家屋に記された姓は、ローゼンタール
(薔薇の谷)、リリエンタール(百合の谷)、ブルーメンタール(花の谷)ブルーメン
ガルデン(花園)、アプフェルバウム(林檎の樹)、ゴールドシュタイン(金石)、
ジルバーシュタイン(銀石)といったような、見た目には優雅な姓もあったが、こうした
名も、実はユダヤ人たちに対する差別的な歴史によって生まれた悲劇的な名前だった
のである。>『人名の世界地図』P192
105カメレオンI世 ◆qBS27nfd8c :02/12/01 13:36
<フランス革命によって、ユダヤ人が「開放」されたフランスでは、建前上、すべての
民族は平等であるとされた。そしてナポレオン法典によって、フランスのユダヤ人は
すべて姓をもてるようになり、彼らは自分たちを「ユダヤ教を信じるフランス人」と
いうようになった。フランスのこうした施策は周辺の国にも影響をおよぼし、オランダ、
イタリア、プロイセンといった国々でも、ユダヤ人の平等がしだいに保障されるように
なっていった。
しかし、制度は変わっても、人間の心が簡単に変わるはずはなく、19世紀初頭のウィーン
体制によって、ユダヤ人に対する扱いは、ふたたび逆戻りしてしまったのである。
このような状況のなかでユダヤ人がとった行動は、キリスト教への改宗・改名だった。
改宗することによってキリスト教社会に同化し、さまざまな不利益から解放されたいと
願ったのである。詩人のハイネが軽蔑の気持ちを込めて、こうした行動を「ヨーロッパ
社会への入場券」とよんだように、ユダヤ人たちは、改宗・改名によって、キリスト教徒
と同じように暮らせると考えたわけだ。>同上 P194-195