第2章
激しい痛みに、朦朧とした意識がわずかに晴れた。
大量の流血のために、もう起きあがることもできない。
逝く直前、「思いでが走馬燈のように駆けめぐる」というのが始まっ
ているらしい。
いままで身命をなげうって支えてやってきたターリバーンは、どう
やら私を売ったらしい。
このところ、オマール師は「客人は厚くもてなし、庇護を加えるの
が我々の伝統であり、アメリカスタンの脅迫には決して屈せぬ。我
がアフガンに武力攻撃を加える諸国、領土・領海上に彼らの攻撃拠
点の建設を許す諸国、それらの国を支持したり物資を供給する諸国
は、我が国に戦争を仕掛けるものとみなし、断固うちはらい、さら
には当方より手段を選ばぬ報復を加える」云々と、勇ましい演説を
連日ラヂヲから流し続けている。
しかし私は知っている。
一昨日から開始された、憎むべきアメリカスタンの攻撃は、私の
シェルターがあるカンダハル東北郊外のみに厚く、その他のアフガ
ン各地には、ほんの申しわけばかりであることを。
神学生たちは、神の為に命を捧げる戦士としての名誉よりも、ほぼ
手中にした「アフガンの支配権」の方が惜しくなったのだろう。
あの爆弾は大地と五層の隔壁を貫き、私の部屋を瓦礫の山にした。
妻や子ども達の部屋もやられたらしく、階下からも火と煙が吹き上
げてくる。
息が苦しい。
私は再び意識をうしなった。(続)