>>81 5.幸せな花嫁
さて、殺気立っていた江戸の街は一転、お祝いムード一色である。
桂が万事屋に戻ったところで、真撰組にもそのことがしれたためだ。
鬼兵隊の捜索は緩くなり、変わりに桂が将軍家へ嫁ぐための準備に大忙しとなったのである。
帰ってきた桂は一転して、結婚を承諾した。
銀時には釈然としないところが多かったが、まあ、コレで悩みの種も消えてめでたしめでたしなのかという気持ちもあった。
誰よりも、さっちゃんがなぜがこれを祝賀していた。(その話をしていたときも、突然天井からやってきて、「そうよ、それがいいわよ!」と大絶賛したのであった。)
新八と神楽はどことなく不満そうな顔で、
「それでいいんですか、銀さん」
などと言うのだが、お尋ね者より良いでしょうがと銀時が軽く返すので、それ以上何も言わなかった。
たが、その実、銀時の心情は複雑だった。
別に、ヅラがどうなろうと、俺の知った事じゃない。あいつがやりたいようにやり、生きたいように生きれば良いだけだ。
俺たちは、元々昔からそうやって生きてきたじゃないか。それは、男であっても、女になった今も替わらない。
ただ、そうやって生きてきた中で、たまたま交わるところがあったと言うだけの話だ。これから先、交わることがないとしても、それはそれで仕方のないことだ。
だが・・・なんだろう、この釈然としない思いは。
あいつがまっすぐ生きていくことに、俺は立ち入ることはしたくない。あいつが曲がったときに俺が叩き斬るだけだ。そう言う関係だ、俺たちは。
なのに・・・何でこんなにもやもやするんだろう。
嫁入り前夜、なんだかよくわからないが、そう言うものだと思ったのか、桂は万事屋の面々の前で三つ指ついて深々と礼をした。そして、
「長らくお世話になりました・・・」と言った。
「おおおおおい!ヅラ君、気持ち悪いよ!やめてやめて!お父さんじゃないからね、俺たちは」
「ヅラ、ふつつか者だったけど、将軍によろしくしてもらうヨロシ。あ、そよちゃんにあったらこの酢昆布渡して欲しいアル!後、手紙も!」
「桂さん、本当に良いんですか?」新八だけは、最後まで確認している。
「いいんだ。もう、きめたことだ。きっと逃れられないだろうし、これはこれで・・・ひとつの生きる道だ」
その夜、珍しく銀時が一緒の部屋で寝て良いからと、ソファーじゃなく自分の寝室に二組の布団を引いた。
「最後に、ずいぶんと優しいんだな」
「お前、本当は何企んでるんだ?」
「何も企んでなどいないさ」
ふう、とため息をついて銀時が正面から桂を見据える。
「お前、嘘つくとき、鼻の穴広がる癖があるぞ」
「まじでか!?」って、鼻を押さえてしまったという顔をする桂。
「・・・鬼兵隊に迎えに行ったとき、偉くお前は馴染んでいたな。あの高杉相手に、つかまって、逃げようとせずにいたのも、考え合ってのことなんだろ」
「今の将軍は・・・茂茂どのは、誠実でいい方だ。この国の未来を、あの方なら本当にいい方向へ導いて下さるやもしれぬ。
だが、高杉は、そんなことは関係ないと言った。その血筋に責任を取らせると。説得できればよいかとも思ったが、あやつ相手には無理な話だ。
そうそう、人の考えなどは変わるわけもない。」
「そりゃそうだ。人の考えなんかかわらねえよ。特に、頭の固いお前らはな。・・・なのにどうだ、おまえは。もどって来るなり結婚にあっさり承諾。
一体、あいつのところで何があったんだよ。」
お前の考えを変えるほどの、なにがあったんだ。
銀時がこういう目をしたときは、言い逃れできないことを桂は知っている。
ある種の確信の元で聞いてきているからだ。