>>73 呼ばざる客が来たのは、この翌日のことだ。
「ヅラいる???」
ご丁寧に、配達の海援隊の船でやってきた白夜叉。帯刀していないことを大げさにアピールしながら、のんきそうにやってきた。
考え抜いたあげく、自分を積み荷として、鬼兵隊に届けて欲しいと坂本に交渉したのだ。
血眼になって探している幕府のところへ、数日前鬼兵隊に月子がいる旨の報告が入った。
真選組を始め、幕府軍はいきり立ち、総出で鬼兵隊を捜す動きを強めていたのだ。親友?の沖田達から聞いた情報だった。
桂が万事屋にもどらず消えてから手がかりが何もなかったことから、早くも高杉に目を付けていた銀時であったが、確信がなかったのと、
相手が何処にいるか全くつかめない状況であるのとで動けずにいた。また、面倒なことになると言う覚悟も必要だった。何とか坂本に連絡を付けて、
ようやくたどり着いたのが、この鬼兵隊のデッキである。
「迎えに来ました??。うちの依頼人なんでね」
「帰るかどうかは、月子殿が決めることでござる。・・・もっとも、白夜叉殿がどんなに衣ツバメの巣を持ってきたところで、かぐや姫が帰るところはひとつであろうが」
いつも死んだような目をしている銀髪の男の、その目が鋭い光を帯びたのを万斎は見逃さなかった。
高杉は、私室で桂に言った。
「お前が決めろ」
「銀時のところへ戻るかどうかか?・・・ずいぶんと世話になってしまったし、お前にもみんなにもこれ以上迷惑をかけるわけにいかんしな・・・」
「そうじゃねえ。将軍をお前が殺るかどうか、決めろ」
「な・・・」
高杉は、桂に短刀を見せた。
「大和魂、まだあんのか」
「高杉・・・」
「将軍のとこへ嫁げば、その無防備な首に一番近くなる。お前もそれが望みだったはずだ」
「それが俺を抱いた理由か・・・」僅かに、桂の目に陰りが見えた。
「お前なら、大丈夫だ。どんな男でも夢中になるさ。俺が保証するぜ。一番無防備なときに側にいるんだ、確実にしとめられる」
桂は、勢いよく首を横に振った。
「だが、あの人は・・・先生を弾劾した将軍とはちがうのだ」瞬間、
「関係ねえ!!!」ぴしゃりと言った。
「いいか、ヅラァ・・・将軍の血は将軍の血よ。血統をつぶさなきゃならねえ」
「高杉・・・」
「できないってんなら・・・」俯いた高杉の表情は読めない。だが、狂気を感じる。
「・・・預かろう」
桂は、おとなしくその短刀を高杉の手から奪った。
「そのかわり、お前はもう江戸に近づくな。守れるか?」
「・・・てめえが成功した暁にはな」
後は、お互い無言だった。それは、暗黙の了解を得るようにも思えたし、お互いの本心をはかり合うかのようでもあった。
銀時と、高杉が会うことはなかった。
桂だけがその後姿を見せ、いなくなったときと同じ出で立ち、同じくはにかむような笑顔で銀時を迎えた。
結い上げた髪には、あのときの紅い簪が着いている。無事な姿を確認して、ほっとする。見送りに、来島が来ていたが、寂しそうに月子を見ていた。
桂が「来島殿、色々世話になった」とお辞儀すると、何か言いかけたが、「・・・この方が良かったのかもしれないっす・・・」と、銀時と月子にだけ聞こえるような声で言った。
銀時が、「じゃましたなあ」と言って、桂とともに去っていった。