万斎の不安は、杞憂に終わらずその日の昼過ぎに確信に替わった。
桂が水菓子を作ったのだ。来島と。
そして、それは吉田松陰から教えてもらったものだという。
「高杉はあまり甘いものを食べないが、これだけは好きでな」と、来島に教えた。
来島は、自分の知らない高杉の話を聞きたくて仕方ないようだ。
「今日、元気なかったから、これで晋助様に元気を出してもらうっす!」と大はりきり。
そこへ、本人登場。高杉の前へ、自慢げに来島が水菓子を差し出した。「これ、月子さんと作ったっす!」どうぞ、と。
その瞬間のこんな表情の高杉を見たのは、おそらく、この場にいた桂以外全員はじめてだったろう。
懐かしそうな、寂しそうな、うれしそうな顔をした。