>>685 「これは、捨ててくる。今日は戻らねーから」
とだけ言って、さっさと玄関を出る。
あの分じゃ、追ってはこれねーだろう。
っつーか、マジ、ぶっ殺したいんだけど、高杉のヤローも。
あんな桂も。
・・・・くそ・・・
まず、向かったのは、共犯者のところだ。
あのババアは、全部知ってるに違いない。
ガラガラガラ・・・
「おい、ババア」
我ながら、怖い声だと思う。カウンターを拭いていたババアがこっちを向く。
>>699 「まだ開店じゃないよ」
とぼけやがって。
「飲みになんか来てねえよ。さっき、ここに、包帯した男来ただろ」
これ見よがしに、青い玉をちらつかせる。
「さて、知らないねえ」
「すっとぼけんなよ」
「なんだってんだい。あんた。あたしにくってかかろうなんて」
「月子とあいつ、会わせたろ」
「あんたねえ・・・」
ふと、俺の手に持っているものを見つけて
「なんだいそりゃ。あめ玉かい?」と言った。
これは、この存在を初めて見た反応だ。演技じゃない。
「・・・ホントにしらねえの?」
「知らないって言ってるだろ」
「ふーん」
これは、本当かもしれない。でも、だとしたら。
一体何処で?
「あいつさあ、何処に使いにやったって行ってたっけ?」
「大江戸スーパーだよ」
「どうも」
そう言って、俺はスナックお登勢を後にした。
余談 最後の誕生日 K
「すまん、銀時、遅くなって」
玄関を開けて。
なるべく、普段通りに言う。そうしようと思えば思うほど、どういう風に普段の自分は振る舞っていたかと思ってしまう。
さっきから、思考がまとまらない。
高杉に会って、
去っていった後を追ったら居なくて。
お登勢に、血だらけの割烹着を指摘された。高杉のことは、言わない方が良いと、言われて、血に濡れた割烹着を着替えた。
下の着物にも血が付いていたが、着替えるわけにも行かず、赤い着物で余り気付かないだろうから、割烹着だけを借りることにした。
もともと、割烹着はお登勢にもらったもの。全く同じものがあるから、と、新しいそれをもらい、着ていたものは、お登勢に渡してきた。
お登勢は、銀時には俺がスーパーに酒を二本買ってきたことにすると言われた。
銀時をだますようで、心苦しいが、・・今日の銀時には言ってはいけないと思う。
心強い、二人で口裏を会わせれば、ばれることはない。
そうだ・・・。大丈夫。
いや、大丈夫なものか。
俺だって、戦地にいた。
自分を含め、仲間の怪我、傷、死、色々なものを見てきた。今更、血を見たくらいで、あわてるような人間ではない。
自分だって随分血を流したし、傷も負った。それは、銀時も高杉も同じ事。
・・・高杉。
だからこそ、
だからこそ、
大丈夫じゃないんだ。
あの、出血は、致死量だ。
すぐに意識がなくなってもおかしくない。
いや、
すぐに、死んでも、おかしくは・・・は・・・
ドクッ・・・
ああ、胸が、痛い・・・なんで・・・
あいつのことなど・・・
俺が斬ると言ったじゃないか。
何時死んだっておかしくないんだ。攘夷志士は。
もしも・・・のことがあったとしても、
俺には関係ないことだ。
そうだ。
そうなんだ。
なのに、なぜ・・・
こんなにも不安なんだろう。
あいつが気になって仕方ない。
あの怪我で、一体何処へ・・・
無事なのか・・・
それより、なんで、そんな怪我でお前はあそこにいた・・・
なんで、
何をしに?
「どうした?」
「はっ?」
なかなか上がらない俺を不審に思ったのだろう、銀時が出てきた。
ドクドクドク・・・
妙に緊張する自分が居る。落ち着け。今は、とにかく。
「あ、ああ、ちょっと転んで足が・・・靴を脱ぐのに戸惑ってしまって」
「え?大丈夫?見せてみろ」
ああ、優しい銀時。
ごめん。俺は今、嘘を付いた。
「なんもねーみたい。痛い?」
「いいや、大丈夫だ」
と、二人で居間に行く。
どうやら、金時(銀時との子供)に、ミルクをあげていてくれたらしい。金時は、よく寝てる。その横に、松之助が居る。
寝てる金時をつつくのが好きらしく、ぷにぷにと頬を押している。ほっとする。なんだか、すこし、和む。
「ミルク、ありがとう。上げてくれたんだな」