>>641 「!!!」
お登勢は、うっかり声を上げそうになった。
入り口近くのカウンターに、片肘突いて高杉が立っている。
いつもの、憎々しいほどの笑みで。そして。
「よう」
と言った。
それが、あまりにも堂々としていたからか、店内が薄暗かったためか、いるはずのない人物に驚いて注意が散漫したからか、月子は
「高杉?!貴様、どうしてここに!!よく、のこのこと俺の前に来れたものだな!!」
と、高杉の異変にも気付かず、ぴしゃりと言った。
それを聞いて、嬉しそうに高杉は笑っている。
一瞬、お登勢は、はて、さっきまでのあの男の弱々しさはいったい何だったのだろう、もしかして、演技だったのではあるまいか?などと思ってしまった。
それくらい、以前会った時のような、高杉だった。だが、
平生の彼の雰囲気に合っていたから違和感を感じないだけで、カウンターに肘を突いているのは、間違いなく、支えて居なければ立てないからだ。
・ ・・あんたって男は、一体何処まで格好つけりゃ気が済むんだい。
「先程、真撰組がうちに来たぞ。おおかた、またお前がよからぬ計画を立ててるのだろう。怪我がどうのとか言っていたから、少しは心配していたというのに・・・
貴様は一体何をやっているのだ!!こんなところで、何をしている!!お登勢殿に迷惑は掛けさせん。何をしに、ここに来た!!目的を言え!!」と、息巻く。
「てめえに、会いに来たと言ったら、信じるか?」
「信じない!!用がないなら、出て行け!!」
その言い草に、ついかっとなって、瞬間、お登勢が
「月子!」
と、声を荒げてしまった。
その声に、ビクッとなった月子が、お登勢を見た、その刹那??????
気を逃さず、男が、月子の両肩を掴んだ。
そのまま、数歩うしろの、テーブル席のソファーに倒れ込む。
「・・・・!!!」
押し倒されたように、きっと月子は感じただろうが、お登勢には、数歩歩いてよろけて、倒れ込んだようにしか見えなかった。
「高杉!!貴様っ!!!」バタバタと月子が暴れる。
月子のその手を握り、口づけた。
狂ったように、深い、口づけ。
いや、そんな甘いものではない。
血に飢えた獣が、獲物の血をすするように・・・
水に飢えて、その口の僅かな水分も生きるためにすすっているような。そんな口づけだ。
「は・・・!貴様・・・」
とまどう月子。
「一時間、今日は開店を送らせるから、ゆっくり話しな」
といって、カウンターの奥にお登勢が消える。
狂ったような口づけを永遠続けて居た高杉が、
ふと、口を離した。
「貴様、どけ!!」
燃えるような目で、月子が睨む。
その、両頬をがしっと掴んで、高杉が
「桂。桂、俺を見ろ」という。
「言われなくても、見ている!」
と言えば、嬉しそうに笑う。