【空知英秋】銀魂 二百十四訓

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>>61続き


こうして、一日に一度だけだが、通り抜ける程度に高杉の私室に桂は出入りした。

そのとき、高杉がいることもあるし、いないこともある。しかし、いつも桂のことなど気にしてはいない。



高杉の私室には僅かな人間しか入ることを許されておらず、来島ももちろんなくて、いつもいいっすね??とうらやましがった。

それを聞いて月子は(来島は桂だと知らない)「そうか?なんの変哲もない部屋だが、そんなに見たいのなら今度写真捕ってきてやろうか」

などと、とぼけたことをまじめに言うものだから、来島のツボに入ってしまった。

それ以来、来島はなにかと月子について回っている。

月子が、料理をしているのを見つけては、来島は料理を習ったりした。

まるで、そうしていると普通のお嬢さんのようで、月子はこのまま血なまぐさいことを辞めたらいいと言ったのだが、

来島は「あの人のためにしか生きれないっす」と言って寂しそうに笑った。

「来島殿は、きっといい奥さんになれるぞ」といった時には、うれしそうに笑ってくれたのに・・・。

高杉、お前には大切にするべき仲間がいるじゃないか。その隻眼でちゃんと見ろ。
65名無しさんの次レスにご期待下さい:2012/11/26(月) 21:58:57.27 ID:sajRHTZG0
桂というのは、噂通り、礼節を重んじ、義理堅く、非常にまじめな性格なのだと万斎は思いしることになる。

世話になりっぱなしでいるわけにはいかないと、率先して鬼兵隊の食事を作ったり、洗濯をしたりと家事をこなす。

作る料理がどれもまたお袋の味・・・といったような質素なもので、しかし、手間のかかる煮込み料理などを作るところが育ちを伺わせる。



紅い簪でくるりと結い上げた黒髪、小さな輪郭に整った顔立ち。長いまつげ。船員達に手料理を配りながらにこりとほほえめば、大抵の男は虜になろう。

それも、自身を利用し、犠牲にしようと企んでいるもの達に向けているのだ。

天然とは聞いていたが、こんな警戒心もなくてよくあんな戦場を生き抜いてきたものだと万斎は感心する。



せめて、あの顔で、とろりとほほえむのは辞めて欲しい。

何か間違いがあっても困るし、志気に影響が出そうなので、月子には配膳を辞めてもらい、食事も鬼兵隊の主要メンバーと一緒に取ることにしてもらった。

来島はとても喜んだ。まあ、食卓に花が加わるのは悪いことではない。武市も心なしかうれしそうである。

まさか、女とは言え、桂とこうして食事を共にするなど・・・予想だにしなかったことだ。本音を言えばかなり複雑である。



まあ、一番複雑なのは、はっきりと袂を分かった当の二人だろうが。どちらも表情からはその心情はうかがい知れなかった。
66名無しさんの次レスにご期待下さい:2012/11/26(月) 21:59:41.38 ID:dXb2a5990
4.混乱と決断



時折、風呂を借りたときに高杉がいても、別段話をすることはしなかったが、この日は少々事情が違った。



風呂に入る前は、いなかった部屋の主が、あがってみると戻ってきていて、桂が机に置いておいた簪をもてあそんでいた。

何の気なしにしたことかもしれないが、なんとなく嫌な気分になり、「勝手に触るな」と言った。

高杉は、「てめえにしちゃあ、趣味が良い」などと言って手放そうとしない。

「もらい物だからな。くれた奴の趣味が良かったんだろう」と言えば、さもつまらなそうに手荒に机上に置く。



「将軍は、てめえのどこがよかったんだろうなァ」などと言いながら、桂の方に近寄ってくる。

不思議な話だが、この船に来てから、まともに高杉を見たのは、このときが初めてだったような気がする。

いつも、桂にあっても素っ気なく、余りこちらを見ようとしなかったからだ。だから、今まで、話すきっかけもつかめず、話すこともなかった。

もしかして、今がチャンスではないか。と、桂は思った。

そして、説得してみても良いかなと思った。

だが、それは、後から考えれば間違いだったにちがいない。