【空知英秋】銀魂 二百十四訓

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余談 宵闇の客

(桂と銀時の子供“金時”が生まれて間もないころ)



夕方。

ほんのりと街の明かりがともり、日はすっかり沈んでいるが、

薄暗い紫色に街が包まれている頃。

スナックお登勢に、ふらりと男が立ち寄った。



ガラガラガラ・・・



引き戸が開くと、

「まだ、開店前だよ」

と、店の奥からお登勢が言った。
634名無しさんの次レスにご期待下さい:2012/12/09(日) 09:52:07.20 ID:MUHUPRO60
買い物に出ていてキャサリンは居ない。

銀髪頭が来たのかもしれない。それにしては、何も声がかからない・・・

お登勢が不審に思って、カウンターにでてきて店を見ると、ふらふらと、こちらへ近づいてくる男の姿がある。



偉く、派手な着物を着て。

最初、酔っぱらっているのかと思った。



「ちょっとあんた・・・」

男は、よろよろと、カウンターの出入り口のところに座り込んだ。

印象が違いすぎて、分からなかったが、近くで見て、分かった。

高杉だ。
635名無しさんの次レスにご期待下さい:2012/12/09(日) 09:52:43.49 ID:W3NeiA+g0
「ちょっと、なんだってんだい」

と、カウンターの出口をふさぐ男にお登勢が声を掛ける。

俯いたまま、顔を上げない。しかし、印象深い包帯がちらちらと、髪の間から見えている。

「酒を飲みに来た訳じゃないんだ・・・」

偉く弱々しい声で言う。



「ねえ、あんた」

何か嫌な予感がする。そっと近づく。

「ちょっと頼みがあってねぇ・・・あんたにしか・・・頼めなくてねぇ、綾乃サン」

言うと、ごそごそなにやら懐から取り出そうとしている。
636名無しさんの次レスにご期待下さい:2012/12/09(日) 09:53:13.72 ID:foki9MT60
言い回しこそ、この男独特のものであるが、どうも声にあの憎々しいほどの張りがない。

「これを、あいつに渡してくんねぇか・・・俺からじゃ、受け取らねぇんでね・・・」

高杉が、何かを差し出した。受け取ってみると、坂田 松之助名義の印鑑と通帳、キャッシュカードだ。・・・しかも、ところどころ、血が付いている。

「あんた!!!怪我しているのかい??!!」

確かめようと、肩に手を掛ける。と、力無く振り払われた。手負いの獣が、警戒するかのように、ギロリと睨んで、近寄らせない。

その、目だけは、爛々と光輝いている。



「してねぇよ・・・それより、頼むよ・・・」

「何言ってンだい!普通じゃないんだろ。こっちにあがんな。手当てしてやるから」

と言った時、ガラガラガラ・・と、引き戸が開いた。

「すいやせーーーん、ちょっとお聞きしまさぁ??」

と言って、入ってこようとする人の気配。お登勢は、反射的に、高杉をまたいで、かばうように出て行く。
637名無しさんの次レスにご期待下さい:2012/12/09(日) 09:53:52.02 ID:ospQS/qg0
「なんだい」

「真撰組でさあ。ここに、片目包帯で隠した男、きやせんでしたか?」

真撰組の、沖田だ。



「さあ、見てないねえ」

とっさに嘘が出る。

「・・・怪我してると思うんですがね」

「知らないよ」

「そうですかぃ。なんか、引き戸に血が付いていたモンでしたから・・・念のため、中あらためさせてもらっても良いですか?」

「はあ?何言ってンだい!あたしゃ、歌舞伎町四天王のお登勢だよ!あたしを嘘つき呼ばわりする気かい?ただじゃすまないよ。」

「信じてねえ訳じゃねぇんでさ・・・探しているのが、やっかいな奴でしてねえ」
638名無しさんの次レスにご期待下さい:2012/12/09(日) 09:54:40.42 ID:O3vyRLy00
話している間も、中をうかがう沖田。

「とっちらかってるんだ。あとにしな」

と、ぴしゃりと言うと、

「わかりやした・・・まあ、ここよりよっぽど二階が怪しいんで。失礼しまさぁ。だが、気を付けて下せえ。あいつは何分危険な男なんで」

それだけ言って、去っていった。



お登勢がカウンターの入り口に戻ると、高杉がうなだれている。

そうか、どうしてここに座ったのか今分かった。万が一にも、ドアから死角になるところ。こんな状態で、状況判断だけはしっかりしている。
639名無しさんの次レスにご期待下さい:2012/12/09(日) 09:55:11.81 ID:h74l/aaV0
「あんた、しっかりしな」

と言えば、ハッとしたように、顔を上げて。

「・・・は、やっぱり思ったとおりだ・・・あんたは、やっぱり、いい女だ・・・俺が気に入っただけのことはある・・・」

と笑った。

「何言ってるんだい。自信だけは一人前だね。追われてるくせに・・・」

「は・・・俺は、人を見る目があるんでねぇ・・・あ、さっきの・・・あいつがいらねえって言ったら、あんたが使ってくれて、構わねえ・・と、番号は、・・今日の日付だ」

「なんだい、偉く気前が良いじゃないか」

「だいぶ、世話になったようだしな・・・俺にゃ、もう、必要ないんでねぇ・・・っっ!!」

ごほごほと、咳き込む。



「もうだめだよ、医者を呼ぶよ」

電話に立とうとすると、

「いらねえ!」

ぴしゃりと言った。あまりに強い言い方に、お登勢は振り返る。
640名無しさんの次レスにご期待下さい:2012/12/09(日) 09:56:26.79 ID:kSWmHyIA0
「呼ぶなら、医者じゃねえ・・・あいつを・・・呼んでくれ」

「月子を?そんな場合じゃ・・・」あんた、立ち上がることも出来ないじゃないか。

「ハァ・・・頼むよ。綾乃サン・・・時間がねぇんだ。分かるだろ・・・」

息が荒い。

お登勢は直感した。・・・ああ、そうだね。あんたはもう長くない。



「まってな」

それだけ言うと、お登勢は二階に駆け上がった。



「月子!月子!ちょっと!」

気がはやる。なのに。

「うるせーーー!!ババア!!さっき帰ってきたばっかりなんだ、後にしろ!」

と、銀時が叫ぶ。ああもう、こんな時に。こいつは。
641名無しさんの次レスにご期待下さい:2012/12/09(日) 09:57:25.80 ID:kc1WwXRR0
「こっちも急ぎなんだよ!月子!」

と言えば、なにやらもめる声がして、

「後で必ず見るから」

と言ったあと、白い割烹着姿の月子が出てきた。

こういう時、この子の義理堅い性格に感謝する。銀時には、すぎた嫁さんだよ、ホント。

説明する時間も惜しいので、連れだって下に行く。

遠くから、「すぐ戻せよ、ババアーーー!!」などと、銀時の怒声が聞こえた。



「いいかい、言うとおりにさせておやり」と、スナックの戸の前でお登勢はそれだけ言った。

月子は、不思議そうな目をしたが、早く開けるよう促すと、引き戸を開けた。



と、そこに??????