>>522 銀髪頭の野郎が、
こんなところに来るとは思わなかった。
別に浮気だなんだの責め立てるつもりもないが、正直どうでも良いが、
「良い父親」だとヅラが抜かしていたのを思い出したら腹が立った。
・・・だから、電話して教えてやった。
「亭主の管理はしっかりしやがれ」と。
妓の両顎を掴んで、少し腰を動かす。
そのゆれに、黒髪がパラパラ音を立ててなびく。
「・・・奇麗だな」
言えば、自分のことと思ったんだろう。気をよくした妓がうっとりした顔になる。
きつく吸い付いて、深く銜える。
やりゃあできんじゃねえか。
そろそろ、ヅラは来ただろうか。
万斎は余計なこと言ってねえだろうな。
あいつは、人をもてあそぶ悪い癖がある。
・・・それにしても。
たった一度だけ。
あいつに“ちっとなめてみてくれねえか“と言ったことはある。
だが、すげなく断られた。別にどうしてもと言うこともなかったので、それっきりだ。
・・・・
気づいたら、自分のいいように動いていた。限界が近い。
俺が目を細めると、承知したかのように手を沿えた。
「・・・・ぅっ・・・」
は・・・
最後まで、手も口もはなさず、飲み下す。
出来た女だ。
その赤らんだ頬をなでた時、
トントントン・・・と階段を上る音が。
何となく、その音に聞き覚えがある気がする。
「高杉はン」
女が何か言ったが、構わず立ち上がり、
ふすまをあけた。
思わず、くるりと、向きを変える、妓ではない女。
紅い簪で結い上げた、黒髪。細い項。あの匂い。
気づいたら、奴の髪のかんざしを抜き取っていた。
バサ・・・っと、髪が堕ちる。ああ、奇麗だ。
俺を振り向いて、
!!!!!!
驚愕の表情。
静かに奴の腕を掴むと、無言で部屋に連れ入る。
奴はつったったまま。「座れ」と言えば。
部屋の隅、俺と離れたところに座る。
手を腹に載せて、警戒している。そんなにそいつが大事なのか。
「高杉はん、一体、どういうわけですのん」
とろりとした女がすり寄ってきた。忘れていた。
「気が変わった。出ていってくれ」
「そんな・・・今日は偉く気が変わる日どすなあ・・・」
「金は払うから、頼む」出ていく女を、桂が目で追う。その様子がおかしくて、
「たまに来ては、舐めてもらうんだ」といえば、あからさまに顔を赤らめる。面白い。
そうだな。てめえは昔から、こういうところ嫌がったなあ。潔癖性なのか。だから、
「傷を」と、つづけて言った。それだけで、なぜか納得したような顔をする。おいおい、信じるのか。
「お前さん、その様子だと銀時に会わなかったようだな」
「あ、ああ・・・高杉、ここから電話をくれたのか?」
「まあな。下でちょっとばかり奴と飲んでいたからな」
「!!!!二人でか・・・めずらしい」
「まさか。たまたま会ったんだよ。俺は違うツレがいる」
思わず、癖で煙管に火を入れるところだった。その動作を隠すためにくるくる煙管を回す。と、桂がそれを目で追っているので、
「俺は、もうちっと派手な色が好みだが」と言えば、
「貴様は何もかもが派手なのだから、ひとつくらい落ち着いたモノがあった方が良い。ちょっとはおとなしくしろ・・・その方が、世の女のためだ」などといいやがる。
ああ、いつぞやの電話の女の件かとは思ったが、別段蒸し返すこともない。
それより、
「なんで銀時がこんなところにいるんだろうなァ」
「おおかた・・・不満なのだろう」
「相手してやってないのか」
「・・・子供がいるのに」まただ。桂は腹をさすっている。
「へえ。随分大切にしているんだな」面白くねえ。
「子供が出来た時の、銀時の喜び方は普通じゃなかった。貴様も分かるだろう。・・・あいつは・・・」
「一人もんだからな。血のつながりを欲してやまないんだろうよ」
「ああ。・・・じゃ、俺は帰る」
ああ、行くのか。そんなに、俺といたくないのか。そいつに、何かすると思っているのか。
「待てよ」
手首を捕んで、引き寄せる。
「はなせ」ありったけのすごみをきかせたつもりだろうが、全然効かねえ。
「一度この部屋に入って、何もしないなんて野暮じゃねえか」
「は・・・貴様」
そんなにこいつが大事なら。お望みのこと、してやろうか。奴の腹に手を当てる。何も聞こえないし感じねえが、ここには、奴の宿した命がある。
今、俺はお前の大切な命を握っているんだぜ、桂。さあどうする。
「・・・・!!!」桂が息をのむのが分かる。
「こいつ、いなくなったら困るよなあ。銀時、狂っちまうかもしれねえな。クク・・それもそれで又面白えかもな。また、あの白夜叉に会えるんじゃあねえか」
「な・・・」その反応。たまらねえ。腹をゆっくりさする。
「桂・・・」低く耳元でささやく。
「・・・・高杉」
素早く桂を抱え上げると、隣の布団にゆっくり寝かせた。どう扱えばいいのか。