>>480 余談 吉原
1.
天下の吉原。
俺はここの救世主な訳で。
だからこそ、出入り自由なわけで。
今日は、ちょっと・・・ちょ??っと、はじけちゃおうかな、なんて。
最近、そんなにおなかが大きくなった訳じゃないのに、奥さんに、邪魔者扱いされて
全然相手してくれないんだもの。しょうがないよね、うん。しょうがない。ヅラが悪い。
ということで・・・
「ちは????!」
「あら、銀さん!」
「いらっしゃい!」
なんて、甘い匂いぷんぷんの女の子達がやってくる。ヘヘヘ。どうだ。結構もてるんだよ、銀さんは、実は。
「この間の、ツケ、払ってちょうだいね」
「うちが先よ??!」
な、なんなの・・・
「いや、あれはホラ、あれで・・・その、月詠がさ・・・」なんて言いながら、その店をさっと出る。ちいっ。まだ、顔の割れてない店・・・
と言うことで、見慣れない店をくぐる。
一階が顔見せの飲み屋、二階が・・・宿だ。
さ??ってと。
奥の座敷に案内されて、待っていると、適当に、だけどかわいらしい妓がやってきた。ひゃ??、いつもツンケンしている奴を見ていると、こういう甘え上手なタイプが新鮮に見えるもんだ。
なんて、いい気な感じで酒をあおっていたら、
隣にいた集団(男三人?)のうちの一人が洗面所にでも向かうらしい。出てきたところで、・・・・絶句。
河上 万斎。!!!!!
「・・・白夜叉ではござらんか」気づかれた。当然か。
・・・ってか、何でこんなところにいイイイ!!!!!
ってことは、あいつも。・・・??まさか。
席に戻った万斎が、何事か話している。まあ、俺のことだろ。とりあえず、酒はここまで。
妓を万斎の部屋と反対の方へ来させる。
万斎が又やってきて、
「ここは吉原。華の色を楽しむところでござる。血の色を楽しむところではござらんが」
どうする?と言っている。
「そんなこたァ、てめえらに言われなくても知ってらぁ。だがよ、どんな色に染まるかは、てめえら次第だぜ」
「・・・だ、そうでござる。晋助」部屋を振り返りそう告げる。
やっぱりいやがったか。
「・・・俺ァ別にどっちでも構やしねえ。派手でありゃぁどんな色でも」
奥から、かすかに奴の声が聞こえる。
ちっ・・・
回りくどいのはやめだ!
ばっと、隣のすだれをめくる。一瞬、緊張が走る。
いたのは、高杉と武市。やはり。
「よう、じゃあ、今日は野暮はよそうや。その代わり、ごちそうになるわ。邪魔して良いか?」
にやりと笑うと、いつぶりか・・・紅桜の一見以来の隻眼を見る。
その目が、すうっと細まり、
「身重の嫁さんほっといて、ただ酒たぁ、いい身分だな」
「種だけ付けて、女もガキもほっといて、放蕩している奴にゃぁかなわねえよ」
バチッっと音がしそうな程、視線がぶつかった。
「てめえの命が、酒代で買えるんだ。安いモンだろうが」
「てめえごときに売れる命じゃねえけどな」
ある種の殺気が立ちこめる。それは、鍛えた感覚でない妓にも伝わったようで。
「まあ、こわい」と、その部屋にいた2人の妓が口々に言う。
万斎が、仕方ないといった表情でため息をつきながら俺を促す。
「まあ、立ってないで座ったらどうでござる」
妓の手前、言葉に従った。目は高杉をにらみ据えたままだ。
テーブルを挟んで、向かいに高杉。右に武市。左に万斎。俺は一番入り口に近い席だ。
・ ・・・沈黙。
そのうち、高杉が隣の妓に、もう一人あいつのとこに付けてくれ、と言った。
すぐに、さっき俺のとこにいた妓がやってくる。あ、忘れてた。
「あ、ごめん。そういや何も言わずに席替わっちゃって」
「かましまへん」
そのすきに、万斎がさっき行きそびれたトイレに立った。
悠々と、高杉は煙管をくゆらせている。奴にしては偉く地味だ。妙な違和感を感じる。
「なんか、似合わねえ色合いだな」
「・・・そうか。まあ、感性は人それぞれだからな」ふう・・・と、気にする様子もない。
何が哀しくてこいつらと飲んでるのか。酒がまずくならぁ。と思ったが、何分ただ酒だから仕方ない。別段話すこともない。酒を飲み出す。
沈黙に耐えかねて、か、それともみんなの疑問を代弁してか戻ってきた万斎が口を開いた。
「それにしても白夜叉殿。奥方がいながら、なぜこのようなところへ?・・・そう言えば懐妊されているのでござったか、それで」
ふむ。と、なにか一人で納得するような言い方にむっとする。
「あのね!うち夫婦仲は円満だからね!!そりゃもう毎日熱??い夜を過ごして・・」
うう。苦しい。ちらっと高杉を見ると、興味なさそうに酒をあおってる。あの飲み方。かわらねえなあ。
「それはそれは。はて。ならば尚更不思議でござる・・・」と、うたうように言ってくる。
しつけーなあ。そこはそれ、分かってるんだろうから、流してくれよ。
と、突然高杉が口を挟む。
「どうせ相手にされてねえんだろ」
「はあ?」
またしても、バチっと音がしそうな程視線がぶつかる。
何か言い返せないかなあ。あ、そうだ。
「そういや、万斎君。あれ、あのこと、この凶悪犯に話してくれた?」
「「「?」」」三人、不思議そうな顔をする。
全員に注目された当の本人は、本当に分からないのか、分かってて知らぬ振りをしているのか、
「はて、なんのことでござろうか」と言ってくる。しょうがねえなあ。
「だ??か??ら、あれだよ、あれ。俺のを最近月子が舐めてくれるって言ったでしょお!」
「はあ?」万斎は、思いつきもしなかったという顔をしたが、俺は高杉が一瞬、ほんの一瞬だけど動きを止めたのを見逃さなかった。
「も??、真っ赤な顔しちゃって、“仕方ないなぁ、銀時はぁ”とかいいながらさあ。可愛いのなんのって。・・・うらやましいだろ、高杉君」
言えば、心底嫌そうに、
「はっ・・・何かと思えば。どうせ下手だろ。興味ねえ」
言った瞬間、反射的に俺は手に持ってた杯を奴の顔面に投げていた。
反射的に、万斎が左手でそれを受け止める。
カラン、と音がして、テーブルの上に杯が堕ちた。
当の高杉は微動だにしない。悠々と酒を飲んでいる。これを予想していたのだろうか。
武市は何が起こったか分かってないようだ。
「おいたが過ぎるでござるよ、白夜叉殿」
「わりぃ、手が滑った」
そう言って、心で舌打ちする。
「でもよ、人様の奥さん侮辱すんのが悪ぃんじゃねえ?プライドの高いあいつがやってくれるって事に価値があるんだろうが。んなこたあ、てめえも分かってることだろ」
「・・・」
「してもらったことねえからって、悔し紛れに言って良いことじゃねえよ。もっとも、てめーみたいな強姦野郎のこ汚ねえもんなんざ、あいつは死んでも舐めねーけどな!」
言った瞬間、奴の手から杯が飛んできた。
反射的に、俺はそれを右手ではじく。
2,3滴、顔に酒の滴が飛んだ。
「てんめぇ・・・」奴を睨めば、
「わりぃな、手が滑った」
そう言って、にいっと嗤った。
「・・・上等だ!!」立ち上がろうとした時、
「ハハハハハ・・・!」突然、無表情で今まで口を挟まなかった武市が笑い出した。
「いやいや、どうも杯は滑りやすくていけませんねぇ。お嬢さん、コップをふたつもってきて下さいませんかな」
「はい、お待ちやす」妓が、これ幸いと席を離れる。
「ま、この話題はひとまずやめにしましょう」と武市が言い、万斎が賛同する。
新しいコップで酒を飲み始めると、万斎が新しい話題を振ってきた。
「白夜叉殿はここの救世主と聞いていたでござる」
と、そこから、俺は自慢の夜王粛正の話を聞かせた。
いちいち、大げさに万斎が相づちを打つのが気に障ったが、まあ、悪くはなかった。
・・・・
「英雄色を好むっていう言葉もありますから、今日もそういうことなんですねえ」と武市。
「そうそう。まあ、あんまり英雄がほっとくと吉原のお姉さん達がさびしがるからな」
「そうでござるか。もてる旦那をお持ちで月子殿は心配ですな」さらっと万斎が言う。
うわ。またさりげに話を月子に戻しやがった。武市は、突然冷や汗をかきだした。俺と同様、月子の話はしたくないに違いない。
「あいつの話はいいんじゃない」
「月子殿と言えば・・・不思議な御仁でござったな」
きいてねえし!!!!
「あんなに美しい女性なのに、騎兵隊でもどうにも男湯に入りたいと言って」
ガシャン!!!おっとっと・・酒がこぼれちまった。妓がすかさず拭いてくれる。気が利くねえ。
「大丈夫ですか、坂田さん」武市がおしぼりをくれた。それを見て、おかしそうに万斎が笑っている。本当にいやな奴だ。
「・・・まあ、それで、仕方がないので、晋助の部屋にある風呂をすすめたでござるよ」
!!!!
「個室に風呂が付いているのが晋助の部屋しかなかった故」
はっと、反射的に高杉を見た。チッと舌打ちし、睨むようなまなざしで万斎を見ている。
「それである時・・・」
「万斎」
高杉が止めた。
「それくらいにしておけ」
そして、ついっと、隣の妓を引き寄せて、耳元で何かささやく。みるみる妓のほほが赤らむのが見えた。ああ・・・
「俺は、上に行って来る。適当に飲ませてやってくれ」
その妓を連れ立って席を立った。
堂々としてやがるな????!!何か悔しい。
出口に近い、俺の脇を奴が通過する寸前、
「おーおー行って舐めてもらえ。失恋の傷でも何処でも」
って言ってやれば、とっさに、俺が木刀に手を置いていたのが分かったんだろう、鋭い殺気だけを残して奴が出て行く。
と、俺の近くにいた妓が、高杉に近づいた。
「高杉はん、今宵はわてを指名してくれたんじゃおまへんの」
「悪ぃな。気が変わった」そう言って、素っ気なく二階へ消えていった。
「何あいつ、何様?」
「昔は違ったのでござろうか」
「あいつの女関係なんて俺は興味ねえよ」くいっと酒をあおり
「つーか、写メとってやりゃよかったな。んで、ヅラに・・」と言いかけて、はっとなる。
万斎を見ると、にたり、と笑っていた。武市は相変わらず表情が読めない。
「えーーなんだ。そういや、さっきの話。続き聞かせてよ」
「はて、なんでござったかな」
こいつ????????!!!!俺と言うより、高杉で遊んでたんじゃねえの!!!それとも、焦らして、やっぱ俺でかアアア???????????!!!
「だ、か、ら!!!高杉の風呂を月子が借りにいったんだろ!!!それで、どうしたかって聞いてるの!!!」
「気になるでござるか?」
「当たり前でしょオオオ!!!奥さんなんだから!!」
「そうでござったな。・・・じゃあ、まあ、ご想像にお任せするでござるよ」
!!!!こ、い、つ??????!!!!
「ただ・・・」
万斎が、何事か思いついたように話し出した。
「いつだったか、月子殿のしていた簪を晋助がデッキで一人で眺めていた時が、印象的でござった」
武市は、隣の妓となにやら話している。案外、上に行くつもりなのか。
「捨てようか、捨てるまいか、なにやら迷っていたような。まあ、結局翌日には月子殿の頭にそれがあったので、すてなかったのでござろうが・・・
・・あんなつらそうな表情の晋助は見たことが無かったもので」
その日の情景を、思い出しているのか万斎は遠い目をした。
不思議な男だ。こいつは間違いなく高杉に全幅の信頼を寄せられている。片腕だ。そして、本人も高杉なしでは生きていてもつまらないという。
似蔵は、高杉を光だといった。何であいつはあんなにも、人を引きつけるのだろう。
カリスマ?というのか。
ヅラ・・・お前もそうなのか?
ん?て、簪って、あの簪・・・だからなんなんだ。訳がわからねえ。
「けっ。ただの意気地なしに横恋慕されて、こっちは良い迷惑だよ」
「おや、晋助は月子殿に思いを寄せているでござるか」何を白々しい。
「あんたさ、あいつが居ないからいっとくけど。うちの奥さんにあいつの気持ち気づかせようとすんのもう止めてくんない?」
「ほう・・・気づいていたでござるか」心底驚いたような声を出す。
「あれで気付かねえのは、月子くらいだろ。みくびんじゃねえよ」
「なるほど。全て分かっていて、あの反応。お主もなかなかどうして・・・食えぬお人よ」
「てめえらごときに食われるようじゃ、今頃ここにはいねえよ。とっくに死んでらぁ」
「違いない」
万斎は、珍しく感心したかのように言った。
「うちの家庭を崩壊したいのか、それとも、俺を怒らせて鬼兵隊を崩壊させたいのか・・・。どっちにしても、今度したら。マジゆるさねえから」
「承知したでござるよ」と、まじめな声で答えるので、
「ならいいや。誰も得しねえから、この話はおしまい」にした。
武市は、じっとこちらのやり取りを聞いていたが、きっと分かっている。こいつも頭の回転は相当良いようだから。
「しっかし、ホント・・・あの強姦魔にも困ったもんだよ」ため息混じりにそう言うと、突然万斎がケラケラとおかしそうに笑った。
「ご、、、強姦魔、、、くくく・・・これはいい。おお、いいフレーズが頭に浮かんだぞ」いそいそなにやらメモを取り出す。けっ。
またくだらね??アイドルの歌作りかよ。お前の00,強姦魔とかいうタイトルでも作るわけ??又伏せ字になるよ、これ。
さてと。
「俺も上にいこうっかな??」などと言うと、
「おや、そうでござるか。ごゆっくり」などとこっちを見ずに言う。
さっきのお気に入り(?)の妓をつかまえて、
階段を上がろうとした時、なにやら入り口が騒がしい。
「すまぬ。人を捜していて」うわ????聞き覚えのある・・・この声は・・・
「銀色の頭の男なのだが、見かけなかっただろうか」
やばいやばい。
とにかく、妓の手を引き、階段を駆け上がる。
なんだ??何で分かったんだ??
とにかく、一番近くの部屋の戸を開けて、・・・中に誰もいないことを確認して入る。
トントントン・・・ぎゃああああ!!奴があがってきている気がする!!
とにかく、妓と布団をかぶって、中にはいる。
さすがに、ふすまを開けることはしないと思うが。・・・。
隣の隣(?)くらいのふすまが開く音がする。
げええ!!!そこまでするの???
だが、しばらくすると、静かになった。ふう????。気のせいかよ??。
ところで、
「あの・・・おにいはん、どうしますのん?」
と、息苦しそうに腕の下の妓がいう。
うう・・・ほんと、どうしよう。
奴に見つかったら、殺されるかな?
イヤイヤイヤ、あいつが悪いんだよね!!相手してくれないし。
でも・・・
でも、やっぱ・・
悶々と考えていたが、
最後の最後に、「でも、あいつ本当は男だし、ヅラだ・・・分かってくれる」
と結論づいて、
事に及ぶことにした。
俺は、この選択をこれほど後悔したことはない。
2.
何時間経ったのか。
とりあえず、目が覚めて、腕の上にいるヅラ・・・おおお、ちがった。
妓の頭をどける。ふ??。あれ、この子、こんな顔だっけ?
いつもヅラの寝顔になれてしまったのか、妙な違和感がある。
んんん??????。
そして、ちょっと罪悪感。
着物を整えて、
そろ????っと外へ出ると、誰もいない。
ふ????。
さて、帰るか・・・。
と、階段に手を掛けた時。
すらっと、何処かのふすまが開いた音がした。
ぎえええええ!!!気まずい。こういうの、良くあるよね!!
そっちを向かないようにして、階段をおりようとしたら・・・
「!!!!」はっと、息をのむ声が・・・一瞬、
あいつの声に似ていて、振り返る。バシン。
さっと、部屋に入っただろう、そこには誰もいなかった。
・ ・・・・。
い・・・嫌な予感がするんですけど・・・すごく・・・
重い足取りで、その、ふすまの近くに行く。
何事か、話している声が聞こえる。
あああああああああああ・・・・・
どっちの声も、聞き覚えあるわアアアアアア!!!
スパーーーーーン!!!と、勢いよく、そのふすまを開けると、
・ ・・・目をまん丸にして、
部屋の真ん中に正座したまま驚いてこっちを凝視する・・・・奥さん。
そして、その奥の窓側に偉そうに座って煙管をふかしているのは・・・高杉。
「アァ?いきなりだな。びっくりするだろ」
「びっくりしたのは、こっちだわアアアアアア!!!!!」
もう止まらない。目を赤くして、艶っぽい桂。いかにも、けだるそうにしている高杉。・・・
あからさまに乱れた布団・・・ッッッッ!!!!!!!!
「どーゆーこと???どうしてこうなってんの???説明しろ!!!」
「ぎ・・・銀時、あの・・・これは、あれだ、その・・・後でカステラかって上げるから」
えらくかすれた声で、桂が言う。なんて声してんの。焦ってるからじゃないよね?!!語らいすぎたからじゃないよね!!!
「いるかアアアア!!!カステラなんぞ!!説明しろ、ヅラ!」
あわわわ・・・となっている桂。もう妊婦じゃなきゃ殴ってる。
つーーか、殴るべきは・・・
俺は、つかつかと煙草を吹かす野郎のところに近寄って、いきなりその顔面を殴りつけた。
奴は、驚くほど、あっさりと殴られた。
「銀時!やめろ!」
弐発目を構えると、すかさず桂が止めに来た。何で止めるわけ?お前、まさかこいつを・・・
「邪魔すんな!!」ざっと、桂の腕を振り払うと、うっ・・・と呻いて、桂が転がる。