「変な夢見てないで、おとなしく、二人でユニットでも組んで、アイドルとかちゃらちゃらした音楽界でもぶっ壊してりゃいいんだよ」
「主に音楽とやかく言われたくないでござるよ」
「けっ、俺の歌を聴いたこともないくせに!」
「聞かずとも・・・想像はつくでござる」
「はあああ??何言ってンの。俺、プロ級だからね!」
「そうでござろうか・・・あ、今、上手い例えが思いついたでござる」
「はあ?」
「ん??、今までの晋助の奏でるメロディが、繊細で、だが独創的な・・そう、ブラームス交響曲三番のような、壮大かつ、力強いメロディだったとすると、」
「はああ???ブラ・・・?」
「迷いのある今は、四番のように、内面に秘めた情熱と孤独感からくる哀愁が感じられるでござる・・・それも、スコアのところどころが抜けて、
音が飛んでいるような・・・それをあえて埋めようとせず、タイやスラー、二分音符でごまかすような・・・そんな・・」
「っちょっとまって!!!分かんない!!分かりづらい!!っていうか、もういい!!」
「なんでござる、坂田殿。ものすごくわかりやすかったでござろうに」
「まっっっっったく、分かりません!!!」
桂も、お登勢もぽかんとしている。
何で、この人達には分からないのでござろうか。・・・もう無理だ。
「では、今日は、これで失礼するでござる」
「あ、ああ、・・・あ、あの、河上殿」
桂が、目で訴える。
「分かってるでござるよ、また」
それに、目で答えた。
そして、スナックお登勢を出た。
まあ、手応えはあったかもしれない。
あの、お登勢という女将はさすがだった。桂があまりにもきまじめすぎて、晋助の考えが理解できないだけであろう。
そして、あの、桂もまた。晋助に惹かれているのは間違いない。・・・あんなに、あの娘を気にして。真っ赤になって涙目になるほどに。
これは、案外・・・上手い方向に行くと良いが。