>>417 その次の朝、高杉たちは朝早く経った。そのため、すずという娘が高杉の部屋で目を覚ました時には誰もいなかった。
そして、三人分の宿泊費は全て支払われていた。
あんなにも、熱く、自分を欲した男。
傲慢で、横暴な態度なのに、情熱と相反する優しさを持っている。
ただ一つの眼差しは、危うげで、切なく、
自分を見ているようで、見ていないようでもある。
その熱が大きすぎて、知らなかった自分を思い出せない。過ぎ去った今は、凍えそう。
娘は、その男を思い出して、また泣いた。
一夜の夢とは知っていた。でも、
知っていてもなお、
本当に、好きだったのに・・・・と。
【万斎】
さて、その早朝。
「そういえば、晋助に渡しそびれていたものがあるでござるよ」
「ああ?」
「昨日、月子殿から、これを」
と、白い包みのなにやら長いものを渡す。
「何だァ?」
「誕生日プレゼントだそうで。いつもお世話になっているからと」
「へえ」
早速開けてみる。
中から出てきたのは・・・・
渋い、茶色の煙管。
「・・・・・」
「・・・・・」
「いや、なかなかいいじゃないでござるか」
「・・・・まあ、もらっとくぜ」
拙者は、笑いをこらえるのに必死だ。
どう見ても、高杉に似合うとは思えない。高杉が実に、嫌そうな顔をした。
と、そこで、もう一つあることを思いついた。
「どうでも言い話だとは思うが、昨日の娘の件、月子殿はご存じでござるよ」言えば、
「!」あからさまに驚く。
「・・・どこまで」
「最後以外は全部でござる。部屋に送る途中で、息巻く娘達に遭遇してしまったので」
「・・・へえ・・・」
あ、動揺してる。
「娘さん達の話を聞いて、激高してらした様子」
「・・・・・!!」
そんな、浮気のばれた亭主のような顔しなくても。
まあ、こんな晋助も悪くはない。
いや、むしろちょっと良いかもしれない。
人間らしくて。
なにより、構っていて、面白い。と、思うのだから、自分もなかなかだ。
しかし、この先、公のみんなの前で、高杉がその煙管を使っているのを、見たことがない。
だが、部屋では往々にしてそれで吸っている。
仕事の上では、私事を持ち込まないようにしているのか、はたまた、思い出して集中できなくなるとか・・・(そんな可愛いことはあるまいが)謎である。
さて、温泉旅行から帰った次の日、
みんなにお土産を配る万屋夫婦。
配り終わって、
しばらくすると、お登勢が
「旅行も良いけど、家賃も払いな!」とやってきた。
「んだよ、ババア。土産もらっといて」
「ああ、まんじゅうね。ごちそうサン」
「それ以外にもやったろ、高けー煙管」
と、銀時が言うと、ビクッと桂が身を震わせた。
「はあ?」
と、お登勢が聞き返す。
「ん?レシートにあったから、・・・ババアへじゃないの?」
「あ、いや・・・」
言いよどむ、月子を見て、なにやら思い当たったのか、お登勢が
「ああ、そういや、さっきもらったねえ。よく見てなかったけど、あれは煙管だったのかい、ありがとうね、月子」
と言った。
「い、いや、こちらこそ・・・」
と、月子が言う。
「はあ???」
何か、いぶかしむ銀時だったが、
「じゃあ、それに免じて、今日のところは取り立ては止めてやるよ、感謝しな」
とお登勢が言ったので、機嫌良く、「おう」と言った。
な??んかへンなひっかかりを感じたんだけど・・・
と、胸に引っかかるものを感じながらも、銀時は問いつめるのを止めた。
こいつが男に戻る日も近い。
そんなことばっかり、言い合ってる場合じゃないモンな。