>>371 【桂】
風呂から上がって、のそのそと着物を着た。
のぼせた・・・いやいや、しかし、まさか万斎が着ているとは。というか、
奴がいるのか・・・
部屋に戻ろうとした時、売店の前を通りかかったが、この旅館では24時間どうも運営しているらしく、煌々と明るい。
普段世話になっているお登勢や、万屋のみんな、お妙殿などに土産を交おうかと思って立ち寄った。なにより、飲物も買いたかった。
まんじゅうやお菓子、いろんなものをかって、さて会計・・と思った時、ふと目に入ったモノがある。
煙管・・・
そう言えば、万斎が言っていた。“突然一千両用意しろと”“おたふく風邪にかかって”・・・松之助が入院していた時、誰が来てくれたのか枕元にそっとおもちゃがおいてあって。
でも、誰がおいたかは分からない。だが、もしかしたら、奴が来てくれたのでは・・・と思ったが、電話でも「しらねえ」としかいわなかった。
あいつ、端午の節句には、鯉のぼりも送ってくれたな・・・今日は誕生日か・・・
だが、あのいつぞやの電話の時の女の声を思い出して、・・・ふん、少しくらいもてなくなればいい。
あえて、あいつ好みの感じでなさそうな、煙管を一本手にとって、
そのまま会計に向かった。
さて、このまま戻ったら、
銀時に煙管を見つかったら、
何を言われるか・・・
そもそも部屋番号をしらない。フロントに預けて、渡してもらおう。
そう思って、フロントに行こうとしたが、
どんどん血の気が引いていくのが分かる。
足取りも重たく、くらくらする。
湯あたりが、長引いているのか、それとも・・・
フロントに行く、廊下の途中、倒れるように、近くの備え付けのイスに座る。
「大丈夫ですか?」
と、男の声が聞こえた。
余談 慰安旅行2
【高杉】
偶然会った、女三人組のうちの一人を部屋に誘うと、
簡単に付いてきた。
しばらく三味線を弾きながら話をしていたが、面倒になって、そっと布団になだれ込む。
「奇麗な肌だなァ」「いい女だ」などとほめればさも当然とばかりに自慢げな態度を取る。
前戯にもはずかしげもなくでけえ声を上げやがる。
安い女。
きっと、出会ってすぐの男とこうなるのも初めてじゃねえだろう。
慣れた身体だ。入れたらすぐにいっちまいそうだなあ。
と、思っていたら、突然びくっと身体ががしなり、痙攣する。
おいおい。
入れる前にいっちまったぜ。すげえな、この女。
それでも、頃合いを見計らって入ってみれば・・・ああ、身体(こっち)だけは絶品だ。俺の目は狂ってねえ。
しかし、こいつの声だけは我慢ならねえ。うるさい口を唇でふさげば、何を勘違いしたかしがみついてきて背中に爪を立てやがる。
おいおい。てめえが傷つけて良い体じゃねえよ。
やんわり腕を外して、体を起こす。そのまま突けばあっけなくでけえ声を上げてまた痙攣する。随分簡単な身体だなあ。
あいつはこうじゃなかった。
いつもかたくなに耐えていて。それがたまらなく自分の情熱に火を付けた。
そういえば。女を抱くのは久しぶりな気がする。
何時ぶりかも、相手の顔も思い出せねえ。
覚えているのは、あいつのことだけ。・・・・・
思い出せば、身体に熱が灯る。ああ、どうにもやるせない、この、熱。
あいつの身体に触れたい・・・そして・・・
・・・
「・・・・」
奴の気配がする。
わざとらしく立ち去らずにいる。
動きを止めた俺を不思議そうに見上げる女。
「ここで終わりとさせてくれ」
言えば、不思議そうに
「・・・え?」
俺を見る。
「いいだろ、あんたは十分楽しんだはずだぜ」
体を離せば、プライドが傷ついたのか。
「なんで・・・何言って・・・」
泣きそうな顔をした。めんどくせえな。
「耳が痛くてかなわねえ。もう勘弁してくれや」
女の服をそっちに放る。もう泣いている。
「わりいが、これから用事があるんだ。ちっと席を外してくれねえか」
「何よ!!!馬鹿にして!!!」
今度は怒ったのか。忙しい女だ。
ばっ、と、服を着て飛び出していった。
ドアの外に、奴がいる。
「突っ立ってないで、入れや」
【万斎】
その部屋の前に行くと、
女の声が、ひっきりなしに部屋から漏れ聞こえている。
結構厚い扉だと思うが、それを越して声が聞こえるとは。
・ ・・なんとも、品のない女でござる。
元来、性的に淡泊な高杉が、このようなことをするのは、久しぶりだ。
万斎がずっと部屋の入り口にいたのが分かったのか、女の声がやんだ。
高杉は、自分の情事を特に気にしない。中断されようと、見られようとも平然としている。女だけではない。
部下の命も、自分の命にすらきっと執着はしていまい。何を犠牲にしても、構わないのだ。そもそも、滅多なことでは動じない男だ、この男は。
なにより自分の野望を優先させる。
その為に重要だと思うものを優先させる、それだけのこと。
だからこそ、女より自分を優先させるのは当然だ。
きっと高杉は出てくるだろう。
そうでなくてはならない。
そのはずだ。
それなのに。
桂が騎兵隊の船にいた時、高杉の私室に泊まっていることを確かめるため、同じようにこうやってドアの近くに居たことが何度かある。
艶っぽい声はしなかった。なにやら話す声がかすかに聞こえるだけ。昔話でもしているのか、それとも・・・と思っていた。
だが、どっちにしても。
そのとき、高杉は出てこなかった。
慣れた自分の気配に気づかないはずはない。
そして、気づけば出てこないはずがないのだ。
常の、彼であれば。
それが拙者をとても不安にさせた。
この男を惑わせるものがこの世にあること。それは、とても危険な存在を意味する。
燃えさかる火で全てを焼き尽くそうとしている自分達にとって、消火栓になりかねない。
下手をすれば、晋助自身が死へ追い込まれかねないのではなかろうか。
しばらくして、ドアが開いた。
あわてて女が出て行く。一瞬、目があった。ぼろぼろと泣いている。
おやおや。ずいぶんと若い・・・