【空知英秋】銀魂 二百十四訓

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38名無しさんの次レスにご期待下さい
>>35続き

(そして、自分は布団で寝たかったので) 女性であるにもかかわらず、桂を追い出した。(というか、男だ、あいつは。)



そんな生活が続いていくうちに、事件が起きた。

スナックお登勢に、なんと将軍が来たのである。

例の、おっさんが“しょうちゃん、場末のスナックも知っておいた方が良いよ”と連れ出したのである。

というのも口実で、実は最近有名になったお登勢の新人がものすごい美人とのウワサを聞きつけて、どうしてもおっさんが見に来たかったのである。



実際、桂を目にして「すげ??????きれいだなあ????ね??ちゃん、こっちこいやあ」と声をかけたが、

桂はものすごく嫌そうに「ねーちゃんではない、か・・・月子だ」と、源氏名を告げて素っ気ない。

月子というのは、とっさに桂がお登勢に言った名だが、それをそのまま源氏名として採用している。

驚くことに、一番月子に釘付けになっているのは、かくゆう将軍であった。無口で無表情のいつもの調子とは違って、今日はほおを赤らめ、熱い目をしている。

お登勢は、こりゃまずいねえ。と内心思った。

にらみ返す月子の目もまた熱い。だが、その熱さは将軍とは違う。憎しみ、怒り、悲哀、色々なものが混ざったような目だ。
39名無しさんの次レスにご期待下さい:2012/11/26(月) 19:27:56.66 ID:6PoYkeJt0
「お登勢殿・・・すまぬが、今日は気分が悪い。早退しても良いだろうか」

将軍が来たときから、月子に何処か影のような、剣呑な雰囲気を感じていたお登勢には、騒ぎを起こさないためにも、了解することが最善に思えた。

「ああ、いいよ。ゆっくりやすんどいで」



だが、月子が去ろうとしたとき、将軍がたまりかねて手を掴んだ。

「本当の名前だけでも、聞かせてもらえないだろうか」

その瞬間、あろうことか、将軍の左ほほがゆれた。パン!と高い音がした。

「触るな!無礼な」



その瞬間、さすがの松平のおっさんも、外にいた真撰組も飛んできた。

「おい、ね??????ちゃん、なにしてくれてんの????」

「月子!」さすがの、お登勢も焦る。

月子は土方に取り押さえられた。

「離せ、芋侍!」

しかし、女の力では、それをふりほどくことは出来ない。
40名無しさんの次レスにご期待下さい:2012/11/26(月) 19:37:13.40 ID:LGKbCiPG0
「ああ?上様叩いておいて、俺たちまで侮辱たあ、ちっと気が強いだけじゃあ、すまねえぜ」

鬼の副長の目がぎらり、と光った。まるで、抜きたての刀のようだ。

だが、桂もひるまない。きっと、将軍をにらみ据えた。

「俺は、貴様が嫌いだ。国を守ろうとした侍を見捨てた輩だ!そんなものに名乗る名など無い!貴様は・・・」

「・・・!!」

店のすぐ外でも、真撰組の隊士たちのどよめきが起こる。

「おいねーさん」低い声で桂の腕を掴んでいた副長が言う。

「言い過ぎやしねえか?あんたまるで言うことが攘夷志士だ。ちょっと屯所まで来てもらおうか。こりゃ重罪だぜ」

桂を外に連れ出そうと、その腕を引っ張った。



「はなせ、芋侍の分際で!」と、桂が声を張り上げたとたん、

「待った待った??、この人、俺の依頼人なんだ。ちょっと頭がおかしくてね。勘弁してやってくれないか?」

騒ぎを聞きつけて、あわてて飛んできた様子の銀時が割って入ってきた。

てめえの出る幕じゃねえよ、と、副長がまさに鬼のようにすごんだが、それにのらりくらりと言いくるめようとする銀時。いつもの小競り合いが始まった。
41名無しさんの次レスにご期待下さい:2012/11/26(月) 19:38:32.26 ID:mLTxvRJp0
「いいから、つれてけや??」松平の声がした。そのとたん、震える手で左ほほを押さえていた当の将軍が、動いた。凛とした、いつもの声で言う。

「はなしてあげなさい。たたかれたのは、突然触れてしまった私が悪いのだ。・・・すまなかった」

と、なんと将軍が月子に深々と頭を下げたのだった。

「う、上様!!」真撰組がどよめく。



「貴方の言う、侍を見捨てた件、先代の将軍、父の所行だとしても、私も実は心を痛めている。償うためには、

この平和を守ることしか私には出来ないが、きっと、それをしてくつもりだ。」

将軍の目は、真剣だ。そして、真摯に桂を見据えていた。

その顔には、本当に確固たる、決意がみなぎっている。

桂と、将軍の視線は絡んだまま。他の誰もが、それを見て、何も言えない。二人が、言葉を発さず、目で語り合っているような気がしたからだった。

にらむように、将軍を見続けていた月子の身体から力が抜けた。銀時も、事の成り行きを悟り、嫌に冷めた目で将軍を見た。心中は、複雑だ。
42名無しさんの次レスにご期待下さい:2012/11/26(月) 19:39:12.08 ID:KWld35WG0
「・・・」その場に、沈黙が流れる。土方は、ついに掴んでいた腕を舌打ちと共に離した。



そのとき、桂の顔が歪んだ。それから、かくん、と、俯いた。うつむいて表情は見えないが、ぽたりと月子の足下にしずくが垂れた。

「月子殿」・・・将軍が、何か言おうとしたが、それをあえて、銀時は遮った。

「すいませ??ん、こいつちょっと具合悪いみたいなんで・・・」と、そのまま抱えるようにして万事屋へ桂を連れ帰った。

「大事に、してください」と、将軍の声が聞こえる。

「しっかり管理しとけや、万事屋」土方の声もした。

スナックお登勢では、お開きにならず、飲み直しになったらしい。

日付が変わる頃まで、下はうるさかった。



そんなことがあって、スナックお登勢にはしばらく行かないのかと思っていたら、翌日からまた働いているから、さすがに女になっても

桂は桂だと銀時は感心したような納得したような気持ちだった。
43名無しさんの次レスにご期待下さい:2012/11/26(月) 19:47:16.15 ID:pqJQTHUD0
それでも、気落ちしている桂を見かねて、何となくその日は柄にもなく紅い簪を買った。まあ、スーパーで安売りしていたし?

あいつはうざい長髪を緩く縛っただけで家事をしている。料理の時にでも、髪の毛でも入れられないように用心のために。



帰って、簪を渡せば、驚くほどとろりとした笑顔で「ありがとう」と桂が言った。

そのとき、胸の奥がグサッと痛んだ。・・・なんだ?銀さん病気にでもなっちゃった??

そういや、桂になんかやるって、すごい久しぶりかもしれないと思う。あんまり男同士でプレゼントなんてしないからだ。

それから、桂はそれが気に入ったのか、常にその紅い簪で髪を結っている。不思議としっくり合っていて、なんか色っぽいというか、

女前(男前みたいなもん)があがっているようだ。・・・可愛い、と、思えないこともない。黙っていれば。