「ずいぶんと、物騒なこと言うじゃないか」お登勢は、落ち着くために、煙管に口を付けた。ふうーーーと、煙を吐くと、幾分かすっきりする。
「月子のことを振り回すのも、あんたのその狂気が関係しているようだね」
「さあ・・・狂っているのは、俺か世界か。正義ってのは、何処にあるんだろうな」
「あんたの頭の中じゃないことだけは、たしかだろう」
キリッと、相手を見据えて言う。
「度胸ある女だな」
「だてに長生きしてないからね」
「はは、だったら、この世界には、知らないほうがいい世界もあるって、長生きしてたら知っているはずじゃねえか?綾乃サン」
!!本名で呼ばれたお登勢はさすがに目をまるくする。
「へえ。よく調べてるじゃないかい。確かに、そう言うのは得意そうだね」
と、男の隻眼がすっと細まり、低く響く声を出した。
「さあ、・・あんたに興味があったのかもしれねぇよ」
「なんて声出すんだい。相手が違うんじゃないか」
「違わねえ。綾乃サンよぉ・・・旦那を早くに亡くしてさびしいってんなら、俺が相手してやってもかまわねえぜ・・あんたのことは、・・・気に入った」
冗談とも、本気とも取れるささやきだ。・・・何とも魅惑的な響きがある。自分の心を垣間見せて、人の心を全て握ってしまう、そんな男じゃ無かろうか。
「いい、女だ、・・・・綾乃サン、あんたは」
わざと、区切って囁くように言う。
なんて顔するんだ・・・お登勢は目を細めた。
「ごめんだね。あたしの相手しようなんざ100年早いよ、若造が」
「クク・・・そうかい。残念だ」
ああ、でも。この男に、女が惹かれるのも無理はないと思う。長年女をやってきて思うが、こんなに闇を抱えて、傷を抱えて生きているこの男が、手をさしだしたら拒めない。
その手を、振り払うことなんか出来ない。きっと、掴んでしまう。
そして、掴んだが最後、放したくないと思ってしまう。そう言う気持ちにさせる男だ、この男は。
「たちの悪い男に掴まったもんだよ、あの子も。」
「はっ、わかってねえなあ。あいつの方が俺よりよっぼどたちがわりい」
月子の話題が出たことで、男がすっかり毒気を抜かれたような顔をした。