【空知英秋】銀魂 二百十四訓

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334名無しさんの次レスにご期待下さい
>>331
「一体、何を考えてんだい、あんた」

「クク・・・そんなに知りたきゃ、俺の考えていることを教えてやろう。俺は今、一体何処に本物の火鼠の皮衣があるのかと思っていたところだ」

「なんだって?」

お登勢は怪訝な顔をする。

「俺には偽物しか用意できねえ。あったとしても、探す気もねえ。だから、俺たちは共に居ることができねえ、とそういういう理由(わけ)だ」

「阿部御主人かい。そんなの理由にならないよ。電話でえらい熱い愛の告白してたじゃないの。・・・月には返さないって、あれがあんたの本心なんだろ」

「へえ、なんだ、あんたも聞いていたのか。館内一斉放送でもかかったのかあ。趣味のわりいスナックだな」

にやりと笑う。



数回、会話を交わしただけだが、底の見えない男だとお登勢は思う。

つかみ所が無いというか、人の心をはぐらかすのが上手い。きっと、ふれられたくないことがあるのだろうが、その本体の鱗片さえ見せてはくれない。



「松坊のことは、どうすんだい」

「ガキのことは、銀時が面倒見るだろ」

「あんた、それでも父親かい。たまには顔見せに来たって良いんだよ」

「あいつは、そんなこと望んじゃいねえ・・・俺に会うことなど、望んじゃいめえよ」

ふう・・・と、今度は煙管で一服。

お登勢も、併せて煙管に火を入れた。



「そんなわけあるかい。父親が子供と会うのに、理由なんかいらないだろうに」

「ガキになんぞ、興味ねえ」

うそぶく。あんな優しい目をして子供を見ているくせに。あんなにいとおしそうに、月子に触っていたくせに。



「だいたい、あんた、ガキガキって、てめえの子供の名前すら呼べないのかい」

「あァ?」

「松之助さね、松之・・・」

とたん、男の顔色が変わった。
335名無しさんの次レスにご期待下さい:2012/12/02(日) 11:01:57.67 ID:neMxyqkt0
「気安く呼ぶんじゃねえよ」

瞬間、ものすごい殺気を感じた。その殺気だけで殺されてしまいそうだ。さすがのお登勢も息をのむ。身動きひとつとる事が出来ない。

「だから止めろと言ったんだ。けったいな名前付けやがって・・・」

ギリ、と、心がきしむ音がした。

「他人が気安く呼んでいい名前じゃねえ・・・」

はき出された言葉が、血を吐くようで、

この男の、闇が見えた気がした。この男の闇は深い。深くて深くて、こっちまで吸い込まれそうだ。



「なんだい、いきなり・・・」それを言うのが精一杯だった。

男は、いくらか殺気をゆるめ、だが、剣呑な目をして、お登勢を見据える。

「あんたは、この町、長いんだろう。あんたの青春を過ごした頃、ここはどうだった?こんなイカレた場所だったか?今のこの世界、あんたはどう思う?」

「・・・そうさねえ。すっかり過わっちまった。でも、それはそれで仕方がないと思っているよ。あたしらは、与えられたところでどう生きていくかを考えるだけだからね」

男は、フン、と鼻で笑った。

「まだ、この国だって捨てたモンじゃないよ。奇麗なものも残っているんだ」

「そうかい。だが、どっちにしても、この国は腐ってく。汚らしい侵略者どもが、この国を腐らせていく。だったらよぉ。いっそのこと、

腐りきる前にぶっつぶした方が良いと思わねえか?あんたの言う、まだ、美しいものが残っている、そのうちに」

「・・・・」



ああ、と思った。ああ、この男は、本物の攘夷志士だ。そこらの上辺だけの攘夷志士ではない。そして、危険な思考を持っている。

答えに詰まるお登勢に、フッと笑うと、煙管を口にくわえる。

言葉の凄みと真逆に、この男の仕草は優雅だ。魅せられる。

茶を飲む仕草も流れるようだ。その二の腕に刀傷が数本見れる。きっと、身体にも同じような傷があるだろう。片目を包帯で覆っているのもそうかもしれない。

それは、激しい戦地を思い浮かばせた。

そして、きっと傷があるのは、身体だけじゃない。心にももっと深い傷がある。
336名無しさんの次レスにご期待下さい:2012/12/02(日) 11:03:13.78 ID:W63wTPIh0
「ずいぶんと、物騒なこと言うじゃないか」お登勢は、落ち着くために、煙管に口を付けた。ふうーーーと、煙を吐くと、幾分かすっきりする。

「月子のことを振り回すのも、あんたのその狂気が関係しているようだね」

「さあ・・・狂っているのは、俺か世界か。正義ってのは、何処にあるんだろうな」

「あんたの頭の中じゃないことだけは、たしかだろう」

キリッと、相手を見据えて言う。

「度胸ある女だな」

「だてに長生きしてないからね」

「はは、だったら、この世界には、知らないほうがいい世界もあるって、長生きしてたら知っているはずじゃねえか?綾乃サン」

!!本名で呼ばれたお登勢はさすがに目をまるくする。



「へえ。よく調べてるじゃないかい。確かに、そう言うのは得意そうだね」

と、男の隻眼がすっと細まり、低く響く声を出した。

「さあ、・・あんたに興味があったのかもしれねぇよ」

「なんて声出すんだい。相手が違うんじゃないか」

「違わねえ。綾乃サンよぉ・・・旦那を早くに亡くしてさびしいってんなら、俺が相手してやってもかまわねえぜ・・あんたのことは、・・・気に入った」

冗談とも、本気とも取れるささやきだ。・・・何とも魅惑的な響きがある。自分の心を垣間見せて、人の心を全て握ってしまう、そんな男じゃ無かろうか。

「いい、女だ、・・・・綾乃サン、あんたは」

わざと、区切って囁くように言う。

なんて顔するんだ・・・お登勢は目を細めた。

「ごめんだね。あたしの相手しようなんざ100年早いよ、若造が」

「クク・・・そうかい。残念だ」

ああ、でも。この男に、女が惹かれるのも無理はないと思う。長年女をやってきて思うが、こんなに闇を抱えて、傷を抱えて生きているこの男が、手をさしだしたら拒めない。

その手を、振り払うことなんか出来ない。きっと、掴んでしまう。

そして、掴んだが最後、放したくないと思ってしまう。そう言う気持ちにさせる男だ、この男は。



「たちの悪い男に掴まったもんだよ、あの子も。」

「はっ、わかってねえなあ。あいつの方が俺よりよっぼどたちがわりい」

月子の話題が出たことで、男がすっかり毒気を抜かれたような顔をした。
337名無しさんの次レスにご期待下さい:2012/12/02(日) 11:04:47.46 ID:Dd/E/UEd0
ふと、男の顔がやや赤らんできていることに気が付いた。まさかとは思うが。

「あんた、おたふくしたことがあるのかい?」

「さあ、記憶にねえなあ」

「だったら、気をつけな。成人男性がかかったら、種なしになるって言うよ」



せめてもの、意趣返し。少し脅してやろう。少しはこの傲慢な男の焦った顔が見たかった。ところが、それを聞いて、男はさも楽しそうに笑った。

「そりゃ、朗報だなァ」

「なんだって?」

「気兼ねなしに腰が振れる」

ククク・・・と笑って、伝票を持って去っていく。

なんだい、あの男は。だけど、減らず口なところは、銀時に似ているねえ。



***

スナックお登勢に、一千両(約六千万円)が届いたのは、その日の夕方。



「・・・・・・・・」

お登勢も、月子も言葉が出ない。

こ、こんな大金・・・

目を光らせて、見つめているのは、キャサリンだ。

「私がアズカリマ??ス」

「だ・・・だめだめだめだめ!!!」



***
338名無しさんの次レスにご期待下さい:2012/12/02(日) 11:05:58.70 ID:FtcvHbVL0
TULLL・・・電話がかかってきた。

「なんだ?」

「なんだ、はこっちの台詞だアアアア!!なんだ、この大金は!!!病院ごと買い取る気かアアア!!!」

出るなり、突然、桂が息巻く。

「そうなのか・・・?入院したことがないんで良くわから無えんだが・・・」



熱があって、だるい。もう、立っているのもやっと。

桂の声が、キンキンうるさい。



「適当につかえや・・・」

「いらん!!てか、怖い!!いや、キャサリン殿がと言うわけではないぞ・・・」

なにやら、誰かに言い訳してるようだ。

「ヅラ・・・ちょっと熱があるようで・・・金のことならまた・・」

と言えば、

「大丈夫か、貴様?あ・・まさか、さっき来てくれたのはやはり・・・」

「しらねえよ。風邪ひいちまったようだ」

「貴様、おたふくは、あれだぞ。あの、成人の男がかかると、その、男性機能が」

「お前以外に種付けしねえから、関係ねえよ・・・」

ああ、限界だ。



ど、っと、倒れたに違いない。なんだか、来島が悲鳴を上げて駆け寄ってきた気がする。

はあ・・・・なんだってんだ。

厄日だ、今日は。

とりあえず、寝たい。

・・・