お登勢が、面会に来た時、面会表に“坂田 銀時”と書いてあった。おかしいねえ。
今日銀時が来れないから、代わりに着替え持っていってくれって頼まれてきたのに。
病室まで来ると、松之助のベッドの脇に、一人の見慣れぬ男が座っている。いかにも、浪人、と言った風情の着物と、頭にはけがをしたのか包帯を巻いている。
一瞬、何処かの病室の男が来たのかと思ったが、どうも雰囲気がそうでもない。
じっと心配そうに子供の様子をうかがって、なにやら土産を側に置くと、月子の髪を触り出す。そのしぐさが、何とも言えず優しく、いとおしそうにみえた。
さも、大切なものを扱うかのような、その雰囲気・・・ああ、この男が、例の男かと、長年の勘で分かった。
あの、警戒心の強い月子が起きないのもその所為だ。
あの子は、こんなに無防備に他人がいて眠れる女じゃない。
親しい仲だからこその、優しい時間。
だが、長くは続かず、
その男がすっと立ち上がり、こちらに来た。
その男の顔・・・一目見たら忘れられない。
光る、隻眼。
これは危険だ。だが、ひるまない。
「ちょいと、待ちな」
気づいたら、呼び止めていた。
「あんただろ、松之助の父親は」
「誰だ、てめえ」
じろりと睨む。ああ、なんて目をするんだ。まるで獣だよ。
「スナックお登勢のお登勢だよ。あんたの電話、時々つないでいるんだ、覚えときな」
と言えば、興味なさそうに
「あぁ」
そのまま去っていってしまいそうだ。