>>317 プ・・・と、坂本がひとつボタンを押した。
「・・・そうかい」突然、低い声が聞こえた。結構響く。
「でな、笑った顔なんぞ、お前の小さい頃によく似・・・」ちら。俺の顔を見てヅラが言葉を濁す。さすがに気を遣っているのだろう。
「お前は俺の赤子の頃なんざしらねえだろうが」言葉だけ聞けば素っ気ないが、なにこいつ。さっきと全然雰囲気違うんだけど!!何優しい声出してんの。気持ちわりい。
・・・が。
「あら、良い声だねえ。話し方も男気があって良いじゃないの」
「アホの坂田トハチガウヨ」
「てめーら、ぶっ飛ばす。銀さんだってあれよ。良い声だよ??」と、ちょっと声音変えてみたりして。何でこうもあいつは女に人気があるのか・・・世界七不思議。
まあ、それから話はとりとめもない感じで。聞くほどの事じゃなかった。終始、子供だの、突然脱線してみてはエリザベスがどうの訳のわからんことを言っていたが、
それにいちいち「へえ」だの「そうかい」だの、相づち売って電話を切らずにいる。さすがに、15分を経過した頃、三味線をつま弾く音が聞こえ出したりして、飽きてきたんだろうか。
「なんだい、三味がひけるとは、風流な男だねえ。しかも、上手じゃないか」
「どーせどこぞの芸子でも引っかけて習ったんじゃないの。あいつはそう言う男だから」
ていうか、長くない???もう電話して30分近く立つけど。いらいらも限界だ。こういうところみると、ヅラって女っぽいところあるよなあ、と思う。
長電話だの、肉球好きだの、もういっそ、女のまま過ごしなさいよ!!!(お母さん風)
「ちょっと、もういい加減にしろよ。坂本も電話代困るだろ!」といえば、坂本が
「気にせんでいいきに??」と言ってくれたが、ヅラは察して、
「すまん、坂本の電話を借りているので、・・・その、電話代がかかるからそろそろ」と奴らしく正直に言っている。よしよし。
「・・・金に困ってるなら、出すぜ。さっき銀時にも言ったがよ。俺は・・・」
「あ、いや、いいんだ。こっちは何とかなるから。・・その、ありがとう」
た????か??????す????ぎいい??????!!何で稼いでるかわからん汚ねえ金はいらねえよ!
「おや??、なんだい。いい男じゃないの。甘えればいいのよ。で、家賃払いな、銀時」
「ツケモハライナ」
「うっせ??!ババアども!!」
なに!!!何このラブラブモード!!もう我慢できねえ!!!握ってたコップがみしっとなった。
「・・・そうか。まあ、必要になったら言ってくれ。番号は坂本にでも聞いておけばいいだろう」
「ああ・・・そうする」
「ヅラァ・・・」嫌な声で桂を呼ぶ。ぞっとする。
奴らしくない、言いよどんでいる。何を言う気だ??まさか、俺と一緒にとか、やり直そうぜ(?)とか、言い出すんじゃないだろうな!!てめえ!!
と、思ったが、なかなか言い出さない。と思ったら、思いついたように言ってきた。
「今夜の月はもうみたか?なかなか奇麗な満月だぜ」
がくっ。んだよ。月見の話かよ。焦って損した。
「満月なのか・・・気づかなかった」
良くわからねーが、漂う空気がなんかいやだ。早く切れ!
「高杉・・・?」
名前呼ぶんじゃねえよ!
「こんな、かぐや姫の帰る日は。意志の強い奴は何をしようと自分の生きる世界に戻るだろうよ。だが、俺ァねえ・・・無駄と知りつつも、たとえ月が恋しくて泣こうが喚こうが、
天の衣を一生隠してしまいたい、と思うときがある。」
なんじゃそら。言ってる意味がよく分かりません。ていうか、何かどっかで似たようなこと言われたような・・・。
桂が何か考え込んでいる。何だよ、その顔・・・何でそんな哀しそうな・・・
「高杉、貴様・・・もしかして」
だが、奴は桂に言わせなかった。その言葉を遮った。
「そういえば、さっき、銀時にてめえらの聞きたくもない情事を聞かされたが」
「は??」
「まあ、少しくらい演技でも良いから、喘いでやれよ。・・・あの夜みたいにな」クククと、笑った。桂が、なにか思い出したのか、ガーーーっつと、赤面して、言った。
「っ!!!!変態!!!」瞬間、
「はああああ!!!!なんだ、あの夜って!!!嫌なこと言うんじゃねえ!!バーカ、バーカ!!!!」と、とっさに我慢できず電話を奪っていた。
「クク・・・やっぱり聞いていたのか。そう言うこったろうと思ったぜ。お望み通りだろ。伝えてやったんだ、ありがたく思え。これで貸し借りナシだな。じゃあな」
プツ・・・ツーツーツー
バリン!握っていたグラスが砕けた。
「・・・・っつタマ来た??????!!!!なにあいつ、何様???」
「アハハハ、こりゃ一本捕られたのう」なんてのんきに笑う坂本。キャサリンも嫌な笑い方をする。お登勢のババアもにやにやしやがって。俺の怒りは収まらない。でもって、
「ヅラ君??、あの夜って何??どの夜??!!何したの?変態プレイ???」
「そんなわけなかろう!!!」
「金時、そりゃ、野暮ってもんじゃ??アハハハハ」
「アハハじゃねえ!モジャ!!」
もう、俺は桂につかみかかる寸前だ。なにしろ、気にくわないのは、桂が貌を紅くしたまま俯いてこっちを見ようともしないことだ。
くっそ??????!!てめえって奴は・・・
「気障な男だねえ。・・・だけど不器用だ。だからいい女を逃がしちまうんだろうね・・・」
ふーーと、お登勢が煙を吐いた。
ああ、どうせこうやって俺をやきもきさせて楽しんでんだろうな。あいつ。趣味悪い・・・腹立たしいけど、それもこれも奴の思うつぼかと思うとこれ以上険悪になるものばかばかしい。
「ま??、最後に勝てば官軍なわけだから」
「あら、大人になったじゃないか、銀時」
「ふん」
外に出てみると、確かに満月だ。
白くぽっかりと光り輝いている。
江戸の空に・・・
そして、満月にくっきりと浮かぶ一艘の船の輪郭。あの船は・・・あの形は。
・・・鬼兵隊。
となりの桂が、はっと息をのんだ。
お前、一体どういう状況で奴と月なんか見てたんだよ。
問いつめたいけど、もうやめだ。
過去は過去。消したくても消えない。変えたくても変えれない。
それは、俺たちが一番よく分かっていることだ。
あのころから、
分かりすぎるくらいに。
やり直せないことも。
だから、お前のことだけは、
これからだけを見ていく。・・・・つもり。
・・・多分。