>>264 だが、そのすぐ後、低い声でヅラが言った言葉で、高揚した気分が吹き飛んだ。
「どうする?」
一瞬、意味がわかんなかった。
「え?いや、どうするって何???産んでどっちが育てるかって事?それとも、なんて名前にするかとかそう言う相談???」本当に、分からなかったんだ。
まさか、
「いや・・・産むか産まないか」そんな選択肢を言っているなんて。
思わず、というか、一瞬でかっとなった。同時に、ダン!!と大きい音がした。
「どういう意味?」自分でも怖い声だと思うが抑えられない。
「・・・もう一年、男に戻るのが遅れる・・・」
「だから、その子を犠牲にするってのか??」
こいつの言っていることが理解できない。こればかりはさすがに頭に来る。本気で怒る。
「男に戻りたいから、殺すのか?!」
「そう言う意味ではない」
「じゃあなんだ!あいつの子は産めても俺の子は産めないってか?!」
「ただ、これ以上は迷惑になるかと思ってだな」
「もういいよ」
本当に、もういい。こいつは最悪な天然野郎だ。
お前は、産みたくない訳じゃないんだ。
ただ、これ以上万事屋に迷惑をかけたくないと言っているんだ。そうだよな?
こいつには、はっきり言わなきゃ分からない。
どんなに俺が、うれしくて、喜んでいるかも。迷惑なんて思っているはずもないことを。
つっと奴に近づく。怯えたような顔をする桂。
なあ、桂、頼むから。拒まないで。
「迷惑じゃないから、産んで欲しい・・・」
お願い、お願いだから。
俺に家族をちょうだいよ。
俺に、幸せをちょうだいよ。
きっと、同じだけ、返すから。
この、凍てついた氷のような心を、
溶かしてくれるのはお前しかいないんだよ。
昔の俺を知っていて、今の俺を知っている。
そして、側にいて、分かり合える奴は、家族のいない俺にはお前しかいない。
だから、お願い。
一緒にずっといれないのも分かってる。
この夢がいつか終わるのも。
お互いの道が違うのだから。
でも、だからこそ、夢が終わるその最後の一瞬までのお前は、
俺にちょうだい。