余談:蜜月
桂(月子)が鬼兵隊に来て何日か経った頃、万斎にそろそろ桂を売る時期じゃないかと持ちかけられた。
おそらく、俺と桂の中を察しているのだろう。こいつは騎兵隊の中でも一番聡い。その上で、あえてこう聞いてきた。
「予定の変更もあるのでござろうか」
桂共々、迎えに来るであろう将軍を爆破。
それでいいのかと言っている。
「万斎。もし、将軍がめとった女がすでに孕んでいたとしてよぉ・・・知らずに、幕府がその子を時期将軍にしたとしたら、面白いとおもわねえか?」
と、冗談めいて言えば
「・・・それが狙いでござるか」と返してきやがった。
お前には分かるまいよ。俺たちのことなんざ。
「だが、それじゃあ、この世界をぶっ壊すことにはならねえよ。俺はそんなに気が長い方じゃねえ」
万斎、聡いお前のことだ。ここまで言えば、きっと桂側に考えが合っての情事と納得するんだろう?
いや、今一番そう思いたいのは、俺の方かもしれねえが。
桂との関係に、何でも良いから理由を求めているのは、万斎、てめえより俺の方なんだよ。
「・・・折を見て、将軍に使いを出すが、今はまだその時期じゃねえ」と言って、話を終わりにした。これ以上、こいつといると痛くない腹を探られそうだったからだ。
毎晩のように、桂を抱いた。
何度か身体を重ねても、奴が声を立てることはない。
「この部屋には誰もちかよりゃしねえよ」と言っても、何の反応も示さない。
だが、俺には分かる。
徐々にこの身体に馴染んできているお前は、もうとっくに快楽を知っている。
知っていて、認めまいと、俺に悟らせまいとしているんだ。
桂、今日ばかりは俺の我が儘につき合っちゃくれねえか。
もう、時間がないんだ。
何度も何度も角度を変えてはその身体を探る。
お前の反応するところ。
「っ!!!」
探り当てた、そこをしつこく責めれば、お前は泣きそうな顔をする。
「やめろ!高杉」
「あァ?もっと、の間違いだろ」と言ってやれば、その顔に絶望の色が浮かぶ。
残念だったな、聞きてえんだよ、こっちは。
お前の声を。心の声を。本音を。
奴が、耐えようと自分の腕を噛もうとしたので、その腕を捕った。させねえよ。
その腕を俺の背中に導き、さらに激しく揺さぶる。
心底悔しそうな顔をした一瞬、あいつは堕ちた。
「!!ああああ・・・!!!」
心の叫び。
ギリッと、俺の背中に爪が食い込み、奴の身体が痙攣する。俺をぎゅうぎゅう締め付ける。
くっ・・・俺も耐えるので精一杯だ。
ああ、その顔。見たくて見たくてたまらなかったモノが、やっと見れた。
一度あふれたものは止まらない。ぽろぽろ涙を流しながら、何度も喘ぐ。
「ああ・・・」そんな切ない声がとにかく聞きたくて。だが、夢中になればなるほど、自分の首をも絞めている。
もっと、この時間が続けばいいのに、自分の熱に耐えられない。
俺が達したとき、こいつは震えながら俺に「変態」と吐き捨てて、気絶した。
その様子が、おかしくておかしくて。知らず笑いがこみ上げる。
最高だ、てめえはよ。
俺なんかに逝かされて、喘がされて、さぞかし悔しかったんだろ。
気位の高いお前のことだ、刀でもあれば簡単に腹でも切ってしまいそうだな。
俺を変えたあの日・・・あの人が居なくなってから、こんなに気分が良い日はない。
安っぽいが、これが征服感というモノなのかもしれねえ。
眠る桂の胸もとにそっと顔を埋めて口づける。そのまま、きつく吸えば、紅い跡が付いた。
肌が白いから、余計に紅く見える。奇麗だ。
そう。
あの、簪よりも、きっと紅い。
(桂視点)
何度目かの同衾を経た夜、
「この部屋には誰も近寄りゃしねえよ」と奴が言った。
その時はどういう意味か測りかねていたが、この日の奴の行動でその言葉の真意を察した。
やけにしつこく、俺の反応を伺っている。
「っ!!!」
突然、変な感覚を覚える。いやだ、この感覚は怖い。思わず、今までしたことのない懇願をする。屈辱的だが仕方ない。
「やめろ!高杉」
それに対して、奴はやはり無慈悲だった。
「あァ?もっと、の間違いだろ」
そういって、さらに激しく俺を揺さぶる。・・・ああ、もう、ダメだと思った。
せめて、と思って自分の腕を噛もうとしたら、あっさりあいつに捕まれ、その手を背中に回させられる。
瞬間、
「!!ああああ・・・!!!」
何とも言えない感覚に襲われ、達した身体がのけぞる。声を抑えることも出来ない。
つらくて悔しくて、ギリッと、奴に爪をたてる。身体が痙攣するのを止められない。
「ああ・・・」言いようのない達成感と、恥ずかしさのなかで、知らず涙があふれる。
くやしい、こんな男に・・・俺は。負けた。
それからは、奴が律動を繰り返すたびに快感が襲ってきて、変な声を上げていたと思う。
繋がったまま、低く呻いて、奴の動きが止まった。
だから、荒い息の中で、恍惚とする奴に言ってやった。
「変態」・・・。
自分でも分かるほど、ひどくかすれた声だったから、伝わったかどうかは分からない。
でも、言い直す気力もないし、
なにより、
そこで意識を失ってしまった。
白濁した意識の中で
こいつが女にもてるのが、少しだが分かった気がした。
あんなにも横暴で、荒々しく、燃えるような身体と情熱を流し込むくせに、
いつもどこかに、優しさと哀しさを垣間見せる。
こんなに、切ない気持ちにさせる男はそういない。
どうにも、たまらない。
つなぎ止めたくて、たまらなくなるんだ。
それが、なんて言う感情なのか、
考えたくもないけれど。
銀時が、迎えに来てくれた日。
高杉が、俺に将軍を寝所で殺せと、短刀を押しつけてきた。
今までの行為が、その為だったのかとそこで悟った。
貴様は、俺を男に馴染ませるために抱いたのか。だとしたら、ずいぶんと見くびられたものだ。だが、いかにも貴様らしいよ。
駒の気持ちなどどうでもいいのだろう。貴様の世界は貴様中心に回っているのだろうからな。
だがな、高杉。
そうだとしても、俺にはひとつ解けない疑問があるんだ。
ただただ男を教え込むための行為ならば、なぜ貴様は・・・
あえて子供が出来るようなことをする?
色町でも、街娘でも、女に不自由しなかった貴様がそんなヘマをするとは思えない。
将軍を俺が殺したとき、俺は確実に死ぬだろう。
将軍を俺が殺せなかったとき、腹に子供がいたら堕ろされるかもしれぬし、将軍家から出されるかもしれない。
どちらにしても、お前にメリットはないはずだ。
どう考えても、俺にお前の子を宿す理由が分からない。
??????高杉、お前は一体何を考えているんだ?
6.5 夫婦の絆
(銀時視点)
夫婦として暮らすことになった手前、以前のように桂をソファーに寝かせるわけにはいかない。
なにより、妊婦にそんなことをした暁には、周辺の女共に殺されかねない。
というわけで、例の寝室に二つ布団を引いて寝ている。
桂は、当然のごとく夜の仕事をしていない。つまり、のんきな専業主婦というわけだ。いいですね??コノヤロ??!
しかし、妊娠にも驚かされたが、その相手にもまたびっくりだ。一体全体どういう経緯でそう言うことになったのか、桂はともかく、あの高杉が!!
聞きたいことは山のようにいっぱいあるが、何となく聞けずにいる。どうせ聞いてもあの調子じゃぁ、応えてくれないだろうしな。
この桂にねえ????。
たまたまこちらを向いて寝ていた奴の顔をちらりと見た。ちゃんと目を閉じて寝ている顔は、まあ、可愛いと言えないこともない・・・って、おいおいおい!!
別にやましいこと考えている訳じゃないからね!!!
でも・・・
でも、もしも。
こいつが見ず知らずで出会った女だったら。自分はどうだろうとちょっと考えてみる。最初、依頼に来たとき、「やべ??、超好み!」って不覚にも思ってしまった。
でも、後にこれが電波野郎だと分かったら俄然そんな気持ちは萎えたわけで・・・。
っつ??か、高杉と桂がねえ・・・とまた思考が戻る。
お互いを知りすぎているだけに、どうにも想像しそうになる。いやいやいや、ナイナイナイ!!ないから!!気持ち悪いから!!マジで!!!
・・・う????ん。どうしたもんかねえ。
再度、桂に目をやる。相変わらずよく寝ている。
ていうか、子供が出来るってどんだけよ??
一回や二回じゃないよね?
もう毎日って感じなの?
そんなに桂っていいわけ・・・・って、だから、ないから!!ナイナイナイナイ!!
再々度、桂を見る。うっすら唇が開いた。
なんなの。あんた。隣にこんないい男がいるのに、何の危機感もなく、熟睡ですか。そうですか。
一発ぶん殴ってやろうかとも考えたが、女でしかも妊婦なので、思いとどまった。
ていうか、何で俺があいつらの子を育てなきゃなんないわけ?
あいつが男に戻って子連れで党に戻ったら(恐らくそうなる)
俺は奥さんと子供に逃げられた、ただのマダオだよ?!
俺があの獣の子の面倒を見ないと責められて、
当の野郎はおとがめなしのやり逃げですか?!
納得できねえ??????!!
いや、そういや、それ以前にあいつは、こいつの妊娠知ってるの?
しらね??だろうな。知ってても、きっと俺の子だとか思いそうだよな!
んだよ??????!無責任なマダオじゃねーか、あいつの方が!
くっそ????、何で俺ばっかりこんな外れくじ引かなきゃならないわけ??
だって、だってさ、この先 結野アナとかさ、きれいなお姉ちゃんと知り合ったとしてさ、もしかしたら交際・・・ってなことになるかもしんないじゃん!!
それなのに、そんなことしようもんなら、“不倫”になっちゃうんだよ!!
手も握っちゃいない、この電波な奥さんがいるせいで!!!
あ????やってられね??よ!
と、桂を再び見た。
「何をさっきからぶつぶつ言っているのだ、うるさい」
ギャッ!!!と、あやうく悲鳴を上げてしまうところだった。
桂がしっかり起きていて、あの黒い目でこっちを凝視している。
「貞子か!!!お前は!!」
「貞子ではない、桂だ」
「今は坂田でしょ」
「あ、そうだった、坂田だ。あほではない。」
「アホは余計だ、ボケ!!」
「言いたいことがあるなら、俺にはっきり言え。ぶつぶつ文句を言われながら俺の顔を見られるのは耐えられん」
いつの間に起きてたの!!マジで気持ち悪いこいつ!!
心底嫌そうな顔を桂がするので、誰のせいだ!!!と、正直はったおしたくなったが、偉い俺はぐっと耐えた。
「じゃあさ、言わせて頂きますけど、」
と言ったら、桂が、うむっと偉そうに相づちを打つので、
「高杉と何発やったの?」と言ってやった。そしたら、
ものすごい剣幕で殴られた。
「てめ????、言えって言ったのてめえだろうが!!この借りは、男になったら倍返しだかんな!!いや、十倍返しだな!!!」
「ああ、男になったら好きなだけ殴りかかってこい。返り討ちにしてくれるわ。大体、貴様は無粋なことをづけづけと・・・」
「だってさあ。気になるじゃん。夫としては」
うっと桂が言葉に詰まる。
一応、迷惑かけているという自負は、義理堅いこいつには人一倍だ。
「そんな回数が知りたくて、文句をたれていたのか・・・仕方のない奴だ。そんなの聞いてどうする」
「気になるって言っただけです??。別にどうするもこうするも」あれ?いやいや、どうするつもりだったんだ、俺は。そもそも何でこんな話してんの?
確かに、どうでも良いことだよな・・・。うん、どうでもいい。なのに、なんで。
と、考えていると、なにやら横で桂が眉間にしわを寄せながら指折り数えている。
「いち、にい、さん・・・」
「はっ、ちょ、辞めて辞めて辞めて!!!いい、そんなん知らなくて良いから!!お願い、辞めて!!!」とあわてて止める。焦った??!やだこいつ。
くそまじめな奴はこれだから困る。マジ、リアルな数教えられてもどうしていいかこまるだろ??がああ!つーか、思い出されるのもいやだっつーの!!
「なんだ、貴様が教えろと言ったのではないか」と、むっとする桂。
マジこいつ、何なの。
天然とか言うレベルじゃないんですけど。
「しかし、お前相手に・・・高杉もすごいね!尊敬しちゃう!ある意味クララが立つよりすごいことだよ、これは!!」
「さっきから、やたら高杉、高杉と・・・お前は、一体何を言いたいんだ」
・ ・・たしかに。俺は一体何を言いたいんでしょう。で、どうしたいんでしょう。
「文句がないなら、もう寝ろ」
といって、布団をかぶり直す桂。
くそ??、俺がこんなにもやもやしているというのに、こいつは気にもとめず熟睡しやがるんだよな、と思うと無性に腹立たしい。
「まてい!!」
俺は桂の布団に滑り込んだ。