>>177 震える身体、俺に触られて、なれない刺激にとまどう瞳。あの気位の高い奴が、どうにもかなわない俺に対して感じる絶望。悔しそうに、流した、涙。
それを目にして、今までないほどに興奮する自分がいた。どう抑えようも出来ない情動、征服欲。結局、そのまま、自分勝手に蹂躙してしまった。
しかも、抱けば抱くほど、自分の熱は上がっていく。どうにも止められないその熱のまま、行為を知りたてのガキのように何度も何度もその中で果てた。
その度に見せる桂の潤んだ目に見える困惑の光と淫猥な色に釘付けになった。
あの高ぶり、気持ちは一体なんだ。皆目見当が付かない。自分の感情をもてあます。
だが、一方で知りたくはないと思う。この葛藤自体が腹立たしい。
・・・それに、不思議なのはそれだけではない。
桂の態度。
あれだけ、最初は抵抗し、殴りつけてくるわ、蹴り上げようとするわしていたものを、一度行為が始まってからは、その最中も、後でも、怒るでもなく、
責めるでもなく、恨み言を一つも言わなかった。観念したからか、その潔さは桂らしいといえばらしいが、それだけでは納得いかないものがある。
なにしろ、あいつの気位の高さは半端じゃない。激高してもおかしくない状態なのだ。
・・・一体なんだってんだ。自嘲気味に嗤う。
どうでもいいことに、今日は振り回されすぎだ。ばかばかしい。
そこまで考えたところで、当の本人が風呂から上がってきた。頭には例の簪がついている。
俺にいることに気づいて、無意識に乱れてもいない襟を正した。
思わず、おかしくなってしまい、
「そんな、おびえんなよ」と、嗤ってやった。それをきいて、即座に「怯えてなどいない」と桂が偉くむっとした様子で言い返してきた。
その反応に気分が良かったので、
「そうかい。昨日は随分ふるえていたみたいだったが」いつになく返答してしまった。
「武者震いという奴だ。貴様相手に俺が怯えるわけがなかろう」などと負け惜しみめいたことを言う。愉快だ。そこで、さらに
「そうだったな、痛くも痒くもねえんだろ」とい言えば、桂が、低い声で
「お前の考えていることは、昔からわからん。俺は貴様のそう言うところが嫌いだ」と言った。
高揚した気分はそれで消えて、一つの疑問に思考が戻る。
「嫌いな男に」と言いかけて、さて、なんて切り出したものかと迷う。
考えをまとめようと煙管を一口。すると、桂が部屋を出て行こうとするので、呼び止めた。回りくどい聞き方はこいつに通用しねえ。
「何で責めねぇんだ?」
「気にしていないと言ったろう。昨日のこと、俺は別に怒っていない。ただ、不思議に思っていただけだ」
桂が振り向いたとき、今日初めて目があった。
「貴様は、昔から、派手で一見して無茶な戦い方をする男だ。だが、それは無鉄砲で考えなしというわけではない。貴様なりの緻密な計算合ってのものだったことを俺は知っている。
お前は、無謀に見えて、その実誰よりも計算高い。だから、俺とは戦略方法で衝突することも多かったが、半面、高杉のすることに間違いないと信頼もしていた。
けれど、一方で貴様は目的のためには手段を選ばない男だ。ひどく言えば、自分の目的、計画のために仲間をも平気で捨て駒に出来る奴だ。
俺は、貴様の、そう言うところが本当に嫌いだ」