>>171 俺たちが混ざり合うことのない水と油だとしたら。
火を付けたとたん貴様は簡単に燃えてしまう。
いや、貴様自身が既に熱された油だから、勝手に火がつくのかもしれない。
そんな油に、水が触れたら、蒸発して消えてしまうだろうか。
それとも、少しはその熱を冷ますことが出来るだろうか。
どちらにしても、放っておけば、貴様は燃えて、燃え尽きて、
勝手にいなくなってしまうだろう。
そうなる前に、俺が火を消した方が良いのか?
それとも、お前は燃え尽きることを望んでいるのか?
油は一体、水に何を望むのだ。
(高杉視点)
その日、部屋に帰ると、どうやら桂が風呂に入っているらしい。
一瞬このままもう少し外にいれば、あいつに会わずに済むとも思ったが、
それも昨日のことをきにしているようでばかばかしいと思い直り、部屋に入った。
いつもその部屋でそうしているように窓枠に半分腰掛けた姿勢で煙管をくゆらせる。
昨日、何で俺ぁあんな事をしたのだろうか。
昔から桂は女のような顔立ちをしていて性格がねちねちしたところや保守的で女のようなところがあったが、
魂のありよう、生き様は男そのものだ。そのため、女を見るような目で見たことなど一度もない。
それなのに。
今の桂は、見ず知らずの女だと思えば、確かに美しい。
今まで見たどんな芸子よりも艶やかだ。だが、桂だ。かつて共に闘った仲間だった奴。幼なじみ。
自分は元来性的には淡泊なものだ。あのとき、男として、飢えていたわけでもない。別に女に不自由しているわけでも。
それに、何より、勢いだけで行為に及ぶほど、若くはないのだ。自分も桂も。
それなのに。
机の上に置いておいたはずの紅い簪がないことに気づく。いやに大切にするんだな。
銀時にもらったという簪を俺に触らせることすらいやがる。
昨日は、そんな奴の仕草が妙に頭に来た。昔から、あいつは銀時と共にある。どんな混乱の中も、信頼して、背を預けるのは決まって奴だ。
まあ、彼奴に着いていけるのは銀時くらいだったろうが。
俺は、そういう戦い方は好みではない。てめえの背を誰かに預けて、誰かを守り闘うなんざ、はっきり言ってうっとおしい。
自分の進みたいように進み、闘いたいように闘った方がどれほど良いか。足手まといになられるくらいなら、いない方が良い。
だが、奴らはそんな俺を単独行動だとか無謀な行動だとか言っていたな。
以蔵の奴を斬った後で、あいつらは揃って刀を向けて俺を斬ると言った。ああ、止められるものなら止めてみればいい。
狂っているのは俺か、世界か。そんなことも分からない奴らに俺が止められるはずも無かろうが。
そんな桂が、女になったという。会ってみれば、なるほど元来優男だっただけのことはある。華奢な身体、高い声。抑えつければ、簡単に組み敷かれる。
単純に興味があった。昨日は、あいつの説教めいた戯言にむかっ腹がたったこともあり、ちょっとからかってやろうと思った。
もう二度と、煩わしいことを喚かぬよう脅してやろうと。
あのとき、きっと桂は初めてだった。(女として)