>>163 自分が快楽を感じていることは、せめて奴には知られたくない。
それが、奴の目論見のひとつであるのなら尚更。そこまで、思い通りにさせたくはない。
なけなしのプライドを奮い立たせて、絶対に声だけは出さないようにする。
最中、ずっと、こやつの視線を感じる。
そんなに、おかしいのか?俺のこの姿が・・・
貴様ごときに、組み敷かれて、反応してしまっているイカレたこの身体を嘲笑いたいのか。
そうだろうな、貴様はそう言う男だ。他人の弱みを握って喜ぶ男だよ。
どんなにか、さげすんだ目をしているだろうと、確認しようと目を開けると、思っていたより間近に奴の顔があって危うく悲鳴を上げそうになった。
・・・ああ、恥ずかしいのはお互い様か。
貴様のそんな顔、初めて見たぞ・・・
いつもの余裕綽々の高飛車な態度はどうした。
必死な顔で、そんなすがるような目をして。
何でそんな苦しそうな、つらそうな顔をしているんだ。
貴様にとっては作戦の一環だろうが。もしくは、ゲームみたいなものなんだろう。
この関係を、楽しんでいるんだろうが・・・。
限界が近いのか、
眉間に深くしわを刻み、隻眼を細めてやけに熱く、真摯に俺を見る。
せめてもの、仕返しだ。お前のその顔を見届けてやる。達するときの顔を見てやる。
普通男同士では見ることのない、知られたくないであろう顔。
けれど、その顔を見るたび、燃える瞳を見るたびに、
その熱に、焼かれてしまう。燃えて、燃え尽きて、灰になってしまいそう。
いや、それならまだいい。
燃え尽きあぐねたら、燻ったままの火を持たされたら、耐えられない。たまらない。
きっと、いつまでも火種が残る。
どうせ、お前は消してくれない。
勝手に火を付けて、そのまま去っていく。
悔しさと苛立ちで気持ちが高ぶったせいだ、快楽のせいじゃない。きっと俺は泣いている。
吐息とも、呻きともつかぬ言葉を発して、高杉がきつく俺を抱いた。
瞬間、痛いくらいにこいつの存在を感じる。
どうして貴様は、また今日も、・・・繋がったまま。
おかしな行為(だと思う)が終わった後
決まって奴は一服する。申し訳程度にざっと寝間着を俺に羽織らせ、とっとと窓の方へいってしまう。
こっちを見ているのかもしれないし、外の月でも眺めているのかもしれない。
俺はそれを見て確認する気力も興味もなく、目を閉じた。静かだ。
江戸上空を浮かぶこの船は、鳥のさえずりさえ聞こえない。
俺は、この時間が苦手だ。
だから、早く寝てしまおうと思う。
貴様の戦略を暴くために、利用されているふりをするだけなのに、あの熱いまなざしが頭から離れない。
まるで愛しいものを見るかのような・・・そんな錯覚に陥ってしまう。
訳の分からない感情を植え付けないでくれ。変な熱を残すな。
たちの悪い男だ。貴様は、なんて・・・
「ずるいやつだ、貴様は・・・」
あいつはどんな顔をしただろう。きっと気にもとめていないだろう。
貴様のせいで、俺はどうかしてしまいそうだ。
他人の心は分からない。
でも、自分の心も分からないときがある。
だから、この感情に、名前など付けられない。