>>123 「お前は・・・」すたすたと近寄って、子供の顔をみやる。
「しけた面してやがる」
「まだ生まれて三ヶ月だからな。お前とてこんなものだったのだぞ。今では見る影もないが」
驚いたことに、そっと高杉が息子の頭をなでた。その様子が妙にしっくりいっているようでもあり、たどたどしいようでもあり、見ているこっちが気恥ずかしいような、
何とも表現しがたい感情におそわれる。きっと端から見たら、ただの夫婦に見えたことだろう。
ふと、高杉と目があった。
・・・こいつは、こんな顔をする男だっただろうか。
なんて目をするんだ。
その隻眼に、何か亡くした大切なものでも写すかのように俺を見る。切ない。一言で言えばそうだが、もっともっと複雑な何かが混在している。
胸の奥に、忘れていた熱いものがこみ上げてくるのを感じる。
---ああ、何で貴様はいつもそうなんだ。
大事なところで、いつも、裏切られる。
嫌な男のままでいてくれればいいのに。嫌いな奴のままでいてくれればどんなにか。
>>127 そっと、抱き寄せられた。
結い上げていて見えている項に唇が押し当てられたのが分かる。
ちりっと、鋭い痛みがした。・・・こいつの行動はおおよそ理解できない。
文句を言おうかと思ったそのとき、奴が耳元で、本当に小さくささやいた。
「大事にしてやってくれ」
それだけ言うと、俺の顔も見ずに、くるりときびすを返して歩き出した。呼び止めようと思ったが、ここで高杉の名を出すのもどうか。
逡巡ののち、「おい、待て!」と声をかけた。
顔だけ半分振り返った奴の、顔はいつもの憎たらしい顔で。
「今日のお前は、・・・存外悪くはない」
なんと言ってみようもなかった。
最後に、奴がいつものように、ニヤリと嗤ったのがかすかに見えた。
そうこうしているうちに、半年が過ぎ、そろそろ男に戻ろうか・・・と桂が思い始めたとき、また事件が起きた。
・ ・・まさか・・・
今度は、こっそりと自分一人で病院に行ってみる。
結果、
「おめでとうございます」と言われた。
めでたくなーーーーーーい!!!・・・わけでもないけど、手放しで喜べない!
帰って、新婚よろしく神妙な面持ちで銀時に言った。
「話がある」
苺牛乳を注ぎながら、こっちを見もせずに銀時が応える。
「なんだよ」
「・・・子供が、できた」一呼吸置いて、言った。これではまるで。(本当の夫婦みたいだ)
銀時を見れば、牛乳がテーブルの下まで垂れている。注ぎすぎだ!
「え?・・・何?」
「だから、子供が出来たのだ」
「は!!!???俺の???!!!!マジで・・・・・・!!!!」
うわ??????と銀時は頭を抱えてのけぞった。そのため、表情が分からない。
「どうする?」
「え?いや、どうするって何???産んでどっちが育てるかって事?それとも、なんて名前にするかとかそう言う相談???」
「いや・・・産むか産まないか」
その瞬間。
ダン!!と銀時が机を拳で叩く。
「どういう意味?」
「・・・もう一年、男に戻るのが遅れる・・・」
「だから、その子を犠牲にするってのか??」
本当に怒っている銀時の目を見るのは久しぶりだ。どうにもつらい。
「男に戻りたいから、殺すのか?!」
「そう言う意味ではない」
「じゃあなんだ!あいつの子は産めても俺の子は産めないってか?!」
何でそんなつまらないことを言うんだ。
「ただ、これ以上は迷惑になるかと思ってだな」
「もういいよ」
銀時が近づいてきた。殴られるかもしれない。さっと桂は身構えた。だが、
次に銀時が言った言葉は。
「迷惑じゃないから、産んで欲しい・・・」
・・・懇願だった。じっと桂の顔を見て言った。
!!!!!!
この男、こんな事を言うような男だったのか???!!!
あまりの衝撃に何も言えないし、何も出来ない。
女になったら、物事が違うように見えると言ったが、本当にそれは嘘ではない。
子供の頃から知っていて、
喜怒哀楽も知っていて、
戦い方も、性格も知っている。
友として過ごした時間は長い。
それなのに。
男としてのあいつらのこと、初めて知った。・・・それはそうだ。
ああ、きっと自分だってあいつら相手に見せたことのない自分がいただろう。当然だ。
いままでの幼なじみの、知らなかった面を知ることで、より深く理解できた気もしたし、
大切な何かを失った気もした。
こうして、長かった月子生活が終わり、“今までの生活”が戻るのはそれから一年後のこと。
いろいろあって、月子がいなくなった後に、銀時の評判が堕ちることは(それほど)なかった。