【空知英秋】銀魂 二百十四訓

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117名無しさんの次レスにご期待下さい
>>113
7.託したもの



桂のおなかの子供が臨月に入りそうな頃、

坂本が空から振ってきて、「ヅラ??!解毒薬を持ってきたぜよ!」と自慢げに行っていつものアハハ笑いをした。



坂本に、仕方がないので解毒剤をもらい、変わりに、これを鬼兵隊に届けて欲しいと荷物を渡した。そして、そっと坂本の耳元でなにやらささやくと、

それを言付けて欲しいと言った。銀時には聞こえていない。

それを見て、銀時がわざと大声で言った。

「高杉のとこに行くならさ??。いっといてくれねえ?俺、どうやらお前の弟になりましたって」

ぼかっ!とすかさず夫を殴りつけ、「すまんが、よろしく伝えてくれ」と坂本を見送った。
118名無しさんの次レスにご期待下さい:2012/11/27(火) 02:23:12.03 ID:L3sxwSzO0
鬼兵隊は、坂本からの積み荷を受け取っていた。

「ほいから、どうしても、総督に手渡したいもんがあるんじゃあ。どうにか来てもらえんかのう」

との坂本の懇願に、相変わらず煙管片手に高杉がやってきた。万斎も、来島も共に来た。



「これ、桂から。おまんに贈りモンじゃと。」

ずしり、と重い、ことさら立派な一降りの剣だった。

「なんで、桂から・・・????」

不振そうに、その剣と坂本を交互ににらむのは、事情を知らぬ来島だった。

「身代金がわりじゃと。計画失敗で、とりそびれた鬼兵隊への賠償金だそうじゃが」
119名無しさんの次レスにご期待下さい:2012/11/27(火) 02:24:10.96 ID:R+jrgfls0
お見通しという訳か。・・・やはり桂殿は侮れぬ御仁でござる。一体何処までが計画で、何処までが運なのか。計り知れぬお人でござった。

白夜叉同様、あの御仁も美しい音色を奏でるものだ。興味は尽きぬ。と、万斎は思った。

月子の嫁入り事件の一部始終はもちろん全員知っている。今現在、月子が万事屋に嫁に行ったというばかげた茶番も。

「この程度で、賠償とは笑わせる」と高杉は一笑に付したが

「将軍の刀で、“この世が乱れた際にはこれで斬ってかまわん”と言って桂に渡したそうじゃ。今の上様は、なかなか出来たお人よ」坂本の言葉に

ギロリ、と、睨み付けた。が、坂本はアハハそんな怖い顔せんでいいきに。といつもの笑いをしてその場を和ませた。

「桂が、“時にも世にも 乗るも乗らぬも あだしのに揺るる 松の風”と伝えてくれと」

(時代の流れに乗っても逆らっても、きっとあの地には変わらぬ風景があるはずで、あの人(針葉樹)の魂もそこに、季節を問わず永遠にあるのだろう。

だから、事を起こそうが起こすまいが、あの人を取り巻くものは、変わりようがないのだ)
120名無しさんの次レスにご期待下さい:2012/11/27(火) 02:31:24.99 ID:Fk3pnmEF0
「・・・・」

「確かに伝えたきに!じゃ、わしはいくでの!元気にしとっせな??」とのんきに坂本はきびすを返した。

それから、ああ、そうそう、忘れちょった、と、くるりと高杉を振り返って、

「金時がの??、“どうやら俺はお前の弟になった”って伝えてくれって言っとったぜよ!」

そんだけじゃ、アハハと去っていく坂本に、万斎は苦笑いをしながら高杉をちらりと見た。

珍しく、動揺する高杉の姿があって、

「どういう意味っすか?マジよくわからないっす!何で晋助様の弟に白夜叉が・・・??ずうずうしいっす!ねえ晋助様?」

と、説明を求める来島とのやり取りがやけに面白い。



ここで笑ったらまずいと思いつつも、“白夜叉と兄弟” ・・・ウケる。万斎は肩を揺らした。
121名無しさんの次レスにご期待下さい:2012/11/27(火) 02:32:28.40 ID:MG/gA7iU0
8.これからの道



すこしして、男の子が生まれた。

まだ桂が男にもどる気配はないが、「乳が必要なうちはもどれぬ」といかにも桂らしいことを言うので、

そのまま、まだ万事屋にいる。

生まれた子供は、あまり夜泣きもせず、手がかからなかった。周りが冷やかしに来たり、世話をしに来てくれるので助かっている。

お父さんに知らせなくて良いのかな?と銀時は思うが、いやいやいや、何かもうそれ考えると気分悪くなるから辞めようとも思う。



子供が三ヶ月になった頃、桂が息子を胸に抱きながら、買い物に行った。

夕暮れ時。一人の浪人風の男が橋のたもとに立って夕日を眺めている。その風情が、やけに情緒的で、不覚にもじっと見つめてしまった。

男が、こちらに気づいて自分を見る。傘ごしに視線を感じる。

この気配、たたずまい、間違いない。

----高杉。

いつもの派手な着物ではなく、ごく普通のなりだったので一瞬分からなかった。
122名無しさんの次レスにご期待下さい:2012/11/27(火) 02:33:33.99 ID:P1L2ijGz0
つっとこちらに近づいて、「よう」と言った。

胸の子に気づき、「奴の子か」と聞く。

なんと返事をしてみようもないのでこたえあぐねていたら、肯定と受け取ったらしい。

「お前さんもずいぶんと趣味が変わったモンだなぁ」と、小馬鹿にしたように言う。その言いぐさにカチンと来たので、

「貴様に言えたことか」と言えば「・・・ちげえねえ」と笑った。



そして、ふと思い出したように言った。

「ガキ産んだ割に、その姿とは、がせだったようだな。」

「解毒剤も持っているのだが、この子に乳もやらねばならぬのでな」

「・・・へえ」

高杉の気配を感じてか、子供がもぞもぞと動くので、奴もそれに注意をやる。

親子というのは、やはり見えぬ絆があるのだろうか。
123名無しさんの次レスにご期待下さい:2012/11/27(火) 02:37:38.12 ID:P1L2ijGz0
「男か?名前は・・・」

「松に助けると書いて・・・・松之助(しょうのすけ)だ」

「けったいな名前付けやがって・・・銀太郎とかで十分だろうによ」顔は笑っているのに。

安穏な空気が漂う。一種殺気のようなものを奴から感じる。

つ・・・と、また一歩高杉が静かに近寄ってきた。間合いを計っているかのように。



「そういや、お前さんにはでけえ貸しがあったっけなァ」

完全に奴の間合いに入った。

思わず、腰巻きの短刀を確かめる。奴の渡した刀だ。貴様はこの子供ごと、斬るつもりなのか。自分の子とは気づかずに?

いや、気づいた上で、邪魔な存在を消すつもりか?どちらにせよ、貴様はきっと知らずに殺したことにするのだろうな。それならそれで。

「貸しなど元からない」

「そうかい」

「それに、この子の名前とておかしくなかろう。縁の者から一文字づつ頂いたのだからな」

どうする?高杉。これで言い逃れは出来まいよ。

お前が今消そうとしている命は、間違いなくお前の血を引く者なのだ。

とたん、高杉の殺気が嘘のように消え、変わりに驚きと、とまどいを感じた。