「綺麗アルー」
万華鏡を月明かりや外灯で覗きながら神楽がはしゃいでいる。それなりに高い和食の店だったが、開店記念とかで神楽に小さな万華鏡をくれたりもした。
それはお子様扱いなのかもしれなかったが、女性にだけです、と言いながら店員が神楽に手渡していたので、彼女は喜んで新八に見せびらかしたていた。
「よかったねぇ、神楽ちゃん」
新八は楽しそうな神楽を見ながらその後ろをのんびり歩いた。
食事を終えたあとはお代わり自由のスープで閉店間際までねばってしまった。それでも咎められなかったしお土産までくれた、かなり良心的な店だった。
店では二人でどうでもいいことを話した。たまに銀時が話題になった。なんとなく、今日は銀時は帰ってこないだろうと二人は予想していた。
だから神楽と新八は一緒に駅に向かっている。お妙には職場を通じてすでに連絡してあるから、帰るだけで良い。
「んー……」
いつの間にか不満げにくるくると万華鏡を回し始めた神楽に新八が気付く。
「あれ、どしたの神楽ちゃん」
「さっき見た模様が、定春の顔そっくりだったネ。もう一回あの模様見たいアル」
唇をとがらせながらつぶやく神楽に、新八は穏やかに笑った。
「あはは、そんな模様あったの? でも無理だよ。同じ模様にはならないと思うよ」
「そうアルか? 残念ネ……じゃ、今度は新八のアホヅラ模様出すアル」
「いや、それこそ無理だろ」
冷静に突っ込みつつも、新八は苦笑する。
妙に穏やかな気分だった。
回ってしまえば万華鏡の中にある飾りが場所を変え、彩りを変え、その模様は確実に形を変える。一度変わってしまった万華鏡の模様は奇跡でもなければ全く同じ模様にはならないだろう。似たような模様は望めたとしても、何かが違いどこかが違う。
一度変わってしまったら、同じ形には二度と戻らない。
だからこそ、その模様はそれぞれが美しい。
そして美しい一瞬が連なって回り続けるのだ。
その輝きで見る者を魅了し続けながら、決して止まることなく、形を変えていくつもの模様を描きながら。
月明かりの下で、神楽の手の中で。
その小さな万華鏡はとめどなく回り続けた。