【ラノベ(笑)】めだかボックスアンチスレ30【同人】
「それにしても、見蕩れるの蕩れるって、すごい言葉よね。知ってる? 草冠に湯って書くのよ。 私の中では、草冠に明るいの、萌えのさらに一段階上を行く、
次世代を担うセンシティブな言葉として、期待が集まっているわ。メイド蕩れー、とか、猫耳蕩れー、とか、そんなこと言っちゃったりして」
「銅四十グラム、亜鉛二十五グラム、ニッケル十五グラム、照れ隠し五グラムに悪意九十七キロで、私の暴言は錬成されているわ」
「うるさいわねえ。いい加減にしないとあなたのニックネームを生理痛にするわよ」
「……お前には本当におどろおどろかされるな」
「おどろがひとつ多いわよ。まあ、阿良々木くんを少しでもおどおどろかせたいと思う、私のサービス精神の賜物ね」
「おどがひとつ多いんだよ! 本当ひでえことばっか言いやがって。お前に慈悲はないのかよ」
「茲非ならあるわよ」
「心がねえ!」
「全く、大袈裟な。会話に多少のエスプレッソをきかすのは、礼儀のようなものでしょう」
「高校生には苦すぎる……」
無論、正しくはエスプリである。
苦過ぎると荷が過ぎるもかかっているのだ。
「ったく、ずけずけと言いたいこといいやがって。お前は本当に生意気なガキだな、お仕置きしてやりたくなってくるよ」
「お前は本当に生意気なおっぱいだな、お仕置きしてやりたくなってくるよ? 阿良々木さんは時たまとんでもなくいやらしいことを仰いますね」
「言ってねえよ!」
「ガキをおっぱいと置き換えるだけでここまでいやらしい台詞になるとは驚きです」
「メインの単語をおっぱいと置き換えていやらしくならない台詞なんかねえよ!」
何の会話だ。
この辺は勢いだけで喋っている気がする。
「自慢話を聞けと言われても困りますね。阿良々木さんの話で面白いのは、不幸自慢だけです。その辺りをもっと掘り下げてください」
「なんで僕がそんな自分苛めみたいなことをしなくちゃならないんだよ!」
「では、不肖ながらこのわたし、八九寺真宵が代弁しましょう。阿良々木さんの不幸自慢シリーズ。『鴨が葱を背負ってやってきた! でも阿良々木さんは葱が嫌いでした!』」
「僕の不幸をでっちあげるな! 葱は好きだよ、栄養があるもん! 風邪引いたとき喉《のど》に巻いたりするもん!」
「一見幸せなようだけれど、よく考えてみれば実は不幸というのが、阿良々木さんの売りです」
「ねえよそんな設定! 今後行動しづらくなるような、中途半端に変な設定を付け加えるな!」
「阿良々木さんの不幸自慢シリーズパート2」
「パート2まであるのか!? パート1が全米ナンバーワンヒットでも記録したのか!?」
「『阿良々木さんは夜中に小腹が空いたので、カップラーメンを食べることにしました。けれどそのカップラーメン、インスタント食品の癖に作り方が意外と難しい!』」
「ち……畜生! 否定したいところだが、残念ながら何回かあるな、そういう経験! パート2の方が名作とは、これは稀有《けう》な例だ!」
「阿良々木暦は永久に仏滅です」
「何もかもが嫌になるフレーズだ!」
「この程度の事態、わたしは全く平気ですっ! この程度の困りごとには、馴れっこなんですっ! わたしにとってはとっても普通のことですっ! わたし、トラベルメイカーですからっ!」
「旅行代理店勤務だと!? その歳でか!?」
確かにそれが本当なら、迷子になんてなるわけがないだろうが。
「それから、何よりもまず、私としては一番最初に訊いておきたいのだけれど」
忍野にというより、それは僕と忍野、両方に問う口調で、戦場ヶ原はそう言って、教室の片隅を指さした。
そこでは、膝を抱えるようにして、小さな女の子、学習塾というこの場においてさえ
不似合いなくらいの小さな、八歳くらいに見える、ヘルメットにゴーグルの、肌の白い金髪の女の子が、
膝を抱えて、体育座りをしていた。
「あの子は一体、何?」
何、というその訊き方からして、少女が何かであることを、戦場ヶ原も察しているのだろう。
それに、この戦場ヶ原ですらそこのけの、剣呑な目つきで、少女がただ一点、忍野を鋭く睨み続けて
いることからも、感じる者は、何かを感じるはずだ。
「ていっ! 喰らえっ!」
言ったと思うと、八九寺は僕の身体に向けて、全体重を乗せたハイキックを喰らわせてきた。とても小学生とは思えない、背筋に
一本棒が通っているかのような、綺麗な姿勢での蹴りだった。だがしかし、悲しいかな、小学生と高校生とでは、身長差というものが、
歴然としてある。この差だけは埋めようがない。顔面に決まっていればあるいはということもあったかもしれないが、八九寺のハイキックは、
精々、僕の脇腹辺りにヒットするのがやっとだった。無論脇腹にだってつま先が入ればダメージはある、しかし、それは我慢できないほどの
質量ではない。僕はすかさず、八九寺の足がヒットした直後に、両腕でかかって、その足首、ふくらはぎの辺りを、抱え込んだ。
「しまりました!」
八九寺が叫ぶが、既に遅い。……『しまりました』というのが果たして文法的に正しいのかどうかは、あとで戦場ヶ原に訊くとして、
僕は、片足立ちで不安定な姿勢になったところの八九寺を、容赦せず、畑で大根でも引き抜くかのような形で、思い切り引き上げた。
柔道で言う一本背負いのフォームだ。柔道ならばこのように足をつかむのは反則だが、残念ながら、これは試合ではなく実戦だ。
八九寺の身体が地面から浮いた際、スカートの中身が思い切り、それもかなり大胆な角度から見えてしまったが、ロリコンではない僕は
そんなことには微塵も気をとられない。そのまま一気に背負いあげる。
が、身長差がここで、逆ベクトルに作用した。身体が小さい八九寺は、地面に叩きつけられるまでの滞空》時間が、同じ体格の人間を
相手にするときょりもほんのわずかに長かった――ほんのわずかに。しかし、そのほんのわずかに、わずかの間に、八九寺は思考を
切り替え、自由になる手で、僕の髪の毛をつかんだのだった。理由あって伸ばしている最中の髪――八九寺の短い指でも、さぞかし、
つかみやすいことだろう。頭皮に痛みが走る。反射的に、八九寺のふくらはぎから、僕は手を離してしまった。
そこを逃すほど、八九寺は甘い少女ではなかった。僕の背に乗ったまま、地面への着地を待たず、くるりと、僕の肩甲骨を軸に回転し、
そのまま頭部への打撃を繰り出した。肘鉄だった。ヒットする。だがしかし――浅い。両足が地面についていないから、力の伝導が
平生通りにいかなかったのだ。年齢の差、実戦経験の差が、もろに露呈したのだった。決着を焦《あせ》らず、落ち着いて一撃を繰り出せば、
今ので決まり、今ので終わりだったろうに。そしてこうなれば、僕の反撃のシーンだった。必勝のパターンだ。
頭に肘鉄を入れられた、そちら側の腕を――感覚的に、左――いや、裏返っているから、右腕か、右腕をつかんで、その位置から、
再度、やり直しの一本背負い――!
今度は――決まった。
八九寺は背中から地面に、叩きつけられた。
反撃に備えて距離を取るが――
起き上がってくる様子はない。
僕の勝ちだった。
気が付けば──知らず知らずのうちに、僕は火燐
をベッドに押し倒していた。
左手は後頭部に添えたまま。
身体を乗せて、火燐を押し倒した。
僕よりもサイズのある彼女の身体は、しかし体重を
少しかけるだけで──抵抗なくすんなりと、押し
倒された。
火燐を見る。
火燐を見詰める。
うっとりしているかのような。
とろけているような。
そんな火燐の表情だった。
ヘヴン状態である。
「火燐ちゃん。火燐ちゃん。火燐ちゃん──」
妹の名前を連呼する。
そうするたびごとに、身体が奥の芯から熱くなる
ようだった。
火燐の身体も、強い熱を帯びている。
「に、兄ひゃん──」
焦点の定まらない瞳で。
火燐は言った。
口の中に歯ブラシを挿入されていることもあって、
いやきっとそれがなくとも、呂律が回らないようだ
ったが。
それでも言った。
それでも健気に、火燐は言った。
「にいひゃん……いいよ」
何が!?
何がいいの!?
と、普段の僕なら突っ込みをいれていただ
ろうけれど、しかしもう僕のテンションもぐちゃぐ
ちゃに融けていた。
ぐちゃぐちゃで。
ぐちょぐちょで。
じるじるして。
じゅくじゅくして。
出展・・・「化物語」「傷物語」より抜粋
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