ダブルアーツを連載して消費者に舐められた古味直志

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>>22
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第16話 少女の願いと少女の誓い

デオドラドの街の片隅でうじうじうじうじしているスイ。
未だにファランに負けたことを根に持って半泣きの顔で蹲っていた。
その背後からハイネ登場。
「あの、具合悪いんですか? もしかして……」
振り向いたスイがトロイに感染していないことを確認し、ほっとするハイネ。
「あ、大丈夫みたいやね、お取り込み中失礼しま……」
そこまで言ったところでスイのつややかな髪に目を止めるハイネ。
ほわーんとキラキラした目で見られたスイは気まずそう。
「何だよお前」
「綺麗な髪やなぁ……すんません、私ハイネ言います。もし嫌やなかったら、あなたの絵描かせてもらってええですか?」
「……勝手にしな」
嫌そうなスイだけど、ハイネのあまりのキラキラ具合に圧されて渋々承認する。
そして人気の無い路地で、スケッチブックにスイの横顔を描いていくハイネ。
スイはハイネの方をちらちらと気にしながらも大人しくそのまま座ってる。
ハイネはスイの髪の毛のラインを丁寧にデッサンしながら言う。
「スイさんの真っ直ぐな髪の毛、憧れるなァ……私、こんなぴょんぴょん髪がどうにかならへんかと思て一度思いっきり伸ばしたことがあるんですよ。でも、どんだけ伸ばしてもぴょんぴょんぴょんぴょん」
てへ、と苦笑するハイネ。スイはハイネと向き直る。
「その服、そういえばお前シスターか」
「あ、そうですよ。だから、あんまりこっちに来ないようにしてくださいね」
両手で×を作ってブロックサインを出すハイネ。スイは面白くなさそうにふんと鼻を鳴らす。
「うち(一人称が親しげに変化してる)、お姉さんが居たんですよ。お姉さんの髪もスイさんみたいにさらさら真っ直ぐで、撫でてるだけでえらい気持ちよかったなァ」
「なんだ、触りたいのか?」
スイはそういうとすっくと立ち上がり、背中から取り出した小刀で自分の髪の毛を斬ろうとする。
「わーーー!!駄目ーーーー!!!!?」
ぎゃあぎゃあと騒いでそれを制止するハイネ。
「何だよ、直接触らなかったら平気なんだろ?」
「そ、そうですけど……だからって髪の毛切っちゃ駄目です!!!!」

――回想シーン――
トロイで臥せってしまったハイネの姉が、消滅する前に自分の髪の毛をばっさり切ってハイネに渡していた。
何も残してあげることができないから、せめてこれをかつらにでも使ってくれと言っている姉。
さらさらの髪の毛を抱えて号泣するハイネ。
――回想終わり――

「そんなに綺麗な髪を切るなんて勿体無さすぎです!私はどうせシスターで髪の毛を伸ばせないから、せめてスイさんみたいな人の素敵な髪をもっともっと絵に描いてみたいんです……!」
「ふぅん……そろそろ切ろうと思ってたトコなんだけどな。お前がそんなに言うならもう少し伸ばしてみるか」
「はい!」
再びスケッチを再開する。スイもだんだん楽しそうになってきた。
が、突然石畳にころりと鉛筆が落ちる。
「どうした? ……!!!!」
スイが振り向くと、ハイネの手が透けて手袋が落ち、そして彼女自身ゆっくりと地面に倒れていくところだった。スケッチブックもパタンと落ちる(絵を描いている面が下になった)
「ご、ごめんなさい、実はうち、もうトロイでいつ消えてもおかしくないところやったんです。だからこの人気のないところで消えよう思てたんですけど、スイさんが居て……綺麗な髪の毛で……お姉さんみたいな……」
「おい、何やってんだよ、何で……」
「近づかんといて下さい!!」
ハイネに気おされるスイ。
「うちは大丈夫です。最後にスイさんの絵も描けて、もう満足です……」
震えながらもどうにか笑顔を見せるハイネ。うつ伏せに倒れて顔を上げながら、スケッチブックを愛しげに見やる。
が、そこにスイが仁王立ちしてた。
「おい、フード被れ」
「へ……?」
「いいから、さっさと被れよ!」
24>>23の続き:2008/09/02(火) 20:18:16 ID:x8yZdJYP0
言うや否や、スイ自身がハイネのフードを彼女の頭にかぶせる。動揺するハイネ。
「スイさん、駄目ですって、危ないですってば――」
「うるさい!」
そして問答無用でハイネを抱え上げ、驚異的な跳躍力で建物の上に上っていった。
ハイネを抱えたスイは建物の屋根を飛び移り、街の中で一際高い尖塔に上っていた。
もうハイネは息も絶え絶えで、顔も透けかかっていた。スイは珍しくあせった顔であたりを見回す。
「あたしの知り合いにトロイ治せるヤツがいるんだ、今連れてってやるからな……!」
そしてはるか先にいるキリとエルーを補足する。
「見つけた!」
まるで矢のような速さでそこまで飛ぶスイ。ハイネはその横顔を眺めていた。

――ハイネのポエム――
そこから見た街の風景も
空に舞うスイさんも
うちが描いたどんな絵よりも綺麗やった

もっともっと練習して
こんな絵を描けるようになりたかった

生まれ変わったらスイさんのお友達になりたいな
そしてまた、この風景を見せて――
――ポエム終了――

場面が切り替わって、電話帰りにちんたら人通りの多い通りを歩いているキリ。
そこに突然スイが降ってくる。目をまん丸にして驚く二人。ファランだけは予測済みだったらしく驚いていない。
「おいスイ、ファランとケンカするのは自由だけど目立つ行動は――」「おいキリ!今すぐこいつを治せ!!」
そう言ってキリに迫るスイ。
「こいつって……お前それ、まさか」
キリとエルーの顔色が変わる。
「スイさん、それを着ていたのは赤毛のシスター……ですか?」
『着ていた』という言葉にはっとするスイ。ゆっくりと腕の中に目を落とす。
そこには、主の居なくなったシスター制服があった。既に、腕の中にいたはずのハイネは消滅していた。
クリアナギンゆえに人の重さなど苦にもならないのが災いし、スイは腕の中のハイネが消えたことに気付いていなかった。
「――――!!!!!」
悲痛な顔になるキリとエルー。無表情のファラン。
スイはというと、初めて見せるような絶望の顔になっている。
「スイさん、あの……」
エルーが声をかけようとするが、スイは俯く。そして数秒の後、スイはハイネの制服を抱えたまま
再び飛び出してしまった。
来た道(建物の上)を戻っていくスイ。顔は見せないが、頬から何粒もの雫が零れ落ちて街に落ちていく。
そしてハイネに絵を描いてもらった路地裏に舞い降りる。片手で、まるでハイネを抱えているままのように制服を持ったまま、スイはそこにあったスケッチブックを拾う。
落ちたときに丁度絵を描いてるほうが下になっていたスケッチブック。拾って見てみると、そこには誇り高きクリアナギンの横顔があった。
「何だよお前、あたし本当にこんな顔してたか……?お前、絵下手だな…………」
彼女に絵を描かれていたときは、ファランに負けたショックから立ち直れずうじうじした顔のままだったはずだった。
スケッチブックにぽとりとスイの涙が落ち、慌ててごしごしと目をこするスイ。
そして顔を上げる。

場面は再び切り替わって、宿に戻る直前のキリ達。
またもやスイがその眼前に飛び降りてくる。
「スイ……」
かける言葉が見つからず気まずくなるキリだが、スイは構わずまくしたてる。
「おいお前ら、協会本部とやらに早く行くぜ」
「お前何言って……」
「決めたんだ、あたしがお前らを護ってやる。そして一刻も早く本部に行く」
顔を見合わせて困惑するキリとエルー。スイはふと横のファランに目をやる。
ファランは表情を変えず静かに言う。
「強くなったな」
「……当たり前だ。あたしはクリアナギンだ」
真面目な顔で頷くスイ。その横顔はハイネの描いたものと瓜二つだった。