朝日が差し込む部屋に二人は寄り添って寝ていた。”すぅー、すぅー”と静かな寝息をたてている。
千雨の顔に日が当たり眩しそうに、手で日光を遮ろうとする。薄く目を開けて枕元にあるデジタル時計を見ると8:00を
映し出していた。
「んー、学校行かなきゃ・・・おい、起きろよ」
そういって、自分も眠くて堪らないが目を擦りながら背中を猫のように伸ばしてから隣に寝ている恋人を揺すり起こす。
「う・・・ん」
少し呻きながら、ザジも身体を起こすが部屋の明るさに慣れていないのか眉間を少し顰める。
ポケーっとしながらザジは互いに裸なのを見て昨夜のことを思い出した。
「(・・・腰痛い)」
手を腰に当てて自分で揉んでみると、中々気持ちがいい。すると、昨夜の行為のせいではないが”くぅ〜”
とお腹の虫が騒ぎ出す。
「なんだ腹減ったのか?言っておくが何もねぇぞ?」
「・・・」
心底残念そうにザジが溜め息をつくと、千雨は微妙に申し訳ない気分になる。ところが急にザジが顔を近づけてきた。
なんだ?と思いながら様子を見ていると――――――ちゅっ
「ゴチソウサマ♪」
「あ、ああ・・・」
お目覚めキスがザジの朝食の変わりになったのかは定かではないが、一瞬思考が止まったあと「遅刻だー!!」と千雨が叫びドタバタと
着替えてバタバタと部屋を出て行った・・・・もちろんザジも一緒だ。
階段をゆっくり上り、段差が終わって目の前に金属製の重いドアがある。ノブを回して力を入れて引くと、外から若干冷たいが春を感じさせる
柔らかな風が流れてきて・・・登校するときには気がつかなかったが・・・雲一つない青空が目の前に広がる。
「よいしょっと・・・あー、いい天気だ」
千雨は屋上で床に寝そべり、隣にはザジが壁を背にチョコンと座っている。
「・・・」
黙って、肩に止まっている小鳥を指に移し空に放す。暫しの間、放った小鳥の囀りだけが響く。
日差しがポカポカと暖かくて、ついつい眠りたくなってしまう。・・・ふと、千雨が口を開く。
「何考えてんだ?」
無表情のザジを見て、千雨はそういった。傍から見ればみれば何も考えていない人形のような表情に見える。だが、千雨には彼女が何を
考えているかまでは分からずとも「何かを考えている」ということは分かる。不思議なことに他の人がザジの表情を見てしても無表
情にしか見えないのだ。笑っても、泣いても、怒っても・・・他人には無表情にしか見えない。これも慣れなのか?そう思わされる。
「お前って変わってるよな」
そう言って少し含み笑いを浮かべると「あー、ねみぃ・・・少し寝るか」と瞼を閉じた。チラリとザジを見ると、自分の方を見て微笑していた。
また、静かになる。今度は鳥の鳴き声はも聞こえないが、グラウンドで体育の授業を始めたのだろうか・・・はしゃぎ声が屋上にまで響く。
「(ばかどもが・・・)」
などと心の中で呟いていると、段々と意識が薄れて何も考えられなくなり意識がシャットダウンされる。
いつの間にか手品の練習を始めていたザジの耳に横から「くー・・・くー・・・」と寝息が聞こえてくる。春とはいえまだ風が冷たい。
このままでは千雨が風をひくと思ったのか、自分のブレザーを上からかけた。
「おやすみ」
耳元で静かに言って、手品の練習に入った。