大停電の一件の後のとある週末――
戦いの傷もまだ完全には癒えていないネギは、件の時とはまた趣の違う重装備、平たく言えば山用装備で
杖に跨り、郊外の山奥 ―以前、逃げ出して迷い込んだ奥地― へと突き進んでいた。
「えーと、確か長瀬さんと一緒に「修行」した場所は確かこの辺だった筈…あ、テントがあった。この辺で降りるか。」
しゅたっ
「さて。とりあえずは着いた、と。まずは長瀬さんを探そ…うぐっ」
ぼふ
「拙者を探しているのでござるか?なら、真正面にいるでござるよ…。」
「(う……うぐ……息が出来ない……ま、まさか、これは……!!)」
ネギの目的であった 長瀬"バカブルー"楓 が、きょろきょろとしているネギの虚をついて、正面から胸に顔をうずめさせていた…。
そして、ネギの頭上では、楓が片目を少し開いて薄く微笑んでいた。
「ぷはぁあ!な、長瀬さん、何時から居たのですか!?」
「何時からも何も、ネギ坊主の姿が上空に見えたころからつけていたでござるよ♪」
「上空に見えていた…って、何でそれで驚かないので……あ、バレちゃった…ど、どうしよ」
「バレてるも何も、この前、その杖に乗って空を飛んで帰ったでござろう。拙者、偶然見てしまったでござる。
それに拙者、職業柄、口は固いからその事は誰にも公言しないから安心するでござる。あ…職業柄といっては、拙者の本性を言っているも同然でござるか。」
「やっぱり……ありがとうございます、長瀬さん。長瀬さんの秘密も誰にも言いませんから。」
「ふふっ……言うでござるなぁ、ネギ坊主。」
「あははは……!」
挨拶ついでの2人の秘密共有は何事も無かったようにつつがなく(笑)行われた。
「んー、ところで……今回は何ゆえ、このような山奥にまで足を運んだのでござるか?
この前と違って、なにやら嬉しそうだし、それにそのアルプス越えに行きそうな装備。何を考えているでござる?」
「あ、いや、その……特に深い考えはありませんよ。
この間は、壁にぶつかって、何もかもから逃げ出したくなって…
そしてここに迷いこんで、長瀬さんの一言に救われて…その障害は、何とか越えられました。
でも、まだ弱い所が残っていると思うので、もう一度、「修行」を通して自分を見つめなおそうかと思って、ここにやってきました。」
最初少し曇った表情を見せるも、憑き物のない朗らかな笑顔でネギは問いに答えた。
「そうでござるか……まぁ、ここでやる事はこの前と基本的には変わらないでござるよ。
そうと決まれば、早速出発でござる。要らぬ荷物はあそこのテントに置いていいから、焦らずにしっかり準備するでござる。」
「(早速って言ってるのに焦らずに、って…どっちなんですか(笑))は、はい!」
楓はいつもの(?)装備、ネギは杖と茶道具を携えて、お気楽(?)修行を始めたのであった……。