――2年前。
私が中等部に上がるのと前後して、大好きだった祖父はこの世を去りました。
あの制服をおじい様に披露して、間もなくのことです。急に倒れて、それっきりでした。
きっとおじい様は己の死期を直感してたのでしょうね。苦しまずに逝けたのはむしろ幸いだったでしょう。
しかし、取り残された当時の私には、そんなことを思う余裕もなく。
この世界の全てが、ひどくつまらないもののように感じられていたです。
この世界の全てが、味気ないものに感じられていたです。
いや、比喩でも何でもなく……本当に味気なかったのです。味が、無かったのです。
何を食べても、味が感じられない。何を飲んでも、味が感じられない。
おじい様の濃厚な精液の味――あれがフラッシュバックのように蘇り、現実の味を吹き飛ばしてしまう。
おじい様が生きていた頃は、別に美味しいとも思ってなかったのに。思い出したりもしなかったのに――
あの頃の私は、生きている実感が極めて希薄でした。
味覚に限らず、全ての「この世界のモノ」が遠く感じられて、まるで半分自分が死んでいるようで。
いやおそらく本当に死んでいたのでしょう。死んだおじい様に、魂を引き摺られていたのでしょう。
そんなこと、あの優しいおじい様は望んでいないと分かっていたはずなのに、です。
そんな時――図書館探検部の説明会に顔を出し、のどかたちに押し切られるようにして仮入部して。
頻繁に出入りすることになった図書館島で……私は出会ってしまったのです。
「抹茶コーラ……? 何ですか、コレは……?」
「うわー、信じられないわねー。この自販機、何か変なのしかないんじゃない?」
「まともな飲みモン、あらへんやんー。普通のコーラとかお茶とかないんー?」
一緒にジュースを買いに来ていたハルナやこのかが、今とあまり変わらぬ感想を口にする中で。
私も、最初に見た時は信じられなかったです。我が目を疑ったです。アホかと思ったです。
炭酸飲料を紙パックに入れるなです。コーラをストローで飲ませるなです。最悪の組み合わせです。
でも私は、怖いもの見たさとでも言うのでしょうか? 思わず手を伸ばして……
「変な味……。誰が飲むですか、こんなもの……。
――って……味?! 今、確かに味がしたですか――!?」
そう。それは、おじい様が亡くなってから、初めて明確に実感できた『味』でした。
思い出に縛られていた私の舌を、現実に引き戻してくれたインパクトのある味。
心因性の味覚障害に対する、一種のショック療法になったんですね。私は思わず微笑んで、呟いたです。
「……図書館探検部、正式に入部してもいいかも、ですね。
こんなジュースが、他にもここにあるのなら――!」
――それからです。変なジュースをわざわざ探してまでして飲むようになったのは。
その変な味、常識から大きくズレた味覚が、私がこの世界に生きていることを実感させてくれるのです――