この街には風変わりな人が住んでいる。郊外の森の奥に居を構え、滅多
に他人と関わろうとはしない。
住人もまた、変わっていて幼い少女と奇天烈な格好をした従者の二人だ。
家の主人は外見は10歳の少女程度にしか見えず、容貌はフランス人形
の様に人工的なもので、髪はブロンドで眼は碧眼。ぬいぐるみ作りが趣味
なのか家の中には多数の作品が散らばっている。
主人の世話をする従者は全身が機械でロボットとしか言いようがない。
そんな変わった二人がひっそりと暮らしている。
この家の主人が真剣に物事に打ち込むことは滅多にない。
正直言っては失礼かもしれないが、普段は無気力で家事や雑用は全て
従者に押しつける、従者はそれが仕事だから苦にしない。
こんな怠惰な主人も真剣になることもある。一つは自分達の生活を維
するためにやっている極稀に回ってくる仕事。
もう一つは海外のペンフレンドの返事を書くとき
「茶々丸、これからコレを郵便局に持っていってくれ」
主人が常に後ろについている従者に命を出す。徹夜で書き上げた手紙
の返事を届ける役目だ。そんなに急がなくてもいいのにと思うが、主人
にとっては生きがいであり大切な事なのだと理解することにした。
「ハイ、マスター」
茶々丸と呼ばれた従者は主人から厚手封筒と金を受け取った後に敬礼
をし部屋から退室する。
昨日の夜から主人はこの手紙を書くことに没頭していた。B5サイズ
の便箋2枚、書いては書き直し、気にいらないと破り捨てまた書いては
書き直すそんな繰り返しから生まれた心のこもった内容だ。
茶々丸は主人からは執筆中は『絶対に見るなよ』をきつく言われてい
るので中を拝見することはできないい。しかし、主人は執筆中はブツブ
ツ呟きながら書いているので、内容はだいたい把握している。
奉公先のログハウスを出て、歩いて15分ほどの郵便局に向かう
この命は何度もこなしているので送り先も料金も分かっている。
一応のこともあるので確認をする。宛先にミスは無いし、送料も問題
ない。少し料金が多いけどこれは猫に餌を施して来いという意味だろう。
茶々丸は主人の配慮に感謝しつつ出かけて行った。