そこに、底抜けに明るいベルの音が鳴る。
来客を告げる呼び鈴だ。
「マスター、私が行ってきます」
うちわを置いて玄関へ向かう茶々丸。
しかしエヴァの応えはなく、すでにぐったりとしてしまっていた。
ガチャ…。木のドアを開けて外を伺う。
「…あ、茶々丸さん。おはようございますー」
そこには、人懐っこい笑みを浮かべた担任教師、ネギ・スプリングフィールドがいた。
「あ──どうも先生。…何のご用でしょうか」
見下ろす茶々丸に、ネギは鞄に入れたプリントを見せた。
そこには『水不足のため本日夜8時より一時断水』とある。
「えーとですね。職員会議で夜の間の断水が決まったんです。
師匠の家までは放送が届かないと思ったので、伝えに来ました」
にこにこ、と笑いながら説明をするネギの姿を見て(動画に収めつつ)、茶々丸は訝しんだ。
服装はいつものスーツである。クールビズですらない。
その上にこの炎天下の中を延々と歩いてきたのだろうに、汗一つかいていないのである。
「あの、すいませんネギ先生。…暑くはないのですか?」
首を傾げて尋ねる茶々丸。
その視線を受けて、ネギの目が『よく聞いてくれました』といった感じに輝いた。
「《風盾(デフレクシオ)》を薄く張って熱気を遮断しているんですよー」
すごいでしょー、と少し胸を張って見せた。
その子供らしい可愛げな仕草に、茶々丸は微笑ましくなる。
そうして笑いあっているところに、家の奥からこの世のものとは思えない声が聞こえてきた。
断末魔とも聞き取れなくもない、苦しみに満ちた叫び。
「……っぼ……ぉ……やぁ…ぐぁあ……ぎ…でぇ……いぃ…る、のぉ…が、ぁ…」
「うわぁっ!?」
突如聞こえた声に、驚いてネギは玄関から飛びすさる。
対称的に、『あ、しまった』という顔の茶々丸。
「なっ、なんですかっ今の!?」
怯えるネギの手を掴むと、有無を言わせずに家の中へ引きずり込む。
「申し訳ありません、ネギ先生。マスターが大変です」
「ま、師匠(マスター)がっ!?」
血相を変えるネギ。
茶々丸と一緒にリビングに飛び込んで見たものは────
──いい感じにのべーっと倒れ込んで、暑さのあまり干からびかけの、エヴァンジェリンの姿だった。