「……脱げない……。ど、どうしよう……」
ぶるっ!!
「!?」
そうして途方に暮れかけたネギの全身を襲ったのは、悪寒。
膀胱が膨れる感覚と共に、尿意がぞくぞくと背筋を走る。
下半身にスパッツ一枚という姿でいたうえに、汗が身体をより冷やした。
結果、ネギを襲ったのは尿意。ここがトイレであることは幸運であったが、同時に不運でもあった。
何故なら、スパッツが脱げないのだから。
いくらここがトイレであったとしても、服を脱げないのであれば…おもらしするしか方法はない。
ネギは恐怖にがくがくと首を横に振る。
「や、いやだぁ……。僕、僕っ…、先生なのに、おもらしなんかっ……!」
嘆いてみても、スパッツが脱げてくれる様子はまるでない。
それどころか、尿意はどんどん切迫していく。
「っ……ぅぅ……!!」
歯を食いしばって尿意に耐えつつ四苦八苦する。
膝が砕けトイレの床にへたりこむと、タイルの冷たさが余計に背筋を震わせ、尿意を煽った。
「……も、もらしちゃうくらいなら……っ!」
ネギは、普段から身に付けるようになった魔法発動体の指輪をぎゅっと握り込んだ。
集束する魔力。光が淡くネギの拳に宿る。
「ラス……っ、ラス・テル・スキル、マギステル……!」
膀胱をじくじくと苛む痛みに耐えながら、呪文詠唱が進む。
(ケガしちゃうかもしれないけど……っ、おしっこ漏らしちゃうよりはマシだ…!)
そんな思いを秘めつつ、力ある言葉を締めくくった。
「魔法の射手(サギタ・マギカ)……、光の一矢(ウナ・ルークス)っ…!」
バシュウッ──!!
ネギの手から放たれた光の矢が、空中で弧を描くとまるでブーメランのようにネギへと戻り来る。
標的は無論、ネギのスパッツ。
股間を真っ直ぐ狙ったら大変なことになるので、それよりも少しだけ上を狙う。
腹筋に力を込めて、着弾を待つネギ。
程なくして、光は下腹部を過たずに直撃した──。
──……少しだけ時間は巻き戻り。
ネギを男子トイレに見送った高音は、入り口横の壁によりかかっていた。
中等部の前に待たせて来た愛衣に、先に帰っているようメールを打つ。
そうしてから、チラチラとトイレを心配そうに伺った。
その心配が、正に現実のものとなる。
トイレの中から明らかに魔法と思わしき光が漏れ出し、轟音が響く。
バシュゥッ──ドン……っ!!
「!?」
慌てて高音は壁から身を離し、振り向いた。
(今の光は――、間違いなく魔法……!!)
そして、着弾したと思わしき音が、くぐもっていたことを思い出す。
床や壁、天井に着弾したならば破壊音がしたはずである。
今この時間、職員用トイレ内にはネギしかいないはず。…であるならば。
(ネギ先生に、当たった……!?)
弾かれるように駆け出した高音は、職員用トイレへと駆け込む。
そこにあったのは、スラックスを下ろし下腹部を押さえて床に倒れうめくネギの姿であった。