身体中がガクガクと震えている。
寒くもないのに歯の根が合わない。
これほどに教室の真ん中までの距離が遠く感じたのは初めてだった。
3−Aの生徒たちは席について授業の開始を待っている。
否、開始を待っているのは授業ではない。
31人の生徒の視線を浴びて羞恥心に身を焦がす子供先生の姿を待っているのだ。
革靴を履いた足を、挫けそうになりながらも踏み出す。
白い靴下が、すね毛の一本も生えていないつるつるの脚にまぶしく映える。
張りのある、まるで小鹿のような少年特有の太腿。
──その半ばから上、ネギの下半身を包んでいたのは黒いスパッツ。
そこから上に身につけているものは、いつもの鼻で押さえるメガネと髪を束ねるゴムだけ。
毎日の特訓のおかげか、無駄な贅肉のない均整の取れた身体。
胸では、ピンク色した小粒の乳首がせいいっぱい自己主張していた。
要約するに、ネギは裸にスパッツ一枚。
そして「裸足は痛いだろう」という配慮のもとに靴下と靴だけは許されている、という出で立ちだった。
(……ひょっとしたら「ほぼ裸に足元だけフォーマル」というアブノーマルさに萌えを見出した誰かがいたのかもしれないが)
ネギがここに来るまでに着ていたスーツ一式は、
宮崎のどかによってきちんとたたまれ、相坂さよの机の上に置かれている。
触れられないのにやけに嬉しそうにしてるなぁ、とは隣席の朝倉和美(憑かれ中)の弁である。
ネギの姿が隠れてしまう、ということで教卓は教室の隅に追いやられてしまっていた。
写真をばらまくと脅されてしまったせいで、手で隠すことも許されない。
手に持った英語の教科書を強く握り締める。
身体の表面を汗が流れ、上半身をつたって──スパッツに吸い込まれていく。
葉加瀬聡美と超鈴音が作ったというそのスパッツは確かに伸縮性と吸着性に優れていた。
その上、ぴったりと張り付いて締めつけの快感を与えているにも関わらず、ペニスの動きを必要以上に邪魔するものではなく。
ネギの下半身の形をはっきりと浮き上がらせているだけではなく、その動きを如実に知らせているのであった。
「……んっ…、ぅ…」
歩くたびにスパッツの生地とペニスが擦れ合い、ぴくぴくと跳ねて場所を変えるペニス。
それは3−Aの生徒たちの目を楽しませる格好の材料となっていた。
「あっ、さっきまで左だったのに、今は右に寄ってるよぉー!」
「見られてどんどん大きくなってるやんー」
明石裕奈と亜子が歓声をあげてネギの痴態を指摘する。
亜子の声には、まだ膨張するネギのペニスへの心配がかいま見えた。――保健委員のサガか。
そんなひやかす言葉が耳に届くたび、脳の血管が千切れそうなほどにネギの頭が熱くなる。くらくらする。
羞恥を感じてかふるふると震えるおしりにも、その谷間に食い込むようにしてスパッツが張り付いていた。
「ふふー、なんか突っ込んで欲しそうなおしりだねー?」
「……ハルナ、その趣味はどうかと思うです」
「なによー、やったら皆絶対喜ぶわよー?」
ハルナの属性全開トークに、綾瀬夕映が頬を赤くしながらツッコミを入れた。
好奇と劣情の入り交じった視線が身を焼く。
幾度も脚が挫けそうになりながらも、ネギは教壇の中央に立った。