☆魔法先生ネギま!☆213時間目

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「直撃したけど弱いよ……。このかちゃんに貰った護符も一枚も減ってないし」
 円も呆れたような、いや、エヴァを哀れんでいるように見下ろして言った。
「な、なに……そんな……」
 エヴァは愕然として、魔法を放った自分の手を見る。
 亜子に噛まれて魔力を奪われ、更に学園の結界の中。
 しかし、敵にダメージも与えられないとは……。
「マスターから離れなさい。これは警告です」
 解除プログラムを動かしながらも、茶々丸が銃口を円に向けた。
「だってさ。どうするの? マスターさん」
 円は釘バットをマントに引っかけてエヴァを吊るし、茶々丸に向けて嗤った。
「あ、マスターさんはお腹が痛くて喋れないのかもね。手加減したんだけど」
 エヴァのボンテージは攻撃を受けた部分が破れ、内出血を起こしたお腹が晒されている。
 ボンテージ自体が魔法のアイテムで防御力もあるのだが、破られたようである。
 エヴァは手足をだらりと脱力させてぴくぴく震えながら、血が伝う口を動かした。
「いかん……茶々丸、お前は、ごほっ、結界の解除に全力を尽くせ……」
 茶々丸が結界解除を中断して戦闘に参加すれば、解除は間に合わずエヴァたちはループ結界に潰される。
 状況は絶望的だが、不幸な結末の分かっている選択肢だけは選べない。

 その時、放送設備を使って大音量で、学園の外部に柿崎美砂の歌が流れ始めた。
「美砂がネギ君捕獲を始めたね。何ていう曲だろ? あ、そうだ。面白い事考えた」

 ずむ!
「―――うぐっ! うぐ、あ、あああ゛ぁっ!」
 円はエヴァを床に落とすと、バットの先(釘はない)でその華奢な腹部を突いた。
 エヴァの小さい身体がくの字に曲がり、手で腹を押さえてブロンドの髪を振り乱す。
 胃の中身が逆流して口から漏れ、肺が機能しなくなり呼吸が止まった。苦しい。
「うあ、あ、ああ゛あ゛あ゛……あ゛、あ゛―――」
 口から血や唾液や胃液を垂れ流し、目から涙を零して苦痛にのたうちまわる姿は真祖などではなく、暴力に抵抗する手段を持たない脆弱な少女でしかない。
「まだまだこれからだよぉ。マスターさん?」 
「あっ……」
 バットを放した円がエヴァのブロンドの髪を掴み上げ、「ぐー」で顔を殴り始めた。
「あ゛っ、あうっ、あ゛うっ!」
 エヴァは手足をばたつかせて円を蹴ったり叩いたりしているが、円には効いていない。
 円の腕が動く度に鈍い音が響き、エヴァの身体は前後、または左右に軽く揺れた。
「マ、マスター! 」
 鼻から血が垂れ落ちて、殴られる度にエヴァの顔が歪む。
 茶々丸の前で、エヴァは血と涙を散らして綺麗な顔を腫らしていった。
「あ゛っ、はあ゛っ、ぁ……ああ゛っ!」
 円がエヴァを髪を引っ張り、ぶちぶちと千切れたブロンドの髪が手に残った。
「助けたかったらどうぞ、茶々丸さん」
 円が挑発するようにっこりと嗤う。
「結界解除なんて命令無視しても助けないと、マスターさん、死んじゃうかも。たいぶ障壁も弱くなってるし」
 茶々丸はエヴァの命令を守り、決して戦闘には参加してこない。
 円は確信して、嗤いながらそう言った。

 エヴァの腫れた美顔をぐりぐりと踏み躙りながら、円は釘バットの先をボンテージに覆われた乳房に置いた。
 成長を止めた幼い乳房を硬いバットで交互に突いて押し潰し、抉るように回転を加える。
 その姿は学ランの学生がフランス人形を壊しているような、かなり異様な光景である。
「あれー? 障壁消えた?」
 円はにたりと茶々丸の方を見て嗤うと、エヴァのマントを釘バットに絡めてびりびりと引き裂いた。
「マスター! 先程の命令を取り消し、攻撃命令を!」
「うぐ、う……」
「まだ障壁残ってるじゃん、しつこい!」
 股間を締めている黒いボンテージを観察していた円がエヴァの髪を掴んで立たせ、いきなり釘バットで股間を叩いた。
4名無しさんの次レスにご期待下さい:2007/09/01(土) 16:16:31 ID:KAmJwbiB0
 エヴァの細い足の付け根に、武骨なバットが食い込む。
「いやああ゛あ゛あ゛あ゛―――っ!」
 エヴァの顔が、まるで歳相応の少女のような泣き顔に変わった。
 ボンテージからバットが離れると、白い太ももに赤い筋が何本も伝い落ちた。
「あああ、ああああああ―――っ!」
「あーあ、障壁が消えちゃった」
 円が茶々丸にそう言うと、茶々丸は一瞬ぎしりと動こうとしたが、やはり止まる。
「ふふふふふ」
 股間を押さえて泣き叫ぶエヴァのボンテージを、円がびりびり破って剥ぎ取っていく。
 ボンテージの下の白い肌は内出血を起こして変色し、突起だけの膨らんでいない乳房も無惨に腫れあがっている。
 折れそうな細い手は脱力し、脚は血の筋が流れて汚れ、毛も生えていない小さな恥部は傷ついて血で赤く染まっていた。
 身体中を暴力でボロボロにされ、乳房も性器も蹂躙され、服を剥かれて晒しものにされる。
 体液を垂れ流した、あまりに無惨な姿。
 嬲られた小学生の肉体。
 真祖の威厳などどこにもない。

「どうしてあげよっかなー」
 エヴァの両足を掴んでY字型に持ち上げた円が、茶々丸に嗤いかける。
「これ、入るかな? 試してみよう」
 円はエヴァの片足を離し、そばに落ちていたモップを拾い上げる。
 そして片足を掴み上げた状態でモップの先を、暴れるエヴァの狭い膣に押し込み始めた。
「ぐあ、ああ……や、やめろお……あ、ああああっ!」
 モップを性器にねじ込まれたエヴァが悲鳴を上げる。
「く、貴様ぁ……こんな、あっ! あぐうぅっ!」
 膣にモップの柄を挿入した円は、奥まで到達したモップでごりごりとエヴァの膣内を嬲る。
「あ、あああっ! やあ、ああ゛っ! あああああああああああああ―――っ!」
「ふふふ、お人形遊びみたい。でも茶々丸さん冷たいねー。マスターさんが酷い目にあってるのに」

 股間からモップを生やしたエヴァの姿を見て、
 容赦ない暴行を全身に受け、腫らした顔と流れ落ちる血を見て、
 温かみの欠片もない硬い棒に性器を穿られ、嬲られる姿を見て、
 悲鳴を聞いて、泣き声を聞いて、苦しむ声を聞いて、
 結界が解除できれば3秒で仕留めてやる。
 円の行動シミュレーション137パターンを計算し、
 戦闘準備を整えて、
 今はまだ従者は主人の命令をただ守る。
5名無しさんの次レスにご期待下さい:2007/09/01(土) 16:17:13 ID:KAmJwbiB0
「このちゃん、こっちやよ。一人で早く、ウチのところに来てな―――」
 突然目の前に現れた「ちびせつな」に導かれ、木乃香はループ結界をオートにして、焦ったような顔で階段を駆け上がっていた。
「せ、せっちゃん、何があったんやろう……」
 「立入禁止」と書かれた壊れたドアを破ると、涼しい夜の風が木乃香の頬を撫ぜた。


 学園・屋上―――

「せっちゃん!」
 木乃香のオレンジ色の着物と、長い髪が風に靡く。
 桜咲刹那は屋上の中央で、一糸纏わずにしなやかな裸体を夜の闇に晒していた。
 片手には闇を映して鈍く輝く愛刀、もう片方には呪符の束が握られている。
「このちゃん」
 刹那が微笑んで木乃香を出迎える。
「せっちゃん……」

 二人が向かい合い、距離が縮まり、そして―――

 麻帆良学園の放送網―――スピーカーは学園の広域に及び、学園都市メンテナンス時の停電前の放送などに用いられている設備である。
 他人の心を歌で惑わし、操る美砂のアーティファクト『傾国のマイク』を使うならば、その設備を利用しない手はないだろう。
「さーて、ストレス解消もかねて、思いっきり歌っちゃうよぉ―――」

 円から「ネギ君逃走」との知らせを受けた柿崎美砂はパチッ、パチッ、と放送機材のスイッチをリズムよくONにしながら、カードを「♪」を逆さまにしたような形状のマイクに変え、大きく息を吸い込んだ。
「――――――――――――――――――――――――っ!!!!」

 ネギ君を捕まえて―――
 その願いが込められた美砂の歌声は、麻帆良学園を巨大なコンサート会場に変えながら響き渡り、学園を警備している奴隷化した生徒100人以上に、命令としてその鼓膜を震わせる……。

「危ないっ! や、止めてください―――っ!」
 大音量の歌が響き渡る中、ネギとカモが乗った杖はふらふらと低空飛行で学園の敷地内をさ迷っていた。
 歌声に操られた生徒たちはハルナが創りばら撒いた武器、魔法銃や弓矢などを空に向けて嵐の如き攻撃でネギを撃ち落そうとし、二重、三重の防衛ラインを成して逃亡を阻んでいる。
「兄貴、もっと速く、いや、高く飛んでくれっ! 矢が尻尾に刺さっちまう!!」
「今の力じゃ、これが精一杯だよぉ! え? う、うわああ―――っ!?」
 新手の追手が真上から現れる。その生徒たちはリュックサックのように背負える翼を装備し、ネギの杖に急降下してネギを羽交い締めにし、呪文を唱えられないよう口を塞いだ。
「ラス・テル・マ・ステむぐう! むぐぐ……む、むぅ――っ! ん、ん―――!?」
 杖はジグザグに飛びながら高度を下げ、まるで地獄に引きずり込まれていくように美砂の兵隊が群がる地上へと落下していく。
6名無しさんの次レスにご期待下さい:2007/09/01(土) 16:18:58 ID:KAmJwbiB0
 その時、ブツン! と美砂の歌声が突然止まった。

 生徒たちの動きには精彩がなくなり、ネギを羽交い締めにしていた手の力が緩む。地上の生徒たちも、目的を無くしたようにバラバラな行動をし始めていた。
「何か分かんねーけど、今がチャンスだ兄貴!」
「う、うん!」
 ネギは力を振り絞って杖を飛ばし、そのまま美砂の兵隊の包囲を破って逃げていった。


「あの生徒たちの翼、ハルナたちが飛ぶのに使ったのと同じモノ……。ふーむ、存在し得ないアイテムを創造し、それを量産する能力―――思ったより厄介でござるな」
 深く茂った樹の枝葉に隠れながら、黒装束の少女は穏やかな、しかし鋭い光を宿した目を開く。
「放送設備は使用禁止に設定したけど、それで良かったのか?」
 携帯から聞こえてくる女声に、黒装束は満足げに肯定の返事を返した。
 歌声が消えると、群がっていた生徒たちは統率を失って虚ろな目で徘徊し始めた。歌がなければ「怪しい者に遭遇すれば阻止せよ」程度の命令しか受けていないのだろうか?
 しゅた、と黒装束の少女が地上に降り立ち、そのまま統制を失った生徒たちに襲いかかる。
 矢や魔法銃が発射されるが命中しなかった。黒装束は闇の中で16人になり、生徒たちを幻惑しながら一人、また一人と敵の数を減らしていく。
 しかし、圧倒的な黒装束の少女の胸中では、ある思いが大きくなっていた。

 ――――身体が、あの時のように動かない

 黒装束の少女は以前、女子寮で吸血鬼になった事があった。
 身体はあの時の感覚を鮮明に覚えている。肉体は羽のように軽くなり、力は身体中に満ち溢れてコンクリも簡単に砕け、ヘリを易々と落とせたあの感覚を―――
 もっとも力は朝には失われてしまい、少女も最初はそれが良い事だと信じて疑わなかった。少女にとって力とは、修行を積み重ねて手に入れるものであり、魔法に頼るなどしてはならないという答えに至る。
 しかしあれから数日、木乃香たちの動きを探る過程で少女は、強力な魔法の力を見せつけられてしまった。
 人を操る力、心を読む力、創造する力……それらは普通に修行するだけでは到達できない場所にある力だった。
 きっかけは何か分からない。いざという時は双子などを守らなければならないので、力が欲しかったのか―――それとも単に、さらに強くなりたかったのか。
 ただ、まるでコインが回転するように、いつの間にか気持ちは裏返った。

 全滅した生徒がそこら中に転がっている。
 黒装束の少女はゆっくりと携帯を取り出すと、再び通話ボタンを押した。
「もう終ったのか? 早いな」
「千雨、お主に一つ問う」
「……え?」
「お主、魔法の力を欲しくないでござるか―――?」

 黒装束の少女はぞっとするような低い声で、携帯の向こうにそう伝えた。
 それは両者間で無意識の内にタブーになっていた問いかけだった。
7名無しさんの次レスにご期待下さい:2007/09/01(土) 16:19:28 ID:KAmJwbiB0
 黒装束の少女は何も答えずに、携帯の向こうで沈黙した仲間の返事をずっと待った。
 女子寮を救った少女たち。真相に最も近い少女たち。魔法に近づき過ぎた少女たち。そして、仲間を救おうとここに至った少女たち。
 魔力で操られた生徒たちは既に動かず、少女たちは何も言わない。
 ただ闇は静寂を好むのだろうか、色濃い闇がさらに深く黒装束を包んでいく。
 そして、返事は―――


「ひう……ふうう…ふうう…ふう……」
 占い研究会の部室は、喉を震わせたエヴァの呼吸音が聞こえるほど静かになった
 エヴァを床に倒しての平らな胸を踏み付け、弱々しく開かれた脚の間から生えているモップで、幼い少女と違わない淡い色の性器をごりごり抉っていた円は、訝しげに眉を寄せた。
「美砂の歌が止まった? もうネギ君を捕まえたのかな……でも、ちょっと早過ぎる……」
「ふううぅ……痛い…痛い…抜いて、くれ……」
「うるさいなあ。そんなに痛いなら、気持ち良くしてあげる」
 円はモップをエヴァから抜くと、ネギが監禁されていた檻から尿のような黄色い液体が入ったフラスコを拾ってきてエヴァの顔に近づけて、ゆっくりと振って見せた。黄色い液体に泡が混じる。
「これが何か分かる?」
「………性交に用いる初歩的な魔法薬……媚薬だな。驚いた。ジジイの孫はもう、魔法薬の調合までできるようになったのか……」
 円はにっこりと嗤ってフラスコのゴム栓を外し、手で扇ぐように香りを嗅いだ。
「正解ぃ。ネギ君はこの薬少しで勃起が治まらなくなって、一日中本屋ちゃんと檻の中でセックスしてたんだよ。じゃあさ、これ全部飲んだらどうなるんだろね?」
「な、に………まさか貴様、それを私に………バカな真似は止めろっ! 魔法薬の素人が! うぐう!」
 円の片方の手が、エヴァの無惨に腫れた人形のような顔に伸びて顎を掴んで口をこじ開け、もう片方に持ったフラスコをエヴァの、血で汚れた小さな口にねじ込んでいった。
「マスター!」
「んん―――っ!」
 従者の茶々丸の見ている前で、エヴァの目から何度目か分からない涙が零れ落ちる。エヴァの口に押し込まれた出口から泡だった黄色い液体が口内に充満し、嗚咽する狭い喉を流れ落ちていく。
 口から垂れ落ちた黄色い涎は内出血で蒼くなった乳房にぼたぼた滴り、淡い色の突起や肌を黄色く汚しながら凹凸の少ない身体のラインを伝い落ち、咽るような臭気が場に立ち込めた。
「ゔゔゔ――――――――――――――――――――――っ!」
 西洋の人形のような体躯をガタガタ震わせて手足をばたつかせ、用量を大量オーバーしている媚薬を注ぎ込まれるエヴァが痙攣するように悶え始めた
 胃に流れ込んだ媚薬が吸収され、皮膚を伝った媚薬が肌に染み込んでくる。外と内から溶け込んだ過剰な媚薬は瞬く間に効果を発揮し、少女の幼い身体を溶鉱炉のように熱くさせる。
 エヴァの身体の至る部分から汗が噴き出してきた。おでこや首筋、乳房や背中、脇の下や膝の裏、そして股間や尻の割れ目の間から、水滴がみるみる溢れ出して滝のように伝い落ちる。
8名無しさんの次レスにご期待下さい:2007/09/01(土) 16:20:02 ID:KAmJwbiB0
「ゔあ゙っ、あ゙あ゙ぁ――――――――身体がぁ――――――っ!」
 口から涎を垂らし、目から涙を垂らし、頬を紅く染めながらエヴァが叫んだ。未成熟な胸は相変わらずだったが、淡い色の突起がピンと張り詰めてその存在感をアピールしていた。
「マスター! しっかりしてください!」
 従者の呼びかけは耳に届かなかった。乳房がドロドロした欲の塊に変わる。恥部からは血を洗い流すように愛液が染みだして濡れていき、男根に飢えたむず痒い悲鳴を上げてエヴァを苛ませる。
 全身が敏感になり、神経が研ぎ澄まされて性感に繋がっていく。狂っていく身体をどうする事もできないままエヴァはガクリと膝を折って床に崩れ落ち、自らの火照った身体を自分で抱き締めて悲鳴を上げた。
 しかし、焦点が狂いかけた目はまだ光を失っておらず、焼き尽くされようとする理性の最後の抵抗を思わせる。その必死な瞳が円の嗜虐心を増幅させた。
 円は陥落寸前のエヴァに跨って手首を縛って平らな胸を捏ねまわし、勃起した乳首を爪先でこりこりと弄んで反応を愉しんだ。
「はひぃ、ひっ、ひいぃ……や、めてぇ、頭、、変になる……ひっ……ひいい……」
 理性で我慢できる快楽の限界は超えていた。100年を超える時を生きていた闇の女王が、20年も生きていない少女に乳首を弄ばれるだけで無様な牝の声を上げ、股間を更に濡らしていく。
「んじゃあ、トドメをさしてあげる。ループ空間もだいぶ狭くなって時間もないし。これで最後、押し潰される前に……」
 円はポケットからペニスバンドを取り出してエヴァに見せる。ただしそれはベルトに本物の生々しい男根を接着したような不気味な代物だったが、エヴァはそれを見て歓声に近い悲鳴を上げた。
「これはねー、ハルナちゃんがアーティファクトで作った玩具なんだけど、実は射精とかできたりする優れもの。みんなに試供品として配られてるの」
「ふうぅ―――ふうぅ―――ふうぅ―――ふうぅ―――」
 エヴァの顔に屈辱と渇望、期待と恐怖が入り乱れる。そのペニスバンドは長さ・太さ共に怪物級であり、エヴァのサイズに合っているとは言い難かったが、エヴァは股間の疼きを押さえられない。
 円はエヴァの顔を見て征服欲を刺激されたのか、立ち上がるとカチャカチャと学ランのベルトを外しズボンを緩め、淡いブルーの下着を下げる。そこには赤黒く充血した巨根が堂々と聳え立っていた。
「手間取らせないよ。最初から装着してるし」
「はひ、ひいぃ―――っ!」
 突然の事に思わず後退するエヴァ。しかし円はエヴァを脚を掴むと、そのまま自分の身体をエヴァの脚の間に滑り込ませた。そしてエヴァの飢えた股間に特大の餌を押し込む。

「う、ぁ………!?」
「くふふふふ」
 オモチャにされたエヴァの性器に、敵対する関係にある者が結合する。
 膣を押し広げて突き進んでくる巨根を、欲情したエヴァの肉体はしっかりと受けとめていた。体内に突き入れられた肉の棒が前後し子宮を小突くたびに、押し寄せてくる快楽の波に翻弄される。
「あ゙あ゙っ! ああっ! あっ! あっ!」
 エヴァは惚けたような顔で身体を揺らしながら、外見に似合わない艶のある声を上げた。縛られた手がバタバタ暴れ、噴き出た汗でべとべとした肉体が淫靡に震えた。
「へえ、いい声で鳴くじゃん」
「はああ、はあ、はあ、も、もっと……」
 円が微かに頬を赤くしてエヴァを見、薄っすらと嗤う。
「もっと激しくしてあげる」
 エヴァの反応を見て気をよくした円が、ペースを速めてエヴァの幼い身体を犯していく。動きに合わせてエヴァは、悲鳴と悦びが混ざったような声を断続的に上げてそれに応えた。
「あっ、あっあっあっあっ、はあ、ああ、あっあ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ―――」
 男根の破壊力にエヴァの理性が吹き飛んでいく。ピストンの度に思考は真っ白になり、ただ快楽で満たされていった。
9名無しさんの次レスにご期待下さい:2007/09/01(土) 16:21:13 ID:KAmJwbiB0
(サウザンド・マスター………お前とこのように交わりたかった―――)

 崩れ去る寸前のエヴァの意識が、わずかに震える。

 あの男。
 もう会えない。話せない。いっしょにいる喜びも、安心感も、あの胸が高鳴る想いも、もう二度と戻ってこない。
 帰ってきてくれるって、言ったのに。

 どれだけ絶望したか。その当時は毎晩のように枕を涙で濡らしていた。
 何が残った……? 何も残らなかった!
 どうして、どうして私を置いて死んでしまったのだ―――
 帰ってきてくれるって言ったのに!
 帰ってきてくれるって言ったのに…
 帰って………
 …

 うそつき…。

 こんな小娘に弄ばれて、結界に押し潰されて死ぬのか……
 まあ、それもいい。
 向こうで奴に会えるかもしれん。
 どうせ行く先は同じ、地獄だろうし……

 心残りは、和泉亜子の事だ。
 人間に戻れない吸血鬼を作ってしまった。
 真祖の魔力を奪い取りながら、自ら吸血鬼になった真祖とは対極の存在。
 もし亜子が生きていたら、必ずこいつらとぶつかるだろう。
 守ろうとするモノを壊そうとするこいつらと。
 近衛木乃香は、私が仕掛けた桜咲刹那の罠にかかって弱体化するはず。
 ジジイの孫は一筋縄ではいかんだろうから、できればここで仕留めてやりたかったが……無理か。

 まあ、もういい。
 私は、もうすぐお前のところへ行くぞ。
 サウザンドマスター………

 快楽に喘ぐエヴァの目から、一筋の涙が流れ落ちていった。
 占い研の部室に水音が響き、窓からの月明かりが交わる二人のシルエットを壁に映し出す。
10名無しさんの次レスにご期待下さい:2007/09/01(土) 16:21:47 ID:KAmJwbiB0
 茶々丸は何も言わず、泣くエヴァの姿を眺めながら、最早無駄な抵抗に近い結界解除作業を続けていた。従者のすぐ前で主人は淫らな声を上げて絶頂に向っていく。
「は、ああぁ………!」
 絶頂に達したエヴァの肉体がビクン! と震えた。その顔に真祖の面影は一片もなく、ただ性的な欲望に満たされた幸せな、そして哀れな少女の微笑みがそこにあった。
 巨根が限界に達し、エヴァの蜜壷にどくどくと大量の精液を注ぎ込んだ。エヴァは抵抗もすることなく、まるで締めているようにその行為が終わるのを待っていた。
「な、なんか調子狂うなー」
 円は逆に興醒めしたようで、エヴァをぽい、と乱暴に茶々丸の方に投げた。茶々丸はそれを受けとめるとハンカチを出してエヴァの股間を拭き、そして懐から試験管を出してエヴァに飲ませる。
「………うう」
 解毒作用がある薬のようで、エヴァの理性が少しづつ戻り始める。それを確認すると茶々丸は、その事に関しては何も言わずに陵辱された主人の脇に控える。
「忠実だねー。茶々丸さん」
 嗤う円が立っている場所を、ループ結界の境界線が透り抜けていく。
 エヴァと茶々丸を中心にしたループ結界の球が、どんどん縮んで小さくなっていく。。
 結界の半径は3メートルを切った。
 エヴァは何も言わずに立ちあがる。
 結界が縮む。
 2メートルを切った。
「ぷはははははは、お別れだね。エヴァちゃん。茶々丸さん」
 円が歪んだ笑みを浮かべる。
「これから邪魔する全ての者は奴隷にされる。麻帆良は木乃香ちゃんと桜咲さんのモノになる―――」
 半径は茶々丸の身長より小さくなった。結界の中でしゃがむ茶々丸。
 エヴァと茶々丸は身を寄せ合い、押し潰されるのを待つだけになった。
「茶々丸。頼む」
 エヴァが静かに言った。
 茶々丸は無言で、持っていた銃をエヴァの頭に向ける。
「わお」
 円が目を丸くして、見届けようと少し前に出る。
 と、その時、それは起こった―――

「あ」「む?」
 茶々丸とエヴァは同時に声を上げた。それとほぼ同時に廊下の方からバタバタと、複数の足音が聞こえてきた。
「円! やばい! ネギ君に完全に逃げられた! 外にいる連中はなぜか応答もしないし、放送室は使えないし、木乃香ちゃんもどこにもいない!」
 美砂が焦ったような声を上げながら、片手にマイクを持って数人の兵隊と占い研に入ってきた。
「マジでやばいよ! 何か言い訳考えとかないと、本屋ちゃんが「アレ」を使ったら、私たち手も足も出ないまま何されるか分から―――」
 アレと称されるもの―――ハルナがのどかの為にアーティファクトで創った強大な「武器」、美砂と円が二人がかりで挑んでも勝ち目は薄い反則技。
 しかし美砂の思考はすぐに止まってしまった。目の前の光景の意味が分からないからだ。
11名無しさんの次レスにご期待下さい:2007/09/01(土) 16:22:51 ID:KAmJwbiB0
「………え? あれ……?」
 円も呆然として、ループ結界を易々と解除して立っているエヴァと茶々丸を見ている。
「どうやら、学園の結界が切られました」
「うむ、そのようだ……何かのトラブルか? まあいい」
 エヴァはばさりと蝙蝠で編んだマントを纏って裸体を隠し、どこか残念そうに「ふふふ」と笑った。
 結界の消失―――
 エヴァの魔力を極限まで押さえている結界、それが消えた。
 和泉亜子に大半を奪われて、残り僅かな魔力。それは普通の魔法使いレベルの力しかないが、しかし、結界がなくなった事でその力を存分に使える状態になったのである。

「え、えぇ!? なんで?」
 訳も分からないまま、エヴァと茶々丸に気圧された円がバットを構える。
「ふう、やれやれ、私としたことが…危うく向こうに行っても奴にバカにされるところだった……」
 目を軽く拭いながらエヴァは言った。
「とりあえず、和泉亜子のために貴様らは排除しておこう―――」
 茶々丸が銃口を、エヴァが片手を円と美砂に向ける。何かを叫ぼうとした美砂と円の声を、爆発音が吹き飛ばした。
 噴煙が晴れるとそこには円、美砂、そして美砂の兵隊たちが意識を失って転がっている。全員が完全に失神しており、円の学ランは胸の辺りが消失して乳房が見えている。
「………全員意識を失いましたが、数時間で目を覚ますかと思われます」
「よし、それまでに決着をつける―――では行くか、ジジイの孫のところに」
 マントを翻したエヴァの後に、巨大な銃を持った茶々丸が続く。
「ところで、今の状態の私とジジイの孫、どちらが強い?」
「おそらく木乃香さんがまだ勝っているかと。彼女がどのくらい消耗しているかにもよりますが」
「………そうか、まあいい」
 壊滅した占い研から、二つの影がゆっくりと消えていった。


 学園の傍の木に立った黒装束の少女は、煙を上げる占い研部室を細い目で眺めていた。
「おいおい、本当に良かったのか? 学園の結界を切っちまって」
「まあ上出来でござる」
 近衛家から収集した情報の中には「エヴァは女子供は殺さない」というものがあった。黒装束の少女はそれが正しかった事に安堵しながら、次の策を練る。
「さて、従者は片付いたが、問題は誰から仮契約の方法を聞き出すかでござるな」

 黒装束は頭を掻いて苦笑し、携帯の相手と話している。
「しまった、あの時ネギ坊主を捕まえて聞き出すべきでござった……」
「おいおい、本当に仮契約の仕方をゲットできるのかよ……。 ま、後でガキや刹那に聞けば済む気もするが」
「いや、事件が解決してからでは、それは逆に危ない。下手すれば拙者たちが危険因子と見なされかねない。できれば、状況が混乱しているうちに何とか―――」
「そこらへんは長瀬に任せるよ。ああ、そうだなー、≪魔法少女アイドルちう≫かぁ……なかなかいいな。ま、まあ、女子寮を守ったのは私たちだし、それぐらいは、なあ?」
「そうでござるよ。魔法の力を安全に、そして有効に利用できるのは―――」
「その危険性を知り、そして撃退した経験もあり、知識もある私たちだけだ。クラスの能天気な連中じゃ、こんな力は使いこなせんよ。そう、私たちだけ……」
 深い闇の中で、携帯電話の向こうの少女と黒装束の少女は声を殺して嗤う。
「とりあえずは観戦でござる。≪近衛の姫≫と≪闇の福音≫―――お互い全力を出し合って戦い、そして潰し合わせる」
「そして最後に勝つのは私たちだ。ふふ、ふふふ――――」

 黒装束の少女は立っていた木の枝を軽く蹴り、そのまま跳躍して闇に消えた………。
12名無しさんの次レスにご期待下さい:2007/09/01(土) 16:23:48 ID:KAmJwbiB0
 今、麻帆良学園を襲っている現象は、近づく者や関わる者を否応無しに巻き込み、拡大する混迷の渦である。その忌々しい渦を生んだのは真祖と呼ばれる吸血鬼の少女だった。
 その渦巻きに最悪の形で巻き込まれたのが、吸血鬼に変質し戻れなくなった一人の少女であるならば、以下に挙げる二人はさながら渦巻きに呑まれず、台風でいう目の位置に立っていたと言えるだろう。

 一人は見習い剣士、名は桜咲刹那。
 古都京都に本拠地を持った掛値なしの戦闘集団「神鳴流」の一員。魔法剣士。気を込めた剣は一振りで岩を砕いて魔を切り裂き、跳べばワイヤーアクションのように壁を越えるその能力は、常人を遥かに凌駕している。
 肌は白く端整な顔、目は刃物のように鋭い。背は小さいが四肢は鍛えられ引き締まっている。肉体はまだ熟れてはいないものの、硝子のような強さと脆さを内包した美しさに、男たちは思わず足を止めるだろう。

 もう一人は何も知らされずに育てられた才能、名は近衛木乃香。
 祖父は関東魔法協会の長、父は関西呪術協会の長。日本魔法界の中核「近衛家」、その血に秘められた強大な魔力を受け継ぐ令嬢である。その才能は関東を滅ぼせるとさえ謳われており、千の呪文の男をも超える。
 おっとりとした性格の大和撫子であり、長い黒髪が美しい。幼さが残る美顔からこぼれる笑みはホットケーキのように場を和ませる不思議な雰囲気を放っており、これも一種の彼女の才能だろう。

 二人は最初、お互いに大切な友達だった。立場も、家も、身分も関係ない、純白のティッシュペーパーのような関係である。しかしすぐに友達は護衛に変わり、また友達はお嬢様に変わっていった。
 時間は溝に、絆は闇に、願いは影に、想いは力に、
 欲は暴力に、愛は鎖に、自責は罪に、夢は現実に、
 近衛の姫は吸血鬼に、護衛の剣士は生きる傀儡に、
 変わりゆく全てを受け入れながら進む二人に、そして今―――

 学園・屋上―――

「せっちゃん」
「このちゃん」
 周囲に満ちていた夜の闇は二人の会話に反応するようにざわめきだし、煽るような強い風をどこからともなく運んできた。木乃香の長い髪とオレンジの着物が、風に流されてゆらゆらと靡く。
 母のお腹から産まれたままの姿の刹那は、片手に刀を、片手に呪符の束を持ち、冷たいコンクリートの上をひたひたと歩いて木乃香の方に近づいていく。その肉体には薔薇のような香りが纏わり付いていた。
 風に乗って漂ってきたその香りをくんくん、と嗅ぎながら、木乃香は眉を少し寄せた。
(この香りは………魔法薬?)
 刹那はそのまま木乃香の前で、目を愛らしく細めて頬を朱に染めながら「えへへ」と無邪気に微笑んでみせた。木乃香もそれに応えるように華のような笑みを浮かべる。
 刹那は嬉しそうに刀を前に翳して、刃に刹那と木乃香を歪めて映しながらまた「えへへ」と嗤う。
 しかし、女子寮で誘拐しようと時と同様、今の状態の木乃香には刀は通用しない。
 木乃香の纏うオレンジの着物がざわりと、風に逆らうように波打って動いた。
 しかし刹那はそのまま刃を水平に構えて、
 一気に突き、そして抜けた。
「え……」
 木乃香の思考が数秒停止した。
 木乃香の前で、背中から刃を生やした刹那は反動で回転しながら、しかし微笑みながら刀を握る手に力を込めて、そのまま刀を引き抜いた。
「えへへ…ごほっ!」
 刹那の口から、そして身体から流れ出す液体がぽたぽたと屋上のコンクリに染みていく。べっとりと濡れた刀が刹那の手から滑り落ち、からん、と乾いた音を立てて転がっていった。
13名無しさんの次レスにご期待下さい:2007/09/01(土) 16:24:22 ID:KAmJwbiB0
「あ、あ……?」
 よろよろと木乃香が刹那に近づいていく。まだ思考は正常に戻っていない。刹那はそんな木乃香に、やはりにっこりと微笑みながらどろりと口から液体を垂れ流し、そして倒れた。
「き…きゃああああああああああああ――――――! せっちゃん!」
 木乃香が刹那に慌てて駆け寄る。素人目から見ても、刹那の傷は決して浅くない。早く回復魔法をかけなくては命に関わりかねない。
 木乃香は倒れた刹那の傷に手を置き、回復魔法を唱え始める。溢れる液体で指や爪がべたべたになったが気にしてはいられない。
 しかし刹那は突然目を開くと、刀を握っていた手で木乃香の手を掴み、もう片方に握っていた呪符を全て発動させた状態で木乃香の身体の、胸の辺りに押し付けた。
「きゃっ!? せ、せっちゃん、何するん?」
 木乃香の障壁と刹那の呪符がバチバチと反発し火花を散らした。どうやら呪符は攻撃用の代物らしい。それと連動して刹那の身体にも負荷がかかるのか、傷が広がりプシャ! と液体が勢いよく吹いた。
「せ、せっちゃん………」
 木乃香を捕えた刹那は蒼白な顔で、「えへへ」と邪気のない笑みを浮かべた。

 エヴァのかけた暗示、それはつまり、そうする事だった。
 木乃香を確実に追い詰めるための、トラップ。

 せっちゃんの傷がこれ以上広がると、手遅れになる。
 罠だろうが関係ない。
 せっちゃんが一番大切なのだから。
 せっちゃんの護衛はもう要らないと言い切ったのだから、自分は強くなったと言い切ったのだから。
 ウチがせっちゃんを守ると言い切ったのだから―――

 木乃香は躊躇いなく自分を守っている障壁を解除した。オレンジの着物は消えてなくなり、木乃香は刹那と同じく産まれたままの姿になった。
「きゃあああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙―――――――っ!」
 反発は収まり刹那の傷が広がるのは止まったが、呪符から流れ込んでくる電撃のようなものが、無防備になった木乃香の身体を貫いた。身体が砕け、精神が焼き切れるかと思うほどの激痛が木乃香を襲う。
 髪を振り乱して泣き叫ぶ木乃香の腕を、刹那はしっかりと掴んで離さない。呪符を押し付けられた木乃香の胸は乳房が真っ赤に腫れ上がり、刺激で乳首が立ってぷるぷる震えている。
「いやあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ―――、せ、せっちゃ……ん―――、い、今あ、治して…あ゙あ゛あ゛っあげる、がらぁ、も、も゛う少し、だけぇ、あ゛あ゛あ゛あ゛っ! あ゛あ゛あ゛あ゛っ! がんばってな、ぁ……」
 激痛で集中できず、回復呪文の光はネオンのように点滅して上手く治療できない。
「うん、ウチがんばるね。ゴホッ、ゴホッ、だからこのちゃんもがんばってな」
 刹那は蒼い顔で口を赤く染めながらにっこりと嗤って、そう答えた。
14名無しさんの次レスにご期待下さい:2007/09/01(土) 16:25:04 ID:KAmJwbiB0
「果たして木乃香さんはどの程度消耗しているでしょうか?」
「枯れ果ててくれていると楽だがな」
 濃厚な闇の気配が辺りに満ち満ち、その中からぬるりと人影が屋上に現れる。
 生きた蝙蝠で編まれた漆黒のマントを纏うブロンドの少女と、巨大な銃を装備したメイド服のロボット―――従者二人を退けて「主人」の元に辿り着いたエヴァンジェリンと茶々丸である。
 二人の前では一糸纏わぬ姿の刹那と木乃香が絡み合うように抱き合い、冷たいコンクリに転がっていた。周囲にはどす黒い染みが飛び散り、少し離れた場所には汚れた刀が転がっている。
「せ、っちゃん……」
 ゆらりと立ちあがった木乃香が、闇にその身体を預けるような無防備な姿でぽつりと呟いた。刹那は安らかな顔で眠っており、微かに上下する乳房が呼吸をしている事を示している。
「ごめんな…ひくっ、ひっく、こんな辛い目に遭わせてもうて……油断しとったなんて、言い訳にはならへんよね……ごめん。ほんまにごめん……」
 ぼろぼろと零れ落ちる涙は、広がったドス黒い染みに吸い込まれるように消えていく。木乃香の乳房は真っ赤に腫れあがり、腹部は刹那から溢れた液でべとべとに汚れ、憔悴した顔は目だけがぎらぎら輝いている。
「あんたらか、せっちゃんに、変なことをしたんは」
 木乃香の首がぎこちなく回り、エヴァと茶々丸を無表情で見た。長い髪がふわりと舞い上がる。

「ちっ、まだ力は有り余っているようだな―――茶々丸!」
「攻撃開始します」

「氷の精霊17頭。集い来たりて敵を切り裂け。『魔法の射手・連弾・氷の17矢』―――!」
 エヴァの周囲で、闇から生じた氷が魔力で矢へと変わっていく。同時に茶々丸がチャージしていた銃から閃光を発射した。荒れ狂う魔法の矢と眩い光線が木乃香のいる場所で炸裂する。
 轟音と共にぱらぱらと氷の欠片が飛び散り、闇に白い雪の結晶が舞い落ちる。
「因果なものだ。ジジイは産まれてくるお前を将来守るために、わざわざ学園の警備員を探していたというのに、今ここで、その警備員がお前と戦っているとはな」
 爆発の余韻の霧が朦朦と立ち込める、その向こうから伝わってくるのは圧倒的な敵意。
「この麻帆良という巨大な揺り篭を与えられた貴様が今、自らの手で麻帆良を壊そうとしている。色恋に狂うなとは言わんが、反抗期もほどほどにしておくことだ」
「……魔力値が急上昇しています」
 エヴァの横で、茶々丸が無感動に報告した。霧の向こうからびりびりと伝わってくるプレッシャーは、どうやら気のせいではないらしい。
「ふん、これが一週間前には私の力を借りなければ何もできなかった小娘の力か。これが近衛の血を受け継ぎ、その力あれば関東を討てると言われた近衛の姫か―――面白い!」
 ぼん! と霧を吹き飛ばし現れたのは、美しい、姫と呼んでなんら遜色ない綺麗な少女だった。オレンジの着物を身に纏い、バチバチと周囲に青い放電現象を起こしながら身体は数センチ浮かんでいる。
 星明りしかない闇の中でも、着物はまるで輝いているように鮮やかなオレンジ色だった。生地は生物のようにばたばたと波打ち、木乃香の身体を覆っている。

「マスター、あの着物は」
「ふむ、身に纏うタイプの『護鬼』だな。ループ結界といいパートナーといい、どうやらジジイの孫は西洋魔術と陰陽術の両方を使えるらしい」
「オンアクヴァイラウンキャシャラクマンヴァン!」
「―――っ!」
 漆黒の翼を広げたエヴァと、ジェット噴射の茶々丸が上空に舞い上がる。衝撃波が屋上の表面をバリバリと削り取りながら通過したのはその直後だった。設置されていた避雷針が折れて飛んでいく。
「ふっふっふ。近衛木乃香よ。桜咲刹那の唇は柔らかいな!」
 上空のエヴァの言葉に、木乃香がぴくりと反応する。
「マスター?」
 茶々丸を無視して、エヴァは木乃香に叫ぶ。
「ああ、弄んでやったよ。無理矢理薬を飲ませてからも、ずっと泣いてお前の名を呼んでいたよ。助けてー、このちゃん助けてー、ってな。まあ、指を挿れてやったら大人しくなったが、くくく」
 木乃香の髪が、ざわざわと動いて逆立ち始める。間違えても風のせいではないだろう。
15名無しさんの次レスにご期待下さい:2007/09/01(土) 16:25:44 ID:KAmJwbiB0
「ついでに流れた血を少し舐めてみたが……血は不味かったな」
「せっちゃんの、血を……? ウチがずっと飲むのを我慢していたのに……?」
 呆然とする木乃香が、すやすやと眠る刹那を見る。
「マスター、なぜそのような嘘を」
「少し怒らせて魔法を乱発させる。もう少し消耗させないと今の状態では勝負になら―――」
 小声で会話するエヴァと茶々丸。その時、屋上は猛烈な光に包まれて闇を照らした。

「光の精霊173柱。集い来たりて敵を射て。『魔法の射手・連弾・173矢』―――」
「何―――っ!?」
 屋上から発射された魔法は、まるで光のシャワーが夜空に降り注いでいるような幻想的な光景を作りながら、麻帆良学園上空の闇を一気に塗り潰した。
「くっ、この化物めっ! くだらん呪文をどこで覚えた?」
「マスターの狙い通りですね。木乃香さんはキレたようです」
「ええい、うるさいっ! とにかくこちらは力を温存せねばならん。防ぐのは必要最低限に止めろっ!」
 確かにエヴァと茶々丸に直接飛んでくるのは数十矢で、残りの矢は魔力の無駄な消費として夜空に消えていく。ホーミング弾でなかったのが幸いである。しかし……。
「こ、これは……ちょっと待てっ!」
 光の矢の大群に混じって数メートルはある巨大な光の玉や、目に見えない衝撃波が連射される。
 最初は凌いでいたエヴァたちだったが、シューティングゲームのふざけたボスキャラのような猛攻を仕掛けてくる木乃香に、だんだん逃げまわるだけになってくる。
「たまらん! 茶々丸、少し反撃しろ!」
「了解!」
 怒涛の勢いで魔法を乱射する屋上の木乃香に、上空から氷の矢と閃光が降り注いだ。しかし、木乃香の着物は攻撃を完全に遮断しており、魔法を発射するペースは衰えない。
 上昇する魔法と、降り注ぐ魔法の軌跡が空間で交差し爆発する。衝撃が伝わり学園が震え、窓ガラスが粉々に割れて滝のように学園校舎の壁を流れ落ちた。
 夜空をまるで昼のように明るくしながら、遠距離による魔法の撃ち合いが続く。
「マスター、このままではこちらが押し切られます!」
「ふうむ……いや、そんなことはないぞ。茶々丸よ、もう少し凌げ。攻めるのはそれからだ」
 エヴァが下降し、そのまま学園校舎の中に飛び込み見えなくなる。屋上から校舎の内部を狙うのは難しい。木乃香が魔法を発射しながら軽く舌打ちをした。

「ふーむ、これは使えるでござるかな……?」
 「♪」を逆にしたようなマイクを片手に、黒装束の少女は首を傾げた。
 壊滅した占い研の部室には「うーん、うーん」と呻いている円と美砂、そしてその兵隊が転がっている。
「おい、どうだ? 私でも使えそうか? 柿崎のマイク!」
「うーむ、とりあえず試しに拙者が一曲披露したいところでござるが、聞かせる相手がいないでござる……」
「まあ保留だな」
 携帯で会話しながら、黒装束の少女は部屋を調べている。
「んー。隣の部屋は何でござるかな?」
 黒装束の少女はそのまま隣の部屋に移動する。その部屋はハルナが使っていたはずだった。
「………」
 黒装束の少女は警戒しながら歩を進める。部屋には沢山の本が積まれていた。奥にある机には、漫画家が使うトレース台やカッター、インクやトーンが散乱している。
16名無しさんの次レスにご期待下さい:2007/09/01(土) 16:26:43 ID:KAmJwbiB0
 積まれた本は最新兵器の図鑑、刃物の写真集、式神術の教本、魔法アイテムの書物など。どうやらハルナがアーティファクトを使う時の資料にしたものらしい。そして、
「理科の教科書? こんなものがどうしてここに―――」
 それは少女たちが使っていた中学理科の教科書だった。
 その時、外がまるで昼のように明るくなり、爆発音が何回も響いてきた。校舎がガタガタと揺れて窓ガラスが割れて落ちていく。
「どうやら始まったようでござるが……いや、すごい」
 窓枠に残ったガラスを丁寧に取り除いてから、黒装束は窓から顔を出した。
「どれぐらいすごいんだ?」
「音と光のショーを見ているようでござる」
「遊園地かよ」
「ははは」
 屋上から発射される光の奔流に、黒装束の少女はしばし見惚れる。
 と、その時。
「何っ!?」
 黒装束の少女は慌てて窓から身を退き、そのまま隠れた。上空にいたはずのエヴァが飛んできて、黒装束の少女が覗いていた窓を通り過ぎて少し離れた部屋に突っ込んだ。
「こ、校舎の中に来られると、拙者も危ないでござるよ――」
 部屋から出ようとする黒装束の少女、しかし部屋の出口付近で足を止め、そのまま横の壁に張り付く。
「さあ、勝負はここからだぞ小娘ぇ―――っ!」
 黒装束の少女が飛び出そうとした廊下を、漆黒の翼を展開したエヴァが猛スピードで飛んでいった。
「ふうう、危ない危ない。いやいや、スリル満点でござるな。遊園地の5倍はすごい」
「遊園地の5倍? 客も5倍で行列も5倍か」
「並んでまでは……どうでござろう?」
 黒装束の少女は苦笑しながら、窓から顔を出して観戦を続けた。
「むう? 校舎側からの攻撃が止んだようでござるな―――」

「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ……」
 刹那を後ろに寝かせ、木乃香は大量の汗をかいて屋上にへたり込み、荒い呼気を何とか整えようとしていた。少なくとも魔法を乱射していた元気はなくなっている。
 その前にズシャ、と重量を感じさせる音を立てて茶々丸が着陸した。その手に構えた巨大な銃はエネルギーをチャージし、一直線に狙いを木乃香に定めている。
「貴女は魔力を無駄にし過ぎです。いくら膨大な魔力を有していても、あんな使い方をすれば枯渇するのは当然。マスターの睨んだ通り、戦闘に関しては素人のようで」
「そっちこそ、何でわざわざ降りてきたん? 実はエネルギー切れでもう飛んでる余裕もあらへんとか? だいぶエヴァちゃんを庇っとったみたいやし」
 刹那と茶々丸の間に身体を入れるようにして、涼しい顔で木乃香は立ち上がった。汗はかいているものの、その表情には焦りや疲れは全く見られない。
「もう魔力も少ないのにその表情。ご立派ですね。自分が弱っている事を敵に教えないのは基本だと、マスターも申していました」
「表情では、茶々丸さんには勝てへんえ。ほら、ウチを攻撃したら?」
「そちらこそ、自慢の魔力を使用したらどうですか?」
 お互いに睨み合うが、どちらも手は出さない。
「もしかして、もう残り一発分のエネルギーしかないんかな? 外したらお終いとか」
 にっこりと笑みを見せる木乃香に、茶々丸は無機質な声で言う。
「そちらこそ、さっさと魔法を使ったらどうですか? 使える状態なら、の話ですが」

 ―――桜咲刹那を狙うぞ。防げ。

「―――!」
「マスター!」
 どこからともなく響いてきたエヴァの声に、屋上の停滞した空気が弾け飛んだ。
17名無しさんの次レスにご期待下さい:2007/09/01(土) 16:27:20 ID:KAmJwbiB0
「来たれ氷精、闇の精。闇に従え吹けよ常夜の氷雪。『闇の吹雪』―――!」
「くっ! せっちゃんを狙わんとウチを狙え―――っ!」
 刹那の元に木乃香が駆け寄っていく。同時に屋上を突き破って、木乃香を追いかけるように闇のエネルギーの奔流が渦を巻いて殺到した。下の階からエヴァが攻撃魔法を放ったのである。
 刹那は穏やかな顔で眠ったままだった。木乃香は背中に迫る魔法の力を感じながら、刹那の身体を庇うように抱き締めて着物で覆う。そしてこれからくる苦痛に耐えようと、ぎゅっと目を閉じた。
「せっちゃんは、ウチが守る―――」
 攻撃魔法が木乃香の背中に押し寄せ、そのまま呑み込んだ。鈍い爆発音が響いて屋上の3分の1が吹き飛び、宙に二人の少女が投げ出される。
 刹那は無傷で眠ったまま、まるで葉が風で舞っているように穏やかに虚空に投げ出された。木乃香は裂けてボロ雑巾のようになった着物を纏いながら、刹那を目で追い続けていた。
「せ、っちゃ、ん」
 木乃香が明らかに重力以外の外力を使って空中を移動し、そのまま刹那をがっしりと抱き締めた。そして屋上にいたエヴァと茶々丸に向けて何かを叫ぶ。
「――――――――――――――――っ!」
 それは呪文だった。既に存在しているものなのか、木乃香が無意識に創ったのかは分からない。
 判別不能な叫び声の呪文は、恐るべき量のエネルギーを集めて屋上に収束し大爆発を起こした。二人が抱き合って地面に落下していった後に、校舎の屋上と下の二階分を抉るように吹き飛ばしてエヴァと茶々丸を巻き込んだ。
 地面が接近する前に木乃香と刹那は光に包まれ、そのまま重力に逆らって速度はスローになっていく。屋上から地上に、ふわりと優雅に着地した。
「せっちゃん、無事で、よかった……」
 魔法の光が消えて現れた木乃香はボロボロだった。オレンジの着物は真っ黒に焦げて裂けており、魔法の直撃を食らった背中の着物は完全に焼失して、その肌に真っ赤な火傷が広がっていた。
 魔法を乱発し、また敵の魔法を連続してガードしていたが障壁は少し破られ、指の爪は全て割れている。全身がだるく、初めての本格戦闘による精神的疲労も激しい。
「ウチが、せっちゃんを、守る……から……」
 木乃香は傷ついた身体をそっと刹那に近づけ、ゆっくりとキスをする。まるで弱った鳥が羽を休めているような、穏やかな光景がそこにあった。

「まだ、終りだと思うな……」
「ま、まさか、そんな……エヴァちゃん?」
 驚愕の顔で振り返る木乃香の目に飛び込んできたのは、全裸でふらふらと迫って来るエヴァだった。その鬼のような表情に木乃香は戦慄する。
「機能停止、機能停止、復旧まで1200秒」という警報を鳴らして倒れている茶々丸が近くにいた。どうやらエヴァは茶々丸に庇われて助かり、茶々丸は機能停止に追い込まれたらしい。
「せっちゃん、ウチに、力を……」
 木乃香が震えながら立ちあがり、ふらふら向ってくるエヴァに血塗れの手を向ける。エヴァもエヴァで両手を構え、それを迎え撃とうとする。
18名無しさんの次レスにご期待下さい:2007/09/01(土) 16:28:11 ID:KAmJwbiB0
 両者が渾身の力で呪文を放ち、両者はそのまま相手の呪文で吹き飛ばされた。エヴァは地面を転がっていき、倒れた木乃香の着物は限界を超えて呪符に戻っていった。
「う、ぐううう……後、少しというところで………」
 苦しそうに呻き声を上げるエヴァの前で、木乃香がずりずりと地面を這っていく。その先には着物の懐から落ちた仮契約カードの束が転がっていた。
「させるか……うぅ……」
 エヴァは攻撃魔法を使う魔力が残っておらず、木乃香が仮契約カードに近づくのを阻止できない。
 と、その時、
 パチパチパチと拍手しながら、
 その黒装束は現れた。

「いやいや、両者いい勝負でござった」
 携帯を肩と首に挟んで穏やかな微笑を浮かべながら、長瀬楓は闇の中から溶け出すように現れた。その細い目に木乃香とエヴァを交互に映し、にやりと口を三日月に歪める。
「楓ちゃん………? まさか、記憶が残ってたん……?」
「長瀬、楓か……いいところに来た! 早く! そいつにトドメをさせ!」
 仮契約カードに手を伸ばした木乃香がそのまま固まった。エヴァが期待の声を上げる。
「まあ、慌てない慌てない」
「……?」

 何を言っているのだ? とエヴァの表情が語っていた。楓はしかし視線を木乃香に移し、にっこりと人を安心させるような笑みを浮かべて言った。
「仮契約の方法を教えるでござる。そうすれば、この場から逃がしてさしあげよう―――近衛の姫君」
 十字架の巨大な刃を翳しながら、楓は木乃香を見下ろして目を細めた。
「つーか、聞き出した後で近衛もエヴァも両方ぶちのめせよ」
 楓にしか聞こえない大きさで携帯から女声が語りかけ、「あいあい」と楓は肯きながら表情は変えない。
「な、何を言っているのだ貴様! そいつは危険だ! 早くトドメを!」
「拙者の仲間が近くにいて、お主を逃がそうと待っているでござるよ」
「……ほ、ほんま?」
 木乃香の問いかけに、首肯する楓。
「…………これ、知ってる? 仮契約カードって言うんやけど?」
 ごく自然な、まるで楓に説明するためのように、木乃香はカードの束を拾う。そして呪文を唱え始めた。知らない者から見れば、仮契約の説明を始めようとしているようにしか、見えない。
「愚か者がぁ! 仮契約カードは従者を―――」
 呼び寄せる事ができる―――、というエヴァの言葉は、最後まで語られなかった。

「………!?」
 楓の前でハルナ・のどか・桜子のカードが鈍く発光し、にやりと嗤う木乃香の顔を照らし出した……。
19名無しさんの次レスにご期待下さい:2007/09/01(土) 16:29:24 ID:KAmJwbiB0
 千本鳥居の奥、満開の桜の海に聳える関西呪術協会総本山―――
 木乃香の祖父や父、何十人もの巫女が並ぶ大広間に一人の女が運ばれてきた。手足を魔法で
拘束され、無地の地味な着物を纏っている。彼女は麻帆良学園女子寮で捕えられた反乱分子で
ある。対策会議で関西に来ていた学園長は、この女の尋問に同席する事になったのだ。
「天ヶ崎千草の意識が戻りました―――」
 近衛家の重鎮たちの前に女を運んできた巫女たちが、礼をして離れていく。
「ふむ、では聞かせてもらおうかのぉ。あの夜、女子寮で何が起こったのか」
 殺気を含んだ老人の声が響く。しかし千草はそれに反応を示さず、ぽつりと呟いた。
「このかお嬢様はお元気なんか?」
「それが分かっていたら、苦労はせぬ」
 老人の答えに、千草の顔が蒼白に転じた。
「に、逃がしたんか!? あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ! な、何てことや!」
 錯乱した千草を、巫女たちが取り押さえる。
「お嬢様はウチらに報復に来る! 絶対に来る! あああ、頼む! 頼むわ! 早く、早くお嬢様
を捕まえてえな! 関西でも関東でもええから! 手に負えんようになる前に!」
 口から泡を吹きながら、泣きながら千草は叫び続ける。
「手も足も出えへんだ! 侵入した四人組やって上位の術者やったのに! 戦力を全部集めて攻
めたのに! ああ、あああああああ、お嬢様を始末しようとしたウチを、絶対お嬢様は殺しに来る
わ! お、お願いや、お願いやから、ウチを守ってええええええええ―――ウキッ? ウッキー!」
「もう少し時間を置いて、尋問を再開しましょう」
 木乃香の父が冷静に言いながら、錯乱する千草を魔法で猿に変えた。 

 カードで従者を呼んで、木乃香は命じる。

 滅せよ。処刑せよ。沈黙させよ。排除せよ。滅殺せよ。全殺せよ。
 エヴァンジェリン、茶々丸、長瀬楓、近衛家、関東魔法協会。
 敵を滅ぼせ。討て。焼け。崩せ。壊せ。切れ。解け。
 そして、せっちゃんと二人きりの楽園を、天国を、夢を、世界を―――
 主人の最後の命令を、
 実行せよ………………
20名無しさんの次レスにご期待下さい:2007/09/01(土) 16:30:15 ID:KAmJwbiB0
 どん! と立ち昇った三本の光の柱から現れたのは三人の従者たちだった。椎名桜子、早乙女
ハルナ、宮崎のどかは危険な光を眼に宿らせながら堂々と、そして異様な殺気を放ちながら学園
に降り立つ。桜子は手に巨大なピコピコハンマ、のどかは手に一冊の本、ハルナは手にスケッチ
ブックを持っている。翼をリュックサックのように背負ったハルナが、素早く木乃香を救出した。
「ちっ、しくじったか―――」
 苦無を構えながらじりじりと距離を広げていく楓、流石の楓といえども三人の従者と同時に戦う
気にはなれない。魔力で強化されている上に強力なアーティファクトを持った強敵である。
 逃げる楓を見てハルナがにっこりと嗤い、スケッチブックから一冊の本を創りのどかに与えた。黒
いブックカバーで覆われた薄い本、手帳サイズの大きさでありページには何も書かれていない。

「ふふふ、のどか、せっかくだから楓ちゃんで、この本の威力を試してみなよ」
「うん、分かった―――」
 黒い本を片手にのどかが嗤いながらページを開いた。
「長瀬楓」
 名前を呼ぶと白紙のページに楓の名が記され、同時にページの左上から横に無数の文字が浮
かび上がった。それは瞬く間に一行、二行、三行と改行していき、あっと言う間にそのページを覆
い尽くしてしまう。そこに書かれているのは紛れもなく楓の脳内情報だった。脳内情報がランダム
に読み込まれて日本語に変換され、その黒い本に綴られているのだ。
 楓の背に寒気が走る。まるで首筋に刃を突き付けられている感触を何百倍も濃縮した黒い恐怖
が、楓の心を絶対零度にまで冷やしてしまう。レベルの差ではなく次元の差を感じた。のどかの本
から放たれる禍禍しい殺気が、否応無しに自分を壊すものだということを、楓は本能的に悟ってし
まった。
「う、うわあああああああああああああああ――――っ!」
 楓が苦無を構えてのどかに向けて加速する。途中で16人に分身し、16人が16人とも異なる武
器を装備していた。鎖鎌、苦無、爆薬、手裏剣、戦輪、刀などを構え、四方八方からのどかを包囲
し、そのまま逃げ場がないように一斉に攻撃を仕掛ける。しかし攻撃されるのどかは澄ました顔で
筆ペンを取り出し、攻撃する楓の顔は逆に恐怖に歪んでいる。
 苦無が、鎖鎌が、手裏剣が、バチバチと音を立てて呪符に弾かれた。のどかの手の動きは止ま
らない。使うつもりはなかった爆薬を躊躇わずに使用し、ぼん! と間抜けな音が響いた。しかし
障壁に守られたのどかは無傷で煙の中から現れ、筆ペンでゆっくりと、「長瀬楓」という名前を塗り
潰していく。

 その、筆で名前を塗り潰す行為が自分に致命的な影響をもたらすであろう事が、楓には直感で分
かってしまった。筆は容赦無く、楓の名前を全て塗り潰す。
「あ゛―――――――」
 名前が塗り潰された瞬間、読み込まれた楓の個人情報は墨のワイパーをかけたように真っ黒に
塗り潰され、同時に楓の目の前も闇黒に包まれた。分身が消える。かくん、と楓の身体が右に傾
き、持っていた武器が手から滑り落ちた。光の失った目はのどかを映す事はなく、のどかの前にど
さりと崩れ落ちた。
21名無しさんの次レスにご期待下さい:2007/09/01(土) 16:31:26 ID:KAmJwbiB0
「試作アイテム『ブラックリスト』―――ふふん、なかなかのモノだね」
 のどかの黒い本をアーティファクトで創ったハルナが、まるで自分の子供を誇る母親のような笑
みを浮かべて、誇らしげにそう言った。
 のどかの黒い本、美砂や円には恐怖と畏敬の念を込められて「アレ」とだけ呼ばれるその物体
は、ハルナが非戦闘員ののどかの為に創り与えた広域攻撃兵器だった。
 モデルにしたのはのどかのアーティファクト「魔法の日記帳」である。有効射程範囲は本から20
0メートル。その範囲内にいる対象の名前を唱えれば、ブラックリストは自動的に対象の脳内情報
を読み込み保存する。そこで対象の名前を墨で塗り潰すと、対象の意識は墨に染まったように暗
転して停止し、そのままのどかの命令を聞く傀儡に成り果てる。解除するには、ブラックリストから
該当するページを破り取らなければならない。
 即ち、攻めてくる敵の名前が分かっていれば、名前を言う→塗り潰すという数秒の動作によって
その敵を精神崩壊させて奴隷にできる。のどかの持った本はそういうモノなのである。
「さてと、私も好きなようにやらせてもらおうかな」
 ハルナはにやりと嗤いながらスケッチブックを開いた。スケッチブックが光り輝き、其処に描かれ
た絵が実体化していく。集中線の効果で接近してくる雰囲気を演出し、トーンで炎の演出をしたそ
の物体が出現すると辺りには熱風が吹き始め、夜空は燃えて明るくなった。

 不吉な、燃える夜空を眺めていたエヴァはハルナが具現化したモノの正体に気付いた。
「逃げるぞ茶々丸! はっ、茶々丸……」
 茶々丸はダメージが大きく、動けるようになるにはまだ数分を要したはずだった。しかし、恐らく
名前を利用する魔術にやられた楓はさておき、茶々丸は復活できる。
(まだ、パートナーを見捨てて逃げるほどには落魄れてはいないか―――)
 魔力は限りなくゼロに近い。しかしエヴァは精神を集中し力を振り絞る。
(百戦錬磨の吸血鬼、命まで燃やせば不可能ではないはず!) 
 エヴァの心の叫びに応えるように、漆黒の翼がばさりとを広がった。鬼気迫る顔でエヴァが逃げ
る準備を整える。そのまま茶々丸の方を向いた……そこには椎名桜子がいた。桜子は巨大なピコ
ピコハンマを振り上げて倒れた茶々丸を狙いながら、エヴァの方を見てにやりと嗤う。思考が沸騰
した。エヴァは翼を動かして全力で茶々丸の元に向かった。
「止めろおおおおおお―――――っ!」
 桜子のアーティファクト「破魔の小槌」は無生物を粉々に砕く能力を持っている。茶々丸との相性
は最悪だった。そのアーティファクトを持った手が、ゆっくりと振り下ろされていく。
 エヴァの目から熱い液体が溢れ出した。もう間に合わない。それは確実だ。逃げた方がいい。し
かしエヴァは止まらず、いや、止まれず、僅かな希望をガラにもなく信じて猛スピードで飛んだ。
「はい、残念でしたぁ〜」
 適度に力を抜いたクイズ番組の司会者のような声を出して、桜子がピコピコハンマを茶々丸に振
り降ろした。変化は一瞬だった。アーティファクトに触れた茶々丸がびくんと動き、そのままボディ
が風船のように弾けた。腕と脚と頭部が飛んでそれらも粉々になっていく。とぱらぱらぱら、と茶々
丸が散っていく。いつも猫に餌をやっていた茶々丸が、美味い茶をいれてくれた茶々丸が、自分に
尽くしてくれた茶々丸が、
「きゃはははははははははははははははははははははははははははははは―――っ!」
 桜子の高笑いが響き渡る中、風に飛ばされて消えていく。影も形もなく、まるで存在すらしていな
かったかのように、そこらの砂に混じって四散していった。
「貴様あああああ―――っ!」
 向こうでは近衛木乃香が美砂の兵隊たちの血を吸っていた。吸血鬼にとって血液は貴重かつ重
要なエネルギである。見た感じでは楓は再起不能、茶々丸は散った。近衛木乃香は復活する。あ
そこまで追い詰めた近衛の姫が復活する。この戦いは、全て無意味になる―――
 その時、ぶわぁ! と猛烈な熱気がエヴァの頬を撫ぜた。ハルナに具現化されて夜空を燃やす
その物体が、引き寄せられるように一直線にエヴァに突っ込んできたのだ。
22名無しさんの次レスにご期待下さい:2007/09/01(土) 16:32:21 ID:KAmJwbiB0
 それは、燃え盛る巨大な隕石だった。
 エヴァはその隕石に見覚えがあった。それはエヴァたちが使っていた中学理科の教科書の、天
体分野の資料としてカラーで載っている小惑星のイラストである。教科書の改訂が行われてもそ
のイラストは削除されなかったのだ。その太陽や地球や月のオマケである紙上の小惑星を、ハル
ナはスケッチブックに書き写し、武器として使用してきたのだ。
「作品名―――『メテオ(大)』」
 ハルナの声が遠くから聞こえたような気がした。隕石の熱気がエヴァを包む。逃げられない。防
げない。どうしようもない。障壁も発生させられない今のエヴァに、何ができるだろうか。
「………ふふっ。首を洗って待っていろ! サウザンドマスタ――――――っ!」
 赤い炎が目の前に広がり、エヴァの意識はそのまま消えた。

 エヴァを呑み込んだ隕石の軌跡はそのまま学園の地表を抉りながら進み、麻帆良学園中央駅
の建物を吸い込まれていった。前で屯していたタクシーがばらばらと吹き飛び、ヨーロッパ調の駅
の外壁をぶち破り抜けていく。ワンテンポ遅れて駅は内側に沈むように崩壊し、周辺ではタクシー
が次々と火に包まれた。
 そして、インパクト。
 隕石の運動エネルギが爆発となって吹き荒れる。学園都市の建物がドミノのように薙ぎ倒され、
神や悪魔を思わせる巨大な火柱が起こった。爆炎、噴煙。音は衝撃波となって波状に広がり窓ガ
ラスを破壊し、巨人がジャンプをしたような振動がびりびりと学園都市全体を揺らした。
 直撃した位置にはクレーターができ、周辺は何も残っていない。
 学園都市の一部が、ハルナの攻撃で完全に消滅していた。
「折角だからさあ、このまま始めようか。関東魔法協会との戦争―――」
 顔を赤い炎で照らしながら、ハルナがにっこりとのどかと桜子に嗤いかけた。そして木乃香を、主
人たる近衛の姫を振り返る。美砂の兵隊の血を吸っていた木乃香は、回復魔法で美砂と円を復
活させていた。木乃香は無表情で肯くと、ゆっくりと呪文を唱え始めた。

「風の精霊よ。我が従者の歌声を遠方へと運べ―――」
 美砂が「傾国のマイク」で歌い始める。人を狂わす歌声が風に乗って、学園周辺の街に広がって
いく。燃える都市を背景にぞろぞろと亡者のように集まり始める群衆は、全員が意識を美砂に操ら
れていた。その数は優に1000人はいる。
「さーて、みんな。これから関東魔法協会って連中が私たちを捕まえようとわんさか押し寄せてくる
からね。ちょっとだけ協力してもらうよ」
 ハルナがスケッチブックからコピーと具現化を繰り返す。集まった学園都市の市民―――美砂
の奴隷たちにバラバラと、アーティファクトで創った銃器や魔法アイテムが雨のように降り注ぐ。
「あ、あんたはこっちに来て」
 学園で起こった戦闘に気付いたのか、操られた群衆の中に近衛家の黒服がいた。彼はそのまま
ふらふらと美砂たちの元まで歩いてきた。
「関東魔法協会の、主力の魔法使いの名前を教えてください―――」
 のどかの問いかけに黒服はぺらぺらと数十人の名前を唱え始め、円がそれをメモる。
「コピーできるだけコピーして、みんなに配って。それと、楓ちゃんにも働いてもらうからね」
 メモを渡された―――のどかの傀儡になった楓が肯いて、闇に消えた。
「よっしゃ―――っ! これで敵の魔法使い対策も万全! はっはっは―――」
 ハルナが精神崩壊の本『ブラックリスト』を量産し、ばらばらと雨のように群衆に与える。敵の名
前が書かれたリストも配られた。数秒で敵を精神崩壊させる兵器を持った軍勢から、美砂の歌に
合わせて歓声、鬨の声が上がる。
23名無しさんの次レスにご期待下さい:2007/09/01(土) 16:32:51 ID:KAmJwbiB0
「さあ、お祭りの開始だよ―――!」
 人を狂わす歌が広がる。兵隊が増える。武器が撒かれる。黒い本を持った一団は、壊れたテー
プレコーダのようにリストの名前を繰り返し唱えながら前進する。群衆が武器を構える。銃器に剣
に魔法アイテム。ピコピコハンマを持った桜子と、釘バットを持った円が群衆を率いる。歌う美砂。
木乃香の傍に付くのどか。
「もうちょっと味方を補強しとこうか」
 ハルナが次に創り出したのは、巨大な蜘蛛だった。式神術の教本に載っていた「鬼蜘蛛」と呼ば
れる式神である。固いボディに8つの黒い目、強力な牙に脚力、糸を吐く能力を持った怪物。何十
も量産されたその怪物の軍勢は、群衆の軍勢を守るように先行して敵を探す。
「みょおおぉぉぉぉ―――――」
 蜘蛛たちに混じって、潰れた大福のようなフォルムに白魔術師のローブを纏った、アニメキャラ
のようなデザインの木乃香が現れる。手にはトンカチ、数メートルの巨躯、常に木乃香の身を守る
オレンジ色の着物の姿をした「護鬼」と対をなす、接近戦用の「善鬼」である。
 道路の向こうから黒い車が数台やってきた。近衛家の車である。流石に騒ぎに気付いて急いで
やって来たらしいが、1000を超える武装した奴隷と式神の軍勢に立ち向かうにはあまりに儚い。
「せっちゃん、ちょっと予定より早いけれど、いよいよ始めるえ」
 軍勢を坂の上から見下ろす木乃香が、刹那にそっと声をかけた。
「うん。始めよう。このちゃん」
 無邪気な笑みを浮かべる刹那。
「『メテオ(小)』」
 ハルナが放った隕石がミサイルのように車群に向けて飛び、大爆発と共に車を舞い上げる。
 学園都市を火の海に変え、住民を兵隊に変え、近衛の姫と関東魔法協会の戦争が始まる。

 その時、眩い光が群衆の前で炸裂した。あまりの眩しさに桜子と円が悲鳴を上げて後退する。群
衆も突然前が見えなくなった事に戸惑いながらも、じりじりと前線を下げ始めた。代わりに木乃香
の善鬼や鬼蜘蛛の大群が光源に押し寄せていく。しかし式神たちは、光に近づくと蒸発するように
消えてしまった。
 周囲に満ち満ちた闇を裂くように、その人物は軍勢の前に現れた。
「ああ………そ、そんな………」
 木乃香がその人物を見て驚愕する。自分の目で見ている情報を信じられない、訳が分からない
といった表情である。木乃香の横の刹那が、怯えた顔で木乃香のオレンジの着物を掴んだ。
「せ、せっちゃんが、二人……?」
 軍勢の前に現れたもう一人の桜咲刹那は、木乃香を見てにっこりと微笑んだ。しかし軍勢が押し
寄せてくるのを見て表情を一変させ、鋭い目で敵を威圧しながら持っていた剣を前に構える。
 ぴしぴしぴし、と音が聞こえてくる。
 周囲に満ちた夜が、炎上する麻帆良学園都市の光景が、
 まるでガラスのようにヒビが入り、
 地平線からガラガラと崩壊していく。
 闇の世界が、壊れていく。
 偽物の世界が、消えていく。
「だ、誰だお前ぇ! こ、このちゃん騙されちゃダメ、あれは偽物だよおお!」
 木乃香の横の刹那が木乃香の袖を掴んで、必死の顔で喚き散らした。
「私が誰か? 古来より人を救い魔を討つ秘剣―――神鳴流見習い、桜咲刹那!」
 突然現れた刹那は剣先を、軍勢の中の木乃香ともう一人の刹那に向けて、よく通る声で言った。
「遅れて申し訳ありません、このかお嬢様。今、闇からお救いいたします!」
24名無しさんの次レスにご期待下さい:2007/09/01(土) 16:33:54 ID:KAmJwbiB0
「夢の妖精、女王メイヴよ、扉を開き夢へといざなえ―――」




 エヴァとの戦闘でボロボロになった木乃香と全裸の刹那が手を繋ぎ、額に同じ呪符を貼り眠ってい
る。木乃香の横ではエヴァと楓がいっしょに、魔法で木乃香の夢を覗いていた。
「―――ぐ、ダメだ。魔力の限界だ」
 エヴァと楓は木乃香の夢から帰ってくる。それは時間にして一秒にも満たない旅だったが、木乃香
が紡いだ麻帆良の未来の一つは膨大なイメージとなってエヴァや楓の脳に焼き付いた。
「やれやれ、これは厄介なことになったぞ―――ジジイの孫め。くだらん命令を残しよって」
 木乃香の近くに落ちていたハルナの仮契約カードを睨みながら、ぽつりとエヴァが呟いた。
「近衛の姫が覚醒し本気になれば、関東は滅ぶ―――関西のバカどもの妄想だと思っていたが……」
 楓は微動だにせず、後悔に彩られた瞳を虚空にさ迷わせている。

 ―――その時、何が起こったのか?




 まずは木乃香が皆を出し抜いた。桜子・のどか・ハルナの仮契約カードを手に、木乃香は楓の隙
を付いて早口で呪文を唱え始めた。
 カードで従者を呼んで、木乃香は命じる。
 それに対し、最初に行動を起こしたのは、木乃香の後ろで横たわっていた刹那だった。
「―――!」
 それがエヴァの魔法薬の効果か、自らの身体を刀で貫いたショックか、それとも木乃香の回復
魔法が効き過ぎたのか、その結果に正確に答えられる者はいなかった。ただ事実として、その時
の刹那は正気に戻っており、そして間違いなく木乃香を止めるために行動していた。
 刹那はよろめきながらも、残り少ない力で木乃香の背中に体当たりをする。
「―――うぐっ!」
 背中に鈍い衝撃を感じて、木乃香の身体が大きく傾いた。その反動で、桜子とのどかのカードが
滑り落ちるように木乃香の指から離れていく。木乃香は呼吸ができないのか、口を金魚のように
パクパクしながら崩れ落ちていった。誰に攻撃されたかは分からなかっただろう。しかし、その目
はしっかりと、手元に残った最後のカードを捉えていた。
「そのカードを奪え―――っ!」
 次に叫んだのはエヴァだった。エヴァは情報を収集していた茶々丸から、残る3人の従者の能力
は大体ではあるが報告を受けている。実際に戦ってみないと強いか弱いかは分からないが、少な
くとも今のエヴァでは従者3人を相手に戦う力はない。魔法が完成する前に木乃香の妨害をする
のは正しい判断だったと言える。


「―――っ!」
 エヴァの声に反応したのは楓だった。楓は直感的に、状況が危機的であることが分かったのだろ
う。苦無を取り出して木乃香に踏み込み、持っていたハルナのカードを真っ二つに切り捨てた。
 刹那が、エヴァが、楓が、それで終ったと思った。
「う、ふ、ふふっ―――」
 しかし木乃香は愉快そうに嗤っていた。それは敵を嘲笑い、勝利を確信した歪んだものである。
同時に、木乃香の身体から魔力が噴き出したのを、エヴァと刹那は感じていた。木乃香は魔法使
いとして覚醒して約一週間、天賦の才能を完全に使いこなすには時間も経験も不足している。
その木乃香の余力は、限界に達した木乃香が絞り出した、まだ使いこなせていなかった才能の一
部だろう。
 そして木乃香は、半分になったハルナのカードに、その全ての力を注ぎ込んだ。
25名無しさんの次レスにご期待下さい:2007/09/01(土) 16:34:37 ID:KAmJwbiB0
 エヴァが舌打ちをして木乃香に近づく。刹那が悲鳴に近い声を上げて木乃香に迫る。楓は訳が
分からないままその場に立ち尽くしていた。
 三人の目の前で、半分になったハルナのカードが爆発するような光を放った。
 従者の召喚は失敗した。
 しかし、命令は送り込まれた。




 滅せよ。処刑せよ。沈黙させよ。排除せよ。滅殺せよ。全殺せよ。
 エヴァンジェリン、茶々丸、長瀬楓、近衛家、関東魔法協会。
 敵を滅ぼせ。討て。焼け。崩せ。壊せ。切れ。解け。
 そして、せっちゃんと二人きりの楽園を、天国を、夢を、世界を―――
 主人の最後の命令を、
 実行せよ………………






 破滅をもたらす命令と渾身の力を遠方のハルナに送り、木乃香は満面の笑みで力尽きて倒れ
た。エヴァと刹那は背筋に寒いものを感じて立ち尽くす。サウザンドマスターを超える魔力を持っ
た近衛の姫は、呪いに近い執念で、麻帆良を壊滅へ導いていくレールを敷いたのである。
「…………! どうして! どうして!」
 刹那がよろめきながら涙目で、楓に掴みかかった。刹那の顔には、木乃香の凶行を止められな
かった自責の念と、楓の行動を非難する感情、そして何よりも、傀儡と化してしまった自分への情
けなさが入り乱れていおり、やり場のない怒りを楓にぶつけているようにも見えた。
「せ、拙者は、ただ……うぐうっ!」
 楓の言い分を無視して、刹那は大声で呪文を唱え始めた。陰陽術系の呪文である。楓の胸に手
を置いて、一気に力を送り込んで楓を吹き飛ばした。
「………身体能力を封じる呪いだ。一時間ほどで解ける」尻餅を付いた楓を、鬼のような形相で見
下ろして刹那は言った。「貴女にはしばらく、ここで「闇の福音」を見張っていてもらう」
 刹那は次にエヴァの方を向いて、楓を指差しながら言った。
「エヴァンジェリンさん……いや、闇の福音。貴女にはしばらく、ここで、この危険人物である甲賀
の忍びを見張っていてもらう。嫌と言うなら斬り捨てる」
 エヴァと楓は無言だったが、刹那はそれを肯定と解釈した。
「今から私はお嬢様の心の中に入り、その中に巣食った魔から直接お嬢様を助け出します」
 木乃香浄化の準備をする刹那、体力はまだ残っているようである。
「おい、近衛木乃香の従者はどう始末をつける気だ?」
「……できる事から、先に解決していきましょう。今の我々に、従者を止める手段はない」
 エヴァの質問に、刹那は無愛想な口調で答えた。その間にも呪符を作り、木乃香の心に侵入す
る準備を整える。木乃香の額に呪符を貼りながら、刹那はふと思い出したように言った。
「あ、そうだ。エヴァ……闇の福音、貴女に伝えておきたい事が一つある」




 刹那が語った事、それは事件勃発の原因となった、あの―――
26名無しさんの次レスにご期待下さい:2007/09/01(土) 16:35:27 ID:KAmJwbiB0
「遅れて申し訳ありません、このかお嬢様。今、闇からお救いいたします!」
 燃える麻帆良学園都市を背景に、白い巫女姿で軍勢の前に現れた刹那は宣戦布告すると、そ
のまま剣を群衆に向けて駆け出した。群衆の中から、背中に翼を背負ったハルナが上空に飛び
出して刹那を睨み、下にいる美砂に手で合図をした。
「ふん、たった一人で何ができるのかなあ―――?」
 美砂の歌に導かれて群衆は左右に分かれ、刹那を凹字の形で取り囲むようにぞろぞろと動き始
める。手に持っているのは刀剣の類の他に、銃器を持っている者も少なくない。
「私たちに、貴女一人で勝てると思っているんですかー? 桜咲さん」
 のどかが黒い本を持ってジャンプし、群衆の前線に軽やかに着地する。楓を壊した黒い本がぱ
らぱらと風に捲られた。刹那が射程距離に入るまで数十メートルである。
「確かに、現実だったら私だけではお前たちに勝てない―――」
 ハルナのスケッチブックが光り輝いてマシンガンを具現化する。ハルナはそれを片手で持ち、刹
那に向けて慣れた手つきで引き金を引いた。タタタタタタタタ、と火薬音が響き、無数の弾丸が刹
那に向けて発射される。群衆の中からは桜子と円が刹那の隙を伺っていた。
「桜咲刹那、さん―――」射程距離に入った刹那に対して精神を壊す黒い本が発動する。しかし刹
那の情報が読み込めない。「あ、あれ!?」

「現実では、な。―――ここでは話は別だっ!」
 マシンガンの弾丸の軌跡を、刹那が剣で遮断する。鈍い金音が連続して響き、撃墜された弾丸
ぱらぱらと地面に落ちた。刹那は刀で弾丸を叩き落しながら疾走し、前方に群れてきた美砂の兵
隊数十人を一振りで斬り飛ばした。バラバラと斬られた兵隊が後ろに飛ぶ。
「なっ!?」美砂が驚きの声を上げる。「そ、そんなのあり?」
「あううっ!?」のどかが美砂の兵隊に紛れて逃げた。
 刹那のスピードは衰えない。美砂の兵隊をまるでオモチャのように蹴散らし、のどかを兵隊ごと
横に斬り払った。黒い本が分解し、ページがバラバラになって宙を舞う。
「調子に―――」「乗るんじゃないよ―――っ!」
 左から円が釘バットを、右から桜子がピコピコハンマを振り下ろしてくる。刹那は地面を軽く蹴っ
て一回転しながら数メートル下がって着地した。桜子のピコピコハンマで叩かれた地面が粉々に
吹き飛んで穴ができる。円が体勢を整えてバットを片手に接近してきた。周囲に刹那を逃がすま
いと美砂の兵隊のバリケードができ、桜子がピコピコハンマを振り翳して高く跳び上がる。
 前後左右上から敵に迫られた刹那は剣を構え直し、
「神鳴流奥義…百烈桜華斬!!」
 円と桜子、そして美砂の兵隊を鮮やかな螺旋の軌跡を描いて切り裂いた。刹那を包囲していた
敵の陣が一気に崩れて散っていく。倒れた兵隊や従者は血を流さずに、そのまま煙のように消え
ていった。ハルナが険しい顔でスケッチブックを開き、『メテオ(大)』と連呼する。燃え盛る巨大な
隕石が現れて、夜空が紅く染まった。
「ぐう、う、うううう……」
 オレンジの着物を纏う木乃香が苦しそうに座り込み、横の刹那がおろおろしながら木乃香を助け
起こした。しかし木乃香の影が、モゴモゴと生物のように動き始めたのを見て顔色を変える。

「こ、こいつ! こっちに、出てくるなあ―――っ!」
「ぷはあっ!」
 木乃香の横の刹那が顔を歪めて怒鳴った。オレンジの着物を纏う木乃香の影に波紋が生じ、そ
の中から全裸の木乃香が苦しそうな顔をして飛び出す。その裸体には巨大な鎖が巻き付いてい
て拘束されていた。はあ、はあ、はあ、と縛られた木乃香は呼吸を整え、美砂の兵隊の陣を切り崩
す刹那に、大声で叫んだ。
27名無しさんの次レスにご期待下さい:2007/09/01(土) 16:36:39 ID:KAmJwbiB0
「せっちゃ―――ん! ウチはここぉ――――――っ!」

「お嬢様!」
 刹那の顔がぱっと明るくなる。今だ敵の手の内にあるものの、呼びかけてきたのは女子寮で魔
に憑かれて以来、眠り続けていた本物の木乃香だった。木乃香の心の中で、助けにきた刹那の
呼びかけに本物の木乃香が目覚め、魔に抵抗して現れたのである。
「黙れええええっ!」
 偽の木乃香と刹那が二人がかりで、縛られている木乃香を押さえ付ける。
「せっちゃん、口塞いで!」
「うん!」
「ゔゔゔ、ゔ―――っ!」
 偽者の木乃香に鎖を締め付けられ、刹那に口を塞がれて、木乃香は苦しそうに顔を歪めた。
「木乃香ちゃんのところに行かせるなぁ! 全員でかかっちゃえ―――っ!」
 美砂がマイクを片手に叫ぶと群衆がうねり、おぞましい数で刹那に殺到する。その頭上ではハ
ルナが具現化した燃え盛る隕石が4つ、夜空を炎色に染め上げている。

「『メテオ(だ―――あ゛」
 ハルナの言葉が途中で止まる。美砂も真上を見上げたまま静止してしまう。たった今、襲いかか
る群衆の最前にいたはずの刹那が何時の間にか、美砂の真上を飛ぶハルナに斬り込んでいた。
「い、れ、ん……」
 群衆の中に落下するハルナ、続いて頭上で燃え盛る4つの隕石が指揮官を失い、そのまま真下
で群れる美砂とその奴隷たちに向けて落下する。衝撃が近衛の姫の軍勢を呑み込み、美砂とハ
ルナが煙のように消えた。複数の爆風は互いに衝突しながら波状に麻帆良に広がり、一帯を焦土
と化しながら拡散していく。
 焦土の世界にピシピシとにヒビが走り、そのままガラガラと崩れて消滅し始めた。偽者の木乃香
は本物の木乃香を連れて闇に融けるように逃げ、本物の刹那がそれを追いかける。その途中で
へらへら笑いながら偽者の刹那が立ち塞がった。
「ここは通さな、あ―――?」
 「い」を言う前に本物の刹那が偽者を斜めに叩き切る。偽者は煙のように消えていった。
 壊れていく世界の中を、木乃香を追って刹那は駆けていく。
「さあ、お嬢様を解放してもらうぞ!」
 燃える学園都市が消えた後に残されたのは狭い、球体の闇の世界だった。刹那が剣を向ける先
には縛られた木乃香と、オレンジの着物を纏う偽者の木乃香がいる。おそらく外見は単なるイメー
ジだろうが、実質は魔の元凶であるその「木乃香のカタチをした者」は、本物の木乃香を解放する
つもりはないらしい。
「ゔゔゔ、ゔ―――っ!」
 偽の木乃香は本物の木乃香の口を手で塞ぎ、余裕たっぷりの笑みを浮かべて刹那を黙って見
ていた。刹那の刀を握る手に汗が滲む。相手はあれだけ酷く女子寮で暴れた敵であり、先ほどの
従者たちのように簡単に排除できるとは思えない。実力差は歴然としており、現実では刹那は従
者一人にも勝てないだろう。
(ここからが問題だ―――)
 偽の木乃香から、本物の木乃香をどうやって取り返せば良いのか?
 それは、本物の木乃香が偽の木乃香に抵抗して打ち勝つしかない。
 実際問題として刹那は木乃香の心の魔を狩っているが、それは木乃香を救う手助けであって直
接救う事には繋がらない。場所が木乃香の心である以上、本物の木乃香が刹那に協力して、魔
に怯えず全力で抵抗しなくては勝利することはできない。逆に万が一、木乃香が諦めたりした場合
は刹那が逆に魔に殺されかねない。そうなれば現実の刹那は廃人である。
「ふふふっ、せっちゃん、あれほど可愛がってあげたのに、だま足りへんのかなあ―――」
 闇がざわりと蠢き、にゅるにゅるにゅると無数の黒い触手になって刹那に殺到した。