その前髪の奥からつうっと一粒の涙のしずくが頬を伝った。
それをきっかけとするかのように、あとからあとから大粒の涙がのどかの頬を濡らしだした。
「み、宮崎さん!?」
狼狽するネギに、のどかは涙に濡れた声で言った。
「ごめんなさい先生……ごめんなさい……」
「あ、あの……」
のどかの突然の変わりぶりに、ネギは冷や汗を流した。とにかく、宮崎さんの涙を止めなければ、と思った。教師としてではなく、一人の男としてそう思った。しかし一体何が原因で泣いているのかわからない。
のどかは続けた。
「ごめんなさい……わたし、ネギ先生の気持ち無視してました…………ごめんなさい……ごめんなさい…ごめんなさい……いくら私が先生を好きでも……先生にキスしたくても……先生が嫌がるキスは…全然気持ちよくありませんでした……ごめんなさい……」
そこまで言って、のどかは大きくしゃくりあげた。上を向いた一瞬、前髪せつなく踊り、涙に溢れた瞳が見える。
「でも……先生、嫌いにならないでください……嫌いにならないで……ごめんなさい……嫌いにならないで……嫌いに…………ごめんなさい、ごめんなさい……でも嫌いにならないで……」
つぶやくように、ささやくように、最後にはほとんど聞こえないほど小さくなるのどかの言葉。
ネギは起きあがり、のどかを渾身の力で抱きしめた。
「……えっ…」
「宮崎さんっ! 僕は宮崎さんを絶対に嫌ったりしませんっ!!」
ネギの頭あったのは、のどかを一瞬でもはやく泣き止ませたい、ただそれだけだった。
のどかが目の前で泣いている。それは姉の言葉、教師としての立場を一撃で消しとばすほど辛い事だった。
一体、のどかの涙を止めるのに一番いい方法はなんだろうか?
思い付いた瞬間、ネギは躊躇なく実行する。
のどかの首に手をまわし、その唇に、溢れる気持ちの全てをこめて口付けをした。前髪の奥で、閉じられていたのどかの瞳が、大きく開かれた。
静寂。
広い図書室に、物音を立てるもの一つ無い。
ネギとのどかが唇を交わす間、本の紙が湿気を吸って脹らむ音すら聞こえてきそうな静けさ。
その無音の時は、のどかの顔を濡らす涙が乾ききるまで続いた。
舌も使わずに、くっつけるだけのキスを交わしながら、至近距離で見詰め合う二人。
やがて、のどかの手がおずおずとネギのネクタイに触れた。
それに応えて、ネギものどかのネクタイに手をかける。
あらかじめ練習していたかのように、同時に相手のネクタイをほどいた。
そのようにして、キスを続けながらお互いに上着の前ボタンを外す。
上着を脱がす。
Yシャツのボタンを外す。
Yシャツを脱がす。
アンダーウェアを脱ぐ時はさすがにキスは中断したが、脱いだ後に再び口付けする。
ネギがブラを外す間、のどかはベルトを外す。
膝立ちになる。
スカートとズボンのホックを外す。
体を支え合いながら立ちあがり、下着を落として足を抜く。
相手の服を脱がす仕草の一つ一つに、愛しさが満ちている。
そのまま、キスを続けながら全裸で二人は抱き合った。