クラスメートの中には委員長こと雪広あやかがおり、体と声を震わせながら言った。
「ア、アスナさんあなた……」
そこでだだだっと階段を駆け下りて、明日菜の胸倉を引っ掴む。
「こ、こここんな小さな子を連れ出してあなたは一体何をやってたんですか──っ」
あやかは涙目になっている。
「ち、ちが──」
「何が違うものですか。こ、こういうコトだけは絶対にしない方だと思ってましたのに」
「ご、誤解よ委員長」
誤解でもなんでもないはずだが、明日菜も普段さんざんあやかのことをショタコンと馬鹿にしているし、それ以前に先生に手コキしたなんてことがばれたら退学モノだ。彼女も目に涙を浮かべるほど必死である。
「ほらあんた……じゃなくて先生からも何か言ってくださいよ」
あやかの勢いに半ばかやの外だったネギは、突然自分にふられて「えうっ」と変な声を出した。
「言い逃れは見苦しいですわアスナさん!」
さらにエキサイトするあやか。それと一緒になって、お祭り好きの鳴滝姉妹も盛り上がる。
「え……いや……」
何と言っていいかわからず口ごもるネギ。
「ホラ先生早く!!」
明日菜の声も一層、悲鳴がかってきた。
「その……」
あまりの騒々しさに、とうとうネギの思考回路がパンクを起こした。
「きっ……き……記憶を失え〜〜〜っ!!」
「やめ───────い」
明日菜のためにホレ薬を作ったネギだが、明日菜のせいでネギが薬を飲んでしまう。クラス中の女子に追い掛け回され、のどかに助けを求めるネギ。
二人は図書室に逃げ込むが、のどかもまたホレ薬の効果を受けてしまう。アクシデントからネギを押し倒す姿勢になったのどかは……。
のどかの声を聞き付けた明日菜は、すぐさま図書室に駆けつけた。
さっき見せつけられたホレ薬の効果からすると、のどかもネギを追いまわすことになるだろう。ネギの方は別にそれで害はないだろうが、あとで正気に戻ったのどかが自分の行動を思い出した時どうなるか。
あの性格だから、自分のはしたない行いをひどく気に病み、最悪それがトラウマになってしまうかもしれない。
そんな不安が、ただでさえ人間離れした明日菜の足をいっそう速めるのだった。
ついに図書室の入口にきた明日菜。何やら中から、物の崩れる音と二人分の悲鳴がかすかに聞こえる。
慌ててドアノブを掴んで回すが、途中で止まってしまい、いつものカチャリという感触が無い。逆方向に回す。やはり駄目だ。
「げ、何よコレ。カギがかかってる」
両手でドアノブを掴み、必死で左右に回転させるが、内側からかかったロックがそれで外れるわけもない。
明日菜の額に汗が噴き出す。一体、二人は中でなにをやっているのだろうか?
「あ……あの宮崎さん………ど、どいてください〜〜……」
「は……はい……」
こめかみから汗を流しつつ、ネギが遠慮がちに言う。
ネギは本の山から崩れ落ちたのどかに、押し倒されたような体勢になっていた。
普段、長い前髪のために隠れているのどかの顔の上半分が、この下から見上げる格好だとよく見える。
さきほど一瞬だけ見せられた、汚れの無い可愛らしいのどかの素顔。それが朱に染まりつつ、ネギのことをじっと見つめている。
熱があるような、半ば夢の中にいるような、ぼうっとした表情だが、目の焦点はピタリとネギに合っている。