明日菜はちょっと眉を逆立ててキスを中止した。
「ちょっと……、胸まで触らせてあげるなんて言ってないわよエロガキ!」
口調は強いが、目がとろんと溶けたままなのであまり恐くない。
「あ……すいません……やっぱり明日菜さんとキスしていると姉のこと思い出しちゃって……」
と、こちらも夢うつつの表情で答える。
一方明日菜は、ネギの言葉で少し『酔い』が醒めたようだ。頬をひきつらせながら言う。
「あんたね〜、そりゃイギリスの習慣なんて知らないけど、あんた、お姉ちゃんとナニしてたのよ」
「え?」
目の前の少年の、あまり意味がわかっていない様子にあきれる明日菜。と、彼女はネギのスーツのズボンにある脹らみに気がついた。
「あ──っ! やっぱりエロガキじゃないこんなにして! 何なんにも知らないような顔してんのよっ!!」
「え?」
ネギは相変わらず何がなんだかわからないといった顔で、明日菜の視線を追って自分の股間を見る。
「わあああああああああっ」
突然のネギ大声に、明日菜は思わず耳をふさいだ。
「あわわわわわどどどどどうなってるんですか明日菜さんこれどうなってるんですかっ!?」
両手をバタバタさせ、瞳をうるませながら、すがりつくような視線を明日菜に送るネギ。その様子に、演技の気配はまるで無い。
明日菜はふうっとため息を一つすると、肩をすくめた。
「なに? ひょっとして、こうなったのはじめてなの?」
「は、はいいいいいいい。イギリスにいた時は一度も……やっぱり日本の食べ物が体に合わなかったんでしょうか」
「んなわけないでしょ。そりゃあたしだって詳しいわけじゃないけど、ごくありふれたものよ」
「そ、そうなんですか……。それじゃあほっとけば治りますよね」
明日菜の説明を聞いて、ようやくネギは落ち付いたようだ。
さて明日菜は、ネギのうつむいて股間を両手で抑えている様子を見て、少しおかしくなった。
やたら大人びたことを言うかと思えばろくでもない失敗をするし、とんでもない特技を持っているかと思えばこういう年齢相応の表情も見せる。
子供は嫌いと公言する明日菜だが、ネギのことを見ているうちに、不思議な暖かな感情が胸のうちに湧いてくる。
(母性本能……なのかな)
心の中でつぶやきながら、明日菜はしゃがんだ。ちょうど、ネギの股間の高さに頭がくるように。
「こうして見ると窮屈そうだけど……元に戻してあげようか?」
頬どころか顔中真っ赤にして言う明日菜。
一方ネギはというと、明日菜の言葉の意味を理解していないせいか
「お、お願いします! ありがとうございます!」
と無垢な喜びの表情を見せる。
「言っとくけど、うまくできるかどうかなんてわからないわよ。あたしだって柿崎に聞いただけなんだから……」
半ば独り言のように言いながら、明日菜はネギのベルトに手をかけた。
「え? あ、ちょっと」
慌てて明日菜の手を抑えようとするネギを振り払う。