☆魔法先生ネギま!☆213時間目

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 どん! と立ち昇った三本の光の柱から現れたのは三人の従者たちだった。椎名桜子、早乙女
ハルナ、宮崎のどかは危険な光を眼に宿らせながら堂々と、そして異様な殺気を放ちながら学園
に降り立つ。桜子は手に巨大なピコピコハンマ、のどかは手に一冊の本、ハルナは手にスケッチ
ブックを持っている。翼をリュックサックのように背負ったハルナが、素早く木乃香を救出した。
「ちっ、しくじったか―――」
 苦無を構えながらじりじりと距離を広げていく楓、流石の楓といえども三人の従者と同時に戦う
気にはなれない。魔力で強化されている上に強力なアーティファクトを持った強敵である。
 逃げる楓を見てハルナがにっこりと嗤い、スケッチブックから一冊の本を創りのどかに与えた。黒
いブックカバーで覆われた薄い本、手帳サイズの大きさでありページには何も書かれていない。

「ふふふ、のどか、せっかくだから楓ちゃんで、この本の威力を試してみなよ」
「うん、分かった―――」
 黒い本を片手にのどかが嗤いながらページを開いた。
「長瀬楓」
 名前を呼ぶと白紙のページに楓の名が記され、同時にページの左上から横に無数の文字が浮
かび上がった。それは瞬く間に一行、二行、三行と改行していき、あっと言う間にそのページを覆
い尽くしてしまう。そこに書かれているのは紛れもなく楓の脳内情報だった。脳内情報がランダム
に読み込まれて日本語に変換され、その黒い本に綴られているのだ。
 楓の背に寒気が走る。まるで首筋に刃を突き付けられている感触を何百倍も濃縮した黒い恐怖
が、楓の心を絶対零度にまで冷やしてしまう。レベルの差ではなく次元の差を感じた。のどかの本
から放たれる禍禍しい殺気が、否応無しに自分を壊すものだということを、楓は本能的に悟ってし
まった。
「う、うわあああああああああああああああ――――っ!」
 楓が苦無を構えてのどかに向けて加速する。途中で16人に分身し、16人が16人とも異なる武
器を装備していた。鎖鎌、苦無、爆薬、手裏剣、戦輪、刀などを構え、四方八方からのどかを包囲
し、そのまま逃げ場がないように一斉に攻撃を仕掛ける。しかし攻撃されるのどかは澄ました顔で
筆ペンを取り出し、攻撃する楓の顔は逆に恐怖に歪んでいる。
 苦無が、鎖鎌が、手裏剣が、バチバチと音を立てて呪符に弾かれた。のどかの手の動きは止ま
らない。使うつもりはなかった爆薬を躊躇わずに使用し、ぼん! と間抜けな音が響いた。しかし
障壁に守られたのどかは無傷で煙の中から現れ、筆ペンでゆっくりと、「長瀬楓」という名前を塗り
潰していく。

 その、筆で名前を塗り潰す行為が自分に致命的な影響をもたらすであろう事が、楓には直感で分
かってしまった。筆は容赦無く、楓の名前を全て塗り潰す。
「あ゛―――――――」
 名前が塗り潰された瞬間、読み込まれた楓の個人情報は墨のワイパーをかけたように真っ黒に
塗り潰され、同時に楓の目の前も闇黒に包まれた。分身が消える。かくん、と楓の身体が右に傾
き、持っていた武器が手から滑り落ちた。光の失った目はのどかを映す事はなく、のどかの前にど
さりと崩れ落ちた。