千本鳥居の奥、満開の桜の海に聳える関西呪術協会総本山―――
木乃香の祖父や父、何十人もの巫女が並ぶ大広間に一人の女が運ばれてきた。手足を魔法で
拘束され、無地の地味な着物を纏っている。彼女は麻帆良学園女子寮で捕えられた反乱分子で
ある。対策会議で関西に来ていた学園長は、この女の尋問に同席する事になったのだ。
「天ヶ崎千草の意識が戻りました―――」
近衛家の重鎮たちの前に女を運んできた巫女たちが、礼をして離れていく。
「ふむ、では聞かせてもらおうかのぉ。あの夜、女子寮で何が起こったのか」
殺気を含んだ老人の声が響く。しかし千草はそれに反応を示さず、ぽつりと呟いた。
「このかお嬢様はお元気なんか?」
「それが分かっていたら、苦労はせぬ」
老人の答えに、千草の顔が蒼白に転じた。
「に、逃がしたんか!? あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ! な、何てことや!」
錯乱した千草を、巫女たちが取り押さえる。
「お嬢様はウチらに報復に来る! 絶対に来る! あああ、頼む! 頼むわ! 早く、早くお嬢様
を捕まえてえな! 関西でも関東でもええから! 手に負えんようになる前に!」
口から泡を吹きながら、泣きながら千草は叫び続ける。
「手も足も出えへんだ! 侵入した四人組やって上位の術者やったのに! 戦力を全部集めて攻
めたのに! ああ、あああああああ、お嬢様を始末しようとしたウチを、絶対お嬢様は殺しに来る
わ! お、お願いや、お願いやから、ウチを守ってええええええええ―――ウキッ? ウッキー!」
「もう少し時間を置いて、尋問を再開しましょう」
木乃香の父が冷静に言いながら、錯乱する千草を魔法で猿に変えた。
カードで従者を呼んで、木乃香は命じる。
滅せよ。処刑せよ。沈黙させよ。排除せよ。滅殺せよ。全殺せよ。
エヴァンジェリン、茶々丸、長瀬楓、近衛家、関東魔法協会。
敵を滅ぼせ。討て。焼け。崩せ。壊せ。切れ。解け。
そして、せっちゃんと二人きりの楽園を、天国を、夢を、世界を―――
主人の最後の命令を、
実行せよ………………