「………え? あれ……?」
円も呆然として、ループ結界を易々と解除して立っているエヴァと茶々丸を見ている。
「どうやら、学園の結界が切られました」
「うむ、そのようだ……何かのトラブルか? まあいい」
エヴァはばさりと蝙蝠で編んだマントを纏って裸体を隠し、どこか残念そうに「ふふふ」と笑った。
結界の消失―――
エヴァの魔力を極限まで押さえている結界、それが消えた。
和泉亜子に大半を奪われて、残り僅かな魔力。それは普通の魔法使いレベルの力しかないが、しかし、結界がなくなった事でその力を存分に使える状態になったのである。
「え、えぇ!? なんで?」
訳も分からないまま、エヴァと茶々丸に気圧された円がバットを構える。
「ふう、やれやれ、私としたことが…危うく向こうに行っても奴にバカにされるところだった……」
目を軽く拭いながらエヴァは言った。
「とりあえず、和泉亜子のために貴様らは排除しておこう―――」
茶々丸が銃口を、エヴァが片手を円と美砂に向ける。何かを叫ぼうとした美砂と円の声を、爆発音が吹き飛ばした。
噴煙が晴れるとそこには円、美砂、そして美砂の兵隊たちが意識を失って転がっている。全員が完全に失神しており、円の学ランは胸の辺りが消失して乳房が見えている。
「………全員意識を失いましたが、数時間で目を覚ますかと思われます」
「よし、それまでに決着をつける―――では行くか、ジジイの孫のところに」
マントを翻したエヴァの後に、巨大な銃を持った茶々丸が続く。
「ところで、今の状態の私とジジイの孫、どちらが強い?」
「おそらく木乃香さんがまだ勝っているかと。彼女がどのくらい消耗しているかにもよりますが」
「………そうか、まあいい」
壊滅した占い研から、二つの影がゆっくりと消えていった。
学園の傍の木に立った黒装束の少女は、煙を上げる占い研部室を細い目で眺めていた。
「おいおい、本当に良かったのか? 学園の結界を切っちまって」
「まあ上出来でござる」
近衛家から収集した情報の中には「エヴァは女子供は殺さない」というものがあった。黒装束の少女はそれが正しかった事に安堵しながら、次の策を練る。
「さて、従者は片付いたが、問題は誰から仮契約の方法を聞き出すかでござるな」
黒装束は頭を掻いて苦笑し、携帯の相手と話している。
「しまった、あの時ネギ坊主を捕まえて聞き出すべきでござった……」
「おいおい、本当に仮契約の仕方をゲットできるのかよ……。 ま、後でガキや刹那に聞けば済む気もするが」
「いや、事件が解決してからでは、それは逆に危ない。下手すれば拙者たちが危険因子と見なされかねない。できれば、状況が混乱しているうちに何とか―――」
「そこらへんは長瀬に任せるよ。ああ、そうだなー、≪魔法少女アイドルちう≫かぁ……なかなかいいな。ま、まあ、女子寮を守ったのは私たちだし、それぐらいは、なあ?」
「そうでござるよ。魔法の力を安全に、そして有効に利用できるのは―――」
「その危険性を知り、そして撃退した経験もあり、知識もある私たちだけだ。クラスの能天気な連中じゃ、こんな力は使いこなせんよ。そう、私たちだけ……」
深い闇の中で、携帯電話の向こうの少女と黒装束の少女は声を殺して嗤う。
「とりあえずは観戦でござる。≪近衛の姫≫と≪闇の福音≫―――お互い全力を出し合って戦い、そして潰し合わせる」
「そして最後に勝つのは私たちだ。ふふ、ふふふ――――」
黒装束の少女は立っていた木の枝を軽く蹴り、そのまま跳躍して闇に消えた………。