(サウザンド・マスター………お前とこのように交わりたかった―――)
崩れ去る寸前のエヴァの意識が、わずかに震える。
あの男。
もう会えない。話せない。いっしょにいる喜びも、安心感も、あの胸が高鳴る想いも、もう二度と戻ってこない。
帰ってきてくれるって、言ったのに。
どれだけ絶望したか。その当時は毎晩のように枕を涙で濡らしていた。
何が残った……? 何も残らなかった!
どうして、どうして私を置いて死んでしまったのだ―――
帰ってきてくれるって言ったのに!
帰ってきてくれるって言ったのに…
帰って………
…
うそつき…。
こんな小娘に弄ばれて、結界に押し潰されて死ぬのか……
まあ、それもいい。
向こうで奴に会えるかもしれん。
どうせ行く先は同じ、地獄だろうし……
心残りは、和泉亜子の事だ。
人間に戻れない吸血鬼を作ってしまった。
真祖の魔力を奪い取りながら、自ら吸血鬼になった真祖とは対極の存在。
もし亜子が生きていたら、必ずこいつらとぶつかるだろう。
守ろうとするモノを壊そうとするこいつらと。
近衛木乃香は、私が仕掛けた桜咲刹那の罠にかかって弱体化するはず。
ジジイの孫は一筋縄ではいかんだろうから、できればここで仕留めてやりたかったが……無理か。
まあ、もういい。
私は、もうすぐお前のところへ行くぞ。
サウザンドマスター………
快楽に喘ぐエヴァの目から、一筋の涙が流れ落ちていった。
占い研の部室に水音が響き、窓からの月明かりが交わる二人のシルエットを壁に映し出す。