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名無しさんの次レスにご期待下さい:
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名無しさんの次レスにご期待下さい:2007/09/01(土) 16:11:11 ID:UoRcDtSQO
ぬるぽ
「直撃したけど弱いよ……。このかちゃんに貰った護符も一枚も減ってないし」
円も呆れたような、いや、エヴァを哀れんでいるように見下ろして言った。
「な、なに……そんな……」
エヴァは愕然として、魔法を放った自分の手を見る。
亜子に噛まれて魔力を奪われ、更に学園の結界の中。
しかし、敵にダメージも与えられないとは……。
「マスターから離れなさい。これは警告です」
解除プログラムを動かしながらも、茶々丸が銃口を円に向けた。
「だってさ。どうするの? マスターさん」
円は釘バットをマントに引っかけてエヴァを吊るし、茶々丸に向けて嗤った。
「あ、マスターさんはお腹が痛くて喋れないのかもね。手加減したんだけど」
エヴァのボンテージは攻撃を受けた部分が破れ、内出血を起こしたお腹が晒されている。
ボンテージ自体が魔法のアイテムで防御力もあるのだが、破られたようである。
エヴァは手足をだらりと脱力させてぴくぴく震えながら、血が伝う口を動かした。
「いかん……茶々丸、お前は、ごほっ、結界の解除に全力を尽くせ……」
茶々丸が結界解除を中断して戦闘に参加すれば、解除は間に合わずエヴァたちはループ結界に潰される。
状況は絶望的だが、不幸な結末の分かっている選択肢だけは選べない。
その時、放送設備を使って大音量で、学園の外部に柿崎美砂の歌が流れ始めた。
「美砂がネギ君捕獲を始めたね。何ていう曲だろ? あ、そうだ。面白い事考えた」
ずむ!
「―――うぐっ! うぐ、あ、あああ゛ぁっ!」
円はエヴァを床に落とすと、バットの先(釘はない)でその華奢な腹部を突いた。
エヴァの小さい身体がくの字に曲がり、手で腹を押さえてブロンドの髪を振り乱す。
胃の中身が逆流して口から漏れ、肺が機能しなくなり呼吸が止まった。苦しい。
「うあ、あ、ああ゛あ゛あ゛……あ゛、あ゛―――」
口から血や唾液や胃液を垂れ流し、目から涙を零して苦痛にのたうちまわる姿は真祖などではなく、暴力に抵抗する手段を持たない脆弱な少女でしかない。
「まだまだこれからだよぉ。マスターさん?」
「あっ……」
バットを放した円がエヴァのブロンドの髪を掴み上げ、「ぐー」で顔を殴り始めた。
「あ゛っ、あうっ、あ゛うっ!」
エヴァは手足をばたつかせて円を蹴ったり叩いたりしているが、円には効いていない。
円の腕が動く度に鈍い音が響き、エヴァの身体は前後、または左右に軽く揺れた。
「マ、マスター! 」
鼻から血が垂れ落ちて、殴られる度にエヴァの顔が歪む。
茶々丸の前で、エヴァは血と涙を散らして綺麗な顔を腫らしていった。
「あ゛っ、はあ゛っ、ぁ……ああ゛っ!」
円がエヴァを髪を引っ張り、ぶちぶちと千切れたブロンドの髪が手に残った。
「助けたかったらどうぞ、茶々丸さん」
円が挑発するようにっこりと嗤う。
「結界解除なんて命令無視しても助けないと、マスターさん、死んじゃうかも。たいぶ障壁も弱くなってるし」
茶々丸はエヴァの命令を守り、決して戦闘には参加してこない。
円は確信して、嗤いながらそう言った。
エヴァの腫れた美顔をぐりぐりと踏み躙りながら、円は釘バットの先をボンテージに覆われた乳房に置いた。
成長を止めた幼い乳房を硬いバットで交互に突いて押し潰し、抉るように回転を加える。
その姿は学ランの学生がフランス人形を壊しているような、かなり異様な光景である。
「あれー? 障壁消えた?」
円はにたりと茶々丸の方を見て嗤うと、エヴァのマントを釘バットに絡めてびりびりと引き裂いた。
「マスター! 先程の命令を取り消し、攻撃命令を!」
「うぐ、う……」
「まだ障壁残ってるじゃん、しつこい!」
股間を締めている黒いボンテージを観察していた円がエヴァの髪を掴んで立たせ、いきなり釘バットで股間を叩いた。
エヴァの細い足の付け根に、武骨なバットが食い込む。
「いやああ゛あ゛あ゛あ゛―――っ!」
エヴァの顔が、まるで歳相応の少女のような泣き顔に変わった。
ボンテージからバットが離れると、白い太ももに赤い筋が何本も伝い落ちた。
「あああ、ああああああ―――っ!」
「あーあ、障壁が消えちゃった」
円が茶々丸にそう言うと、茶々丸は一瞬ぎしりと動こうとしたが、やはり止まる。
「ふふふふふ」
股間を押さえて泣き叫ぶエヴァのボンテージを、円がびりびり破って剥ぎ取っていく。
ボンテージの下の白い肌は内出血を起こして変色し、突起だけの膨らんでいない乳房も無惨に腫れあがっている。
折れそうな細い手は脱力し、脚は血の筋が流れて汚れ、毛も生えていない小さな恥部は傷ついて血で赤く染まっていた。
身体中を暴力でボロボロにされ、乳房も性器も蹂躙され、服を剥かれて晒しものにされる。
体液を垂れ流した、あまりに無惨な姿。
嬲られた小学生の肉体。
真祖の威厳などどこにもない。
「どうしてあげよっかなー」
エヴァの両足を掴んでY字型に持ち上げた円が、茶々丸に嗤いかける。
「これ、入るかな? 試してみよう」
円はエヴァの片足を離し、そばに落ちていたモップを拾い上げる。
そして片足を掴み上げた状態でモップの先を、暴れるエヴァの狭い膣に押し込み始めた。
「ぐあ、ああ……や、やめろお……あ、ああああっ!」
モップを性器にねじ込まれたエヴァが悲鳴を上げる。
「く、貴様ぁ……こんな、あっ! あぐうぅっ!」
膣にモップの柄を挿入した円は、奥まで到達したモップでごりごりとエヴァの膣内を嬲る。
「あ、あああっ! やあ、ああ゛っ! あああああああああああああ―――っ!」
「ふふふ、お人形遊びみたい。でも茶々丸さん冷たいねー。マスターさんが酷い目にあってるのに」
股間からモップを生やしたエヴァの姿を見て、
容赦ない暴行を全身に受け、腫らした顔と流れ落ちる血を見て、
温かみの欠片もない硬い棒に性器を穿られ、嬲られる姿を見て、
悲鳴を聞いて、泣き声を聞いて、苦しむ声を聞いて、
結界が解除できれば3秒で仕留めてやる。
円の行動シミュレーション137パターンを計算し、
戦闘準備を整えて、
今はまだ従者は主人の命令をただ守る。
「このちゃん、こっちやよ。一人で早く、ウチのところに来てな―――」
突然目の前に現れた「ちびせつな」に導かれ、木乃香はループ結界をオートにして、焦ったような顔で階段を駆け上がっていた。
「せ、せっちゃん、何があったんやろう……」
「立入禁止」と書かれた壊れたドアを破ると、涼しい夜の風が木乃香の頬を撫ぜた。
学園・屋上―――
「せっちゃん!」
木乃香のオレンジ色の着物と、長い髪が風に靡く。
桜咲刹那は屋上の中央で、一糸纏わずにしなやかな裸体を夜の闇に晒していた。
片手には闇を映して鈍く輝く愛刀、もう片方には呪符の束が握られている。
「このちゃん」
刹那が微笑んで木乃香を出迎える。
「せっちゃん……」
二人が向かい合い、距離が縮まり、そして―――
麻帆良学園の放送網―――スピーカーは学園の広域に及び、学園都市メンテナンス時の停電前の放送などに用いられている設備である。
他人の心を歌で惑わし、操る美砂のアーティファクト『傾国のマイク』を使うならば、その設備を利用しない手はないだろう。
「さーて、ストレス解消もかねて、思いっきり歌っちゃうよぉ―――」
円から「ネギ君逃走」との知らせを受けた柿崎美砂はパチッ、パチッ、と放送機材のスイッチをリズムよくONにしながら、カードを「♪」を逆さまにしたような形状のマイクに変え、大きく息を吸い込んだ。
「――――――――――――――――――――――――っ!!!!」
ネギ君を捕まえて―――
その願いが込められた美砂の歌声は、麻帆良学園を巨大なコンサート会場に変えながら響き渡り、学園を警備している奴隷化した生徒100人以上に、命令としてその鼓膜を震わせる……。
「危ないっ! や、止めてください―――っ!」
大音量の歌が響き渡る中、ネギとカモが乗った杖はふらふらと低空飛行で学園の敷地内をさ迷っていた。
歌声に操られた生徒たちはハルナが創りばら撒いた武器、魔法銃や弓矢などを空に向けて嵐の如き攻撃でネギを撃ち落そうとし、二重、三重の防衛ラインを成して逃亡を阻んでいる。
「兄貴、もっと速く、いや、高く飛んでくれっ! 矢が尻尾に刺さっちまう!!」
「今の力じゃ、これが精一杯だよぉ! え? う、うわああ―――っ!?」
新手の追手が真上から現れる。その生徒たちはリュックサックのように背負える翼を装備し、ネギの杖に急降下してネギを羽交い締めにし、呪文を唱えられないよう口を塞いだ。
「ラス・テル・マ・ステむぐう! むぐぐ……む、むぅ――っ! ん、ん―――!?」
杖はジグザグに飛びながら高度を下げ、まるで地獄に引きずり込まれていくように美砂の兵隊が群がる地上へと落下していく。
その時、ブツン! と美砂の歌声が突然止まった。
生徒たちの動きには精彩がなくなり、ネギを羽交い締めにしていた手の力が緩む。地上の生徒たちも、目的を無くしたようにバラバラな行動をし始めていた。
「何か分かんねーけど、今がチャンスだ兄貴!」
「う、うん!」
ネギは力を振り絞って杖を飛ばし、そのまま美砂の兵隊の包囲を破って逃げていった。
「あの生徒たちの翼、ハルナたちが飛ぶのに使ったのと同じモノ……。ふーむ、存在し得ないアイテムを創造し、それを量産する能力―――思ったより厄介でござるな」
深く茂った樹の枝葉に隠れながら、黒装束の少女は穏やかな、しかし鋭い光を宿した目を開く。
「放送設備は使用禁止に設定したけど、それで良かったのか?」
携帯から聞こえてくる女声に、黒装束は満足げに肯定の返事を返した。
歌声が消えると、群がっていた生徒たちは統率を失って虚ろな目で徘徊し始めた。歌がなければ「怪しい者に遭遇すれば阻止せよ」程度の命令しか受けていないのだろうか?
しゅた、と黒装束の少女が地上に降り立ち、そのまま統制を失った生徒たちに襲いかかる。
矢や魔法銃が発射されるが命中しなかった。黒装束は闇の中で16人になり、生徒たちを幻惑しながら一人、また一人と敵の数を減らしていく。
しかし、圧倒的な黒装束の少女の胸中では、ある思いが大きくなっていた。
――――身体が、あの時のように動かない
黒装束の少女は以前、女子寮で吸血鬼になった事があった。
身体はあの時の感覚を鮮明に覚えている。肉体は羽のように軽くなり、力は身体中に満ち溢れてコンクリも簡単に砕け、ヘリを易々と落とせたあの感覚を―――
もっとも力は朝には失われてしまい、少女も最初はそれが良い事だと信じて疑わなかった。少女にとって力とは、修行を積み重ねて手に入れるものであり、魔法に頼るなどしてはならないという答えに至る。
しかしあれから数日、木乃香たちの動きを探る過程で少女は、強力な魔法の力を見せつけられてしまった。
人を操る力、心を読む力、創造する力……それらは普通に修行するだけでは到達できない場所にある力だった。
きっかけは何か分からない。いざという時は双子などを守らなければならないので、力が欲しかったのか―――それとも単に、さらに強くなりたかったのか。
ただ、まるでコインが回転するように、いつの間にか気持ちは裏返った。
全滅した生徒がそこら中に転がっている。
黒装束の少女はゆっくりと携帯を取り出すと、再び通話ボタンを押した。
「もう終ったのか? 早いな」
「千雨、お主に一つ問う」
「……え?」
「お主、魔法の力を欲しくないでござるか―――?」
黒装束の少女はぞっとするような低い声で、携帯の向こうにそう伝えた。
それは両者間で無意識の内にタブーになっていた問いかけだった。
黒装束の少女は何も答えずに、携帯の向こうで沈黙した仲間の返事をずっと待った。
女子寮を救った少女たち。真相に最も近い少女たち。魔法に近づき過ぎた少女たち。そして、仲間を救おうとここに至った少女たち。
魔力で操られた生徒たちは既に動かず、少女たちは何も言わない。
ただ闇は静寂を好むのだろうか、色濃い闇がさらに深く黒装束を包んでいく。
そして、返事は―――
「ひう……ふうう…ふうう…ふう……」
占い研究会の部室は、喉を震わせたエヴァの呼吸音が聞こえるほど静かになった
エヴァを床に倒しての平らな胸を踏み付け、弱々しく開かれた脚の間から生えているモップで、幼い少女と違わない淡い色の性器をごりごり抉っていた円は、訝しげに眉を寄せた。
「美砂の歌が止まった? もうネギ君を捕まえたのかな……でも、ちょっと早過ぎる……」
「ふううぅ……痛い…痛い…抜いて、くれ……」
「うるさいなあ。そんなに痛いなら、気持ち良くしてあげる」
円はモップをエヴァから抜くと、ネギが監禁されていた檻から尿のような黄色い液体が入ったフラスコを拾ってきてエヴァの顔に近づけて、ゆっくりと振って見せた。黄色い液体に泡が混じる。
「これが何か分かる?」
「………性交に用いる初歩的な魔法薬……媚薬だな。驚いた。ジジイの孫はもう、魔法薬の調合までできるようになったのか……」
円はにっこりと嗤ってフラスコのゴム栓を外し、手で扇ぐように香りを嗅いだ。
「正解ぃ。ネギ君はこの薬少しで勃起が治まらなくなって、一日中本屋ちゃんと檻の中でセックスしてたんだよ。じゃあさ、これ全部飲んだらどうなるんだろね?」
「な、に………まさか貴様、それを私に………バカな真似は止めろっ! 魔法薬の素人が! うぐう!」
円の片方の手が、エヴァの無惨に腫れた人形のような顔に伸びて顎を掴んで口をこじ開け、もう片方に持ったフラスコをエヴァの、血で汚れた小さな口にねじ込んでいった。
「マスター!」
「んん―――っ!」
従者の茶々丸の見ている前で、エヴァの目から何度目か分からない涙が零れ落ちる。エヴァの口に押し込まれた出口から泡だった黄色い液体が口内に充満し、嗚咽する狭い喉を流れ落ちていく。
口から垂れ落ちた黄色い涎は内出血で蒼くなった乳房にぼたぼた滴り、淡い色の突起や肌を黄色く汚しながら凹凸の少ない身体のラインを伝い落ち、咽るような臭気が場に立ち込めた。
「ゔゔゔ――――――――――――――――――――――っ!」
西洋の人形のような体躯をガタガタ震わせて手足をばたつかせ、用量を大量オーバーしている媚薬を注ぎ込まれるエヴァが痙攣するように悶え始めた
胃に流れ込んだ媚薬が吸収され、皮膚を伝った媚薬が肌に染み込んでくる。外と内から溶け込んだ過剰な媚薬は瞬く間に効果を発揮し、少女の幼い身体を溶鉱炉のように熱くさせる。
エヴァの身体の至る部分から汗が噴き出してきた。おでこや首筋、乳房や背中、脇の下や膝の裏、そして股間や尻の割れ目の間から、水滴がみるみる溢れ出して滝のように伝い落ちる。
「ゔあ゙っ、あ゙あ゙ぁ――――――――身体がぁ――――――っ!」
口から涎を垂らし、目から涙を垂らし、頬を紅く染めながらエヴァが叫んだ。未成熟な胸は相変わらずだったが、淡い色の突起がピンと張り詰めてその存在感をアピールしていた。
「マスター! しっかりしてください!」
従者の呼びかけは耳に届かなかった。乳房がドロドロした欲の塊に変わる。恥部からは血を洗い流すように愛液が染みだして濡れていき、男根に飢えたむず痒い悲鳴を上げてエヴァを苛ませる。
全身が敏感になり、神経が研ぎ澄まされて性感に繋がっていく。狂っていく身体をどうする事もできないままエヴァはガクリと膝を折って床に崩れ落ち、自らの火照った身体を自分で抱き締めて悲鳴を上げた。
しかし、焦点が狂いかけた目はまだ光を失っておらず、焼き尽くされようとする理性の最後の抵抗を思わせる。その必死な瞳が円の嗜虐心を増幅させた。
円は陥落寸前のエヴァに跨って手首を縛って平らな胸を捏ねまわし、勃起した乳首を爪先でこりこりと弄んで反応を愉しんだ。
「はひぃ、ひっ、ひいぃ……や、めてぇ、頭、、変になる……ひっ……ひいい……」
理性で我慢できる快楽の限界は超えていた。100年を超える時を生きていた闇の女王が、20年も生きていない少女に乳首を弄ばれるだけで無様な牝の声を上げ、股間を更に濡らしていく。
「んじゃあ、トドメをさしてあげる。ループ空間もだいぶ狭くなって時間もないし。これで最後、押し潰される前に……」
円はポケットからペニスバンドを取り出してエヴァに見せる。ただしそれはベルトに本物の生々しい男根を接着したような不気味な代物だったが、エヴァはそれを見て歓声に近い悲鳴を上げた。
「これはねー、ハルナちゃんがアーティファクトで作った玩具なんだけど、実は射精とかできたりする優れもの。みんなに試供品として配られてるの」
「ふうぅ―――ふうぅ―――ふうぅ―――ふうぅ―――」
エヴァの顔に屈辱と渇望、期待と恐怖が入り乱れる。そのペニスバンドは長さ・太さ共に怪物級であり、エヴァのサイズに合っているとは言い難かったが、エヴァは股間の疼きを押さえられない。
円はエヴァの顔を見て征服欲を刺激されたのか、立ち上がるとカチャカチャと学ランのベルトを外しズボンを緩め、淡いブルーの下着を下げる。そこには赤黒く充血した巨根が堂々と聳え立っていた。
「手間取らせないよ。最初から装着してるし」
「はひ、ひいぃ―――っ!」
突然の事に思わず後退するエヴァ。しかし円はエヴァを脚を掴むと、そのまま自分の身体をエヴァの脚の間に滑り込ませた。そしてエヴァの飢えた股間に特大の餌を押し込む。
「う、ぁ………!?」
「くふふふふ」
オモチャにされたエヴァの性器に、敵対する関係にある者が結合する。
膣を押し広げて突き進んでくる巨根を、欲情したエヴァの肉体はしっかりと受けとめていた。体内に突き入れられた肉の棒が前後し子宮を小突くたびに、押し寄せてくる快楽の波に翻弄される。
「あ゙あ゙っ! ああっ! あっ! あっ!」
エヴァは惚けたような顔で身体を揺らしながら、外見に似合わない艶のある声を上げた。縛られた手がバタバタ暴れ、噴き出た汗でべとべとした肉体が淫靡に震えた。
「へえ、いい声で鳴くじゃん」
「はああ、はあ、はあ、も、もっと……」
円が微かに頬を赤くしてエヴァを見、薄っすらと嗤う。
「もっと激しくしてあげる」
エヴァの反応を見て気をよくした円が、ペースを速めてエヴァの幼い身体を犯していく。動きに合わせてエヴァは、悲鳴と悦びが混ざったような声を断続的に上げてそれに応えた。
「あっ、あっあっあっあっ、はあ、ああ、あっあ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ―――」
男根の破壊力にエヴァの理性が吹き飛んでいく。ピストンの度に思考は真っ白になり、ただ快楽で満たされていった。
(サウザンド・マスター………お前とこのように交わりたかった―――)
崩れ去る寸前のエヴァの意識が、わずかに震える。
あの男。
もう会えない。話せない。いっしょにいる喜びも、安心感も、あの胸が高鳴る想いも、もう二度と戻ってこない。
帰ってきてくれるって、言ったのに。
どれだけ絶望したか。その当時は毎晩のように枕を涙で濡らしていた。
何が残った……? 何も残らなかった!
どうして、どうして私を置いて死んでしまったのだ―――
帰ってきてくれるって言ったのに!
帰ってきてくれるって言ったのに…
帰って………
…
うそつき…。
こんな小娘に弄ばれて、結界に押し潰されて死ぬのか……
まあ、それもいい。
向こうで奴に会えるかもしれん。
どうせ行く先は同じ、地獄だろうし……
心残りは、和泉亜子の事だ。
人間に戻れない吸血鬼を作ってしまった。
真祖の魔力を奪い取りながら、自ら吸血鬼になった真祖とは対極の存在。
もし亜子が生きていたら、必ずこいつらとぶつかるだろう。
守ろうとするモノを壊そうとするこいつらと。
近衛木乃香は、私が仕掛けた桜咲刹那の罠にかかって弱体化するはず。
ジジイの孫は一筋縄ではいかんだろうから、できればここで仕留めてやりたかったが……無理か。
まあ、もういい。
私は、もうすぐお前のところへ行くぞ。
サウザンドマスター………
快楽に喘ぐエヴァの目から、一筋の涙が流れ落ちていった。
占い研の部室に水音が響き、窓からの月明かりが交わる二人のシルエットを壁に映し出す。
茶々丸は何も言わず、泣くエヴァの姿を眺めながら、最早無駄な抵抗に近い結界解除作業を続けていた。従者のすぐ前で主人は淫らな声を上げて絶頂に向っていく。
「は、ああぁ………!」
絶頂に達したエヴァの肉体がビクン! と震えた。その顔に真祖の面影は一片もなく、ただ性的な欲望に満たされた幸せな、そして哀れな少女の微笑みがそこにあった。
巨根が限界に達し、エヴァの蜜壷にどくどくと大量の精液を注ぎ込んだ。エヴァは抵抗もすることなく、まるで締めているようにその行為が終わるのを待っていた。
「な、なんか調子狂うなー」
円は逆に興醒めしたようで、エヴァをぽい、と乱暴に茶々丸の方に投げた。茶々丸はそれを受けとめるとハンカチを出してエヴァの股間を拭き、そして懐から試験管を出してエヴァに飲ませる。
「………うう」
解毒作用がある薬のようで、エヴァの理性が少しづつ戻り始める。それを確認すると茶々丸は、その事に関しては何も言わずに陵辱された主人の脇に控える。
「忠実だねー。茶々丸さん」
嗤う円が立っている場所を、ループ結界の境界線が透り抜けていく。
エヴァと茶々丸を中心にしたループ結界の球が、どんどん縮んで小さくなっていく。。
結界の半径は3メートルを切った。
エヴァは何も言わずに立ちあがる。
結界が縮む。
2メートルを切った。
「ぷはははははは、お別れだね。エヴァちゃん。茶々丸さん」
円が歪んだ笑みを浮かべる。
「これから邪魔する全ての者は奴隷にされる。麻帆良は木乃香ちゃんと桜咲さんのモノになる―――」
半径は茶々丸の身長より小さくなった。結界の中でしゃがむ茶々丸。
エヴァと茶々丸は身を寄せ合い、押し潰されるのを待つだけになった。
「茶々丸。頼む」
エヴァが静かに言った。
茶々丸は無言で、持っていた銃をエヴァの頭に向ける。
「わお」
円が目を丸くして、見届けようと少し前に出る。
と、その時、それは起こった―――
「あ」「む?」
茶々丸とエヴァは同時に声を上げた。それとほぼ同時に廊下の方からバタバタと、複数の足音が聞こえてきた。
「円! やばい! ネギ君に完全に逃げられた! 外にいる連中はなぜか応答もしないし、放送室は使えないし、木乃香ちゃんもどこにもいない!」
美砂が焦ったような声を上げながら、片手にマイクを持って数人の兵隊と占い研に入ってきた。
「マジでやばいよ! 何か言い訳考えとかないと、本屋ちゃんが「アレ」を使ったら、私たち手も足も出ないまま何されるか分から―――」
アレと称されるもの―――ハルナがのどかの為にアーティファクトで創った強大な「武器」、美砂と円が二人がかりで挑んでも勝ち目は薄い反則技。
しかし美砂の思考はすぐに止まってしまった。目の前の光景の意味が分からないからだ。
「………え? あれ……?」
円も呆然として、ループ結界を易々と解除して立っているエヴァと茶々丸を見ている。
「どうやら、学園の結界が切られました」
「うむ、そのようだ……何かのトラブルか? まあいい」
エヴァはばさりと蝙蝠で編んだマントを纏って裸体を隠し、どこか残念そうに「ふふふ」と笑った。
結界の消失―――
エヴァの魔力を極限まで押さえている結界、それが消えた。
和泉亜子に大半を奪われて、残り僅かな魔力。それは普通の魔法使いレベルの力しかないが、しかし、結界がなくなった事でその力を存分に使える状態になったのである。
「え、えぇ!? なんで?」
訳も分からないまま、エヴァと茶々丸に気圧された円がバットを構える。
「ふう、やれやれ、私としたことが…危うく向こうに行っても奴にバカにされるところだった……」
目を軽く拭いながらエヴァは言った。
「とりあえず、和泉亜子のために貴様らは排除しておこう―――」
茶々丸が銃口を、エヴァが片手を円と美砂に向ける。何かを叫ぼうとした美砂と円の声を、爆発音が吹き飛ばした。
噴煙が晴れるとそこには円、美砂、そして美砂の兵隊たちが意識を失って転がっている。全員が完全に失神しており、円の学ランは胸の辺りが消失して乳房が見えている。
「………全員意識を失いましたが、数時間で目を覚ますかと思われます」
「よし、それまでに決着をつける―――では行くか、ジジイの孫のところに」
マントを翻したエヴァの後に、巨大な銃を持った茶々丸が続く。
「ところで、今の状態の私とジジイの孫、どちらが強い?」
「おそらく木乃香さんがまだ勝っているかと。彼女がどのくらい消耗しているかにもよりますが」
「………そうか、まあいい」
壊滅した占い研から、二つの影がゆっくりと消えていった。
学園の傍の木に立った黒装束の少女は、煙を上げる占い研部室を細い目で眺めていた。
「おいおい、本当に良かったのか? 学園の結界を切っちまって」
「まあ上出来でござる」
近衛家から収集した情報の中には「エヴァは女子供は殺さない」というものがあった。黒装束の少女はそれが正しかった事に安堵しながら、次の策を練る。
「さて、従者は片付いたが、問題は誰から仮契約の方法を聞き出すかでござるな」
黒装束は頭を掻いて苦笑し、携帯の相手と話している。
「しまった、あの時ネギ坊主を捕まえて聞き出すべきでござった……」
「おいおい、本当に仮契約の仕方をゲットできるのかよ……。 ま、後でガキや刹那に聞けば済む気もするが」
「いや、事件が解決してからでは、それは逆に危ない。下手すれば拙者たちが危険因子と見なされかねない。できれば、状況が混乱しているうちに何とか―――」
「そこらへんは長瀬に任せるよ。ああ、そうだなー、≪魔法少女アイドルちう≫かぁ……なかなかいいな。ま、まあ、女子寮を守ったのは私たちだし、それぐらいは、なあ?」
「そうでござるよ。魔法の力を安全に、そして有効に利用できるのは―――」
「その危険性を知り、そして撃退した経験もあり、知識もある私たちだけだ。クラスの能天気な連中じゃ、こんな力は使いこなせんよ。そう、私たちだけ……」
深い闇の中で、携帯電話の向こうの少女と黒装束の少女は声を殺して嗤う。
「とりあえずは観戦でござる。≪近衛の姫≫と≪闇の福音≫―――お互い全力を出し合って戦い、そして潰し合わせる」
「そして最後に勝つのは私たちだ。ふふ、ふふふ――――」
黒装束の少女は立っていた木の枝を軽く蹴り、そのまま跳躍して闇に消えた………。
今、麻帆良学園を襲っている現象は、近づく者や関わる者を否応無しに巻き込み、拡大する混迷の渦である。その忌々しい渦を生んだのは真祖と呼ばれる吸血鬼の少女だった。
その渦巻きに最悪の形で巻き込まれたのが、吸血鬼に変質し戻れなくなった一人の少女であるならば、以下に挙げる二人はさながら渦巻きに呑まれず、台風でいう目の位置に立っていたと言えるだろう。
一人は見習い剣士、名は桜咲刹那。
古都京都に本拠地を持った掛値なしの戦闘集団「神鳴流」の一員。魔法剣士。気を込めた剣は一振りで岩を砕いて魔を切り裂き、跳べばワイヤーアクションのように壁を越えるその能力は、常人を遥かに凌駕している。
肌は白く端整な顔、目は刃物のように鋭い。背は小さいが四肢は鍛えられ引き締まっている。肉体はまだ熟れてはいないものの、硝子のような強さと脆さを内包した美しさに、男たちは思わず足を止めるだろう。
もう一人は何も知らされずに育てられた才能、名は近衛木乃香。
祖父は関東魔法協会の長、父は関西呪術協会の長。日本魔法界の中核「近衛家」、その血に秘められた強大な魔力を受け継ぐ令嬢である。その才能は関東を滅ぼせるとさえ謳われており、千の呪文の男をも超える。
おっとりとした性格の大和撫子であり、長い黒髪が美しい。幼さが残る美顔からこぼれる笑みはホットケーキのように場を和ませる不思議な雰囲気を放っており、これも一種の彼女の才能だろう。
二人は最初、お互いに大切な友達だった。立場も、家も、身分も関係ない、純白のティッシュペーパーのような関係である。しかしすぐに友達は護衛に変わり、また友達はお嬢様に変わっていった。
時間は溝に、絆は闇に、願いは影に、想いは力に、
欲は暴力に、愛は鎖に、自責は罪に、夢は現実に、
近衛の姫は吸血鬼に、護衛の剣士は生きる傀儡に、
変わりゆく全てを受け入れながら進む二人に、そして今―――
学園・屋上―――
「せっちゃん」
「このちゃん」
周囲に満ちていた夜の闇は二人の会話に反応するようにざわめきだし、煽るような強い風をどこからともなく運んできた。木乃香の長い髪とオレンジの着物が、風に流されてゆらゆらと靡く。
母のお腹から産まれたままの姿の刹那は、片手に刀を、片手に呪符の束を持ち、冷たいコンクリートの上をひたひたと歩いて木乃香の方に近づいていく。その肉体には薔薇のような香りが纏わり付いていた。
風に乗って漂ってきたその香りをくんくん、と嗅ぎながら、木乃香は眉を少し寄せた。
(この香りは………魔法薬?)
刹那はそのまま木乃香の前で、目を愛らしく細めて頬を朱に染めながら「えへへ」と無邪気に微笑んでみせた。木乃香もそれに応えるように華のような笑みを浮かべる。
刹那は嬉しそうに刀を前に翳して、刃に刹那と木乃香を歪めて映しながらまた「えへへ」と嗤う。
しかし、女子寮で誘拐しようと時と同様、今の状態の木乃香には刀は通用しない。
木乃香の纏うオレンジの着物がざわりと、風に逆らうように波打って動いた。
しかし刹那はそのまま刃を水平に構えて、
一気に突き、そして抜けた。
「え……」
木乃香の思考が数秒停止した。
木乃香の前で、背中から刃を生やした刹那は反動で回転しながら、しかし微笑みながら刀を握る手に力を込めて、そのまま刀を引き抜いた。
「えへへ…ごほっ!」
刹那の口から、そして身体から流れ出す液体がぽたぽたと屋上のコンクリに染みていく。べっとりと濡れた刀が刹那の手から滑り落ち、からん、と乾いた音を立てて転がっていった。
「あ、あ……?」
よろよろと木乃香が刹那に近づいていく。まだ思考は正常に戻っていない。刹那はそんな木乃香に、やはりにっこりと微笑みながらどろりと口から液体を垂れ流し、そして倒れた。
「き…きゃああああああああああああ――――――! せっちゃん!」
木乃香が刹那に慌てて駆け寄る。素人目から見ても、刹那の傷は決して浅くない。早く回復魔法をかけなくては命に関わりかねない。
木乃香は倒れた刹那の傷に手を置き、回復魔法を唱え始める。溢れる液体で指や爪がべたべたになったが気にしてはいられない。
しかし刹那は突然目を開くと、刀を握っていた手で木乃香の手を掴み、もう片方に握っていた呪符を全て発動させた状態で木乃香の身体の、胸の辺りに押し付けた。
「きゃっ!? せ、せっちゃん、何するん?」
木乃香の障壁と刹那の呪符がバチバチと反発し火花を散らした。どうやら呪符は攻撃用の代物らしい。それと連動して刹那の身体にも負荷がかかるのか、傷が広がりプシャ! と液体が勢いよく吹いた。
「せ、せっちゃん………」
木乃香を捕えた刹那は蒼白な顔で、「えへへ」と邪気のない笑みを浮かべた。
エヴァのかけた暗示、それはつまり、そうする事だった。
木乃香を確実に追い詰めるための、トラップ。
せっちゃんの傷がこれ以上広がると、手遅れになる。
罠だろうが関係ない。
せっちゃんが一番大切なのだから。
せっちゃんの護衛はもう要らないと言い切ったのだから、自分は強くなったと言い切ったのだから。
ウチがせっちゃんを守ると言い切ったのだから―――
木乃香は躊躇いなく自分を守っている障壁を解除した。オレンジの着物は消えてなくなり、木乃香は刹那と同じく産まれたままの姿になった。
「きゃあああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙―――――――っ!」
反発は収まり刹那の傷が広がるのは止まったが、呪符から流れ込んでくる電撃のようなものが、無防備になった木乃香の身体を貫いた。身体が砕け、精神が焼き切れるかと思うほどの激痛が木乃香を襲う。
髪を振り乱して泣き叫ぶ木乃香の腕を、刹那はしっかりと掴んで離さない。呪符を押し付けられた木乃香の胸は乳房が真っ赤に腫れ上がり、刺激で乳首が立ってぷるぷる震えている。
「いやあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ―――、せ、せっちゃ……ん―――、い、今あ、治して…あ゙あ゛あ゛っあげる、がらぁ、も、も゛う少し、だけぇ、あ゛あ゛あ゛あ゛っ! あ゛あ゛あ゛あ゛っ! がんばってな、ぁ……」
激痛で集中できず、回復呪文の光はネオンのように点滅して上手く治療できない。
「うん、ウチがんばるね。ゴホッ、ゴホッ、だからこのちゃんもがんばってな」
刹那は蒼い顔で口を赤く染めながらにっこりと嗤って、そう答えた。
「果たして木乃香さんはどの程度消耗しているでしょうか?」
「枯れ果ててくれていると楽だがな」
濃厚な闇の気配が辺りに満ち満ち、その中からぬるりと人影が屋上に現れる。
生きた蝙蝠で編まれた漆黒のマントを纏うブロンドの少女と、巨大な銃を装備したメイド服のロボット―――従者二人を退けて「主人」の元に辿り着いたエヴァンジェリンと茶々丸である。
二人の前では一糸纏わぬ姿の刹那と木乃香が絡み合うように抱き合い、冷たいコンクリに転がっていた。周囲にはどす黒い染みが飛び散り、少し離れた場所には汚れた刀が転がっている。
「せ、っちゃん……」
ゆらりと立ちあがった木乃香が、闇にその身体を預けるような無防備な姿でぽつりと呟いた。刹那は安らかな顔で眠っており、微かに上下する乳房が呼吸をしている事を示している。
「ごめんな…ひくっ、ひっく、こんな辛い目に遭わせてもうて……油断しとったなんて、言い訳にはならへんよね……ごめん。ほんまにごめん……」
ぼろぼろと零れ落ちる涙は、広がったドス黒い染みに吸い込まれるように消えていく。木乃香の乳房は真っ赤に腫れあがり、腹部は刹那から溢れた液でべとべとに汚れ、憔悴した顔は目だけがぎらぎら輝いている。
「あんたらか、せっちゃんに、変なことをしたんは」
木乃香の首がぎこちなく回り、エヴァと茶々丸を無表情で見た。長い髪がふわりと舞い上がる。
「ちっ、まだ力は有り余っているようだな―――茶々丸!」
「攻撃開始します」
「氷の精霊17頭。集い来たりて敵を切り裂け。『魔法の射手・連弾・氷の17矢』―――!」
エヴァの周囲で、闇から生じた氷が魔力で矢へと変わっていく。同時に茶々丸がチャージしていた銃から閃光を発射した。荒れ狂う魔法の矢と眩い光線が木乃香のいる場所で炸裂する。
轟音と共にぱらぱらと氷の欠片が飛び散り、闇に白い雪の結晶が舞い落ちる。
「因果なものだ。ジジイは産まれてくるお前を将来守るために、わざわざ学園の警備員を探していたというのに、今ここで、その警備員がお前と戦っているとはな」
爆発の余韻の霧が朦朦と立ち込める、その向こうから伝わってくるのは圧倒的な敵意。
「この麻帆良という巨大な揺り篭を与えられた貴様が今、自らの手で麻帆良を壊そうとしている。色恋に狂うなとは言わんが、反抗期もほどほどにしておくことだ」
「……魔力値が急上昇しています」
エヴァの横で、茶々丸が無感動に報告した。霧の向こうからびりびりと伝わってくるプレッシャーは、どうやら気のせいではないらしい。
「ふん、これが一週間前には私の力を借りなければ何もできなかった小娘の力か。これが近衛の血を受け継ぎ、その力あれば関東を討てると言われた近衛の姫か―――面白い!」
ぼん! と霧を吹き飛ばし現れたのは、美しい、姫と呼んでなんら遜色ない綺麗な少女だった。オレンジの着物を身に纏い、バチバチと周囲に青い放電現象を起こしながら身体は数センチ浮かんでいる。
星明りしかない闇の中でも、着物はまるで輝いているように鮮やかなオレンジ色だった。生地は生物のようにばたばたと波打ち、木乃香の身体を覆っている。
「マスター、あの着物は」
「ふむ、身に纏うタイプの『護鬼』だな。ループ結界といいパートナーといい、どうやらジジイの孫は西洋魔術と陰陽術の両方を使えるらしい」
「オンアクヴァイラウンキャシャラクマンヴァン!」
「―――っ!」
漆黒の翼を広げたエヴァと、ジェット噴射の茶々丸が上空に舞い上がる。衝撃波が屋上の表面をバリバリと削り取りながら通過したのはその直後だった。設置されていた避雷針が折れて飛んでいく。
「ふっふっふ。近衛木乃香よ。桜咲刹那の唇は柔らかいな!」
上空のエヴァの言葉に、木乃香がぴくりと反応する。
「マスター?」
茶々丸を無視して、エヴァは木乃香に叫ぶ。
「ああ、弄んでやったよ。無理矢理薬を飲ませてからも、ずっと泣いてお前の名を呼んでいたよ。助けてー、このちゃん助けてー、ってな。まあ、指を挿れてやったら大人しくなったが、くくく」
木乃香の髪が、ざわざわと動いて逆立ち始める。間違えても風のせいではないだろう。
「ついでに流れた血を少し舐めてみたが……血は不味かったな」
「せっちゃんの、血を……? ウチがずっと飲むのを我慢していたのに……?」
呆然とする木乃香が、すやすやと眠る刹那を見る。
「マスター、なぜそのような嘘を」
「少し怒らせて魔法を乱発させる。もう少し消耗させないと今の状態では勝負になら―――」
小声で会話するエヴァと茶々丸。その時、屋上は猛烈な光に包まれて闇を照らした。
「光の精霊173柱。集い来たりて敵を射て。『魔法の射手・連弾・173矢』―――」
「何―――っ!?」
屋上から発射された魔法は、まるで光のシャワーが夜空に降り注いでいるような幻想的な光景を作りながら、麻帆良学園上空の闇を一気に塗り潰した。
「くっ、この化物めっ! くだらん呪文をどこで覚えた?」
「マスターの狙い通りですね。木乃香さんはキレたようです」
「ええい、うるさいっ! とにかくこちらは力を温存せねばならん。防ぐのは必要最低限に止めろっ!」
確かにエヴァと茶々丸に直接飛んでくるのは数十矢で、残りの矢は魔力の無駄な消費として夜空に消えていく。ホーミング弾でなかったのが幸いである。しかし……。
「こ、これは……ちょっと待てっ!」
光の矢の大群に混じって数メートルはある巨大な光の玉や、目に見えない衝撃波が連射される。
最初は凌いでいたエヴァたちだったが、シューティングゲームのふざけたボスキャラのような猛攻を仕掛けてくる木乃香に、だんだん逃げまわるだけになってくる。
「たまらん! 茶々丸、少し反撃しろ!」
「了解!」
怒涛の勢いで魔法を乱射する屋上の木乃香に、上空から氷の矢と閃光が降り注いだ。しかし、木乃香の着物は攻撃を完全に遮断しており、魔法を発射するペースは衰えない。
上昇する魔法と、降り注ぐ魔法の軌跡が空間で交差し爆発する。衝撃が伝わり学園が震え、窓ガラスが粉々に割れて滝のように学園校舎の壁を流れ落ちた。
夜空をまるで昼のように明るくしながら、遠距離による魔法の撃ち合いが続く。
「マスター、このままではこちらが押し切られます!」
「ふうむ……いや、そんなことはないぞ。茶々丸よ、もう少し凌げ。攻めるのはそれからだ」
エヴァが下降し、そのまま学園校舎の中に飛び込み見えなくなる。屋上から校舎の内部を狙うのは難しい。木乃香が魔法を発射しながら軽く舌打ちをした。
「ふーむ、これは使えるでござるかな……?」
「♪」を逆にしたようなマイクを片手に、黒装束の少女は首を傾げた。
壊滅した占い研の部室には「うーん、うーん」と呻いている円と美砂、そしてその兵隊が転がっている。
「おい、どうだ? 私でも使えそうか? 柿崎のマイク!」
「うーむ、とりあえず試しに拙者が一曲披露したいところでござるが、聞かせる相手がいないでござる……」
「まあ保留だな」
携帯で会話しながら、黒装束の少女は部屋を調べている。
「んー。隣の部屋は何でござるかな?」
黒装束の少女はそのまま隣の部屋に移動する。その部屋はハルナが使っていたはずだった。
「………」
黒装束の少女は警戒しながら歩を進める。部屋には沢山の本が積まれていた。奥にある机には、漫画家が使うトレース台やカッター、インクやトーンが散乱している。
積まれた本は最新兵器の図鑑、刃物の写真集、式神術の教本、魔法アイテムの書物など。どうやらハルナがアーティファクトを使う時の資料にしたものらしい。そして、
「理科の教科書? こんなものがどうしてここに―――」
それは少女たちが使っていた中学理科の教科書だった。
その時、外がまるで昼のように明るくなり、爆発音が何回も響いてきた。校舎がガタガタと揺れて窓ガラスが割れて落ちていく。
「どうやら始まったようでござるが……いや、すごい」
窓枠に残ったガラスを丁寧に取り除いてから、黒装束は窓から顔を出した。
「どれぐらいすごいんだ?」
「音と光のショーを見ているようでござる」
「遊園地かよ」
「ははは」
屋上から発射される光の奔流に、黒装束の少女はしばし見惚れる。
と、その時。
「何っ!?」
黒装束の少女は慌てて窓から身を退き、そのまま隠れた。上空にいたはずのエヴァが飛んできて、黒装束の少女が覗いていた窓を通り過ぎて少し離れた部屋に突っ込んだ。
「こ、校舎の中に来られると、拙者も危ないでござるよ――」
部屋から出ようとする黒装束の少女、しかし部屋の出口付近で足を止め、そのまま横の壁に張り付く。
「さあ、勝負はここからだぞ小娘ぇ―――っ!」
黒装束の少女が飛び出そうとした廊下を、漆黒の翼を展開したエヴァが猛スピードで飛んでいった。
「ふうう、危ない危ない。いやいや、スリル満点でござるな。遊園地の5倍はすごい」
「遊園地の5倍? 客も5倍で行列も5倍か」
「並んでまでは……どうでござろう?」
黒装束の少女は苦笑しながら、窓から顔を出して観戦を続けた。
「むう? 校舎側からの攻撃が止んだようでござるな―――」
「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ……」
刹那を後ろに寝かせ、木乃香は大量の汗をかいて屋上にへたり込み、荒い呼気を何とか整えようとしていた。少なくとも魔法を乱射していた元気はなくなっている。
その前にズシャ、と重量を感じさせる音を立てて茶々丸が着陸した。その手に構えた巨大な銃はエネルギーをチャージし、一直線に狙いを木乃香に定めている。
「貴女は魔力を無駄にし過ぎです。いくら膨大な魔力を有していても、あんな使い方をすれば枯渇するのは当然。マスターの睨んだ通り、戦闘に関しては素人のようで」
「そっちこそ、何でわざわざ降りてきたん? 実はエネルギー切れでもう飛んでる余裕もあらへんとか? だいぶエヴァちゃんを庇っとったみたいやし」
刹那と茶々丸の間に身体を入れるようにして、涼しい顔で木乃香は立ち上がった。汗はかいているものの、その表情には焦りや疲れは全く見られない。
「もう魔力も少ないのにその表情。ご立派ですね。自分が弱っている事を敵に教えないのは基本だと、マスターも申していました」
「表情では、茶々丸さんには勝てへんえ。ほら、ウチを攻撃したら?」
「そちらこそ、自慢の魔力を使用したらどうですか?」
お互いに睨み合うが、どちらも手は出さない。
「もしかして、もう残り一発分のエネルギーしかないんかな? 外したらお終いとか」
にっこりと笑みを見せる木乃香に、茶々丸は無機質な声で言う。
「そちらこそ、さっさと魔法を使ったらどうですか? 使える状態なら、の話ですが」
―――桜咲刹那を狙うぞ。防げ。
「―――!」
「マスター!」
どこからともなく響いてきたエヴァの声に、屋上の停滞した空気が弾け飛んだ。
「来たれ氷精、闇の精。闇に従え吹けよ常夜の氷雪。『闇の吹雪』―――!」
「くっ! せっちゃんを狙わんとウチを狙え―――っ!」
刹那の元に木乃香が駆け寄っていく。同時に屋上を突き破って、木乃香を追いかけるように闇のエネルギーの奔流が渦を巻いて殺到した。下の階からエヴァが攻撃魔法を放ったのである。
刹那は穏やかな顔で眠ったままだった。木乃香は背中に迫る魔法の力を感じながら、刹那の身体を庇うように抱き締めて着物で覆う。そしてこれからくる苦痛に耐えようと、ぎゅっと目を閉じた。
「せっちゃんは、ウチが守る―――」
攻撃魔法が木乃香の背中に押し寄せ、そのまま呑み込んだ。鈍い爆発音が響いて屋上の3分の1が吹き飛び、宙に二人の少女が投げ出される。
刹那は無傷で眠ったまま、まるで葉が風で舞っているように穏やかに虚空に投げ出された。木乃香は裂けてボロ雑巾のようになった着物を纏いながら、刹那を目で追い続けていた。
「せ、っちゃ、ん」
木乃香が明らかに重力以外の外力を使って空中を移動し、そのまま刹那をがっしりと抱き締めた。そして屋上にいたエヴァと茶々丸に向けて何かを叫ぶ。
「――――――――――――――――っ!」
それは呪文だった。既に存在しているものなのか、木乃香が無意識に創ったのかは分からない。
判別不能な叫び声の呪文は、恐るべき量のエネルギーを集めて屋上に収束し大爆発を起こした。二人が抱き合って地面に落下していった後に、校舎の屋上と下の二階分を抉るように吹き飛ばしてエヴァと茶々丸を巻き込んだ。
地面が接近する前に木乃香と刹那は光に包まれ、そのまま重力に逆らって速度はスローになっていく。屋上から地上に、ふわりと優雅に着地した。
「せっちゃん、無事で、よかった……」
魔法の光が消えて現れた木乃香はボロボロだった。オレンジの着物は真っ黒に焦げて裂けており、魔法の直撃を食らった背中の着物は完全に焼失して、その肌に真っ赤な火傷が広がっていた。
魔法を乱発し、また敵の魔法を連続してガードしていたが障壁は少し破られ、指の爪は全て割れている。全身がだるく、初めての本格戦闘による精神的疲労も激しい。
「ウチが、せっちゃんを、守る……から……」
木乃香は傷ついた身体をそっと刹那に近づけ、ゆっくりとキスをする。まるで弱った鳥が羽を休めているような、穏やかな光景がそこにあった。
「まだ、終りだと思うな……」
「ま、まさか、そんな……エヴァちゃん?」
驚愕の顔で振り返る木乃香の目に飛び込んできたのは、全裸でふらふらと迫って来るエヴァだった。その鬼のような表情に木乃香は戦慄する。
「機能停止、機能停止、復旧まで1200秒」という警報を鳴らして倒れている茶々丸が近くにいた。どうやらエヴァは茶々丸に庇われて助かり、茶々丸は機能停止に追い込まれたらしい。
「せっちゃん、ウチに、力を……」
木乃香が震えながら立ちあがり、ふらふら向ってくるエヴァに血塗れの手を向ける。エヴァもエヴァで両手を構え、それを迎え撃とうとする。
両者が渾身の力で呪文を放ち、両者はそのまま相手の呪文で吹き飛ばされた。エヴァは地面を転がっていき、倒れた木乃香の着物は限界を超えて呪符に戻っていった。
「う、ぐううう……後、少しというところで………」
苦しそうに呻き声を上げるエヴァの前で、木乃香がずりずりと地面を這っていく。その先には着物の懐から落ちた仮契約カードの束が転がっていた。
「させるか……うぅ……」
エヴァは攻撃魔法を使う魔力が残っておらず、木乃香が仮契約カードに近づくのを阻止できない。
と、その時、
パチパチパチと拍手しながら、
その黒装束は現れた。
「いやいや、両者いい勝負でござった」
携帯を肩と首に挟んで穏やかな微笑を浮かべながら、長瀬楓は闇の中から溶け出すように現れた。その細い目に木乃香とエヴァを交互に映し、にやりと口を三日月に歪める。
「楓ちゃん………? まさか、記憶が残ってたん……?」
「長瀬、楓か……いいところに来た! 早く! そいつにトドメをさせ!」
仮契約カードに手を伸ばした木乃香がそのまま固まった。エヴァが期待の声を上げる。
「まあ、慌てない慌てない」
「……?」
何を言っているのだ? とエヴァの表情が語っていた。楓はしかし視線を木乃香に移し、にっこりと人を安心させるような笑みを浮かべて言った。
「仮契約の方法を教えるでござる。そうすれば、この場から逃がしてさしあげよう―――近衛の姫君」
十字架の巨大な刃を翳しながら、楓は木乃香を見下ろして目を細めた。
「つーか、聞き出した後で近衛もエヴァも両方ぶちのめせよ」
楓にしか聞こえない大きさで携帯から女声が語りかけ、「あいあい」と楓は肯きながら表情は変えない。
「な、何を言っているのだ貴様! そいつは危険だ! 早くトドメを!」
「拙者の仲間が近くにいて、お主を逃がそうと待っているでござるよ」
「……ほ、ほんま?」
木乃香の問いかけに、首肯する楓。
「…………これ、知ってる? 仮契約カードって言うんやけど?」
ごく自然な、まるで楓に説明するためのように、木乃香はカードの束を拾う。そして呪文を唱え始めた。知らない者から見れば、仮契約の説明を始めようとしているようにしか、見えない。
「愚か者がぁ! 仮契約カードは従者を―――」
呼び寄せる事ができる―――、というエヴァの言葉は、最後まで語られなかった。
「………!?」
楓の前でハルナ・のどか・桜子のカードが鈍く発光し、にやりと嗤う木乃香の顔を照らし出した……。
千本鳥居の奥、満開の桜の海に聳える関西呪術協会総本山―――
木乃香の祖父や父、何十人もの巫女が並ぶ大広間に一人の女が運ばれてきた。手足を魔法で
拘束され、無地の地味な着物を纏っている。彼女は麻帆良学園女子寮で捕えられた反乱分子で
ある。対策会議で関西に来ていた学園長は、この女の尋問に同席する事になったのだ。
「天ヶ崎千草の意識が戻りました―――」
近衛家の重鎮たちの前に女を運んできた巫女たちが、礼をして離れていく。
「ふむ、では聞かせてもらおうかのぉ。あの夜、女子寮で何が起こったのか」
殺気を含んだ老人の声が響く。しかし千草はそれに反応を示さず、ぽつりと呟いた。
「このかお嬢様はお元気なんか?」
「それが分かっていたら、苦労はせぬ」
老人の答えに、千草の顔が蒼白に転じた。
「に、逃がしたんか!? あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ! な、何てことや!」
錯乱した千草を、巫女たちが取り押さえる。
「お嬢様はウチらに報復に来る! 絶対に来る! あああ、頼む! 頼むわ! 早く、早くお嬢様
を捕まえてえな! 関西でも関東でもええから! 手に負えんようになる前に!」
口から泡を吹きながら、泣きながら千草は叫び続ける。
「手も足も出えへんだ! 侵入した四人組やって上位の術者やったのに! 戦力を全部集めて攻
めたのに! ああ、あああああああ、お嬢様を始末しようとしたウチを、絶対お嬢様は殺しに来る
わ! お、お願いや、お願いやから、ウチを守ってええええええええ―――ウキッ? ウッキー!」
「もう少し時間を置いて、尋問を再開しましょう」
木乃香の父が冷静に言いながら、錯乱する千草を魔法で猿に変えた。
カードで従者を呼んで、木乃香は命じる。
滅せよ。処刑せよ。沈黙させよ。排除せよ。滅殺せよ。全殺せよ。
エヴァンジェリン、茶々丸、長瀬楓、近衛家、関東魔法協会。
敵を滅ぼせ。討て。焼け。崩せ。壊せ。切れ。解け。
そして、せっちゃんと二人きりの楽園を、天国を、夢を、世界を―――
主人の最後の命令を、
実行せよ………………
どん! と立ち昇った三本の光の柱から現れたのは三人の従者たちだった。椎名桜子、早乙女
ハルナ、宮崎のどかは危険な光を眼に宿らせながら堂々と、そして異様な殺気を放ちながら学園
に降り立つ。桜子は手に巨大なピコピコハンマ、のどかは手に一冊の本、ハルナは手にスケッチ
ブックを持っている。翼をリュックサックのように背負ったハルナが、素早く木乃香を救出した。
「ちっ、しくじったか―――」
苦無を構えながらじりじりと距離を広げていく楓、流石の楓といえども三人の従者と同時に戦う
気にはなれない。魔力で強化されている上に強力なアーティファクトを持った強敵である。
逃げる楓を見てハルナがにっこりと嗤い、スケッチブックから一冊の本を創りのどかに与えた。黒
いブックカバーで覆われた薄い本、手帳サイズの大きさでありページには何も書かれていない。
「ふふふ、のどか、せっかくだから楓ちゃんで、この本の威力を試してみなよ」
「うん、分かった―――」
黒い本を片手にのどかが嗤いながらページを開いた。
「長瀬楓」
名前を呼ぶと白紙のページに楓の名が記され、同時にページの左上から横に無数の文字が浮
かび上がった。それは瞬く間に一行、二行、三行と改行していき、あっと言う間にそのページを覆
い尽くしてしまう。そこに書かれているのは紛れもなく楓の脳内情報だった。脳内情報がランダム
に読み込まれて日本語に変換され、その黒い本に綴られているのだ。
楓の背に寒気が走る。まるで首筋に刃を突き付けられている感触を何百倍も濃縮した黒い恐怖
が、楓の心を絶対零度にまで冷やしてしまう。レベルの差ではなく次元の差を感じた。のどかの本
から放たれる禍禍しい殺気が、否応無しに自分を壊すものだということを、楓は本能的に悟ってし
まった。
「う、うわあああああああああああああああ――――っ!」
楓が苦無を構えてのどかに向けて加速する。途中で16人に分身し、16人が16人とも異なる武
器を装備していた。鎖鎌、苦無、爆薬、手裏剣、戦輪、刀などを構え、四方八方からのどかを包囲
し、そのまま逃げ場がないように一斉に攻撃を仕掛ける。しかし攻撃されるのどかは澄ました顔で
筆ペンを取り出し、攻撃する楓の顔は逆に恐怖に歪んでいる。
苦無が、鎖鎌が、手裏剣が、バチバチと音を立てて呪符に弾かれた。のどかの手の動きは止ま
らない。使うつもりはなかった爆薬を躊躇わずに使用し、ぼん! と間抜けな音が響いた。しかし
障壁に守られたのどかは無傷で煙の中から現れ、筆ペンでゆっくりと、「長瀬楓」という名前を塗り
潰していく。
その、筆で名前を塗り潰す行為が自分に致命的な影響をもたらすであろう事が、楓には直感で分
かってしまった。筆は容赦無く、楓の名前を全て塗り潰す。
「あ゛―――――――」
名前が塗り潰された瞬間、読み込まれた楓の個人情報は墨のワイパーをかけたように真っ黒に
塗り潰され、同時に楓の目の前も闇黒に包まれた。分身が消える。かくん、と楓の身体が右に傾
き、持っていた武器が手から滑り落ちた。光の失った目はのどかを映す事はなく、のどかの前にど
さりと崩れ落ちた。
「試作アイテム『ブラックリスト』―――ふふん、なかなかのモノだね」
のどかの黒い本をアーティファクトで創ったハルナが、まるで自分の子供を誇る母親のような笑
みを浮かべて、誇らしげにそう言った。
のどかの黒い本、美砂や円には恐怖と畏敬の念を込められて「アレ」とだけ呼ばれるその物体
は、ハルナが非戦闘員ののどかの為に創り与えた広域攻撃兵器だった。
モデルにしたのはのどかのアーティファクト「魔法の日記帳」である。有効射程範囲は本から20
0メートル。その範囲内にいる対象の名前を唱えれば、ブラックリストは自動的に対象の脳内情報
を読み込み保存する。そこで対象の名前を墨で塗り潰すと、対象の意識は墨に染まったように暗
転して停止し、そのままのどかの命令を聞く傀儡に成り果てる。解除するには、ブラックリストから
該当するページを破り取らなければならない。
即ち、攻めてくる敵の名前が分かっていれば、名前を言う→塗り潰すという数秒の動作によって
その敵を精神崩壊させて奴隷にできる。のどかの持った本はそういうモノなのである。
「さてと、私も好きなようにやらせてもらおうかな」
ハルナはにやりと嗤いながらスケッチブックを開いた。スケッチブックが光り輝き、其処に描かれ
た絵が実体化していく。集中線の効果で接近してくる雰囲気を演出し、トーンで炎の演出をしたそ
の物体が出現すると辺りには熱風が吹き始め、夜空は燃えて明るくなった。
不吉な、燃える夜空を眺めていたエヴァはハルナが具現化したモノの正体に気付いた。
「逃げるぞ茶々丸! はっ、茶々丸……」
茶々丸はダメージが大きく、動けるようになるにはまだ数分を要したはずだった。しかし、恐らく
名前を利用する魔術にやられた楓はさておき、茶々丸は復活できる。
(まだ、パートナーを見捨てて逃げるほどには落魄れてはいないか―――)
魔力は限りなくゼロに近い。しかしエヴァは精神を集中し力を振り絞る。
(百戦錬磨の吸血鬼、命まで燃やせば不可能ではないはず!)
エヴァの心の叫びに応えるように、漆黒の翼がばさりとを広がった。鬼気迫る顔でエヴァが逃げ
る準備を整える。そのまま茶々丸の方を向いた……そこには椎名桜子がいた。桜子は巨大なピコ
ピコハンマを振り上げて倒れた茶々丸を狙いながら、エヴァの方を見てにやりと嗤う。思考が沸騰
した。エヴァは翼を動かして全力で茶々丸の元に向かった。
「止めろおおおおおお―――――っ!」
桜子のアーティファクト「破魔の小槌」は無生物を粉々に砕く能力を持っている。茶々丸との相性
は最悪だった。そのアーティファクトを持った手が、ゆっくりと振り下ろされていく。
エヴァの目から熱い液体が溢れ出した。もう間に合わない。それは確実だ。逃げた方がいい。し
かしエヴァは止まらず、いや、止まれず、僅かな希望をガラにもなく信じて猛スピードで飛んだ。
「はい、残念でしたぁ〜」
適度に力を抜いたクイズ番組の司会者のような声を出して、桜子がピコピコハンマを茶々丸に振
り降ろした。変化は一瞬だった。アーティファクトに触れた茶々丸がびくんと動き、そのままボディ
が風船のように弾けた。腕と脚と頭部が飛んでそれらも粉々になっていく。とぱらぱらぱら、と茶々
丸が散っていく。いつも猫に餌をやっていた茶々丸が、美味い茶をいれてくれた茶々丸が、自分に
尽くしてくれた茶々丸が、
「きゃはははははははははははははははははははははははははははははは―――っ!」
桜子の高笑いが響き渡る中、風に飛ばされて消えていく。影も形もなく、まるで存在すらしていな
かったかのように、そこらの砂に混じって四散していった。
「貴様あああああ―――っ!」
向こうでは近衛木乃香が美砂の兵隊たちの血を吸っていた。吸血鬼にとって血液は貴重かつ重
要なエネルギである。見た感じでは楓は再起不能、茶々丸は散った。近衛木乃香は復活する。あ
そこまで追い詰めた近衛の姫が復活する。この戦いは、全て無意味になる―――
その時、ぶわぁ! と猛烈な熱気がエヴァの頬を撫ぜた。ハルナに具現化されて夜空を燃やす
その物体が、引き寄せられるように一直線にエヴァに突っ込んできたのだ。
それは、燃え盛る巨大な隕石だった。
エヴァはその隕石に見覚えがあった。それはエヴァたちが使っていた中学理科の教科書の、天
体分野の資料としてカラーで載っている小惑星のイラストである。教科書の改訂が行われてもそ
のイラストは削除されなかったのだ。その太陽や地球や月のオマケである紙上の小惑星を、ハル
ナはスケッチブックに書き写し、武器として使用してきたのだ。
「作品名―――『メテオ(大)』」
ハルナの声が遠くから聞こえたような気がした。隕石の熱気がエヴァを包む。逃げられない。防
げない。どうしようもない。障壁も発生させられない今のエヴァに、何ができるだろうか。
「………ふふっ。首を洗って待っていろ! サウザンドマスタ――――――っ!」
赤い炎が目の前に広がり、エヴァの意識はそのまま消えた。
エヴァを呑み込んだ隕石の軌跡はそのまま学園の地表を抉りながら進み、麻帆良学園中央駅
の建物を吸い込まれていった。前で屯していたタクシーがばらばらと吹き飛び、ヨーロッパ調の駅
の外壁をぶち破り抜けていく。ワンテンポ遅れて駅は内側に沈むように崩壊し、周辺ではタクシー
が次々と火に包まれた。
そして、インパクト。
隕石の運動エネルギが爆発となって吹き荒れる。学園都市の建物がドミノのように薙ぎ倒され、
神や悪魔を思わせる巨大な火柱が起こった。爆炎、噴煙。音は衝撃波となって波状に広がり窓ガ
ラスを破壊し、巨人がジャンプをしたような振動がびりびりと学園都市全体を揺らした。
直撃した位置にはクレーターができ、周辺は何も残っていない。
学園都市の一部が、ハルナの攻撃で完全に消滅していた。
「折角だからさあ、このまま始めようか。関東魔法協会との戦争―――」
顔を赤い炎で照らしながら、ハルナがにっこりとのどかと桜子に嗤いかけた。そして木乃香を、主
人たる近衛の姫を振り返る。美砂の兵隊の血を吸っていた木乃香は、回復魔法で美砂と円を復
活させていた。木乃香は無表情で肯くと、ゆっくりと呪文を唱え始めた。
「風の精霊よ。我が従者の歌声を遠方へと運べ―――」
美砂が「傾国のマイク」で歌い始める。人を狂わす歌声が風に乗って、学園周辺の街に広がって
いく。燃える都市を背景にぞろぞろと亡者のように集まり始める群衆は、全員が意識を美砂に操ら
れていた。その数は優に1000人はいる。
「さーて、みんな。これから関東魔法協会って連中が私たちを捕まえようとわんさか押し寄せてくる
からね。ちょっとだけ協力してもらうよ」
ハルナがスケッチブックからコピーと具現化を繰り返す。集まった学園都市の市民―――美砂
の奴隷たちにバラバラと、アーティファクトで創った銃器や魔法アイテムが雨のように降り注ぐ。
「あ、あんたはこっちに来て」
学園で起こった戦闘に気付いたのか、操られた群衆の中に近衛家の黒服がいた。彼はそのまま
ふらふらと美砂たちの元まで歩いてきた。
「関東魔法協会の、主力の魔法使いの名前を教えてください―――」
のどかの問いかけに黒服はぺらぺらと数十人の名前を唱え始め、円がそれをメモる。
「コピーできるだけコピーして、みんなに配って。それと、楓ちゃんにも働いてもらうからね」
メモを渡された―――のどかの傀儡になった楓が肯いて、闇に消えた。
「よっしゃ―――っ! これで敵の魔法使い対策も万全! はっはっは―――」
ハルナが精神崩壊の本『ブラックリスト』を量産し、ばらばらと雨のように群衆に与える。敵の名
前が書かれたリストも配られた。数秒で敵を精神崩壊させる兵器を持った軍勢から、美砂の歌に
合わせて歓声、鬨の声が上がる。
「さあ、お祭りの開始だよ―――!」
人を狂わす歌が広がる。兵隊が増える。武器が撒かれる。黒い本を持った一団は、壊れたテー
プレコーダのようにリストの名前を繰り返し唱えながら前進する。群衆が武器を構える。銃器に剣
に魔法アイテム。ピコピコハンマを持った桜子と、釘バットを持った円が群衆を率いる。歌う美砂。
木乃香の傍に付くのどか。
「もうちょっと味方を補強しとこうか」
ハルナが次に創り出したのは、巨大な蜘蛛だった。式神術の教本に載っていた「鬼蜘蛛」と呼ば
れる式神である。固いボディに8つの黒い目、強力な牙に脚力、糸を吐く能力を持った怪物。何十
も量産されたその怪物の軍勢は、群衆の軍勢を守るように先行して敵を探す。
「みょおおぉぉぉぉ―――――」
蜘蛛たちに混じって、潰れた大福のようなフォルムに白魔術師のローブを纏った、アニメキャラ
のようなデザインの木乃香が現れる。手にはトンカチ、数メートルの巨躯、常に木乃香の身を守る
オレンジ色の着物の姿をした「護鬼」と対をなす、接近戦用の「善鬼」である。
道路の向こうから黒い車が数台やってきた。近衛家の車である。流石に騒ぎに気付いて急いで
やって来たらしいが、1000を超える武装した奴隷と式神の軍勢に立ち向かうにはあまりに儚い。
「せっちゃん、ちょっと予定より早いけれど、いよいよ始めるえ」
軍勢を坂の上から見下ろす木乃香が、刹那にそっと声をかけた。
「うん。始めよう。このちゃん」
無邪気な笑みを浮かべる刹那。
「『メテオ(小)』」
ハルナが放った隕石がミサイルのように車群に向けて飛び、大爆発と共に車を舞い上げる。
学園都市を火の海に変え、住民を兵隊に変え、近衛の姫と関東魔法協会の戦争が始まる。
その時、眩い光が群衆の前で炸裂した。あまりの眩しさに桜子と円が悲鳴を上げて後退する。群
衆も突然前が見えなくなった事に戸惑いながらも、じりじりと前線を下げ始めた。代わりに木乃香
の善鬼や鬼蜘蛛の大群が光源に押し寄せていく。しかし式神たちは、光に近づくと蒸発するように
消えてしまった。
周囲に満ち満ちた闇を裂くように、その人物は軍勢の前に現れた。
「ああ………そ、そんな………」
木乃香がその人物を見て驚愕する。自分の目で見ている情報を信じられない、訳が分からない
といった表情である。木乃香の横の刹那が、怯えた顔で木乃香のオレンジの着物を掴んだ。
「せ、せっちゃんが、二人……?」
軍勢の前に現れたもう一人の桜咲刹那は、木乃香を見てにっこりと微笑んだ。しかし軍勢が押し
寄せてくるのを見て表情を一変させ、鋭い目で敵を威圧しながら持っていた剣を前に構える。
ぴしぴしぴし、と音が聞こえてくる。
周囲に満ちた夜が、炎上する麻帆良学園都市の光景が、
まるでガラスのようにヒビが入り、
地平線からガラガラと崩壊していく。
闇の世界が、壊れていく。
偽物の世界が、消えていく。
「だ、誰だお前ぇ! こ、このちゃん騙されちゃダメ、あれは偽物だよおお!」
木乃香の横の刹那が木乃香の袖を掴んで、必死の顔で喚き散らした。
「私が誰か? 古来より人を救い魔を討つ秘剣―――神鳴流見習い、桜咲刹那!」
突然現れた刹那は剣先を、軍勢の中の木乃香ともう一人の刹那に向けて、よく通る声で言った。
「遅れて申し訳ありません、このかお嬢様。今、闇からお救いいたします!」
「夢の妖精、女王メイヴよ、扉を開き夢へといざなえ―――」
エヴァとの戦闘でボロボロになった木乃香と全裸の刹那が手を繋ぎ、額に同じ呪符を貼り眠ってい
る。木乃香の横ではエヴァと楓がいっしょに、魔法で木乃香の夢を覗いていた。
「―――ぐ、ダメだ。魔力の限界だ」
エヴァと楓は木乃香の夢から帰ってくる。それは時間にして一秒にも満たない旅だったが、木乃香
が紡いだ麻帆良の未来の一つは膨大なイメージとなってエヴァや楓の脳に焼き付いた。
「やれやれ、これは厄介なことになったぞ―――ジジイの孫め。くだらん命令を残しよって」
木乃香の近くに落ちていたハルナの仮契約カードを睨みながら、ぽつりとエヴァが呟いた。
「近衛の姫が覚醒し本気になれば、関東は滅ぶ―――関西のバカどもの妄想だと思っていたが……」
楓は微動だにせず、後悔に彩られた瞳を虚空にさ迷わせている。
―――その時、何が起こったのか?
まずは木乃香が皆を出し抜いた。桜子・のどか・ハルナの仮契約カードを手に、木乃香は楓の隙
を付いて早口で呪文を唱え始めた。
カードで従者を呼んで、木乃香は命じる。
それに対し、最初に行動を起こしたのは、木乃香の後ろで横たわっていた刹那だった。
「―――!」
それがエヴァの魔法薬の効果か、自らの身体を刀で貫いたショックか、それとも木乃香の回復
魔法が効き過ぎたのか、その結果に正確に答えられる者はいなかった。ただ事実として、その時
の刹那は正気に戻っており、そして間違いなく木乃香を止めるために行動していた。
刹那はよろめきながらも、残り少ない力で木乃香の背中に体当たりをする。
「―――うぐっ!」
背中に鈍い衝撃を感じて、木乃香の身体が大きく傾いた。その反動で、桜子とのどかのカードが
滑り落ちるように木乃香の指から離れていく。木乃香は呼吸ができないのか、口を金魚のように
パクパクしながら崩れ落ちていった。誰に攻撃されたかは分からなかっただろう。しかし、その目
はしっかりと、手元に残った最後のカードを捉えていた。
「そのカードを奪え―――っ!」
次に叫んだのはエヴァだった。エヴァは情報を収集していた茶々丸から、残る3人の従者の能力
は大体ではあるが報告を受けている。実際に戦ってみないと強いか弱いかは分からないが、少な
くとも今のエヴァでは従者3人を相手に戦う力はない。魔法が完成する前に木乃香の妨害をする
のは正しい判断だったと言える。
「―――っ!」
エヴァの声に反応したのは楓だった。楓は直感的に、状況が危機的であることが分かったのだろ
う。苦無を取り出して木乃香に踏み込み、持っていたハルナのカードを真っ二つに切り捨てた。
刹那が、エヴァが、楓が、それで終ったと思った。
「う、ふ、ふふっ―――」
しかし木乃香は愉快そうに嗤っていた。それは敵を嘲笑い、勝利を確信した歪んだものである。
同時に、木乃香の身体から魔力が噴き出したのを、エヴァと刹那は感じていた。木乃香は魔法使
いとして覚醒して約一週間、天賦の才能を完全に使いこなすには時間も経験も不足している。
その木乃香の余力は、限界に達した木乃香が絞り出した、まだ使いこなせていなかった才能の一
部だろう。
そして木乃香は、半分になったハルナのカードに、その全ての力を注ぎ込んだ。
エヴァが舌打ちをして木乃香に近づく。刹那が悲鳴に近い声を上げて木乃香に迫る。楓は訳が
分からないままその場に立ち尽くしていた。
三人の目の前で、半分になったハルナのカードが爆発するような光を放った。
従者の召喚は失敗した。
しかし、命令は送り込まれた。
滅せよ。処刑せよ。沈黙させよ。排除せよ。滅殺せよ。全殺せよ。
エヴァンジェリン、茶々丸、長瀬楓、近衛家、関東魔法協会。
敵を滅ぼせ。討て。焼け。崩せ。壊せ。切れ。解け。
そして、せっちゃんと二人きりの楽園を、天国を、夢を、世界を―――
主人の最後の命令を、
実行せよ………………
破滅をもたらす命令と渾身の力を遠方のハルナに送り、木乃香は満面の笑みで力尽きて倒れ
た。エヴァと刹那は背筋に寒いものを感じて立ち尽くす。サウザンドマスターを超える魔力を持っ
た近衛の姫は、呪いに近い執念で、麻帆良を壊滅へ導いていくレールを敷いたのである。
「…………! どうして! どうして!」
刹那がよろめきながら涙目で、楓に掴みかかった。刹那の顔には、木乃香の凶行を止められな
かった自責の念と、楓の行動を非難する感情、そして何よりも、傀儡と化してしまった自分への情
けなさが入り乱れていおり、やり場のない怒りを楓にぶつけているようにも見えた。
「せ、拙者は、ただ……うぐうっ!」
楓の言い分を無視して、刹那は大声で呪文を唱え始めた。陰陽術系の呪文である。楓の胸に手
を置いて、一気に力を送り込んで楓を吹き飛ばした。
「………身体能力を封じる呪いだ。一時間ほどで解ける」尻餅を付いた楓を、鬼のような形相で見
下ろして刹那は言った。「貴女にはしばらく、ここで「闇の福音」を見張っていてもらう」
刹那は次にエヴァの方を向いて、楓を指差しながら言った。
「エヴァンジェリンさん……いや、闇の福音。貴女にはしばらく、ここで、この危険人物である甲賀
の忍びを見張っていてもらう。嫌と言うなら斬り捨てる」
エヴァと楓は無言だったが、刹那はそれを肯定と解釈した。
「今から私はお嬢様の心の中に入り、その中に巣食った魔から直接お嬢様を助け出します」
木乃香浄化の準備をする刹那、体力はまだ残っているようである。
「おい、近衛木乃香の従者はどう始末をつける気だ?」
「……できる事から、先に解決していきましょう。今の我々に、従者を止める手段はない」
エヴァの質問に、刹那は無愛想な口調で答えた。その間にも呪符を作り、木乃香の心に侵入す
る準備を整える。木乃香の額に呪符を貼りながら、刹那はふと思い出したように言った。
「あ、そうだ。エヴァ……闇の福音、貴女に伝えておきたい事が一つある」
刹那が語った事、それは事件勃発の原因となった、あの―――
「遅れて申し訳ありません、このかお嬢様。今、闇からお救いいたします!」
燃える麻帆良学園都市を背景に、白い巫女姿で軍勢の前に現れた刹那は宣戦布告すると、そ
のまま剣を群衆に向けて駆け出した。群衆の中から、背中に翼を背負ったハルナが上空に飛び
出して刹那を睨み、下にいる美砂に手で合図をした。
「ふん、たった一人で何ができるのかなあ―――?」
美砂の歌に導かれて群衆は左右に分かれ、刹那を凹字の形で取り囲むようにぞろぞろと動き始
める。手に持っているのは刀剣の類の他に、銃器を持っている者も少なくない。
「私たちに、貴女一人で勝てると思っているんですかー? 桜咲さん」
のどかが黒い本を持ってジャンプし、群衆の前線に軽やかに着地する。楓を壊した黒い本がぱ
らぱらと風に捲られた。刹那が射程距離に入るまで数十メートルである。
「確かに、現実だったら私だけではお前たちに勝てない―――」
ハルナのスケッチブックが光り輝いてマシンガンを具現化する。ハルナはそれを片手で持ち、刹
那に向けて慣れた手つきで引き金を引いた。タタタタタタタタ、と火薬音が響き、無数の弾丸が刹
那に向けて発射される。群衆の中からは桜子と円が刹那の隙を伺っていた。
「桜咲刹那、さん―――」射程距離に入った刹那に対して精神を壊す黒い本が発動する。しかし刹
那の情報が読み込めない。「あ、あれ!?」
「現実では、な。―――ここでは話は別だっ!」
マシンガンの弾丸の軌跡を、刹那が剣で遮断する。鈍い金音が連続して響き、撃墜された弾丸
ぱらぱらと地面に落ちた。刹那は刀で弾丸を叩き落しながら疾走し、前方に群れてきた美砂の兵
隊数十人を一振りで斬り飛ばした。バラバラと斬られた兵隊が後ろに飛ぶ。
「なっ!?」美砂が驚きの声を上げる。「そ、そんなのあり?」
「あううっ!?」のどかが美砂の兵隊に紛れて逃げた。
刹那のスピードは衰えない。美砂の兵隊をまるでオモチャのように蹴散らし、のどかを兵隊ごと
横に斬り払った。黒い本が分解し、ページがバラバラになって宙を舞う。
「調子に―――」「乗るんじゃないよ―――っ!」
左から円が釘バットを、右から桜子がピコピコハンマを振り下ろしてくる。刹那は地面を軽く蹴っ
て一回転しながら数メートル下がって着地した。桜子のピコピコハンマで叩かれた地面が粉々に
吹き飛んで穴ができる。円が体勢を整えてバットを片手に接近してきた。周囲に刹那を逃がすま
いと美砂の兵隊のバリケードができ、桜子がピコピコハンマを振り翳して高く跳び上がる。
前後左右上から敵に迫られた刹那は剣を構え直し、
「神鳴流奥義…百烈桜華斬!!」
円と桜子、そして美砂の兵隊を鮮やかな螺旋の軌跡を描いて切り裂いた。刹那を包囲していた
敵の陣が一気に崩れて散っていく。倒れた兵隊や従者は血を流さずに、そのまま煙のように消え
ていった。ハルナが険しい顔でスケッチブックを開き、『メテオ(大)』と連呼する。燃え盛る巨大な
隕石が現れて、夜空が紅く染まった。
「ぐう、う、うううう……」
オレンジの着物を纏う木乃香が苦しそうに座り込み、横の刹那がおろおろしながら木乃香を助け
起こした。しかし木乃香の影が、モゴモゴと生物のように動き始めたのを見て顔色を変える。
「こ、こいつ! こっちに、出てくるなあ―――っ!」
「ぷはあっ!」
木乃香の横の刹那が顔を歪めて怒鳴った。オレンジの着物を纏う木乃香の影に波紋が生じ、そ
の中から全裸の木乃香が苦しそうな顔をして飛び出す。その裸体には巨大な鎖が巻き付いてい
て拘束されていた。はあ、はあ、はあ、と縛られた木乃香は呼吸を整え、美砂の兵隊の陣を切り崩
す刹那に、大声で叫んだ。
「せっちゃ―――ん! ウチはここぉ――――――っ!」
「お嬢様!」
刹那の顔がぱっと明るくなる。今だ敵の手の内にあるものの、呼びかけてきたのは女子寮で魔
に憑かれて以来、眠り続けていた本物の木乃香だった。木乃香の心の中で、助けにきた刹那の
呼びかけに本物の木乃香が目覚め、魔に抵抗して現れたのである。
「黙れええええっ!」
偽の木乃香と刹那が二人がかりで、縛られている木乃香を押さえ付ける。
「せっちゃん、口塞いで!」
「うん!」
「ゔゔゔ、ゔ―――っ!」
偽者の木乃香に鎖を締め付けられ、刹那に口を塞がれて、木乃香は苦しそうに顔を歪めた。
「木乃香ちゃんのところに行かせるなぁ! 全員でかかっちゃえ―――っ!」
美砂がマイクを片手に叫ぶと群衆がうねり、おぞましい数で刹那に殺到する。その頭上ではハ
ルナが具現化した燃え盛る隕石が4つ、夜空を炎色に染め上げている。
「『メテオ(だ―――あ゛」
ハルナの言葉が途中で止まる。美砂も真上を見上げたまま静止してしまう。たった今、襲いかか
る群衆の最前にいたはずの刹那が何時の間にか、美砂の真上を飛ぶハルナに斬り込んでいた。
「い、れ、ん……」
群衆の中に落下するハルナ、続いて頭上で燃え盛る4つの隕石が指揮官を失い、そのまま真下
で群れる美砂とその奴隷たちに向けて落下する。衝撃が近衛の姫の軍勢を呑み込み、美砂とハ
ルナが煙のように消えた。複数の爆風は互いに衝突しながら波状に麻帆良に広がり、一帯を焦土
と化しながら拡散していく。
焦土の世界にピシピシとにヒビが走り、そのままガラガラと崩れて消滅し始めた。偽者の木乃香
は本物の木乃香を連れて闇に融けるように逃げ、本物の刹那がそれを追いかける。その途中で
へらへら笑いながら偽者の刹那が立ち塞がった。
「ここは通さな、あ―――?」
「い」を言う前に本物の刹那が偽者を斜めに叩き切る。偽者は煙のように消えていった。
壊れていく世界の中を、木乃香を追って刹那は駆けていく。
「さあ、お嬢様を解放してもらうぞ!」
燃える学園都市が消えた後に残されたのは狭い、球体の闇の世界だった。刹那が剣を向ける先
には縛られた木乃香と、オレンジの着物を纏う偽者の木乃香がいる。おそらく外見は単なるイメー
ジだろうが、実質は魔の元凶であるその「木乃香のカタチをした者」は、本物の木乃香を解放する
つもりはないらしい。
「ゔゔゔ、ゔ―――っ!」
偽の木乃香は本物の木乃香の口を手で塞ぎ、余裕たっぷりの笑みを浮かべて刹那を黙って見
ていた。刹那の刀を握る手に汗が滲む。相手はあれだけ酷く女子寮で暴れた敵であり、先ほどの
従者たちのように簡単に排除できるとは思えない。実力差は歴然としており、現実では刹那は従
者一人にも勝てないだろう。
(ここからが問題だ―――)
偽の木乃香から、本物の木乃香をどうやって取り返せば良いのか?
それは、本物の木乃香が偽の木乃香に抵抗して打ち勝つしかない。
実際問題として刹那は木乃香の心の魔を狩っているが、それは木乃香を救う手助けであって直
接救う事には繋がらない。場所が木乃香の心である以上、本物の木乃香が刹那に協力して、魔
に怯えず全力で抵抗しなくては勝利することはできない。逆に万が一、木乃香が諦めたりした場合
は刹那が逆に魔に殺されかねない。そうなれば現実の刹那は廃人である。
「ふふふっ、せっちゃん、あれほど可愛がってあげたのに、だま足りへんのかなあ―――」
闇がざわりと蠢き、にゅるにゅるにゅると無数の黒い触手になって刹那に殺到した。
28 :
名無しさんの次レスにご期待下さい:2007/09/01(土) 16:50:00 ID:wsF/MtzX0
完全に終わったな
はて?なぜ「その手があったか」なんだろか
わらや
33 :
名無しさんの次レスにご期待下さい:2007/09/01(土) 17:33:01 ID:wsF/MtzX0
441 名前: ◆Ijbg3iR4eg [sage] 投稿日:2007/09/01(土) 18:53:50 ID:3yIrKK+40
187時間目 凶悪!フェイト・パーティ
「治すえー」発動のためのカードは税関に預けたまま。
反撃に転じる刹那・楓・小太郎。しかし部下3人を相手に1vs1に持ち込まれ敵わない。
(刹那は直接フェイトに殴られたため一人動かない部下がいる)
永久石化を発動しようとするフェイト。意地でそれを止めるネギ。
肝心の武器なしでは太刀打ちできないのだが…
明日菜の正拳が封印を解いた!
杖が夕凪が巨大手裏剣がクナイがカードが宙に舞う。
次号休載。
コメント
夏休みは登別温泉に行ってきまし
た。
通報しますた
前スレが死に…
このスレも荒らされ…
一体ネギま!界に何が起こっているというんですか…
…まさかこれがナギの呪いなんて言うんじゃないでしょうね…!!
つまり、彼の出番が無いから嫉妬してこういうことになったわけか
>>28 しずな先生、元AV女優じゃねーかよwww
タカミチです…。呪文詠唱できないとですorz
ネギま小説版ではザジに出番を〜
絶望先生でチュパTとネギパが・・・
検査大丈夫だったようだけど大丈夫でもヤバくても「問題なし」と書くだろうな
どんな病名が考えられるだろう。
つっても心電図で異常発見でエコーなんて流れはよくあるだろうし推理はムズカシイか
47 :
名無しさんの次レスにご期待下さい:2007/09/02(日) 09:21:51 ID:V+N01xbm0
ネギの言葉に心を動かされ、高畑先生に告白することを決意した明日菜。しかしその前に、彼女はネギを相手に告白の練習をすると言い出したのだが……。
「あんた今から高畑先生ね」
「あ、あい」
突然の舞台設定、そして明日菜の一方的な物言いに、戸惑いながらも返事をするネギ。
思わず気をつけの姿勢で固まってしまうネギに、明日菜は向き合った。
しかし。
頭一つ背の低いネギを見下ろす明日菜。
頭一つ背の高い明日菜を見上げるネギ。
「……」
「……」
当然、実際に告白するとしたら、背の高い高畑先生のことだから明日菜の方が見上げなければいけないはず。
結構細かいところまでシミュレートする気のようで、明日菜は少し考えたあと、ネギの体をひょいと持ち上げて、階段を一、二段昇らせた。
「あ…あの……」
とここに来て、ネギはちょっと何か違うんじゃないかと思ったらしい。質問とも抗議ともつかぬあいまいな呼びかけ。
しかし、明日菜はそんなネギをよそに、ツインテールにしてあるリボンに手をかける。
ちりりん……。
髪飾りの鈴の音と共にするっとリボンがほどけ、明日菜のつややかな朱色の髪が彼女の背中にかかる。
窓から射し込む陽射しが、これまでの快活さ一本槍とは違う、彼女の別の一面を照らし出した。
「ふう……」
と、明日菜はうつむき加減でため息のような深呼吸を一つ。
「あ……」
目の前の明日菜の表情にネギは、はっとする。
明日菜は顔をあげ、どこからか吹いてきた風に、腰まで伸びた髪を揺らしながら言った。
「好きです」
ネギの胸の奥で、ドキンと甘い衝撃が一つ。
明日菜は軽く握った両の拳を胸元に。頬を赤らめながらネギの目を真っ直ぐ見てもう一度。
「好きです。先生」
祈るように両手を組みぐっと顔を近づける。
「ずっと前から……迷惑ですか」
「あ、いえ…でも……」
思わず上体を反らしながら、意味の通じない言葉をつぶやくネギ。
窓からの陽光に照らし出される明日菜の髪をおろした姿。それはさっきまでとうってかわって慎ましく、しとやかで、ネギに故郷の姉を思い出させた。
と、そこで明日菜はくるっときれいなターンを決めると、目を伏せてうつむき、
「やっぱりダメですよね。私なんか……」
と、わざわざ悲しげな声色を作って消え入りそうに言う。
「えうっ」
明日菜の姿に、ネギは思わず明日菜の肩をぐっと掴んだ。
「そ、そんなこと……」
と振り向かせたまではよかったが、急な回転に明日菜が足をもつれさせてしまい、ネギの方へと倒れかかった。
「あ」
「…っと」
その拍子に、二人の顔がお互いびっくりするほど近付いてしまう。
相手の温かく湿った吐息がかかり、鼻先がもう少しで触れ合う距離。
ネギはもとより明日菜まで、そのあまりに近すぎる位置に胸の鼓動が高まりつつあった。
「…………」
「あ、あの……」
「……」
「……」
大きく目を見開きながら見詰め合っていた二人だが、やがて明日菜の目が愛しいものを見るように熱がこもりだした。
「この先の練習も……いい?」
「えっ……」
ネギの返事もきかず、明日菜は彼の両頬に手をあてる。
ゆっくりとまぶたをおろしながら、熱い声で囁くように言う。
「目を…閉じて……」
素直に目を閉じるネギ。それを薄目を開けて確認した明日菜は、そのままネギの両頬を引っ張ろうとした。
実は彼女、キスをする気などなく、ネギをからかうつもりでこの『練習』を言い出したのである。散々ひどい目にあったしかえしというわけだ。
ところがその時、予想外のことが起こった。
これまで明日菜に圧倒されっぱなしだったネギが、ぐっと顔を前に突き出したのである。
突き出したといっても、実際は二、三センチかそこら。しかし二人の唇が触れ合うにはそれで充分だった。
ネギの柔らかい唇の感触を受けて、思わず固まる明日案。
(え? え? ええ?)
驚きと、後悔と、恥ずかしさと、そしてかすかな快感とが一斉に出てきて彼女を混乱させる。思わず大きく目を見開き、びっくりするほど近くにあるネギの顔をまじまじと見てしまう。
しかし、ぎゅっと目をつぶって唇を押し付けてくるネギの顔を見ていると、不思議なことに怒りは湧いてこなかった。
(う、うわー……こんな子供とファーストキスしちゃった……。人を呪わば、ってやつね〜。でも今更ネギを怒るのも筋違いだし……このまま本当にキスの練習しちゃおう……)
それは、突然のファーストキスで混乱した頭が生み出した、飛躍した考えだったかもしれない。
ともあれ明日菜は、自らも目を閉じ、ネギのキスを受け入れた。
男とはいえ、まだ幼いだけあってネギの唇は潤いに富んだなめらかさを持ち、唇を触れ合わせているだけでその体温と感触が心地よい。
ネギとするだけでもこんなに気持ちがいいのだから、好きな高畑先生としたらどんなに素敵だろう。
明日菜がそんなことを考えていると、彼女は上下の唇のちょうど合わさったところに、何か唇とは別のぬるぬるしたものが触れたのに気づいた。
なんだろうと思っていると、そのぬるぬるとした暖かいものは唇を割り、軽く開いた前歯をするりと通って彼女の口の中に入ってきた。
(っ! これって、し、舌ぁ!?)
びっくりしたが、既に前歯の奥に入っているものだから口を閉じるわけにもいかない。
どうしようか焦っているうちに、舌はさらに奥へと入ってきて、明日菜の上あごや前歯の裏側をなぞりあげた。想像したこともなかったその感覚に、明日案の体がびくりと震える。
ネギは顔を傾けながらさらに顔を寄せてくる。舌がさらに進み、ついに明日菜の舌を捕らえた。
彼女の舌の先端に、小鳥がついばむようにちょんちょんと触れ、その形を確かめるようにゆっくりと全体を舐めまわし、最後には、とり込み一つになろうとするかのように絡ませる。
ネギの唾液が舌を伝ってくるのがわかるが、明日菜は不思議と、それを汚いと思わなかった。ネギの舌が触れてくる部分から、神経を溶かすような、不思議な心地よさが伝わってくる。思いもよらぬディープキスの洗礼だが、明日菜はそれを受け入れていた。
ややあって、二人はようやく唇を離した。
明日菜は真っ赤な顔をしていて、呼吸をするたびに肩がわずかに上下している。緊張のあまり、キスの最中呼吸をするのを忘れていたのだ。
ネギの方はというと、多少顔が上気しているものの、平然としているようだ。
「あの……」
「っ! あんたっ! どこでこんなキス覚えたのよ!」
ネギの言葉を遮って、明日菜が大声を上げた。その剣幕に、ネギは思わずのけぞってしまう。
ネギは後頭部に手をやりながら恥ずかしそうに答えた。
「いやあ……故郷で姉に……」
「あ、姉ぇ!?」
今度は明日菜がのけぞる番だった。
「はい。実は僕、姉と二人暮らしなんです。それで、小さい頃から僕がさびしがっていると、姉がキスでなぐさめてくれたんです」
明日菜は一粒汗を流しながら聞いていた。
(そりゃ白人とかって日本人より簡単にキスするみたいだけど、実の弟にあんなキス教えるなんてどんな姉弟よ……)
とはいうものの、それを聞いて明日菜の中で、次第にネギに対する思いに変化が現れてきた。
明日菜も両親がおらず、その寂しさはよく知っている。
明日菜は再びネギに顔を近づけた。
「まあいいわ。練習の続きしましょう」
そこには、『このままこんな子供にいいように翻弄されたままでは終われない』という勝気な笑みが顔をのぞかせている。
今度は明日菜の方からネギに口付けた。
さきほど自分がされたように、舌を伸ばしてネギの口の中をまさぐる。
最初はおっかなびっくりな様子でそろそろと口の中のあちこちを舌先で舐めるだけだった。
しかしそれによって、10歳の少年の口のサイズが思ったより小さいことに気づき、だんだんとその動きが大胆になっていく。
最初、遠慮して明日菜にされるがままになっていたネギも、明日菜が次第に慣れてきたことに気づき、ネギの方からも舌を絡ませる。
お互いに顔の角度を小刻みに変えながら、時に主導権を奪い合うように、時に共に協力してお互いの快感を高めあうかのように、二人は熱のこもったキスを続ける。
唇から、舌から、時に勢い余ってぶつかりあう歯からすら、静かに熱い気持ちよさが流れ込み、明日菜の頭にはぼうっと霞がかかりはじめた。
ちゅっ、くちゅ、っという単調な唾液のはじける音すらも、催眠術のように明日菜を溶かしていく。
と、胸のあたりに何か感触。
下目使いに見てみれば、ネギの右手の手のひらが、明日菜の発展途上の胸に押しつけられている。
明日菜はちょっと眉を逆立ててキスを中止した。
「ちょっと……、胸まで触らせてあげるなんて言ってないわよエロガキ!」
口調は強いが、目がとろんと溶けたままなのであまり恐くない。
「あ……すいません……やっぱり明日菜さんとキスしていると姉のこと思い出しちゃって……」
と、こちらも夢うつつの表情で答える。
一方明日菜は、ネギの言葉で少し『酔い』が醒めたようだ。頬をひきつらせながら言う。
「あんたね〜、そりゃイギリスの習慣なんて知らないけど、あんた、お姉ちゃんとナニしてたのよ」
「え?」
目の前の少年の、あまり意味がわかっていない様子にあきれる明日菜。と、彼女はネギのスーツのズボンにある脹らみに気がついた。
「あ──っ! やっぱりエロガキじゃないこんなにして! 何なんにも知らないような顔してんのよっ!!」
「え?」
ネギは相変わらず何がなんだかわからないといった顔で、明日菜の視線を追って自分の股間を見る。
「わあああああああああっ」
突然のネギ大声に、明日菜は思わず耳をふさいだ。
「あわわわわわどどどどどうなってるんですか明日菜さんこれどうなってるんですかっ!?」
両手をバタバタさせ、瞳をうるませながら、すがりつくような視線を明日菜に送るネギ。その様子に、演技の気配はまるで無い。
明日菜はふうっとため息を一つすると、肩をすくめた。
「なに? ひょっとして、こうなったのはじめてなの?」
「は、はいいいいいいい。イギリスにいた時は一度も……やっぱり日本の食べ物が体に合わなかったんでしょうか」
「んなわけないでしょ。そりゃあたしだって詳しいわけじゃないけど、ごくありふれたものよ」
「そ、そうなんですか……。それじゃあほっとけば治りますよね」
明日菜の説明を聞いて、ようやくネギは落ち付いたようだ。
さて明日菜は、ネギのうつむいて股間を両手で抑えている様子を見て、少しおかしくなった。
やたら大人びたことを言うかと思えばろくでもない失敗をするし、とんでもない特技を持っているかと思えばこういう年齢相応の表情も見せる。
子供は嫌いと公言する明日菜だが、ネギのことを見ているうちに、不思議な暖かな感情が胸のうちに湧いてくる。
(母性本能……なのかな)
心の中でつぶやきながら、明日菜はしゃがんだ。ちょうど、ネギの股間の高さに頭がくるように。
「こうして見ると窮屈そうだけど……元に戻してあげようか?」
頬どころか顔中真っ赤にして言う明日菜。
一方ネギはというと、明日菜の言葉の意味を理解していないせいか
「お、お願いします! ありがとうございます!」
と無垢な喜びの表情を見せる。
「言っとくけど、うまくできるかどうかなんてわからないわよ。あたしだって柿崎に聞いただけなんだから……」
半ば独り言のように言いながら、明日菜はネギのベルトに手をかけた。
「え? あ、ちょっと」
慌てて明日菜の手を抑えようとするネギを振り払う。
「何してんのよ、外に出さなきゃできないでしょ」
他人のベルトを外すというはじめての経験に多少てこずりながらも、明日菜はブリーフごとズボンを足首まで引きずり降ろす。
「ひゃっ」
と甲高い声で短く悲鳴をあげるネギ。彼の股間には、明日菜の中指を一回り大きくした程度のペニスが元気にそそり立っていた。まだきれいに皮が先端を覆っている。
明日菜は間近でそれを見てしまい、思わずごくりと唾を飲み込んでしまう。汗と小水の臭いがかすかに彼女の鼻腔を刺激する。
(ひえー。でも大きくなってもこれぐらいかぁ。やっぱりまだ子供ね……。高畑先生とうまくいけばいずれこういう場面も出てくるわけだし、これも練習の一つ……)
明日菜は親指・人差し指・中指の三本でつまむようにネギのペニスを握る。表面は柔らかいが、心棒が入っているように奥の方に堅さが感じられる。彼女は、かついて友人が秘密めいた口調で言っていた通りに、ネギの幼い性器をしごきだした。
「あっ……」
ネギが声をあげる。明日菜はそれをかわいい声だと思い、さらに大きく、強くペニスをしごいた。
「あっ、あっ、あっ、アスナさん、なんか、変な……なんか出ちゃいます、ああっ」
拳を握りしめ、ぎゅっと目をつむり、懇願するように言うネギ。
明日菜は慌てて、片手でしごくのを続けながら、もう片方の手でポケットからハンカチを取りだして肉棒の先端にあてがう。
その刺激が決定打となったか、白い液体が勢いよく飛び出てハンカチに斑点をつけた。
「ああ……」
切なげなネギの声。それと共に、ネギのペニスが風船がしぼむように、急速に小さくなっていく。
「ふう……」
明日菜は、ネギのものが完全に元のサイズに戻るのを見届けると、文字通り一息ついた。
(うまくいったようね……。でもちょっと早過ぎてものたりないかも)
とそこで、自分がいかにはしたないことを考えているかに気づき、明日菜は自分をごまかすために慌ててネギのズボンを引き上げる。
精液のしみ込んだハンカチの処置に一瞬困ったが、さすがに自分のポケットに入れるのはためらわれ、たたんでネギの上着のポケットに押し込む。
「あ、アスナさん、ありがとうございました」
ようやく我に帰ったネギのお礼に、明日菜は「ん」とだけ答えると、ネギのズボンのチャックをあげてベルトを閉めだした。
ようやく頭が冷静になってきたが、よく考えたらとんでもないことをしてしまったと少し後悔が湧いてくる。
その時。
パシャ パシャ パシャ
機械の作動音と共に、明日菜の背後、ネギの正面から短いが激しい連続した光。
「えっ……」
振り向くとそこには、あるいは驚きの、あるいは好奇心に溢れた顔をした、クラスメートたち。
彼女らから見れば、明日菜はネギのズボンを下ろそうとしているように見えたことだろう。
「あ……」
「う……」
額に汗を浮かべる明日菜とネギ。明日菜は思わず立ち上がってネギを抱きかかえてしまっている。
クラスメートの中には委員長こと雪広あやかがおり、体と声を震わせながら言った。
「ア、アスナさんあなた……」
そこでだだだっと階段を駆け下りて、明日菜の胸倉を引っ掴む。
「こ、こここんな小さな子を連れ出してあなたは一体何をやってたんですか──っ」
あやかは涙目になっている。
「ち、ちが──」
「何が違うものですか。こ、こういうコトだけは絶対にしない方だと思ってましたのに」
「ご、誤解よ委員長」
誤解でもなんでもないはずだが、明日菜も普段さんざんあやかのことをショタコンと馬鹿にしているし、それ以前に先生に手コキしたなんてことがばれたら退学モノだ。彼女も目に涙を浮かべるほど必死である。
「ほらあんた……じゃなくて先生からも何か言ってくださいよ」
あやかの勢いに半ばかやの外だったネギは、突然自分にふられて「えうっ」と変な声を出した。
「言い逃れは見苦しいですわアスナさん!」
さらにエキサイトするあやか。それと一緒になって、お祭り好きの鳴滝姉妹も盛り上がる。
「え……いや……」
何と言っていいかわからず口ごもるネギ。
「ホラ先生早く!!」
明日菜の声も一層、悲鳴がかってきた。
「その……」
あまりの騒々しさに、とうとうネギの思考回路がパンクを起こした。
「きっ……き……記憶を失え〜〜〜っ!!」
「やめ───────い」
明日菜のためにホレ薬を作ったネギだが、明日菜のせいでネギが薬を飲んでしまう。クラス中の女子に追い掛け回され、のどかに助けを求めるネギ。
二人は図書室に逃げ込むが、のどかもまたホレ薬の効果を受けてしまう。アクシデントからネギを押し倒す姿勢になったのどかは……。
のどかの声を聞き付けた明日菜は、すぐさま図書室に駆けつけた。
さっき見せつけられたホレ薬の効果からすると、のどかもネギを追いまわすことになるだろう。ネギの方は別にそれで害はないだろうが、あとで正気に戻ったのどかが自分の行動を思い出した時どうなるか。
あの性格だから、自分のはしたない行いをひどく気に病み、最悪それがトラウマになってしまうかもしれない。
そんな不安が、ただでさえ人間離れした明日菜の足をいっそう速めるのだった。
ついに図書室の入口にきた明日菜。何やら中から、物の崩れる音と二人分の悲鳴がかすかに聞こえる。
慌ててドアノブを掴んで回すが、途中で止まってしまい、いつものカチャリという感触が無い。逆方向に回す。やはり駄目だ。
「げ、何よコレ。カギがかかってる」
両手でドアノブを掴み、必死で左右に回転させるが、内側からかかったロックがそれで外れるわけもない。
明日菜の額に汗が噴き出す。一体、二人は中でなにをやっているのだろうか?
「あ……あの宮崎さん………ど、どいてください〜〜……」
「は……はい……」
こめかみから汗を流しつつ、ネギが遠慮がちに言う。
ネギは本の山から崩れ落ちたのどかに、押し倒されたような体勢になっていた。
普段、長い前髪のために隠れているのどかの顔の上半分が、この下から見上げる格好だとよく見える。
さきほど一瞬だけ見せられた、汚れの無い可愛らしいのどかの素顔。それが朱に染まりつつ、ネギのことをじっと見つめている。
熱があるような、半ば夢の中にいるような、ぼうっとした表情だが、目の焦点はピタリとネギに合っている。
(わわわ……こっちジーッと見てるよ──。これもホレ薬の効果なの──)
はいと返事したにも関わらず、のどかはどくどころか逆に顔を寄せてくる。
のどかはさらに顔を近づけるため、床に突っ張っていた右手のひじを曲げ、左手をネギの頭を抱えるように、彼の後頭部にまわした。
のどかの顔がさらに近付き、その長い前髪がネギの額に触れた。
(わわわ)
ネギは慌てて叫ぶ。
「み、宮崎さんダメですよ。先生と生徒がこういうことしちゃいけないってお姉ちゃんが……」
のどかはそれを聞いて、ピタっと止まった。どこか虚ろな声で言う。
「は、はい……そうですね──…」
ネギが安心したのも束の間、ほんの少しの間をあけて
「………ゴメンなさいです……」
と再びネギの唇に迫った。
(言ってることとやってることがちがぁーう!?)
その時、ネギの声にならない叫びに応えるように、
ドッゴォォン!!
大型ハンマーで大地を叩いたような、重い音が図書室中に響いた。ブックエンドがカタカタと揺れ、列の端に立っていた本が何冊か、ぱたりと倒れる。
さすがにびっくりしたのか、ネギだけでなくのどかも音のした方──図書室の入口を見た。
しかしそれで終わりだった。
世界最大の蔵書数を誇る図書館島を持つこの学園は、書物を一冊たりとも失われてはならない重要な文化財として位置づけている。図書館島に比して質・量ともにはるかに劣るとはいえ、この図書室も大抵の災害に耐えられるよう頑丈に作られているのだ。
ネギたちは知るよしもないが、扉の外では明日菜が右足を抱えて痛みをこらえるためにぴょんぴょん片足で跳ねまわっている。
(一体何が……)
そうネギが思った時、彼の唇に、柔らかく、暖かいものが触れた。
隙を見てついにネギの唇を奪ったのどかは、驚き慌てるネギを抑え付けたままキスを続ける。
単なるキスに留まらず、舌を出して唇や前歯を舐めまわすという、とても普段ののどかからは想像できない扇情的なことまでやってのける。
ホレ薬はただ相手に恋心を抱かせるだけではなく、性的に大胆に、積極的にする効果があるようだ。そうでなければ、そもそものどかが相手の制止を無視して口付けを強要するはずがない。
ネギが何か言おうとした瞬間を狙い、のどかは舌を進めた。すぐさまネギの小さな舌を捕らえる。
反射的に逃げようとするネギの舌を追って深く侵入し、舌同士をからませる。
ちゅっちゅっと音を立ててネギの唾液を吸い飲んだかと思うと、とろとろと舌を伝わせてネギの口に自分の唾液を送りこむ。
いつも本ばかり読んでいて世間知らずな印象のあるのどかだか、よく考えてみればベッドシーンが平気で出てくる一般小説など無数にあり、中にはそれを濃厚に描写している本もある。実践が伴っていないだけで、性に関する知識は実はクラスでも先頭集団を走っているのだ。
清純そうな美少女と唾液の交換をするという快楽に、ネギは芽生えたばかりの性欲に溺れそうになる。
しかし、性欲に首まで浸かったネギを引っ張りあげるように、姉の言葉が彼の頭に大きく鳴り響いた。
『先生と生徒がそういう関係になっちゃいけませんよ』
最愛の姉の言葉に必死でしがみつき、理性を総動員して暴れるネギ。
しかし、四六時中大量の本を持ち歩いているのどかは意外に力が強く、簡単に押さえ込まれてしまう。魔法を使って筋力を強化することもできるが、ネギ自身が未熟なためうまく制御できず、のどかを怪我させてしまう恐れがあるためそれはできない。
それでもバタバタともがいていると、急にのどかの力が抜けた。
見れば、のどかは体を起こしてネギを抑え付けるのを止め、散乱した本の中、正座を崩したようないわゆる『女の子座り』で座っている。
突然のことに眉を潜めながらネギは上体を起こす。
(ホレ薬の効果が切れたのかな……)
確かめるために表情を見たかったが、前髪で目の辺りはすっぽり隠れてしまって何もうかがえない。
その前髪の奥からつうっと一粒の涙のしずくが頬を伝った。
それをきっかけとするかのように、あとからあとから大粒の涙がのどかの頬を濡らしだした。
「み、宮崎さん!?」
狼狽するネギに、のどかは涙に濡れた声で言った。
「ごめんなさい先生……ごめんなさい……」
「あ、あの……」
のどかの突然の変わりぶりに、ネギは冷や汗を流した。とにかく、宮崎さんの涙を止めなければ、と思った。教師としてではなく、一人の男としてそう思った。しかし一体何が原因で泣いているのかわからない。
のどかは続けた。
「ごめんなさい……わたし、ネギ先生の気持ち無視してました…………ごめんなさい……ごめんなさい…ごめんなさい……いくら私が先生を好きでも……先生にキスしたくても……先生が嫌がるキスは…全然気持ちよくありませんでした……ごめんなさい……」
そこまで言って、のどかは大きくしゃくりあげた。上を向いた一瞬、前髪せつなく踊り、涙に溢れた瞳が見える。
「でも……先生、嫌いにならないでください……嫌いにならないで……ごめんなさい……嫌いにならないで……嫌いに…………ごめんなさい、ごめんなさい……でも嫌いにならないで……」
つぶやくように、ささやくように、最後にはほとんど聞こえないほど小さくなるのどかの言葉。
ネギは起きあがり、のどかを渾身の力で抱きしめた。
「……えっ…」
「宮崎さんっ! 僕は宮崎さんを絶対に嫌ったりしませんっ!!」
ネギの頭あったのは、のどかを一瞬でもはやく泣き止ませたい、ただそれだけだった。
のどかが目の前で泣いている。それは姉の言葉、教師としての立場を一撃で消しとばすほど辛い事だった。
一体、のどかの涙を止めるのに一番いい方法はなんだろうか?
思い付いた瞬間、ネギは躊躇なく実行する。
のどかの首に手をまわし、その唇に、溢れる気持ちの全てをこめて口付けをした。前髪の奥で、閉じられていたのどかの瞳が、大きく開かれた。
静寂。
広い図書室に、物音を立てるもの一つ無い。
ネギとのどかが唇を交わす間、本の紙が湿気を吸って脹らむ音すら聞こえてきそうな静けさ。
その無音の時は、のどかの顔を濡らす涙が乾ききるまで続いた。
舌も使わずに、くっつけるだけのキスを交わしながら、至近距離で見詰め合う二人。
やがて、のどかの手がおずおずとネギのネクタイに触れた。
それに応えて、ネギものどかのネクタイに手をかける。
あらかじめ練習していたかのように、同時に相手のネクタイをほどいた。
そのようにして、キスを続けながらお互いに上着の前ボタンを外す。
上着を脱がす。
Yシャツのボタンを外す。
Yシャツを脱がす。
アンダーウェアを脱ぐ時はさすがにキスは中断したが、脱いだ後に再び口付けする。
ネギがブラを外す間、のどかはベルトを外す。
膝立ちになる。
スカートとズボンのホックを外す。
体を支え合いながら立ちあがり、下着を落として足を抜く。
相手の服を脱がす仕草の一つ一つに、愛しさが満ちている。
そのまま、キスを続けながら全裸で二人は抱き合った。
わざわざ相手の体をまさぐる必要もなく、むきだしの肌を重ねているだけでこの世のものとは思えない心地よさがあった。先ほどの激しいディープキスにあった、全身を駆け巡るような強い快楽が無い代わりに、相手が自分と一緒に居てくれるという柔らかい喜びを感じた。
しかしネギも幼いとはいえ男、性欲を刺激されないわけがない。
サイズこそ小さいものの、充分な硬度で肉棒が立ちあがり、のどかの白く柔らかな太ももに当たる。
その暖かな体温を敏感な先端に感じて、ネギは「うっ」とうめき声をあげ、切ないく眉を寄せる。
のどかの方から唇を離し、静かに言った。
「先生、もう一つ私のわがままを許してくれますか」
「僕はまだ一度も宮崎さんにわがままを感じていませんし。今もそうです」
ネギはそういうと、いったんしゃがんでから、自分の着ていたスーツを図書室の床に広げ、即席のシートとした。
もちろんネギ用なのでサイズが足りず、のどかが自分の制服を使って面積を増す。
二人して準備を終えると、のどかがシート代わりのスーツに腰を降ろした。
体育座りの姿勢から、徐々に足を離していくのどか。全身が羞恥で真っ赤にそまっており、ネギの顔を正視できないのかあさっての方向を向いている。
図書室の抑えられてた照明の下、のどかの裸体があますところなく露わになる。
胸や腰の発育はまだまだだし、薄い色の性器を飾る毛も芽生えはじめたばかりだ。しかし雪のように白くしみ一つ無い肌、肉付きの薄いきゃしゃな体格は、色気に欠けるものの妖精のような一種神秘的な美しさがある。
闇に浮かぶ真珠のようなその肢体にネギは言葉もなくみとれた。
「先生……」
と、催促とも抗議とも取れるのどかの声にはっとネギは我にかえった。
のどかの開いた両足の間にひざをつく。のどかはそれを受けて、上半身を倒して仰向けに寝そべった。前髪がはねあがり、露わになった目元は羞恥とわずかな期待をのぞかせている。
ネギはいったんのどかの頭の両脇に手をつき、そこで一つ深呼吸した後、腰を前に進めた。
性体験はもちろん、それに関する知識すらろくにない年齢のネギだ。いきなり入るわけもない。しかし、顔だけ起こしたのどかが右手をネギのペニスに添え、左手で自分の割れ目を軽く広げ、誘導する。
ついに、ネギの先がのどかの入り口に触れた。
「「ああっ」」
それぞれ感じやすい部分に刺激を受けて、同時に声をあげる。
一呼吸置いて、ネギは腰をさらに前に。
「っ痛」
っとのどかが顔をしかめる。
「宮崎さんっ」
思わず腰を引こうとするネギを、のどかは両手で彼の腰を抱くようにして止めた。目尻に涙をのぞかせながら、
「大丈夫です。想像していたより痛くない……」
と言った。ネギのものはサイズもだいぶ小さいし、決して強がりというわけでもないだろう。
のどかは両手をネギの背中に回し、抱き寄せた。ネギはそれに応じてのどかの上に覆い被さり、再び固く抱き合いながらキスをする。
今度は軽く舌先を触れあわせる程度に深いキスを交わしながら、ネギは小刻みに、くっくっくっと腰を動かす。
ネギの呼吸が次第に荒くなり、間もなく「うっ」といううめき声を発して、ぐったりとのどかに体重をあずけた。
ネギの重さと、体の奥の熱を感じながら、のどかは柔らかく微笑みを浮かべた。
しばらくして、性交の余韻から抜け出した二人は、破瓜の出血と精液をティッシュで拭うと、いそいそと服を着だした。
不思議なもので、さきほどまで裸で抱き合っていたにも関わらず、のどかはどこか恥ずかしそうに、ネギと視線を合わせようとしない。しかし、それでいてときどき、ちらっちらっと、ネギの方を盗み見るように見ている。
ネギの方もそれに釣られてなんだか照れくさく、服を着るのに専念しようとした。しかしやはりのどかの方を見てしまう。
時々、のどかがネギを見るタイミングとネギがのどかを見るタイミングが一致して、目があってしまうことがある。そんな時はじっと見つめあったあと、顔を赤らめて視線を外すのだった。
すっかり服を着終わって、さあそろそろ外の様子を見てみようかと二人が扉へ近付いた瞬間。
ドゴォン!
ここでほんの数分、時間をさかのぼり、場所を図書室の外に移す。
外から施錠を解くこともできず、得意のキックでも破れない扉を前に、明日菜は進退極まっていた。
ネギの魔法が秘密である以上、事情を説明できないので図書室のキーを借りたり、誰かに力を貸してもらうこともできない。
えんえんとどうしようか悩み続けていた明日菜。しかし中ののどか達が心配で、いてもたってもいられず、無駄とわかっていてもドアノブをガチャガチャやる。
すると、さっきまではピクリとも動かなかった扉が、ほんの数ミリではあるが前後することがわかった。
思い付いてちょうつがいを調べてみると、先ほどの蹴りの衝撃で少し緩んでいる。
それを知った明日菜の行動は、バカレッドの異名に相応しいものと言えよう。
ドゴォン! ドゴォン! ドゴォン! ドゴォン! ドゴォン! ドゴォン!
足をかばって多少加減してあるが、それでも充分に強力な蹴り。一撃ごとに、ちょうつがいが震え、少しずつ歪みが大きくなっているのがわかる。
ドゴォン!
衝撃音と共に、『ギリィ』という、金属の断末魔がかすかに聞こえた。
行けると判断した明日菜は、軸足を踏みしめ、ぎゅるっと猛スピードで体を回転させ、パンツが丸出しになるのも構わず、こんな面倒なことの原因になったネギへの怒りを込め、力学的エネルギーを詰め込めるだけ詰め込んだ回し蹴りを図書室の扉に叩き付けた。
「こーのネギ坊主……何をやっとるか───ッ!!」
バキィッ!
ちょうつがいがはじけとび、観音開きの大きな扉が宙を待った。
「わ──っ」
「あうっ」
ネギとのどかの悲鳴にはっと我にかえった明日菜。ネギが四つん這いで涙目になりながら
「ア、アスナさん!! あ、あぶないです」
と抗議している。その向こうでは、蹴り飛ばされた扉が当たったのか、のどかが目を回していた。
「あ、本屋ちゃん! ……じゃなくて宮崎さんまで。ゴ、ゴメン」
慌てて明日菜はのどかのもとへ駆け寄り、気絶している彼女を抱きかかえる。
そしてじろっとネギの方を睨んで言った。
「全く……世話がやけるわね!」
「あ、ありがとうございますアスナさん!」
とここでネギは、明日菜が気づかないほど短い一瞬、言葉に詰まる。
よく考えたら明日菜には何一つ助けられていないのである。
しかし図書室で何があったか正直に言えば、明日菜がどんな反応をするのか手に取るようにわかる。まして、あの頑丈な扉を破る蹴りを見せられた直後とあっては……。
ネギは一瞬でそこまで考えて、言葉を続けた。
「助かりました……」
大浴場へとやってきたネギと明日菜だが、そこにクラスメートたちが何人も入ってきてしまう。見つからないよう隠れる二人。
それに気づかず、あやかの発言をきっかけにクラスメートたちは、胸の大きい人がネギと一緒の部屋になるべきだという話をする。その隙に逃げだそうとした明日菜とネギだが……。
「まったく脳天気な連中ね、ウチのクラスの奴らは。ほら、今のうちに逃げるわよ、ネギ!」
「えっ」
胸談義に熱中しているクラスメートたちを見て、明日菜は湯船からあがった。
静かにしなければいけないはずだが、よほど焦っているのか、ザパッと水飛沫が跳ねる。
ところが何故逃げるのか分からない様子のネギ。明日菜が自分を呼んだことでようやく彼女について行かなければと気づき、慌てて後を追い、湯船から出る。
「あ、待って……」
ネギがを待つのももどかしく、すぐさま走りだそうとする明日菜。ネギも大慌てで駆け出そうとする。
その時、明日菜の地面を蹴ろうとしていた足に、踏み出したネギの足がガッと絡んだ。
「ぶ」
変な悲鳴だか叫び声だかをあげながら、ビターンと派手な音を立てて床に仲良く転んでしまう。
「え……」
それまでハルナと話していたあやかだが、さすがに物音に気づき、後ろを振り向いた。彼女が見たものは。
タオルを腰に巻きつけただけの全裸のネギ。
そしてそこに襲いかかるように四つん這いになって覆い被さろうとする水着姿の明日菜。
明日菜が「あたた」とつぶやいていることも、ネギが頭を抑えてうめいていることも頭に入らない。
「ア…アスナさん!? なっ…全裸のネネネネギ先生を押し倒して何を─!?」
驚きにちょっぴり羨望がトッピングされたあやかの大声に、他の者も二人に気づいた。
「あ─ッネギ先生─!?」
「ネギ君だ!!」
自分の行動が思いっきり裏目に出たことに、明日菜は心の中で(うわちゃ……)と後悔の溜息をつく。
しかしそのままでいるわけにもいかない。
明日菜は四つん這いの姿勢から身を起こすと、笑顔をつくってあやかの方を向き、事情を説明しようとする。
「い、いやこれは……あのねいいんちょ」
がしかし、そんなものを聞くような精神状態のあやかではない。
ズギャーっと明日菜につめより、水着の胸元を引き裂かんばかりの勢いで掴んでまくしたてる。
「か、仮にも担任の教師に対してこんなフラチな行為に及んで!! 年端のいかないのをいーことにー」
「ご、誤解よいいんちょ!!」
「やはりあなたのような人の部屋に預けては、ネギ先生が危険過ぎます!!」
片手を腰にあけ、仁王立ちになって言うあやか。誰かが「いいんちょのところに預ける方がよっぽど危ない」と茶化したが、あやかは聞こえないふりをしている。
「じゃあやっぱり胸の大きさでネギ先生の部屋を決めるの?」
ハルナの問いに、あやかは冷や汗を顔に浮かべ、「うっ」と言葉に詰まった。顎に手をやって少し考えて、言う。
「いえ、やはり胸の大きさだけで決めるのは単純過ぎます。そう、最もネギ先生を喜ばせられる胸の持ち主、ということでどうでしょうか」
あやかの言葉に、その場にいた女の子たちは一斉に、それぞれの友人たちと顔を見合わせた。
明日菜とネギはというと、展開について行けず、口をあんぐりと開けたまま、風呂の床にへたりこんでいる。
ややあって、当惑の多かった女の子たちのざわめきが、次第に一つの方向にまとまっていく。
「つまり……先生を胸でよろこばせればいいってこと?」
「それなら大きさ以外の要素も重要ね」
「じゃあ私たちにも勝ち目があるってことか」
すると、皆の見える位置に朝倉が飛び出してきた。
「よーし、じゃあここからは報道部突撃班の私が仕切りましょう。ついでに賭けの胴元も任せなさい!」
とウインクをしながら見栄をきる。
さすがというべきか、イベント好きの2−Aのメンバー、朝倉の登場に一斉に拍手をした。
「やっぱり食券賭けるのー?」
とやたら楽しげな桜子の声。
「参加しないやつらもいるだろうから、そいつらも楽しめるようにね。それじゃ、エントリーするやつ手を挙げろー!」
朝倉の呼びかけに、あやかをはじめとして早速何人かの手が上がる。
俺が
最後に
願ったことは
何だった?
ネ ギ ま ! ス レ そ の も の の 死 を
もう…どうだっていい…俺が願って叶うなら…次の日に…俺を殺してくれ…最後に…もう一度…エヴァの笑顔…見たかったな…
59 :
名無しさんの次レスにご期待下さい:2007/09/02(日) 09:58:20 ID:0GPmA6X70
前スレうまったか
「待つです」
とそこに、盛りあがりに冷水をかけるような夕映の冷静な声。
夕映は自分を見つめる多くの瞳を、意に介した風もなく言った。
「同じ部屋から複数のエントリーをしても意味がありません。出場者は一部屋一人にしないと」
皆の口から、「おー」という同意と感心の吐息が漏れた。ネギと明日菜は浴場の床に突っ伏しているが、誰も気づかない。
女の子たちはそれぞれ部屋ごとに別れ、誰を出すかも含めて作戦会議がはじまった。
のどか・ハルナ・夕映班。
「え……私が出るんですか?」
と、両拳を顎に押し当てて驚くのどか。
彼女はタオルで覆った自分の胸──足首が障害物無しに見える──を見下ろした後、泣きそうな顔で首を振った。
「私じゃなくてハルナさん出場して下さい」
「バカァッ」
「はふぅっ!?」
ぺちーん、というあまり迫力の無い音で、ハルナはのどかに平手打ちをした。
「あなたネギ先生のこと気になってるんでしょ!? ネギ先生とスキンシップするチャンスじゃない!」
「そうです。それにこういうことはのどか自身の手……まあ今回は手というか胸ですが……とにかく自分でゲットするものです」
と、夕映もハルナの後に続ける。
親友二人の応援を受け、のどかは唇をきっと結んでうなずいた。
桜子・釘宮・柿崎班。
「えーと、それじゃうちらの代表は桜子でいいの?」
と釘宮が言うと、桜子は思案顔でしばらく腕を組んでいたが、やがて首を振った。
「あたしはやっぱり賭けに集中したいからやめとくわ」
「ギャンブラーめ……じゃあどうしよう」
何か取り決めを決めるのだろうか、朝倉の元へと向かう桜子を横目で見ながら、釘宮がつぶやくように言う。
そこに、柿崎が目を妖しく光らせながら右手をしゅっと顔の横に挙げた。
「美砂……あんた彼氏いるんでしょうが……」
じっとりとした目で睨む釘宮に、柿崎は慌てたように言う。
「バカ、少年の相手をしてあげるってのにロマンがあるのよ」
鳴滝姉妹・楓組。
「それじゃあ楓姉、頼んだよ!」
「楓姉、とても中学生とは思えないもん、安心です!」
まるでコピー機を使ったみたいにそっくりな表情で拳を握り締めながら言う鳴滝姉妹。
一方、出場を任された楓は、いつものように糸のように細い目をして、何を考えているのかよくわからない表情で
「あいあい」
と応えた。
チャオ・クー班。
「ワタシははっきり言ってあまり興味無いネ。クーが出場すればいいヨ」
と、クーに向かって指を振りながら言うチャオ。クーはそれを見てニヤリと意地の悪い笑顔を見せる。
「正直に言うヨロシ。チャオでは勝ち目が無いから出場したくないだけアルね?」
「むー、そんなこと言われるほど差があるわけじゃないネ」
「負け惜しみはよすアルよ。所詮チャオは頭に栄養が取られ過ぎアル〜♪」
と歌うように去っていくクーをにらみながら、チャオは(今度の新発明を覚悟するヨ……)と心の中でつぶやいた。
一通り出場者を受け付けた後、朝倉は我関ぜずとシャワーやカランに向かう何人かに気がついた。
「おーい、あんたら参加しないの?」
朝倉の呼びかけに対し、刹那はふん、とすました顔で
「くだらん」
言って再び歩き出す。
龍宮はもう少し愛想よく、それでも無表情に
「興味無い」
やはりシャワーに向かった。
エヴァンジェリンは振り向きもせず、手をバイバイするように振って
「私は寮生活じゃない」
と、洗面器を取りに行く。彼女は去り際に、「興味が無いわけじゃないがな……」とつぶやいたが、それは誰にも聞こえなかった。
「那波はー?」
朝倉が振り向くと、那波は、すでに湯船に浸かっている。いつものニコニコした笑みのまま言う。
「私はここで見物です」
数分後、朝倉とネギを中心に、2−Aのクラスメートたちは輪を作っていた。
ネギは湯船の近くに一応大人しく座っているが、涙目になって明日菜に助けを求める視線を送っている。
しかし輪のちょっと外側にいる明日菜は、2年間つきあってきただけあって、こうなったらもうクラスメートたちを止める術は無いと知っている。さすがに気まずくてネギと視線を合わせられず、ちょっとふてくされたような表情であさっての方向を向いていた。
さて、ネギの側に立った朝倉は、タオルを絞って棒状にしたものをマイクに見たて、声を張り上げた。浴場だけあってよく反響する。
「ネギ先生との相部屋権争奪! 2−A胸勝負大会〜!!」
ギャラリーたちが一斉にパチパチと拍手し、脳天気な歓声を上げた。
「では選手の紹介に入りましょう。全選手入場です!」
朝倉の声と共に、輪から5人の少女がその内側へ踏み出してきた。
「少年相手だったらこの人を外せない!! 超A級ショタコン、雪広あやかだ!!
中国四千年の房中術が今ベールを脱ぐ!! 中国人留学生から、クーフェイだ!!
彼氏相手に磨いた実践技術!! まほらチアリーディングのデンジャラス・キャット 柿崎美砂だ!!
先生への想いなら絶対に負けん!! 貧乳の意地を見せてやる、図書館探検部、宮崎のどかだ!!
デカァァァァァいッ。説明不要!! 身長177センチ!!! バスト89センチ!!! 長瀬楓だ!!!
ネギ先生はあたしのもの、邪魔するやつは思いきり殴り思い切り蹴るだけ!! バカレンジャーリーダー、神楽坂明日菜!!」
「え? ちょっとなんであたしがエントリーされてるのよ! あとその煽り文句は何!?」
輪の外から、明日菜が抗議の声を上げる。
「だってあんたディフェンディング・チャンピオンじゃない」
「あのねえ……」
こともなげに言う朝倉に、反論しようとした明日菜。しかしいつの間にか背後に忍び寄った木乃香が、その背中を押す。
「ほらアスナ、前に出て」
明日菜は一瞬抵抗しようとしたが、思ったより強い木乃香の力に、ついに輪の中へ押し出されてしまう。
こうなっては仕方がないと、明日菜はむすっとした顔で腕を組み、出場者の最後尾に並んだ。
それに合わせて、「いいんちょー」「柿崎!」などという声と共に、賭け札代わりの石鹸が飛び交う。
一通り皆が賭けるのが終わったのを見届けて、再び朝倉は声を張り上げる。
「よーし皆賭け終ったねー? それじゃあ一番手、雪広あやか選手、どうぞーっ!!」
朝倉の言葉を待ち構えていたようで、あやかは目をらんらんと光らせ、呼吸も荒くネギの元へと歩み寄った。
ネギはというと、完全に引け腰で、目尻には涙まで浮かべながらへたりと座っている。
ネギの前に立ったあやかは、身にまきつけていたバスタオルを、マントのようにバッと勢いよく脱ぎ捨てた。
豊満な胸に、折れてしまうのではないかと思うほどくびれた腰、生え揃った下の毛、細く締まった脚のラインと、中学生離れしたプロポーションが惜しげもなく少年の前に披露された。
あやかはその場に正座し、ネギと正面から向き合ったが、その顔は真っ赤になっている。裸身を人目に晒した羞恥からではなく、獲物を前にして極度に興奮しているのである。
あやかはその大きな胸を強調するように、ぐっと前かがみになった。
体を動かすたびに二つの乳房が柔らかく揺れ、にも関わらず、すぐさまその美しい球形を取り戻す。
『常識外れ』ばかりのクラスだ、確かに単にサイズ的なことを言えば、クラスでも第二集団に甘んじる身である。 しかし比較的高い身長、細身の体とあいまって、実際のサイズ以上にバストの発達具合が目立つ。
頂点の乳輪も慎ましい大きさで、白い肌と同様の透明感を持つ桃色の先端は、その場にいた同性の少女たちから見ても羨望の対象だ。
全身のプロポーションを含めたトータルバランスでは、あやかは間違いなく学園トップクラスのスタイルである。
あやかは右手でネギの左手をとると、彼の手のひらを自分の胸に押し当てた。
「い、いいんちょさん……」
手のひらから伝わってくる、驚くほどやわらかく、なめらか感触に、ネギは真っ赤になる。
「ふふ……先生、遠慮しないで……」
ふくらみを触るネギの手に自分の手を重ねるあやか。そして、ネギの手越しに、自らの胸を揉む。そうすると、ネギ自身はほとんど力を入れてないのに、まるで彼があやかの豊満な乳房をこね回しているように見える。
押した分だけ返ってくる弾力に、ネギの表情から次第に固さがとれてくる。目がとろんと潤み、口が半ば開いて吐息が激しくなった。
あやかはそこで、ネギの手に重ねられていた手を離したが、そのままネギはあやかの胸を揉み続けている。
「さすがはいいんちょ、この勝負を言い出すだけのことはあります。はやくも先生の心を虜にしたかー!?」
幼い少年に自分の体を触らせながら、あやかは至福の表情を浮かべる。あのネギが自分の体に夢中になっている、そう考えるだけで、あやかの興奮は頂点に達した。
突然、あやかはネギの顔を、両手で挟んだ。
そして、いきなり彼の頭を抱き寄せ、自らの胸の谷間にぎゅぅぅぅっと押し付ける。
「おーっとぉ! いいんちょー、参加者中第二位の巨乳を生かした攻撃だぁーっ!」
まるでプロレスの実況のような朝倉の解説。
一方、あやかの豊かな胸に頭を挟まれたネギは、その魅惑の感触を味わうかのように、頭をぐりぐりと上下左右に動かしている。
あやかはそれを見てうっとりとした表情を浮かべた。
「まあ先生ったら……そんなに私の胸がよろしいですか……?」
いっそうネギを抱きしめる腕に力を込める。
と、ネギが両手をはばたくようにバタバタと動かし始めた。喜んでいる動きというには、妙に切羽詰った激しさがある。
次いで、あやかの体のあちこちを押すようにさわったかと思うと、その肌をぺちぺちと叩き出した。愛撫が行き過ぎたというよりは、格闘技におけるタップ、つまり降伏の意思表示を思わせる。
「ちょっとあんた、ネギが苦しがっているように見えるんだけど」
ネギの動きを見て明日菜が言った。
「なんですって! 妙ないいがかりはよしていただきたいものですわ!」
きっと明日菜の方を向き、大声で反論するあやか。その拍子に、腕の力が緩んだ。
ネギは、輪になったあやかの両腕から抜くように頭を外すと、その場に四つん這いになって、全力疾走してきた犬のようにハァハァと激しく呼吸をした。気温も湿度も高い浴場内だというのに、その顔が真っ青になっている。
その姿を見て、あやかが固まる。
「どうやらいいんちょー、ネギ先生を胸で挟んだはいいですが、先生を窒息させていたようです。アスナの言葉がなかったらと思うとぞっとしますねぇ。これは大幅減点かー?」
あやかに賭けていたらしい何人かが、舌打ちをしたり溜息をもらしたりする音がした。
「なっ……まだ挽回のチャンスはありますわ!」
もうあやかの負けは決定したという周囲の雰囲気に、あやかは思わず立ちあがって主張する。
しかし朝倉は無情にも時間切れを告げた。
「あんまり長湯してると怪しまれるしみんなのぼせちゃうからねー。では二番手、柿崎美砂選手でーす」
しおしおと、バスタオルを引きずりながら退場するあやかに代わって、柿崎が登場した。
腰を越える長さのすっとかきあげると、あやかと同じように、ネギの目の前でバスタオルを外す。
柿崎の裸体は、胸のサイズの分だけあやかに劣るものがあったが、それでも中学二年生ということを考えたら第一級のスタイルであった。
その胸にしたって、ボリュームは標準を上回っており、まるで男が掴むことを前提として創ったかのように整った形をしている。
乳頭の色がやや濃いが、逆にそれが淫らな雰囲気をかもし出している。ミロのビーナスを思わせる長い髪とあいまって、背徳的なものすら感じられた。
下の毛はすでに生え揃っているのだが、きれいに手入れされ、整えられていて、すでに男の目を意識しているのがわかる。
柿崎はネギの前に膝をつき、彼の肩を押さえると、やさしく床に寝かせた。そうして、脚を開かせる。
あやうく意識を失うところだったとはいえ、すでにネギの頭はあやかとの一戦で官能に染め抜かれている。ネギは何も抵抗せず、それどころか柿崎を見る目に期待すらこめて、彼女の為すがままとなった。
仰向けに横たわり、大きく脚を広げているネギ。股間の肉棒は年齢ゆえの小ささだが、すでに急角度でそそり立っている。
柿崎はネギの小さなへそに顔を寄せるようにして、その両胸を彼の股間に近づけていった。
「この大きさなら私の胸でも……」
そうつぶやくと、両手で自らの乳房を寄せ、そこに屹立したネギのペニスをぐっと挟んだ。
未熟な性器を包み込む、ネギの想像したことすらなかった柔らかな感触。
「ああっ」
と、ネギは悲鳴のような切ない声をあげる。
ギャラリーからも「おお──っ」という歓声があがった。
「こ、これはパイズリだぁ───っ!! さすがは彼氏持ちです。過激な技が飛び出しましたーっ!」
「和美っ! あんたさっきから彼氏持ちを強調し過ぎよっ」
とネギの股間を胸で包みながら言う柿崎。
実をいうと、彼氏にせがまれて試したことはあるものの、胸の発達が充分でなかったために、まだ成功したことはなかったのだ。
彼女には、ネギを練習台にしようという思惑もあったのである。
柿崎はネギが気持ち良さそうにしているのを見て、いっそう強く乳房を寄せ、上下に素早く動かした。
「はぁ、ああっ、あっあっ、あうぅ、柿崎さん、そんな、ああっ」
快感にまみれた女の子のような喘ぎ声をネギがあげる。柿崎もそれを聞いて昂ぶってきたらしく、頬に朱がさし、胸の先端が固くなりつつある。
あやかほど露骨でないものの、彼女にも少年を愛でる嗜好があるようだ。
柿崎の胸にこすられ、ネギの先端まできっちり覆っている包皮が、次第にほころんでいく。外気に触れたこともない亀頭が露出し、柿崎の温もりに触れた。
「ああああっ!」
ネギの腰が大きく跳ね、先端から白い液が勢いよく飛び出す。柿崎の顎と頬を下から汚し、さらにネギ自身の胸にも着弾した。
「見事! これは見事です。いいんちょがある程度お膳立てをしていたとはいえ、たった10歳のネギ先生を射精に導きましたぁっ! これは残り四人の出番を待たずして勝利は決まったも同然か──っ?」
柿崎は、射精の余韻でぐったりと横たわるネギを残し、顔についた精液をタオルでぬぐいながら、ピースサインを肩のあたりに出しつつ元の位置に戻った。
「さあ、後続の選手にもプレッシャーがかかります。どんな挽回の手段を使ってくるのでしょうか? 三番手、くーふぇ選手どうぞーっ!」
「よーし、やっと出番アルねー!」
朝倉の紹介を受けて、クーは跳ねるようにとびだしていった。その右手には、石鹸が一つ握られている。
未だぼうっとした表情で、倒れたままのネギのそばに、しゅたっと着地するクー。
髪飾りを揺らしながら、前かがみになってネギの顔を上からのぞきこむ。
「ん〜? ネギ坊主はまだ夢の中アルか?」
クーの言葉に、ネギは頭を振り振り身を起こした。もっとも、その目はまだ完全に正気を取り戻してはいないようだ。
クーは膝を追ってネギの前に座ると、彼の胸についた白濁液を指でつついた。
「ほらほら、このままにしていたらバッチイアルよ」
言いながら、ネギの薄い色の乳首に塗り込むようになすりつける。
「あ……」
その白い液の正体に恥ずかしさを覚え、また、乳首にくすぐったさと快感の入り混じる奇妙な感じを覚え、ネギは顔を赤くした。
「ワタシが洗ってあげるアル」
クーはそこで、胸から下を覆っていたバスタオルの前を開いた。前二人の白い肌とは違う、褐色の素肌が露わになった。
ガラスのような繊細な美には欠けるが、真夏の太陽を思わせる陽気でエキゾチックな美しさがある。
胸は柿崎よりも幾分か小さく、手足にはうっすらと筋肉の影が浮き出している。妖艶な色気や可憐な清純さとは縁の無い体つきだか、エネルギーを秘めた明るく健康的な肢体である。
クーは片手の石鹸に、近くの湯船から手ですくったお湯をかけ、それで自分の体の全面を軽くこすりだした。
たちまちのうちに、クーの胸の辺りが石鹸の泡で覆い尽くされる。真っ白な石鹸の泡と、その向こうにかいま見える褐色の肌が鮮やかなコントラストを作り出している。
「あれ、洗ってくれるって……」
ネギが軽く首をひねると、クーはニッと笑い、ネギに抱き付き、押し倒した。
「うわあ」
「ほら、おとなしくするアル」
驚いて手足をばたつかせるネギをうまく押さえ込みながら、クーは石鹸にまみれた自分の胸をネギの胸に押し付けた。
さらに両手をネギの背中に回し、クーの可愛らしい形をした胸が柔軟に潰れるまで、強く体を密着させる。
その状態から、軽く上下に体を動かす。
「あ……」
すぐさま甘い声を出してしまうネギ。クーは少しいたずらっぽい目をしながら、自分の胸でネギの胸をマッサージするように洗い出す。
「くーふぇ選手、柿崎選手にまけじとこれまた大胆な技を繰り出しました〜! これはわからなくなってきたかぁ!?」
しばらくそうやった後、今度はネギの体をぐるっと九十度回転させ、右の脇腹を胸のふくらみで愛撫する。
それが終わると背中。
それが終わると左の脇腹。
それが終わると、体をしゅっと下の方にずらし、右足を抱えるようにして胸で洗い出した。同じように左足もそうやって洗う。
スポンジよりずっとやわらかいもので全身をこすられる気持ちよさに、ネギの呼吸もだんたんと激しくなり、一度発射して萎えていたペニスも再び勢いを取り戻す。
が、しかし。
「はい時間で〜す。くーふぇ選手そこまで!」
「あちゃ〜」
クーは朝倉の方を向くと、ばつの悪い笑顔で頭に手をやった。
そして、近くにあった洗面器で湯船のお湯を汲み、自分の体中についた泡を洗い流す。
次いでもう一度お湯を汲むと、同じく全身泡だらけになったネギの体を手を引っ張って起こし、頭からザバーっとお湯をかける。
「ほい、これできれいになったアルね」
そう言うと、クーは軽い足取りで去っていった。
「射精には至らなかったくーふぇ選手ですが、柿崎選手によってネギ先生が一度出した直後ということを考えれば、再び先生のものを元気にさせただけでも評価できるでしょうか? そして次は今大会最大のダークホース、宮崎のどか選手の登場です!」
一呼吸置いて、出場者の列からのどかは前に踏み出した。
両手は固く拳を作っており、バスタオルの裾から伸びる線の細い足は傍目にわかるほど震えている。
関節が錆び付いたようにぎこちない足取りでネギの方へ向かうと、自然とその緊張が伝染したか、ギャラリーたちも息を飲んで静かに見守った。
ネギの前に立つのどか。
しかしそこで固まってしまい、何もできない。
未だ頭からクーにぶっかけられたお湯をぽたぽたと垂らしているネギも、どうしていいかわからず困惑顔だ。
「……のどか、がんばって」
ギャラリーから、小さく声が聞こえる。励ましというよりは、祈りのような声。
それに押されるように、のどかはバスタオルの結び目に指をかけた。
数秒の躊躇。しかし彼女は、前髪の奥で目をぎゅっと閉じると、思いきって結び目をほどく。
のどかの体は、女性的な曲線という点から言えば、他の五人に比べて明かに引けをとっている。
胸や尻はなだらかで起伏に乏しく、性器を飾る毛もほとんど生えていない。
乳房と言うには慎ましやかなふくらみは、両手を前にやった時に多少その存在を主張するものの、谷間など望むべくもない。
のどかは手早くバスタオルを四つに畳んで脇に置き、ネギの前に横座りになった。
そしてそのまま、ネギの前で仰向けに横たわる。髪の毛が浴場の濡れた床に広がり、前髪に隠れていた、固く閉じた両目がさらされた。
大浴場の、高い天井からの照明が、のどかの前身を明らかにする。
もうもうとした湯気を通したためにやわらかいその光は、のどかの体を単に貧相の一言で片付けられないものにしていた。
仰向けになっているために乳房はさらに目立たなくなっているが、白く決めの細かい肌が、未成熟なプロポーションの中で女性であることを控えめに主張している。
細く肉付きの薄い手足は可憐そのもので、うっかり手を触れることをためらわせる繊細さがある。
性的なアピールに乏しい代わり、童話に出てくる天使のような、不可思議な魅力を漂わせていた。
のどかはまぶしそうに目を開くと、横たわったままネギの方を見て言った。
「先生……ど、どうぞ……」
それだけ言うと、再びまぶたを閉じ、その上顔をネギから見て向こう側に背けてしまう。
ネギは何秒か、『何をどうぞなんだろう』と考えていたが、のどかの羞恥に耐えるその表情からそれを察した。
ネギはのどかの右の胸に手を伸ばし、きれいな桃色をした乳首を覆うように、手のひらを置いた。
のどかの体が、ビクリと震える。
手が止まってしまうネギ。
しかしのどかが嫌がる素振りを見せなかったため、置いた手のひらに恐る恐る力を入れて見る。そうすると、薄いとはいえ、確かに乳房があるのが感じられた。
のどかが「あ」と短い声を出し、また震えた。
今度は止まらずに、ゆるゆると力を入れながらさするように、回すようにのどかの胸を愛撫する。
のどかの口が小さく開き、熱い吐息が漏れた。
ネギはのどかの両足をまたぐと、彼女の上半身に覆い被る。
右の胸に愛撫を続けながら、左の胸の先端にキスをした。
「あああっ」
とのどかの声。ネギは舌先で乳首と乳輪をペロペロと舐め、突つき、最後にはちゅっと音を立てて吸い付く。
「ああっ、先生、先生、んんっ、ネギ先生ぇ……」
のどかは激しく頭を左右に振り、髪を振り乱す。両手の指先がカリカリと床をかき、細い足がぴんと伸びる。
その反応に高揚し、ネギは今度は反対側の乳首を口に含む。舌の愛撫から逃れた左の乳房は、間髪いれず手と指で愛された。
「あっ、あ、あうううううぅ、はぁ、そんな、あ、えうぅ、せ、せんせ、あああああっ!」
乳首を中心に激しく攻められ、のどかは普段の引っ込み思案な性格を知るものが想像もできないような艶のある喘ぎ声を放つ。
その声が、ネギの芽生え始めたばかりの性欲を刺激し、ますます彼の愛撫に熱がこもるという正のフィードバックが起きていた。
それを邪魔しないように、朝倉はこれまでの張り上げるような声ではなく、皆に聞こえる範囲で囁くように実況を入れる。
「なんということでしょう、これまで受身一辺倒だったネギ先生、のどか選手を猛烈に攻めております。まったく予想外の展開です。大きさ
と技術が勝負を分けると思われたこの大会、なんとのどか選手は貧乳が巨乳に優る唯一の長所、『感度』を武器にネギ先生に火をつけました」
強く、激しくなるネギの愛撫。それに応えるのどかの反応も、ますますなりふり構わないものになっていく。
のどかは胸から全身へと断続的に走る電流のような快楽の行き場を持て余し、ネギの体をぎゅっと抱きしめた。
左手がネギの後頭部を押さえつけつけたために、ネギの歯がのどかの乳頭に当たってしまう。
それが止めとなった。
「あああああああああああああああああっ」
大浴場全体にこだまするのどかの絶叫。彼女の全身の筋肉が緊張し、痙攣するように体のあちこちが跳ねまわる。
声の反響が消えたころ、嘘のようにのどかは脱力し、眠るように目を閉じた。
ネギはというと、さきほどまで膨張しきっていたペニスが小さくなり、のどかの体の上でやはりぐったりとしている。
のどかの絶頂と時を同じくして、彼もまた達してしまったのだ。
浴場内は一瞬だけ静まりかえったあと、爆発するようなギャラリーたちの歓声で満たされた。
ネギとのどかを囲む輪の中からハルナと夕映が駆け出してきて、いまだ脱力したままののどかを助け起こす。
「のどか、よく頑張りましたね」
「感動したよ〜っ!」
二人の親友に助け起こされたのどかは、少し恥じらいながらもにっこりと笑った。
「ネギ先生、本日二度目の放出だぁぁぁぁ! しかもその相手は、出場自体が無謀と思われていた宮崎選手でした。わかりません。勝負の行方がまったくわからなくなって参りましたー!!」
今まで押さえていた分を取り返すように溌剌とした声の朝倉。番狂わせが生じる可能性が出てきたことで、賭けの胴元として熱狂が押さえられないらしい。
「盛りあがる一方の大会、そして次も優秀候補の一角です。五番手、長瀬楓選手どうぞ〜〜〜っ!」
出場者の列の中から、一際背の高い楓がネギに向かって歩き出した。
全身が緊張の固まりだったのどかと比べ、なんの気負いもなく実に堂々と、悠々とした足取りだ。
楓は歩きながらバスタオルを外し、軽く小脇に抱えた。
モデルのような長身もそうだが、はじけるようなその巨乳はまさに圧巻の一言である。
笑っているような、寝ているような、感情の掴めないのんびりした表情に、上下動のほとんどない不思議な歩法、そしてグラビアアイドル顔負けのスタイルと、様々な意味で楓は多くの人が言うようにとても中学生とは思えない。
楓はネギの前までくると、タオルを脇に置いて正座した。
体を起こしたネギの両脇の下に手を入れたかと思うと、その体を軽々と持ち上げる。
空中で、いわゆるお姫様だっこの形に抱きかえると、自分の腿の上にネギの尻をひょいっと乗せ、横抱きの形にする。
ちょうど自分の左胸の高さにあるネギの頭を手で押さえ、その大きな乳房に軽く押し付けた。
そのまま、何もしない。
あやかのようにぎゅうぎゅうと押しつけてくるわけでもないが、それではのどかのように好きに触れということなのだろうか。
ネギは楓の顔を見上げたが、その糸のように細い目をした顔は相変わらず微笑みを浮かべているだけで、何も読み取れなかった。
「……」
「……」
楓は無言。よってネギも無言。
仕方ないので、ネギはそのままじっとしている。
じっと楓の体に体重を預けている。
すると、その分厚い胸の脂肪を通して、音が聞こえてきた。
トクン。トクン。トクン。トクン。
一定のリズムを保つ、楓の心臓の鼓動音。
小さく深いそのリズムに、ネギは何故か聞き覚えがある気がした。
遠い昔、聞いたことが、確かにある。
それは、世界で最も安心できる場所の音だった。
ネギは楓の心臓の音に誘われるように目を閉じ、その豊かな胸に頭を預けた。
離れて見ればそれは、母親が幼い我が子を抱き、寝かし付けているように見えた。
誰一人声を出さず、音も立てず、静かに時が流れ、やがて時間切れとなった。
その瞬間、クラスメートたちの口から大浴場を一杯にする大歓声と、百の花火をいっぺんに点火したような猛烈な拍手が沸き起こった。
「こ、これは盲点だぁーっ! 『ネギ先生を胸で喜ばせる』という課題から、出場者はもちろんギャラリーすらも、ネギ先生を興奮させる方向にしか発想が向かいませんでしたが、楓選手はまったく逆のアプローチを仕掛けましたっ!」
歓声と拍手に負けじと朝倉も声を張り上げる。
「考えてみれば、授業に疲れて部屋に帰ってきた先生にとって最良のルームメイトとは、その疲れを癒してくれる相手なのかもしれません。やはり胸が大きい=母性的ということなのかぁーっ! 五人終わって現在楓選手が最有力優勝候補だぁ!」
飛び交う賭け札の石鹸をあわただしく並べながらの朝倉の言葉に、ふとネギは我にかえった。
つい5人の少女たちの体に夢中になってしまったが、やはり彼としては明日菜と一緒の部屋がよかった。
明日菜が前の出場者たちと同様、ネギの相手をしてくれれば明日菜を優勝させることができるが……。
ネギが明日菜を見ると、彼女はその瞳にありありと軽蔑の色を込めてネギを見ている。
「それではいよいよ最後の選手です。神楽坂明日菜選手、どうぞー」
朝倉の声に、明日菜は微動だにしない。むすっと不機嫌な顔をしたまま、腕を組んで睨むようにネギを見ている。
その明日菜にあやかが挑発的な声をかける。