「まあ待て」
エヴァの声に、亜子の動きがぴたりと止まる。エヴァは明日菜を見てにたりと嗤い、倒れていたネギを起こして立たせた。
ネギは虚ろな目で遠くを眺めている。心ここにあらず、といった感じだった。
「せめて最後に、経験ぐらいさせてやろう。坊やだって、男になってから死にたいだろう?」
ネギの首に背後から手を回し、エヴァは目を細める。その言葉には不気味な響きがあった。
「ど、ういう、ことよ………あんた、ネギをどうする気よ!」
「マスター?」
結界の中和に専念していた茶々丸も、作業を続けながらエヴァを見る。
「ふふふ、なぁに、簡単な事だよ」
エヴァは外見相応の少女のような笑みを浮かべ、そして少し頬を赤くして言った。
「坊やを生贄にして、闇の秘術でサウザンドマスターを生き返らせるのだ―――」
「え…?」
場の空気が凍り付いた。明日菜は最初、それがどういう意味なのか理解できなかった。
「マスター、本気ですか?」
明日菜の代わりのように、茶々丸が主人の真意を問う。
「本気に決まっている。私の魔力が全て戻り、魔方陣やアイテムを準備し、そして息子を生贄にすれば不可能ではない!」
「あ…あんた、バカじゃないの!」
「マ、マスター、しかしそれではネギ先生が……」
明日菜と茶々丸が同時に口を開く。
「うむ。坊やには可哀想な事をしなければなるまい。しかし、それで、あの男が帰ってくるのだ。仕方がない―――」
エヴァはにっこりと、花園でチョウを捕まえようとする少女のように微笑んだ。
「坊や、謝るよ。若いお前の命を犠牲にしなければならないのは、私としても辛いのだよ」
ネギは意識をエヴァに支配され、動かない。
「しかし分かってくれ……もう、これしか方法がないのだ。私は、あの男に会いたいのだ。会って声を聞きたいのだ! 顔を見たいのだ! もう一度、せめてもう一度だけ……」
響き渡る美しい声は、切実で、純粋で、綺麗で、可愛く、少女のように、当然の事のように、
「光に生きる事に意味があるか? あの男はいないのに! あの男はもう帰って来ないのに! 闇の手段に頼れば再会できる可能性があるのに、光で生きる意味が、果たしてあろうか―――」
信じて疑わないような、絶対的で、縋りつくような、しがみ付くような、夢のように儚い、憎悪と愛が入り乱れて、
「会いたい、会いたい会いたい! 会いたいのだ! 私は、あの男に! 闇の福音を無様なメス犬に堕としたあの男に、会いたい………」
爆発し、我慢できない、噴き出て、傲慢で、自虐で、怪物のような、愚かしい、ぶつけるような、狂おしい感情の発露だった。
「さあ、坊や。せめて最後ぐらい、お前のために、そして私のために、お前が心を寄せた相手と、愉しんでくれ。これが私の、僅かな償いだ―――」
エヴァの胸から、ネギはふらふらと前に進み出した。その先には亜子と明日菜がいる。
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック! 神楽坂明日菜を陵辱しろ」
ネギが虚ろな顔で、明日菜に向って歩いていく。
「ごめんよ、坊や―――」
飽和するまで狂気が溶けた涙が、エヴァの頬を伝った。
「ネギ、嘘よね? 私、貴方を助けに来たのよ……な、なのに、こんな―――」
口の端から血を流してぐったりと横たわる明日菜を、エヴァに操られたネギがゆっくりと起こした。
明日菜からは、普段の有り余った元気は何も感じられない。弛緩して弱った肉体は重く感じられたが、魔力で強化されているネギには問題ではなかったのである。
「ネ、ネギ、止めて、よ……わたし、初めてなんだか、ら……」
明日菜を起こしたネギが、無表情でゆっくりと唇を近づけていく。その色が異なる大きな瞳に、ネギの口元から生える牙が映り込んだ。
ネギが既にエヴァの傀儡と化している事実と、食物連鎖で人間の上位にいる吸血鬼の牙そのものに本能的な恐怖を覚え、明日菜の身体は少し震え始めていた。
しかし抵抗はできなかった。明日菜は既に、和泉亜子に一撃で打ちのめされてしまっていた。
強烈な蹴りを食らった瞬間に意識は分断され、そのまま胴体が千切れたと錯覚するぐらい衝撃だった。
たった数十秒の、魔法使いの従者との戦い。あまりにレベルが違い過ぎたために、それが明日菜に恐怖感を植え付けてしまったのである。
前にエヴァからネギを救出した時の、あの勇気が、全く涌いてこない。
「こ、こんなの……」
弱々しく呟いた明日菜の目から、涙が伝い落ちていく。しかし逃げることはできない。
最早、明日菜は嬲られるのを待つだけの、ただの獲物となっていた。
ネギは明日菜の後頭を抱いて顔を定位置で固定すると、そのまま半開きにした唇をゆっくりと、明日菜の顔に落下させていく。
明日菜の香りがネギの鼻をくすぐり、吐息が頬を撫ぜる。
怯えて泣きながら、許しを乞うように見上げてくる明日菜。
普段の勝気な明日菜を知っている者がいれば、少なからず嗜虐心を刺激されてしまうだろう。
ネギの行動は素早く、明日菜に目を閉じさせる時間も与えなかった。
ネギは明日菜の仄かに濡れた唇に、十分に唾液を塗した自分の唇を押し付ける。
「うっ、ううんっ、うっ、ん、ん、う、んん―――っ」
明日菜の目が見開かれた。固く閉ざした扉をこじ開けて、ネギの舌が明日菜の口に唾液を流し込みながら侵入し、その味を確かめるように動き始める。
「うむぅ―――」
何とか逃れようとする明日菜の頭をしっかりと固定して、ネギは明日菜の唇を貪り続ける。
分泌された唾液がとろとろと溶け合い、お互いの口の温度が流れ込んでくる。
口と口で生まれた生温かい空間で、お互いの舌が邂逅を果たした。
吸血鬼していたネギにとって、唾液と血液に塗れた明日菜の舌を弄ぶ行為は、食欲と性欲を酷く刺激されるものだった。
「ん、ぷはあっ……はあ、はあ、あ、やめてっ、ネギ、ネギぃ! あ、うぶ、んん―――」
苦しげに明日菜が声を上げて、ネギの唇から逃れようと顔を背ける。
しかし、操られているネギはむしろ積極的に辱めを行い、明日菜のファーストキスをむしゃぶり続けた。
だらりと糸を引きながら逃げる明日菜の唇を追いかけるように頭を動かし、ネギは明日菜のほっぺにまるで烙印のように唇を押し付けた。
弾力のある肌に唾液を塗りたくりながら舌を滑らせて、どろどろの明日菜の唇に吸い付いて舐めまわす。
これが食事ならネギの行儀は最悪だろう。明日菜の顔を唾液塗れにしながら自らの快楽の為に行為を続けるその姿は、理性を失った動物のレベルだった。
「ううっ、んんっ、ん、うんん………」
絡む舌から無理矢理に女の味を搾取され唾液を飲まされ、飴玉のように顔を舐めまわされる度に、明日菜の目から大粒の涙が零れる。
大切にしていたファーストキスの喪失と、助けに来た相手に陵辱されるという非情な現実は、カッターの刃を突き刺すように明日菜の心に深い傷を刻んだ。
「吸血鬼の唾液は麻薬に近い淫乱成分だからな。すぐに気持ち良くなれるだろう―――」
遠くからエヴァは、他人事のように明日菜にそう言って嗤った。
「ぷはっ、はあ、はあ、ああ……ネギ、はあ、はあ、本当に、私が分からないの?」
「…………」
無表情のネギはしかし荒い息で明日菜の上に圧し掛かると、そのまま明日菜の服をびりびりと縦に裂き、白いブラを力づくで毟り取った。
「いやあああっ! ね、ネギぃぃぃっ! あ、あ―――」
もしかしたら、ネギはここで正気に戻ってくれるのではないだろうか? このまま一線を越えずに踏みとどまってくれるのではないだろうか?
明日菜の心の中にあった希望を、ネギは服といっしょに引き裂いてしまった。
外気に触れた肌は強張るようにびくりと震え、服の中に溜まっていた熱気は夜の中に逃げていく。
形の整った小ぶりな胸は中学生相応だったが、揉んでみると肉厚が確かに伝わってきた。
ネギは明日菜の乳房を片方の手で捏ねまわす。明日菜の口を貪った舌はターゲットを、乳房の頂上の桜色の突起に移していた。
「あっ、あん、うっ…ぅあ、ああ、や、めて……」
まるで子供が母親の乳を欲しているように、乳首を吸い上げるようにネギは口に乳房を含んでいた。
舌の先で乳首を弄ぶのは悪戯小僧のような印象さえ受ける無邪気なものだったが、手で乳房を捏ねまわす動きは明らかに、明日菜を嬲る悪意が感じられる。
「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ………」
肉体を玩具にされていた明日菜に変化がでてきたのは、ネギが胸で遊ぶのを止めていよいよ犯されるといった時だった。
エヴァはネギを明日菜から離れさせると、横で見ていた亜子に指示を出す。
「和泉亜子、そのじゃじゃ馬を大人しくして、開いて我に見せよ」
「い、やあ、あ………」
むっちりとした明日菜の太ももが、亜子によって無理矢理こじ開けられた。
「やっ、なにするのよっ……」
「堪忍やアスナ……エヴァ様の命令には逆らえへん」
亜子は目に涙を溜めて顔を赤らめながらも、身体はエヴァの命令通りに明日菜のスカートや下着を破りとっていく。
毛が生えていない幼さが残る股間が露になると、明日菜は悔しげに俯いて羞恥に震え、エヴァは大声で嘲笑した。
「はっはっは、なんだお前、まだ生えてもいないお子様だったのか!」
高い声が響く。
「まあ坊やの相手にはちょうどいいな。ほら、最後なのだから坊やもよーく見ておくのだ」
「くぅ……こんなの嫌よぉ、ネギぃっ!」
手を弱々しくばたつかせて抵抗する明日菜に、エヴァは舌打ちして亜子に合図した。
「アスナ、本当にゴメン……!」
「うぐっ!? ……うあ、あ………」
亜子が明日菜の首筋にガブリと噛み付いた。すると暴れていた明日菜は嘘のように動きを止めて静かになる。
「せっかくだから貴様も愉しむがよい、神楽坂明日菜。どちらにしろ帰る場所はなくなるだろう」
エヴァはにやりと笑った。
「ジジイの孫が私の魔力に毒されて暴走している―――女子寮の壊滅は時間の問題だしな」
「なっ………それってどういう―――」
しかしエヴァは明日菜を無視して、はるか遠くの女子寮の方角を見て、自嘲気味に顔を歪めた。
「チャチャゼロの気配も消えてしまった……行かせるべきではなかったかも知れんな」
急に強い風が起こり、エヴァの長いブロンドの髪が一気に舞い上がった。
それはまるでエヴァの背を押しているような、不思議な突風だった。
「………我が想う道を進めと言うのか。ふん、最後まで生意気なヤツだ―――」
エヴァがゆっくりと天を仰いだ。風はエヴァの顔を隠すように髪を乱れさせたが、しかしすぐに静かになる。現れたエヴァの顔に変化はない。
「このかがどうしたのよ……? ああんっ」
亜子の指がゆっくりと明日菜の割れ目に伸びていく。
現れた肉の色はピンクより少し赤みがかかっていて、吸血鬼の唾液の効果だろうか、愛液で濡れて受け入れ準備を完了させていた。
「ふん、小便臭いガキだがまあいい。さあ坊や、その生に悔いを残さぬよう、存分に、な」
「………ね、ぎ、ぃ………」
明日菜の唇が少し動き、絞り出すように声を紡いだ。ネギはぴくりと反応したが、そのまま無表情で明日菜を犯さんと近づいていく。
陵辱される恐怖に、明日菜は固く目を閉じた。
「……………」
「…………」
「………」
「?」
恐怖とは長く感じるものだろうが、いくら何でも陵辱されるまで長過ぎる。明日菜は不思議に思ってそっと目を開ける。
「ば、バカなっ!」
エヴァも驚愕の声を上げてネギを見る。
「あ、すな、さん………」
ネギは―――耐えていた。
教師としての意地なのかそれとも別の感情か、顔を真っ赤にして歯を食い縛りながら、ネギはその精神力でエヴァの支配に抵抗していた。
「ネギ!」
明日菜がその名を叫んだ。
「私の支配から解放されたと言うのか!? いったい、どうして……いや、そんなはずはない!」
エヴァが魔力をネギに集中させ、再び支配しようとする。が、ネギはエヴァを睨んで大声で叫んでいた。
「僕は……アスナさんに、これ以上、ひどい、ことを……したくありませんっ!」
「ううっ!?」
人形の糸が切れた。その叫びに気圧されてエヴァが後退する。亜子も反射的に明日菜から離れた。
「ネギ……!」
「明日菜さん、大丈夫ですか?」
ネギはふらふらしながらも、明日菜に駆け寄る。
「ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」
「うん、それは、もういいから。………あんたも無事でよかったわよ………」
ネギと明日菜はそのまま深く抱き合い、そしていっしょに逃げ出した。
「ええい! 女が目の前で股を開いているというのに、何もしないというのか!?」
エヴァが顔を真っ赤にして叫んだ。
「坊やはそれでも、この人形使いの私を、人形のように弄んだサウザンドマスターの息子なのかっ!」
エヴァを無視して逃げる二人の前に、そっと亜子が立った。
「ウチがエヴァ様や茶々丸に犯されてる時は、何もしてくれへんだのに……アスナやと、やっぱ違うんやね……」
逃走を阻止しながらも、亜子は静かに涙を流した。
「ウチは結局、先生にとってそれぐらいのもんやってんね……」
「あ、亜子さん……」
「最低や」
何かを言おうとしたネギは、その一言に黙ってしまった。